とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第512話 手で触れるだけ

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 遡る事五日前の夜、ルークが学院に復帰する前日にリリエルはルークに接触していた。
 王城のルークの部屋の窓から黒猫の姿で忍び込み声を掛けたのだ。
 さすがのルークも突然猫に話し掛けられ動揺し、夢かとも思ってしまうがリリエルは人の姿に戻り、ルークに自らの記憶や分かっている事を魔力にて流し込み強制的に理解させていた。

「頭の中が、まだ破裂しそうだ……あんた、いつもこんな感じで初対面の相手に接してるのか?」
「いえ、こうしたのは貴方が初めてよルーク・クリバンス。今は時間がないから、手っ取り早く色々と済ませただけよ。初めてで下手したら情報量の多さに意識でも飛ぶかと思ったけれど、貴方意外と凄いわね」
「もっと言う事があるんじゃないんですかね?」

 リリエルはルークの言葉に軽く首を傾げ、そのまま無視して話を続けた。

「(無視とか何なんだよこの人。あーまだ頭がズキズキする)」

 頭の中の情報を整理しつつ、リリエルは与えた情報の補助として何処まで正確に理解しているかを確認するのだった。

「ひとまず整理は出来ましたけど、信じられないんですけど。貴方の事もそうですが、アリスの状態も、これから起こりうる事全部。仮に、仮ですよそれが全部本当だったとしたら、俺じゃなく母さんや親父たちに伝えるべきでしょ? 何で俺の所なんですか?」
「私に協力出来るのが貴方だけだからよ。もう既にバベッチはアリスの身体を掌握しているわ。次に会った時には彼女であって、彼女ではないわ」
「ちょちょっと話を進めないでくださいよ。何で協力出来るのが俺だけなんですか?」

 するとリリエルは暫く黙ってルークを見つめた後に答える。

「貴方が今のアリスに一番接触しやすく、彼の標的になり命を落とす可能性があるからよ。もうバベッチを止める道は貴方との協力しか残されてないの」
「……そんなにも危険だと分かっていたのに、どうして今まで何もしなかったんですか? バベッチを止めるタイミングはこれまでにも何度かありましたよね?」

 ルークは流し込まれたリリエルの大半の記憶からそう問いかけると、リリエルは「そうね。でも、それじゃバベッチを止められない」と呟く。
 リリエル曰く、見せていないだけでこれまで何度か先に事態を収めようと当たるも、分身体を消した所で意味がないと語る。
 本体から最初に産まれた分身体を叩かない限り、永遠にこのいたちごっこは続くのだが、その本体の一部が今アリスの中にいて終止符を打てる最初で最後のチャンスなのであった。
 また分身体のオリジナル体であるバベッチの身体はアリスとの戦闘により大きく消耗しており、ここで別れたもう一方のバベッチを潰せばバベッチが創り出した全ての分身体をも一掃出来るのであると伝える。
 バベッチの危険性やこれまで行って来た事をリリエルを通じで理解していたが、それでも首を縦には振らなかった。
 その訳はリリエルの事をルークが完全に信用しきれていないからであった。

「その顔、まだ信用していないって顔ね。どうすれば私に協力してくれるのかな?」
「信用もなにもさっき会って、色々と言われ信用して協力してと言われても、はい分かりましたとは普通なりませんよ。信頼関係なんてそんな簡単に築けるものじゃないですよ」
「たしかに、それもそうね。それじゃ、利害の一致という事ならどうかな?」

 ルークは「利害の一致?」と訊き返すと、リリエルは魔力を可視化させ宙に文字や絵を描き始めた。
 リリエルの絵は物凄く上手い訳ではなく、何となく絵の雰囲気から分かるというものであった。
 宙にはアリス、バベッチ、ルーク、リリエルの四人が描かれアリスとバベッチはひとくくりにされ、ルークとリリエルから線が伸びていた。

「私はバベッチをどうにかしたいし、アリスとも知り合いなので助けたいという目的がある。一方で貴方はバベッチとは面識もないが、アリスの事は心配でしょ?」
「ああ、この話が本当ならな」
「それに関しては明日貴方の目で確かめれば分かるわ。それを見た上で判断して欲しいわね。私が提示する利害関係はアリスよ、彼女を助け出したいという目的で協力して欲しいわ」
「……この場でそれに対しての答えは出さないでいいんですよね?」
「ええ、明日から数日アリスの状態や周りの話を聞いて総合的に貴方で判断して、協力するか信用するかを決めていいわ。一応明日も黒猫で会いに行くから、そこでまた話しましょう」

 すると突然ルークの部屋が三度ノックされオービンの声が扉の外から聞こえてくる。

「夜遅くに悪いルーク、ちょっと今いいか?」
「兄貴? あ、えーと、ちょっと待って」

 驚くルークは振り返りリリエルに声を掛けようとしたが、もうその場にはおらず黒猫の姿となり窓辺に移動していた。

「それじゃルーク、また明日」

 それだけ言い残しリリエルは姿を消すのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「何が一心同体ですか、早く出て行ってくださいよ! ていうか、どうやって入ったんですか? それはね――」

