短話 

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三田さん

三田さん②

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電車の外をよくみると一両だけのようだ。形も変。流線型の最新の新幹線のよう。

車内の電光掲示板に文字が流れる。

『木島町2丁目の真理亜ちゃん宅に停車します』

木島?僕の故郷だ。しかも僕の実家も2丁目。

電車が動きだす。


と同時に木島の町並みが車窓に、しかも空高く上空からうつしだされる。

『あぁ懐かしい・・・』

思わず口からでた言葉だった。涙がこぼれそうになる。泣かない。しかし、目の奥に熱くなるモノを感じた。

よく遊んだ公園。友達の家。学校。そして僕の家。



僕の家!



『到着しました』


電光掲示板が文字を流す。

僕の・・・実家だ。


列車は急下降し雪の降り積もる僕の実家の裏へと降りた。

『シューッ!』

扉が開き外へでる。確かに僕の実家だ。時間はもう0時をまわっていた。辺りは街灯の光だけが雪をてらしている。

僕が電車?から降りると電車は水のようにうねりながら、消えていった。



さて、、、、サンタって煙突から入るんだよな、、そんな事を考えながら家を見返す。

しかし煙突なんか無い。

恐る恐る玄関の方へと足をやる。

『ガチャ』

開いた。真っ暗な家の中を見た瞬間記憶は一気に5年前にもどる。家の中の匂いもあのまま。そう僕の故郷。
でも、、真理亜ちゃんって?

僕には3つ年上の兄がいる。連絡もとっていない。親の反対を押しきり就職し家を出たのだ。連絡もくる事もなく、時は過ぎていた。

真理亜ちゃんって、まさか、 


兄は結婚していたのだ。子供も産まれていた。その子が真理亜だった。


暗い家の中でも歩けた。思い出したのだ。廊下を進むと甘い香りがする部屋があった。

真理亜の部屋だ。

そこにはまだ1歳にもならないような赤ちゃんが眠っていた。

兄夫婦も隣で眠っていた。

『帰ってきたよ。俺。』

寝静まった部屋で、小声でつぶやく。

また、涙が出そうになった。

幸せな家庭がそこにはあった。

僕は4畳半のアパートで一人。朝から晩まで働いて。一人。

『良いな。家族って』

心からそう思った。暖かい空気がクリスマスの夜を包んでいた。

その時、僕は気付く。

『プレゼント・・・持ってきてない・・・』
三田はサンタになったのにプレゼントを持っていなかった。

『どうしよう・・・』
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