生まれ変わったら、いつの間にか甲子園に出場していた件

すふにん

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第四話

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 ……。

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 監督は、何やら言いたそうな顔をしていたが、しばらくしてようやく重い腰を上げた。

「岡田、スピードガンを持ってこい」

「え? でも監督……」

「いいから持ってこい」

「は、はい」

 岡田と呼ばれた、このリトルリーグに所属していた子供は、監督に言われ、シュークローゼットにしまってあった、スピードガンを持ち出してきた。

「伊泉くん、もう一度、同じ球を投げてみてくれるかい?」

「いいですけれど……僕は、このスピードで球を投げるつもりはありませんよ?」

「? これ以上の速度を出せると言うのかい? まさか……ははは」

 監督は苦笑いをしている。僕は仕方なく、もう一度コントロールを定めて、監督が構えているミットに全力で投げ込んだ。

「バァァァァン!」

「岡田、スピードは!?」

 岡田くんは目を丸くしながらこう答えた。

「120キロは出ています」

「120キロ……? 小学生が投げられるストレートのほぼ最大速度じゃないか。これはとんだ逸材が舞い込んできたものだ」

 監督は何やらぼそぼそと岡田くんと話していたが、やがてこちらを振り向いて、走り寄ってきた。

「君、一体いつから野球をやっているんだい?」

「はい……5歳の頃から球は投げています」

 監督はこう話すと、微笑みながら僕の肩に手を置いた。

「そ、そうか。だが、同じ速度で投げられないというのは、どういう意味なんだ? まさかまだ速度を上げられると言うのかい?」

「いえ……」

 僕はしどろもどろになりながら、言い訳をする。

「父親から止められているんです……。速度は10キロ落として投げる様にと。肘や肩に負担が掛かるとよくないって」

「そ、そうか、大切に育てられているんだなあ」

 監督は大喜びをしている。当然だ。いきなり120キロを投げる新人が流星の如く現れたのだ。期待をしてしまうのも当然だろう。

「君は、どこか他のリトルリーグに入るつもりなのかい?」

「いえ、家から近いのでここで。父親はどこでもいいって。ただ、強豪とされている、リトルリーグには入るなって……理由はよくわかりませんが」

「? なるほど。でもうちに入る予定なんだね。こ、これは野球の神様に感謝しなくてはいけないなあ」

「大げさですよ、監督」

「大げさなもんか! いいかい、伊泉秀一くん。君の父親の言うとおり、絶対に無茶な球は投げさせない。だからこれからは、うちでゆっくりと自分のペースでやってほしい。いや、そんなことはわかっているとは思うが……」

「わかっています、監督」

 監督の側に立っていた岡田くんは何やら言いたげな顔をしていたが、こちらと目が合うと秀一くん、宜しく! と挨拶をしてきた。

「この子は捕手をしているんだ。これからは仲良くやってほしい。いや、これは楽しみなバッテリーになりそうだ」

「岡田くん! こちらこそ宜しくね」

 ニコリと愛想笑いをすると、岡田くんもとっても可愛らしい笑顔を返してくれた。

「さて、今日は好きに見学していくといい。野球を通して、みんなと仲良くできるといいね!」

 そうして、監督は小躍りする様にして練習に戻っていった。

 さて、これでリトルリーグで練習させて貰うことはできるようになった。

 でも、最近の子供とはどの様な話をしたらいいんだろう……。僕は気まずい雰囲気をシャドーピッチングをする振りをして、誤魔化した。

「秀一くん、キャッチボールをしないかい?」

 岡田くんは気を使ってくれたのか、練習に誘ってくれた。

「うん! こちらこそ、是非」

 コミュニケーションを図りながら、お互いにボールを投げ合う。キャッチボールとは素晴らしい練習だと思った。

 初心が一番大事なんだ……。キャッチボールは何も考えずに行える練習として、僕は好きだった。20分程、投げ合ったところで僕らは休憩に入る。

「ポカリスエット持ってくるよ」

 岡田くんは、何も話はしないものの、どこか嬉しそうな表情を見せていた。

 スポーツ飲料を飲み干したあと、監督が近寄ってきた。

「伊泉くん、どうだった? うちの岡田は。彼のお兄さんは、甲子園にも出たことのある選手で、小さい頃から一緒に練習をしていたんだ。君のよい練習相手になってくれると思うよ。それでは、また明日から来なさい。今日はこのくらいの挨拶で終わった方が緊張しないと思うからね」

「はい、お気を使って頂き、ありがとうございます」

「ははは、礼儀正しいね。それでは、伊泉くん。これから宜しく頼むよ」

「それでは失礼します」

 ……。

「秀一くん、今日の球はなかなかだったね。でも、いつものMAXスピードなら125キロは出せたんじゃないの?」

「いいんだ、透ちゃん。そんな球投げてしまったら、あの監督。逆に怖がって、僕をリトルリーグに入れてくれなくなってしまうよ」

「うーん、それもそうかあ」

「そうそう、実力を見せるのも程ほどにね」

「流石、秀一くん! 能ある鷹は爪隠す……だね!」

「難しい言葉をしっているんだね……透ちゃん」

 そうして、僕は野球に無事に復帰できた……可愛い彼女のおまけ付きという形で。
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