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一章 力で商人のヒモになる
モーリはモーリモリ。夢は叶いそうです
しおりを挟む微かに感じる獣姦に薄寒いものを感じる。感じるが結局のところ自己判断なのだろう。痴漢冤罪とかそんなニュアンスである。
変態のレッテルを貼りそうになったアス子を心の中で謝りながら徐々に近づく町の外装を眺める。
日本では一切見たことがない高さ数十メートルはある壁に、その上で望遠鏡を携えて見守っている兵士多数。検問か。門の前で列をなしている人の格好を見ると裕福そうな格好をしたおっさんが多い。
圧倒的な時代の場違い感に慣れたはずの心が揺らぐ。時代劇かな? 江戸時代だろ。と思った想像の上を行っているのだ。中世ヨーロッパかよ。いや知らないけど。
適当にそれっぽい事で納得する。待っていると親近感を覚えるボロボロの服を着た少女が近付いてきた。
「……!」
無言で小壷のを差し出して上目遣いで見てくるのだ。中を覗き、誰が主人かを見極めているのか数秒視線が様良い、服装からモーリが一番上だと判断したのか掲げるようにして差し出してくる。
何秒か無言の時間が流れる。ちょっと、軽口を叩ける空気感じゃないんですけど…え、何? この子は何? 大道芸の人? 理解が及ばないんだけど。
そんな表情が表に出てしまっていたのかモーリは意外そうな表情でこちらに視線を向けた。
「…あ、アクさんはそうですよね。えっと、ここら辺って数ヶ月前まで戦争をしていたんですよ。その関係で孤児が増えているんですよ。その関係で…って感じです」
そう言って手で追い払う。まるで虫のような扱いだった。
意外。モーリは結構羽振りの良い人だと思ったんだけど…思ったんだけどそれは俺の個人的な決めつけだろう。誰が悪いとかではなく、お国柄みたいなものだろう。日本はチップの文化がなく、海外はある。そんな感じだ。
俺はあの子じゃないし、あの子は俺じゃない。俺はモーリに雇われようと努力したが、あの子はこの乞食が努力の矛先なのだろう。
表情の変化なく、去っていった少女を視線で追う。掛ける言葉はなかった。
「今、お金を渡しても良いんじゃねって思ったんだけどさ…モーリはそーいうの嫌な感じなのか?」
言及せず、ふんわりと聞いてみる。
反応は意外と軽いものだった。
「嫌と言えば…まあ、嫌なんでしょうね。僕の成り立ちが孤児院からの成り上がりなのであー言うのみるとちょっとだけイラつくんです。大人げないですよね」
ハハハ、と乾いた笑いで誤魔化す。恐らく聞かれたく聞かれたくない。表情は柔らかかったが、それ以上深く踏み込むな。と、そんな言葉が聞こえる笑いだった。
人の心読むのうまくね? と、自画自賛が入り掛けるが多分思い込みだろう。そこまで簡単に読める程人の心は軽くないのだ。
なくなった会話をモーリは「そう言えば」とつなげる。
「護衛として雇う上で『龍人』って種族は色々と面倒なことが重なると思うんで龍人っぽいことはなるべく控えることってお願いできますか? まあ、分からない形で殴るとか蹴るとか。殺しさえしなければ大丈夫なんですけど」
サラッとエグい事を言うモーリに眼を丸くしてしまうが…色々と考えての発言なのだろう。
確かにギルバ達に龍人だ、と知られた時に結構なリアクションで驚かれたのだ。そしてスキルで見た情報的に結構なレア。個体数がそこまでいない職業だろう。職業なのか? 種族だな。
個体数がいない、俺だけの種族ってそれだけで国家機関のエグい機械で臓器や血液、はたまた生殖器官などを重箱の端を突く感じで調べてきそうなイメージがある。現代でいうところのツチノコに似た感じだろう。そう考えるとモーリの言葉に納得せざる終えない。
見つかり、捕まった後はなんやかんやあって見世物小屋に引き取られそうな気がしてならない。まあ、そんなリスクを何故モーリが買って出るのかまだ理解できないが…。
でも、森の中でセコセコギルバ達との思い出に浸って抜け出せなくよりはまだ良い。現状維持が一番ダメなのだ。人は安定して生きていくと自堕落的になるんだぜ? 俺は人じゃねえけどな。
未だにおっぱい以外の女としての機能を感じないことに不思議な感覚を覚えながら俺達の検問の番になる。
フルフェイスで、全身甲冑の門番が1人、近付いてきた。
「通行証」
「はい。彼女の分はないので…これで」
そう言って門番の差し出した手に木の板の通行証とは別に幾らかの硬貨を握らせる。
物語のワンシーンみたいでワクワクしてしまう。
門番は硬貨を受け取り、枚数を確認する。硬い声色はなくなり、好機の目がコチラに向けられる。鳥肌全開だった。
「…確信した」
通行証をモーリに返し、慣れた手つきで硬貨を懐にしまう。
一礼するモーリに続くように頭を下げ、門下を潜る。何と言うか…俺の格好とモーリの従者感で魔女意識が高くなってしまった。このテンションならこの町を一夜で破壊できる自信があるぜ?
