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密告②
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この街と教会はほんの数年前までは、こんなに治安が悪くはなかった。
街は活気に溢れて賑わっていた。
大きな揉め事や争い事もなくて穏やかで平和な日々を送ることが出来ていたの。
この教会だって例外じゃなかったの。
だから、シスターである私達は、教会に住んでいる子供達に読み書きを教えたり、楽しく遊んだりしてとても充実とした日々を送っていた。
でも、カエサル教皇が御高齢の為に教会を離れて、クルルギ大司教がこの教会の実質的な頂点に立つことになったことで、この街もこの教会もガラリと一変させてしまったわ…。
まず初めに贖宥状とシモニーの発行と販売を推進するように決めたのよ、強く反対をしていた私達の意見を聞かずに。
どうしてなのかしら、贖宥状の発行でさえカエサル教皇がいたときは殆どしてこなかったし、発行するのは稀に起きる免罪や貧困等での止まれぬ事情が起きてしまったときに神の赦しを得る為の発行だったから。
教会の利益を得る為だけに発行なんて今の時代にするべきではない筈よ!
シモニーの販売も同様に決してしてはいけない行為なのに何故…。
クルルギ大司教だってそれまで言葉すら殆ど出てこなかったのに。
けれど、クルルギ大司教は自身の地位と彼を心棒する貴族達によって私達の反対意見を強引に握り潰して贖宥状の大量発行と販売・シモニーの販売に手をつけたのよ…莫大な利益を得る為だけに!!
許せなかったし、涙が溢れる程に悔しいくて何度も私達は彼を直接訴えてきたけど、彼の立場の強さと彼に多額の寄付をしている貴族の脅迫じみた行為を何度もされて私と仲の良かった同僚は何人も教会を去っていってその後の動向は不明なまま。
それは司教にもいえることなの。
ただ、私達と少し違ってそれぞれのグループに分かれていて、私達と同じく彼に反対を示す者や静観を決める者、中には彼に同調しておこぼれ貰おうとする聖職者としてあるまじき考えを持つ者とそれぞれの意見や立場の違いで仲間同士での対立ができて纏まりない状況。
それでも、彼に強く抗議した者は少なからずいた。
しかし、抗議した者は即座に聖職者の地位を剥奪されて行方不明となってしまったわ。
だけど、処罰を与えたクルルギ大司教は平然な顔をしてたわ。
そしてこういったのよ彼は。
「神に仕える者が何故この私の意見に反抗や抗議を示すのか、非常なまでに理解ができません。私は大司教であり、あなた方よりもずっと神に近い存在にいるのは分かっているとばかりに思っていたのですが真に残念でなりません。二度とこのような愚かしい行為を起こさない為にはこうした処罰をしなければ、神は許してはくれないのですから」
あまりにも酷い演説だわ…元はといえば大司教様がこのような行為をしなければこんなことには…。
内心では怒りと絶望で頭が一杯になっていた。
だけど今の私達どうしても彼らに太刀打ちなんて到底できないことも分かっていた。
だから…私達は彼らの悪事と不正を見て見ぬ振りをしたり、贖宥状の発行と販売・シモニーの販売の作業を半ば強制といっていい状態でさせられていたの…。
それに加えて彼と彼の部下による高圧的な態度をとったり、暴力的な行為を行うようになっていったわ。
日常的に繰り返されるようになった暴言。
口調は丁寧であっても、その中身は私達に対する侮蔑的なものが殆どだった。
その度に私はいつの間にか毎日のようにこの教会から逃げ出したい気持ちに駆られるけど、まだ幼くて身寄りのない子供達を見捨ててしまってもいいのかと激しい葛藤の末にギリギリ踏みとどまってる。
でも、子供達の純粋に私達の様子を心配しているのを見てると、罪悪感で頭が一杯になってしまう。
私達が行っているのは明らかな悪事と不正行為なのだ。
それをもし、子供達から問い詰められたらどう答えればいいのだろうか…?
私には恐らく何一つとして本当の事を答えることが出来ないまま結局のところ我が身を守る為に嘘をついて心配ないと笑顔で誤魔化してしまうのかもしれないと自身の弱さを恨む事しかできなかった。
苦しい日々が続いてしばらくして私はある司教に誰もいない薄暗い部屋に呼び出された。
恐怖心と緊張感が混ざりあったけど、私はこの体格が良く、浅黒い肌をしたマルクス司教の後ろを歩いて部屋に着いたわ。
何をされてしまうのだろうか…?
