青春怪異譚〜傲岸不遜な公族大夫の日常

はに丸

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夏は星狩りの季節

斅うるは学ぶの半ば、人に教えると自分も学ぶ一挙両得。

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「全ての事象はひとつのことになりたっているわけではない。滅んだものに因が重いこともあれば、そうでないこともある。わたしはお前の一族のいざこざなど、たいして知らんから、本質の話はできん。が、お前を教え導けと命じられている立場だ、問いには答える。ちょう氏は間抜けでもあったろうし、驕慢でもあったろう。が、わたしが思うに、あれはむさぼった、であろう。お前の父が嗣子ししから氏族のおさになったが、大叔父どもにも大きく領地をわけられ、そのうち一人は高い身分を与えられている。当時、趙氏には三人も『顔』があり、それを当然として政事軍事の場に来ていた。己の地位、立場を深く考えず、貪っていたのだ。お前の父は言いがかりの讒言ざんげんで滅ぼされたと聞く。人柄を悪く言うものはいないが、誰も助けなかった。国人みな、貪りをどこか感じていたのではないか。大叔父たちはお前の父を助けず、この世の春とあからさまに貪った。貪りというものの怖さは際限の無さだ。いくら食っても満足を得られず飢えている。また、それを己の力で満たそうとせず他者に依存する。そのようなものどもは、大きな失態をしなくとも人が遠のくものだ、食われたくないからな。お前の大叔父たちも確か讒言で滅んだが、誰も助けなかった。が、お前は誰も何も貪っておらん。ゆえに、みな助けたのであろうよ。趙氏が消え、小者が肥え太れば我らけいの一族としても理に合わず利が無い。これは、わたしの印象、抽象、イメージで言っている。お前の一族は才と行いがちぐはぐ、と見えるほどのことをしておらぬ。ぼんやりと滅んだ。君公くんこうにとって公室の国庫を潤すカモだったのかもしれんが、目についたのは貪っていたからであろう」

 士匄しかいの、イメージだと言うには明確な言葉に、趙武ちょうぶはゆるく笑んで頷いた。

「全くお優しい言葉ひとつもございませんが、何やら、得心するものありまして、勝手ながら安心してしまいました。そうですね、貪ったというのは正しい気がします。范叔はんしゅくがご存じないようですので申し上げますが、大叔父を讒言したのは、私の母です。そう、公室から嫁がれたのが私の母なのですけど。范叔は大叔父を二人と数えてますが、実は三人おりました。一人、あまりお方で、我が父の死後、母と密通なされておりました。他の大叔父が外聞が悪いと晋から追い払ったのです。母は愛しい男を奪われたと逆上し、兄である君公に反乱を企てていると讒言したそうですよ。貪って、また貪り返し、他者から奪うことしか考えぬから滅びかけた。私も他者を貪って生きておりますが、范叔のお言葉を訓戒に度を超さず研鑽し、慎ましやかさをうちに溶かして己の自信を見つけようと思います」

 士匄は、うっわ、きっも、という言葉をきちんと飲み込んだ自分を称賛したくなった。

 士匄は個人のありかたではなく、抽象的な集団のありかたを言ったのであるが、趙武はそれを己の都合良く受け取り、ついでにトラウマをご披露してくださる。未成熟の現れであろう。

 趙武の周囲に、趙氏の内部を悪く言うものはおるまい。聞くにあまりに繊細であるからだ。そうなれば、趙武も悪く言えぬ。周囲の善意によって立ち直った趙氏の長としては、淡い父親へも強欲な大叔父たちにも、そして不貞の母親に対しても、恨み言ひとつ言えなかったのであろう。

 しかし、それが今、じわりと放流された。厳しい家だが何不自由なく育ったぼんぼんの士匄としては、その怨嗟は気持ち悪い、と思うしかない。

 まあ、それで、やる気がでるならいいか、と士匄は嫌悪をさっと放りだして思い直した。切りかえの早さは士匄の長所のひとつである。

「今は頭で分かった気になっているだけだ、これから身に溶かせ。人は欲を覚える。欲しがるということは、悪いことではない。生きるということは欲を持つことだ」

「范叔は強欲ですからね、そう思わないと生きていけませんね」

 趙武のツッコミは容赦が無い。士匄は苦々しさを隠さず、うるさい、と吐き捨てる。

「混ぜっ返すな。欲がなければ生きる意味などあるか。欲しいものを手に入れて何が悪い。しかし、それに振り回され貪るようであれば、滅びる。その欲をコントロールするものこそ、己が己であるという自信だ。自信無きものが、あれもこれもと手をだし功績をあげようとする、欲のままに手を伸ばし肥え太ろうとする、それが貪るというものであり、一歩踏み入れれば危うく、最後には終わり良くない。あー、だから、今の中行伯ちゅうこうはくは、危ういのだ。わたしが手を引かねば歩けぬ御仁だぞ! そうわたしの! 横におらねば! いつも失敗なされていた! いくら女がアゲマンでもそうそう上手くいくわけなかろう」

 最終的に、話が入り口に戻り、趙武は顔を引きつらせた。どれだけ、荀偃じゅんえんが好きなのだこの人は、と呆れる思いである。友情というより、ペットを愛でるものに近い。酷い友愛であった。
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