そんな反国心を心の中で飼いながら目の前に広がるごった返しの人の波に目眩を覚えてしまう。まである。
流石に大都会の交差点ほどのごった返しはなかったが中世ヨーロッパ的外装からガチガチのヨーロッパ的喧騒なのだ。パン屋的おばさんの声が響き、武器屋のカンカンと鉄を打つ音が聞こえ、俺が一番だとそう言わんばかりの怒鳴り声がBGMとして流れている。
別に特別にヨーロッパに憧れるものはない。強いて言えばファッションには気になるものがあるが、それでも今ある全てを投げ捨ててでも知りたいものではない。
だが、今、目の前に広がる光景は日本では絶対見れない。完全な異国の光景なのだ。銃社会である現代でここまで剣や杖、弓を携える人々はコスプレ会場でしか目にしたことがない。ある意味、女装趣味がある俺にとってしてみれば天国のような空間だった。
自然と頬は緩み、モーリに少年のような曇りなき眼で質問責めする。
「なあモーリ!! あの服ってどこで売ってるんだ?」
「オイオイ、見て見て。あの服の露出エグくね? マジかよ」
「…え、は? マジ? あんな着方あんのかよ…」
そんな俺を母のような広く、寛大な心で受け止めるモーリは微笑を携え、無言を貫いていた。
「なあ、モーリ。給料前払いとかしてくんね? ちょっと俺に眠るファッショナブルなセンスが今光ってんだよ…」
ゴマすりしながら猫撫で声でモーリに問う。今なら無償で胸を触らせてやる、そんな寛大の心が芽生えていた。
そんなメスの顔になった俺に出会った当初の初々しい表情から一点し、オスの表情になっているモーリは一言告げる。その一言で上がり切ったテンションは静かに噴火する。
「安心してください。商会ーーモルリ商会に入る事が出来れば無償で提供できますから。あの服もあの服も。恐らくあの彼女が着ているであろう下着もウチの製品ですし」
「お前…神だったのか…。今ならエルダートレントの王なんて雑草と同レベルに討伐できる自信があるぜ…?」
「ふふっ。頼もしいですね、アクさん」
「だろ? まあ、ウィンドドラゴンみたいに証拠として見せられないのが残念だけどな」
表情が一瞬沈んだモーリに気付かず、俺の思考は深海に行く。脳内には鏡の前でファッションショーを繰り広げる美女コスプレイヤーの姿があった。俺である。いや見た目は知らないけどな?