 そうルークとリリエルが一つの身体で会話をしていると、アリスが攻撃を仕掛けて来た。
 いち早くリリエルが察知しルークの身体で反応し後退する。

「急に攻撃してくるなんて、驚くじゃないかバベッチ。俺の身体が俺の意思じゃなくて勝手に動いてるとか、気持ち悪い」
「リリエル先生、何ですがそれは? 笑わしに来てるんですか?」
「バベッチ、人の事言えないだろ。それ自分も似た様な状態じゃないか。あーたしかに言われてみれば」

 リリエルからの言葉にアリスは顔を歪ませると、全身に魔力を纏い万能型ゴーレム武装の姿となる。

「あれは――あれがアリスの新しいゴーレム武装よ。途中で乗っ取らないでくださいよ。ごめんごめん」

 ルークが一人会話をしている直後、アリスはあっという間にルークとの距離を詰めて来て片腕をルークの顔目掛けて突き出した。
 突き出したアリスの腕には、瞬時に魔力が多く流れ形状がガントレットの様に変化する。

「(切り替わりが想像以上に速い)」

 驚いている間にルークの目と鼻の先に前にアリスの拳が迫る。
 本来ならばそこまで至近距離に迫った攻撃を防ぐことは不可能なのだが、ルークはアリスの攻撃を拳ほどの結界を迫る拳の前に瞬時に展開し防ぐ。
 今のルークの内側にはリリエルの意識が存在し身体を共有している状態の為、ルークの使えない使った事のない魔法もリリエルが魔力を使い展開できるのであった。

「っ!?」
「魔女め」

 攻撃を防がれるとアリスは後退する。

「さっきのは危なかったね。ありがとうございます。気にしないで私と貴方は今一心同体なのだから。……で、ここからどうやってアリスを助けるんですか? おや、もう受け入れてくれたのかな一心同体を。受け入れた訳じゃないです! ただ今そこを追求しても仕方ないと思っただけです!」

 会話の途中でもアリスはルーク目掛けて攻撃を仕掛けて来る。
 ルークは攻撃を回避するだけで、反撃はしなかった。

「(あのアリスを倒しても解決しないのは分かっています。貴方が俺の中にいるのは、アリスを助けだす為なんですよね?)」
「(そうよ。まあ面白いっていう面もなかった訳じゃないけど)」
「(……で、どうすればアリスを助けられるんです)」
「(簡単よ。ただ触れればいいだけ)」

 そこ言葉にルークは「は?」と声が出てしまい、一瞬足が止まり攻撃が当たりそうになるがリリエルが身体を動かし回避する。

「(急に止まらない)」
「(いや、今のは貴方が触れるだけで解決する様な事を言うから)」
「(嘘は言ってないわ。貴方が自力で今のアリスの背後に触れてくれれさえすれば、後は私が全てどうにか出来るわ)」

 リリエルの言葉にルークは黙っていると、アリスが再び接近戦を仕掛けて来てた。
 ルークは何とか反応し回避していたが、アリスのゴーレム武装切り替えに翻弄され始め危うくなるもリリエルがそこはカバーし直撃を防ぐ。

「防戦一方だな。魔力切れを狙っていたら、それは無駄だぞ。今の身体はアリスの魔力に俺の魔力も加算されているからな、魔力切れはない」

 するとリリエルがアリスを結界の壁で吹き飛ばす。

「(ルーク、やってくれるかい?)」
「(それで本当にアリスが助けられるんですね?)」
「(ええ、必ずアリスは助けられるわ。それは断言する)」
「(分かりました。俺と貴方の協力関係はアリスの救出ですから、貴方がそこまでいうならやりますよ。背後から触れるだけでいんんですね)」
「(ありがとう。そうよ、背に指先でも触れてくればいいわ。ただ、近付く間私はさっきみたいに手助けは出来ないからそこはルーク任せよ。こういってはあれだけど、ゴーレム武装状態のアリスの背後をとるのはそう簡単ではないわよ)」
「(知ってますよ。あいつのゴーレム武装の凄さは)」

 直後ルークは両人差し指にはめた指輪型魔道具を発動させると、両太腿に手を当てる。

「研究する事で疑似的な再現を行える事も出来る」

 するとルークは両脚に風を纏わせ、軽く踏み込んだ次の瞬間アリスの視界から姿を消す。
 突然姿を見失った事に驚くアリスだったが、ルークは高速で移動したのではなく、跳躍をしアリスの背後を真上から取りに行ったのだ。
 さすがに頭上にすぐに意識が向く訳なく、ルークが落下しながらアリスの背後に手を伸ばすが、そこでアリスもルークの存在に気付く。
 回避し始めるアリスに対しルークの伸ばした指先が軽くアリスに触れる。
 その瞬間だった、ルークは一瞬だけ身体から魔力がごっそりと消える感覚を感じるが、特に身体に異変はなく受け身をとる。
 そして振り返るとアリスが突然意識を失い倒れたのだった。
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