盤上遊戯~魚を捕り梟は飛んでいく

はに丸

文字の大きさ
12 / 21

第12話 梟、二羽

しおりを挟む
 荀罃じゅんおうが持つ楚王そおうの駒は魚で取ったものである。これはゲーム内で取り返される駒であった。

 ふくろうの死は他の梟と同じマスに止まった時である。そうなれば魚に戻り、ふりだしから再び進めることとなる。その際、魚に奪われた己の駒を取り返すことができる。たとえ三つ、四つの駒を奪おうとそれが魚によるものであれば、返すこととなる。

 が、梟に取られた駒は返されない。ドローとならない限り、手元に戻ってこないのである。前のゲームで荀罃は魚での狩りはできたが、己の駒は梟に取られた。楚王の手数を戻さないためにも、ドローを狙うしかなかったのである。

 ――太極に到る前に、梟に狩られましょう。

 今回、荀罃は、楚王の梟に狩られるよりも、魚に取らせて戻せる可能性に賭けたのだ。梟の射程範囲にあった駒である。狩られる前に投降したと言うべきか。

 楚王の手番で、荀罃の駒は狩られることなく、楚王の駒も自滅しなかった。荀罃はさいを碗に落とした。

「……『方』。私も梟と成りました」

 ひとつの駒が縦に立ち、梟と化した。これで、楚王と荀罃双方の梟が盤上を飛び回ることとなる。そうしながら、他の駒を楚王の範囲から遠ざける。今までは守ることを考えていた。これからは攻守双方を考えなければならない。

 荀罃がボーナスの賽の目で梟を動かした後、小さく息を吐く。

「遊戯だ、少しは楽しめ」

 楚王がひょうげた声で言う。荀罃は、ひきつりながらもなんとか笑み、

しんでは遊戯にいそしむこともございませんでした。の歓待、遊戯の楽しさを覚えたいと思います」

 と、丁寧に返した。集中せねばならない。心を張り詰めねばならぬ。しかし、焦りを見せてもならない。楚王に引きずられてはならないが、それをつっぱねて殻に籠もれば負ける気がした。

 盤上遊戯は楽しんでいるほうが勝つものなのだ。

「よく言った。慎みを知りながら楽しみもわかるは、音の響きも良いだろう」

 荀罃の肌を舐めるように見ながら、楚王がサイコロを振った。良い出目といって良かった。二つの目を合わせ、荀罃の駒をひとつ取る。返らぬ駒となったそれを一瞥したあと、荀罃は挑むように盤を見た。これで荀罃の勝ち目はひとつ消えた。楚王の駒を全滅させないかぎり、勝てない。もしくは、ドローでしきりなおすか。

「私の皮はなめす価値もないでしょう。楚のびょうには似つかわしくない」

 虚勢であるのか意地であるのか。荀罃も己でわからぬまま、言い放ち、サイコロを振る。双方大きな目であった。そして、運が良い。

 荀罃の梟が楚王の魚をひとつ、狩った。多くのマスを通っての狩りである。ここで使ったマスは二度と通れない。むろん楚王の梟も同じルールで移動制限ができている。荀罃は周囲の駒を見ながら、もう一つの出目どおり、己の魚を動かした。そこには楚王の魚がおり、駒を奪われる。梟に奪われた駒がひとつ。魚に奪われた駒がふたつ。

「俺の駒は、返るのがひとつ、返らぬがひとつ、か」

「そして、あなたの駒は場に四つ。私の駒は三つしかございませぬ」

 楚王の言葉に、荀罃は挑むような声で返す。

 お互い、食い合いである。梟がどれだけ食うか。魚でどれだけ食い合うか。――どれだけを手元に戻すか、いつ戻るのか。

「守るに固いかと思えば、攻めるとなればとことんか。小僧の軽重を量るのは、なかなかに愉快だ」

 獰猛な笑みを浮かべ、楚王がゆったりと笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...