今、歩いているあの人もあの人も。子連れの女性も。喧嘩真っ最中のあのおっさん達も。全員が全員モルリ商会の服を着ていると言う。もう一生ついていく覚悟ができた。お前は心の友だよっ。
何の祝いでもないが、気持ちの昂りからウィンドドラゴンとかの剥製をプレゼントしたい気持ちになった。…いや要らないか? 俺もらっても嬉しくないよな。金持ちの家にあるから剥製も輝くのだ。俺が持っていたらただの非常食になってしまう。剥製は食えないけどな。
どんだけ食い意地が張っているのか。そんな一人ツッコミが出てしまう。喧騒に紛れて薄れてしまったが。
何の寄り道もせず、ただ愚直に真っ直ぐ進んでいくモーリに若干の不安を覚えてしまう。結構な感じでグイグイ進んでいくのだ。我が道を行く的な。
しかもそんなモーリの馬車から我先にと避けていくのだ。ウザったらしそうな表情ではなく、申し訳なさそうな表情を浮かべて。
そんな中、徐々に声が聞こえてくる。
「おい、なんだよモーリさんの隣に座ってるやつ…魔女服を着こなしてる奴なんてキルビアしか知らねえぞ?」
「エッチだなぁ…」
「可憐さと、かわいさ。そしてそれを押し出すように感じる力強さ。…まさか彼女が?」
「次代の広告塔って事か…どこの娘なんだ? あんな女見た事ねえぞ?」
人々が口々に俺の容姿を褒めてくる。ほぼ性的な表現だが、その中でも女としての魅力と、男のような力強さを感じる。と言ったあのおっさんは評価しよう。いや却下だ。女装は男が溢れていたらその時点で失格なのだ。
まあ、男でも女でもないんだけどな。胸がある事が女としての面を引き立たせているので強いて言えば女だろう。そうだけどそうじゃない。
自分の容姿が整っている事はギルバ達と接する中で感じたがここまで、大衆の面前に出ても霞むことのない容姿なのか。と、少し鼻が高い。俺の想像では俺の元の顔に多量の女性ホルモンを投与した形なのだが…まあ、当たらずとも遠からずみたいな感じだろう。紹介に行けば鏡くらいはあるだろう。
容姿チェックを楽しみに、ラブホテルのような仰々しい純白の建物の中に入っていく。完全に金持ちが持てなす初夜みたいな印象を受けるが…えっと、素股しかできねえけど?
そんなメスに落ちた思いでモーリを見つめる。おっと、危ねえ。マジで関係を許すところだったぜ…これで俺が男のままだったのならマジで狂喜乱舞。阿鼻叫喚の祭り状態で踊りながらコスプレし、女装しながらモーリを逆レイプしたまであるだろう。何その性犯罪者? ギルバも顎が外れるレベルに驚くだろう。
意外に、想像以上に舞い上がっている自分自身に驚きながらモーリの後を追うように馬車から降りる。名残惜しそうにアス子が重低音で鳴く。また散歩しようぜ?
若干噛まれそうになりながら頭部を撫でる。
「えっと、マジでここであってるんだよな? ラブホテル感が凄いんだが…」
「…まあ、そうですよね。僕も初見の時は驚きましたもん。でも合ってますよ。ここが僕の父、モルリ・リーンが1代で創り上げた国一番の商会です。気が変わりました。僕の専属の護衛になってもらえませんか?」
「…ほ? あれ、両親に許可を取るんじゃなかったのか? いや、まあ良いなら良いんだけどさ…」
そう言って差し出された手を掴み、がっしりと握る。少し赤みかかった髪、そばかすが印象的なか弱い印象のモーリだったが掴んだ手は使い古されたように硬く、大きかった。
微かに男として負けたような気がするがそこは女の面でカバーしよう。悩殺してやるよ。そう自信満々に考えながらお互いに手を離す。
その後、近づいて来た一人の男性にあれこれと指示をし、乗って来た馬車を片付けさせる。
モルリ商会の内装は意外にも質素で、ただただ大きいとしか形容し難い空間だった。ありきたりなフローリングで、ありきたりな三階建ての建物だと言う。三階建ての時点で俺にはありきたりじゃないのだが。何、ブルジョワ? 金持ちマウントっすか?
ひねくれた感情が出てくるが俺もそんな金持ちの護衛になるのだ。必然と懐事情も温まってくるだろう。そう考えると妙に寛大な心になってくる。これがお金の力か…。
1人勝手に納得し、ごくごく一般的な家庭だね。何件潰して繋げたの? と、そんな内装を眺める。
今度は違う女性と会話し、指示を飛ばす。その数十秒後に帰って来た女性の返事を聞き、こちらを向く。その表情はまたまた初対面の時とは違い、漢の表情をしていた。
「面談の準備ができたみたいなので行きましょうか。会長との面談は僕でもそうそうできないんですよ?」
おっと、社長が出る形の採用面接ですか…。
浮かれ上がった心を一瞬で地に叩き落とし、地獄の底へと引き摺り込まれる。冷や汗が止まらない。そんなレベルではなかった。
「(…いや、これも数ある服でコスプレする夢を叶えるためだからな。やるしかねえよな)」
目標がすり替わっているような気もするが…あるだけマシだろう。
一般的な史観から言うところのアクは女性である。そんな人物が女性服を着たところでそれは女装というのだろうか?
そんな忘れがちな事実は忘却の彼方のその先の向こうへ消えていた。詰まるところブラックホールだろう。
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