勇者は最初の町を出ないっ

椎木唯

文字の大きさ
2 / 2

勇者のプロローグ

しおりを挟む
 勇者とは聖女と呼ばれる教会のトップに君臨するお偉いさんから授かる名誉ある称号なのだ。

 選ばれたものは全員、世界の困難に立ち向かったり、ありとあらゆる人を救ったり、時には敵対している国同士を仲良くさせたり、と多種多様な分野に精通する超絶人間になるのだ。
 例えそれがどんな人間であろうと…







 勇者。
 本名ではなくそんな名前で呼ばれるようになったのはいつ頃だろうか。もう記憶にも残ってないほど前から言われていた。
 生まれはなんら代わりのない平凡な村で生を受けた。

 両親は共に優しく、時に厳しかった。
 自分はそんな両親が大好きだった。マザコンとかファザコンとか言われても仕方がなかったと思う。いや、今も好きだけどね? 家族愛が素晴らしいにんげんなのだ。
 だが、そんな至って普通なありふれた幸せは突然消え去った。

 そう、聖女から貴方は勇者だと。何の前触れもなく言ってきたのだ。

 その時は…何歳くらいだっただろうか。まだ母親と一緒に羞恥心なく風呂に入っていたので多分六歳位だろう。完全に適当なのだが思い出せないのだ。
 ほんのり、両親の顔は思い出せる気がしなくもないが…


 俺の生活はそこから変わっていった。
 何時もなら朝一度起きて二度寝、三度寝を繰り返して昼頃に起きるそんな生活が早朝、しかも完全に太陽が出てきっていないときにたたき起こされ引き取られた協会を合計二十周ほど走らされる。
 そこから数分の休憩を入れて勇者の要とも言える剣術の訓練を始める。

 まだ、幼少期。
 両親に甘えたい年頃だったのだがそんな感情を圧し殺し、無我夢中で剣を振って“斬る”動作を永遠と繰り返しやらされていた。
 数が大体五百を越えた辺りで飯の時間になる。
 これが唯一の休憩と言えなくもないが結局この時間も苦痛でしかなかった。
 飯は体を作る。そんな聖女クソアマの一言によって気持ち少ないかな? だった量が徐々に増えていき、三日目からは大人でも食べきれるか疑問な量が出てきた。

 今の自分なら料理を思いっきり顔面に投げつけてやるのだがその時の俺はそんな事を考える余裕なんて一切なく、ただ剣を振るうときのように無我夢中で食べた。

 その後は運動、食事を取ったら睡眠も大事なのです。

 と、じゃあ朝早く起きる必要あった? と、疑問に思ってしまうが腹一杯と言うより詰め込んだ状態で寝るように言われ、逆流しそうな腹の痛みと口に広がっていく飲み込んだ筈の食事の残骸。ここで吐き出してしまうと勿体無い、と言われ出したものを強制的に食べさせられるのだ。



 そんな強くなるための近道を強制的にやらされ、十歳の時には三十人ほどの盗賊団を一人で壊滅できるほどの技術が身に付いてしまった。
 そこから能力を見いだされ、対人から対魔物。そして人間の大敵である魔族との戦いを強制させられた。人間は意外と脆く倒しやすいし、魔物はたまに頭の良い個体がいるが基本的に何も考えずに突撃すれば大抵勝ててしまう。問題が魔族だった。

 見た目は人間と同じ、違った部分をあげるとするなら瞳の色が人間より圧倒的に多種多様な色をしていると言ったところだ。
 対人戦は何度もやってきてるし、簡単だろと思って不意打ちをせずに正面から行ったときはーー危うく死ぬところだった。
 動きはそんなに良いとは言えず、体術でなら当時十二だった俺でも勝ってたと思うが問題は“魔法”を使ってきたという点だった。




 と、そんな濃い生活を送っていたある時、教会が何者かによって襲撃されてしまう。
 その結果俺は襲撃した人達に保護され教会から抜け出せたのだ。

 その時は何故? どうして? と疑問しかなかったのだがその事を行動に移そうとは思っていなかった。
 一番最初に触れたのはリュークと言うなの青年だった。

 その表情は決して歴戦の戦士のような数えきれないほどの修羅場を生き抜いてきた顔じゃなかったがどこか、決意がある表情だった。だが、どこか騙されやすそうだな~とそんな人柄だったので多分そこでこの人達を殺してまで抜け出そうと考えなかったのだ。






 話はそんな救出劇から十年後の事になる。

 救い出された少年は二十歳を過ぎ、二十一歳になろうとしていた。
 普通の男女の就職する年齢は十八、九歳なのだがこの勇者の場合は空白の十年間は“普通”や“一般常識”を教える期間だった。
 最初の勇者は持ち前の身体能力と圧倒的な戦いのセンスでこれから生き抜くためには戦えるようにならなくちゃな! と、親切心で始まった組み手でボッコボコのボコにしてしまったのだ。本人曰く手加減をしたつもりだった、と言うのだがしたつもりじゃ駄目なのだ。

 最初は今の勇者がどれだけ強いかを教え、次に簡単な読み書き、最後に人とのつきあい方を伝授した。
 簡単な算数などは教会にいたときに教わっていたのである程度の文章や単語の意味をおしえたりした。

 そんな事をしていたらあっという間に十年が経ち、気が付いたらリューク達の姿が無くなっていた。勇者との会話の中で自身が冒険者だと言うことを明かしていたのでほんのりと勇者は「魔族にでも襲われたのか」と、考えていた。


 人として大事なことを学び、必要以上の戦闘力を手にした今。勇者が何をしても成功するだろうし、天空の王者であるドラゴンなんて生肉を切るように簡単に倒せるだろう。

 だが、そんな勇者が選んだ道はーー

「あー、見付かって良かった。この【スライム討伐】の依頼を受けたいんですけど」

 魔物の中でも最弱に位置し、そこら辺の村人Aにでも倒せてしまうスライムの討伐依頼を誇らしげに受けようとしていたっ!!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...