とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
555 / 564

第554話 二人だけの時間

しおりを挟む
「ト、トウマ!?」
「アリ、ス?」

 互いにまさかの人物との遭遇に目を丸くする。
 アリスはそのまま周囲に目を向け、タツミを探すも見当たらなかった。

「え、えっと……久しぶり」

 トウマはぎこちない顔で声を掛けて来る。

「試験の時以来だから、そんなに久しぶりでもないよ」
「そそうだよな。あははは……いや~まいったな」

 最後はアリスから視線を外し小さく独り言を呟くトウマ。
 アリスはそのままトウマにタツミについて訊ねた。

「タツミ先生? さっき俺も会ったんだけど、何か呼び出しがあるっていってどっか行っちゃったよ。俺もこの小箱でタツミ先生に用があって来たんだけど」
「届け物?」
「俺も急にタツミ先生がいるこの競技場に持って行くようにって頼まれた側だから詳しく知らないんだ。だから、どうすんのかって訊こうとしたらすれ違いで行っちゃってよ」
「そう、だったんだ……よかったら私が預かろうか? ずっと待ってるのも大変でしょ」
「いやさすがに頼まれたことをアリスにそのまま頼むわけにはいかないよ」
「そっか」
「うん。でもありがとう」
「ううん」

 そこで二人の会話が途切れ、何故か気まずい雰囲気になってしまう。
 アリスはその状況に耐え切れず話は振らずに、一度戻ろうと決め「じゃあ」と口にし振り返った時だった。

「ちょっと待ってアリス」

 突然トウマに呼び止められアリスは動きを止める。

「あ、えっと、その、せっかくだしもうちょっと話さない?」

 トウマは照れくささを隠す様に笑顔でそう誘う。
 その時トウマの耳は赤くなっていたが、夕日が差し込んでいたこともありアリスにはばれてはいなかった。
 アリスはトウマの突然の誘いに少し悩み「分かった」と返事をした。
 本来ならばこのまま外に出ているのは認められてないし、今置かれている自身の立場的にもダメだと分かっていたがトウマとこうして話す機会はもうないかもと考えそう答えた。
 一時の気まずさで引いてしまうよりも、ここでの偶然を活かさなければとアリスは考えるのだった。
 そのままトウマは小箱を持ちながら、競技場外近くにあるベンチに二人は座った。

「身体の方はもう大丈夫なのか?」
「うん、タツミ先生のお陰でこの通りだよ」

 トウマは「それは良かった」と安堵の表情で告げる。
 あの日ルークとの試合を間近で見ていた一人で、試合後に倒れたことも全て知っているのだとアリスは思い「心配かけた」と謝罪した。
 それと同時にトウマからの言葉に試験中に救われたことも共にお礼を伝えた。
 アリスからのお礼にピンと来ていないトウマだったが、何かしらの助けになれたのならよかったと思うのであった。
 それをきっかけに試験中にあった面白話や学科で難しかった箇所などをトウマが話し出し、アリスも同じ試験を受けていたことを明かし共感したりトウマの話しに笑みがこぼれるのだった。
 関連する様にトウマは次々とこれまでの日々を振り返るように話題を出しては、アリスもそれについて話すなど会話に花が咲く。
 転入して来てクラスで会った日、ルームメイトとして過ごした日々、学院内イベントでの即興芝居やハプニング、対抗戦での他学院との交流など上げ始めたらきりがない程たくさんの思い出があった。
 二人だけの楽しい時間は誰かが止めない限りずっと続くような雰囲気であったが、唐突に鳴り響いた学院のチャイムによりその時間は終わりを迎えた。

「今のチャイムって」
「下校のチャイムだな。もうそんなに経ってたのか」
「楽しい時間はあっという間だね」
「そうだな」

 そしてアリスは立ち上がる。

「こんなにトウマと話したのは初めてかもね。凄く楽しかったよ」
「俺もだよ」

 暫くの沈黙後アリスが口を開こうとした時、トウマがそれに被せる様に声を出す。

「アリス、行く前に一ついいか?」
「っ……何かな?」

 トウマは急に渇いた喉に唾を飲み込むも、喉の渇きは癒えず微かに震える右手を左手で隠す様に掴む。
 そのままトウマもベンチから立ち上がりアリスに向き合う。
 そんな二人を沈みゆく夕日が照らす。
 トウマは意を決して再び口を開く。

「その、冬の修学旅行の時のこと覚えているか? リウェンク城の屋上でのこと」

 アリスは暫く黙っていたが、ゆっくりと頷く。

「そうか……じゃ、聞くけどよ。あの日の答えはもう出てたりするのか?」

 トウマの耳はそこで再び赤くなり、合わせていた視線も下にずらしていた。
 アリスはそんなトウマの態度から目を逸らさず、真っすぐに見つめて答える。

「うん。出しているよ、トウマ」
「っ!」

 そこで外していた視線をトウマはゆっくりと戻す。

「真剣に向き合って考えた。目を背けようとも思ったけれど、それじゃ対等じゃない気持ちを踏みにじる行為だからやめた」
「……それで、出した答えは?」

 恐る恐るトウマはその言葉を口にした。
 アリスは一度瞳を閉じて小さく深呼吸し瞳を開けた。

「……トウマ、貴方の想いには答えられない。ごめんなさい」

 その言葉と同時に夕日が完全に沈むのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

男女比8対1の異世界に転移しました、防御力はレベル1です

オレンジ方解石
恋愛
 結婚式の最中に、夫に他の女と逃げられた花嫁、水瀬透子。  離婚届けを出す直前に事故で瀕死となった彼女は、異世界の女神から『妾と取り引きするなら、助けてやろう』と持ちかけられる。  異世界の《世界樹》の《種》を宿す《仮枝》となった透子は、女神の世界に連れて行かれ、二年を過ごすこととなった。  そこは男女比が8対1という偏った世界であり、女性が《四気神》と呼ばれる守護者に守られる世界。  女神とはぐれた透子は、そこで美形の青年、紅霞に助けられるが……。 ※追記の追記を少し直しました。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処理中です...