私にはただ目の前にいる彼が怖かった。
なんせあの大司教様の部下の一人なのだから。
そう思ってた、だけど彼は私に今まですまなかったと私に頭を下げて謝罪をしてくれたの。
彼の謝罪に私は戸惑いを隠せない。
彼の方も薄々は感じとっているかのような辛い表情を見せてこう告げた。
「君達には本当に申し訳がないと思っている。私も君達と同じ気持ちだったが手助けする事が出来ずに見て見ぬ振りをしていた事を…だが、やっとこの状況から解放される事が出来るかもしれないんだ。」
聞いた私は半信半疑だったけど、彼の瞳は以前とは違ったほんの僅かな望みと成し遂げようとする強い覚悟を写し出していた。
街は活気に溢れて賑わっていた。
大きな揉め事や争い事もなくて穏やかで平和な日々を送ることが出来ていたの。
この教会だって例外じゃなかったの。
だから、シスターである私達は、教会に住んでいる子供達に読み書きを教えたり、楽しく遊んだりしてとても充実とした日々を送っていた。
でも、カエサル教皇が御高齢の為に教会を離れて、クルルギ大司教がこの教会の実質的な頂点に立つことになったことで、この街もこの教会もガラリと一変させてしまったわ…。
まず初めに贖宥状とシモニーの発行と販売を推進するように決めたのよ、強く反対をしていた私達の意見を聞かずに。
どうしてなのかしら、贖宥状の発行でさえカエサル教皇がいたときは殆どしてこなかったし、発行するのは稀に起きる免罪や貧困等での止まれぬ事情が起きてしまったときに神の赦しを得る為の発行だったから。
教会の利益を得る為だけに発行なんて今の時代にするべきではない筈よ!
シモニーの販売も同様に決してしてはいけない行為なのに何故…。
クルルギ大司教だってそれまで言葉すら殆ど出てこなかったのに。
けれど、クルルギ大司教は自身の地位と彼を心棒する貴族達によって私達の反対意見を強引に握り潰して贖宥状の大量発行と販売・シモニーの販売に手をつけたのよ…莫大な利益を得る為だけに!!
許せなかったし、涙が溢れる程に悔しいくて何度も私達は彼を直接訴えてきたけど、彼の立場の強さと彼に多額の寄付をしている貴族の脅迫じみた行為を何度もされて私と仲の良かった同僚は何人も教会を去っていってその後の動向は不明なまま。
それは司教にもいえることなの。
ただ、私達と少し違ってそれぞれのグループに分かれていて、私達と同じく彼に反対を示す者や静観を決める者、中には彼に同調しておこぼれ貰おうとする聖職者としてあるまじき考えを持つ者とそれぞれの意見や立場の違いで仲間同士での対立ができて纏まりない状況。
それでも、彼に強く抗議した者は少なからずいた。
しかし、抗議した者は即座に聖職者の地位を剥奪されて行方不明となってしまったわ。
だけど、処罰を与えたクルルギ大司教は平然な顔をしてたわ。
そしてこういったのよ彼は。
「神に仕える者が何故この私の意見に反抗や抗議を示すのか、非常なまでに理解ができません。私は大司教であり、あなた方よりもずっと神に近い存在にいるのは分かっているとばかりに思っていたのですが真に残念でなりません。二度とこのような愚かしい行為を起こさない為にはこうした処罰をしなければ、神は許してはくれないのですから」
あまりにも酷い演説だわ…元はといえば大司教様がこのような行為をしなければこんなことには…。
内心では怒りと絶望で頭が一杯になっていた。
だけど今の私達どうしても彼らに太刀打ちなんて到底できないことも分かっていた。
だから…私達は彼らの悪事と不正を見て見ぬ振りをしたり、贖宥状の発行と販売・シモニーの販売の作業を半ば強制といっていい状態でさせられていたの…。
それに加えて彼と彼の部下による高圧的な態度をとったり、暴力的な行為を行うようになっていったわ。
日常的に繰り返されるようになった暴言。
口調は丁寧であっても、その中身は私達に対する侮蔑的なものが殆どだった。
その度に私はいつの間にか毎日のようにこの教会から逃げ出したい気持ちに駆られるけど、まだ幼くて身寄りのない子供達を見捨ててしまってもいいのかと激しい葛藤の末にギリギリ踏みとどまってる。
でも、子供達の純粋に私達の様子を心配しているのを見てると、罪悪感で頭が一杯になってしまう。
私達が行っているのは明らかな悪事と不正行為なのだ。
それをもし、子供達から問い詰められたらどう答えればいいのだろうか…?
私には恐らく何一つとして本当の事を答えることが出来ないまま結局のところ我が身を守る為に嘘をついて心配ないと笑顔で誤魔化してしまうのかもしれないと自身の弱さを恨む事しかできなかった。
苦しい日々が続いてしばらくして私はある司教に誰もいない薄暗い部屋に呼び出された。
恐怖心と緊張感が混ざりあったけど、私はこの体格が良く、浅黒い肌をしたマルクス司教の後ろを歩いて部屋に着いたわ。
何をされてしまうのだろうか…?
私にはただ目の前にいる彼が怖かった。
なんせあの大司教様の部下の一人なのだから。
そう思ってた、だけど彼は私に今まですまなかったと私に頭を下げて謝罪をしてくれたの。
彼の謝罪に私は戸惑いを隠せない。
彼の方も薄々は感じとっているかのような辛い表情を見せてこう告げた。
「君達には本当に申し訳がないと思っている。私も君達と同じ気持ちだったが手助けする事が出来ずに見て見ぬ振りをしていた事を…だが、やっとこの状況から解放される事が出来るかもしれないんだ。」
聞いた私は半信半疑だったけど、彼の瞳は以前とは違ったほんの僅かな望みと成し遂げようとする強い覚悟を写し出していた。
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