ネグリと付与の魔剣

椎木唯

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付与の魔剣の登場じゃい! 邪魔じゃい! 邪魔じゃい!

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 少し癖毛気味であるが綺麗な金髪を靡かせる彼女は「ーー」と名乗り、どちらかと言えば僕達の形容する「新生物」よりだと語った。
 小人ーー羽が無く、だがそれでも僕の周りを縦横無尽で飛ぶ姿は普通じゃない方法で飛んでいるんだ、と思わせるには十分すぎた要素である。一眼で人智を超えた存在だと認識できる。
 自身を「付与の魔剣」と言っている事や、到底僕では倒す事が出来ない新生物を倒せるまでに強化してくれた事は……まあ、目の前にある大ウサギの死体をみれば一目瞭然である。生憎、初見で剣を握って戦える程才能に恵まれていないので。

 彼女の言っている事は理解できなかったが、納得はいった。

 何故名前がノイズが掛かったように聞き取れないかも…まあ、何かの事情があるのだろう。プライバシーの保護とか。年齢制限解除しとけ、とは思うが…グロ関係は規制かからないんだね。
 名前の謎を深掘りしても良いが…ノイズがかかるって事は聞いちゃいけない、もしくは聞かれなくない事だろう。大人の余裕を見せる。16だけど。

「って事は妖精さん、って事で良いんだよね?」

『…どうしてその会話の流れで妖精になったのよ。似て非なるものよ…。でも、まあ、そっか。名前は…そうね、「付与の魔剣」からとって貰えると嬉しいわ』

「じゃあ…フヨ? マケン? フ…ケン?」

『巡り巡ってフケになりそうね、それ』

「魔剣さんでいっか」

『安直ね…。まあ、でも改めてよろしくねネグリ。これから貴方を史上最高の魔剣使い、そして新生物殺しの異名で名を轟かせてあげるわ!』

 覚悟しておきなさい、とそう言う彼女のはにかんだ笑みは血生臭いこの場に相手至上に場違いな程に可愛らしいものであったが、小人である。手の平サイズなので表情の変化を確認するのには結構大変だ。ほぼ間違い探しのようなニュアンスで顔を凝視しないといけないのだ。かれこれ3回ほど『私の顔に何か付いているかしら…?』と聞かれたわけである。
 出来れば最初に会った時の等身大サイズがコミュニケーションを取りやすいのだが…現状、その姿ではなく小人になっているのを見るに小人でいる方が楽なんだろう、と考える。

 ふんす、と自信満々に語る魔剣さんに、少々気圧されながら返答する。

「いや、轟かせなくても良いけどね。安定して、安全した生活を送れれば僕は十分だし」

『何とまぁ、欲もヘチマもない感想…。貴方が行動すればその分だけ助かる人間がいるのにね』

「それは実力も、才能もある人がやるべき事でしょ? 僕は無いが有る人間だからね」

 魔剣さんに初見で言われた言葉を出す。言い得て妙で有る。
 確かに、新生物に対する憎しみは人並みに有るし、撲滅の為に努力もした。その結果の「魔法学」である。努力は儚いものに変わったし、僕の抱えている復讐も機関に所属する人は僕以上に、それ以上に立派な目的を持って復讐を果たしている人がごまんと居るのだ。
 それが、多少新生物を倒せたからって調子に乗って良い話ではない。しかも相手は大きなウサギである。どこに自慢する要素があるのか…。まだ、大きな魚釣ってきたよ! と、言った方が褒められる自信がある。

 そんなニュアンスで魔剣さんに伝えるが…表情が完全に引いた。この表情は見覚えがある。道でゲロをぶち撒ける人を見る目だ。
 …え、僕の評価汚物にランクダウンした?

 そもそもの評価は低かったが。

『貴方の努力も、才能も今となっては重要ではないわ。ただ、貴方は私と契約をし「付与の魔剣」の契約者になった。ただそれだけよ。…朝起きたら歯を磨くでしょ? そんな感じで新生物を倒していかないと』

 さっきの動きは目を見張るものがあったし…。

 最後の言葉は聞こえなかったが…

「歯を磨くレベルで新生物を倒せる…? 日課レベルに新生物が成り下がった…?」

『どうしてその発想になるのか甚だ疑問だけど…貴方は私と言う要素が加わった事で実力者の一角になったのよ。しかも天辺中の天辺。トップオブトップよ!』

「僕がトップ……よし、新生物をジャンジャン倒していこうか!」

『機転が効かないのかバカなのか…よく分からないけどジャンジャン倒していきましょう!!』

 そんな訳で今日から新生物を撲滅する旅が始まった訳である。

『…そう言えばどこかに帰りたいんじゃなかったかしら?』

「そんなの歯を磨いてからで十分でしょ?」

『貴方がそれで良いのなら私は別に構わないんだけどね…』

 いざ、新生物を狩り尽くす旅へ!!

 魔剣さんの案内通りに森を進んで行く。まずはこの森を抜ける事で、その目的には森を発生させた原因であるとある新生物の討伐が必要不可欠らしい。





・・・・・・・・・・

『彼の名前は「侵略」。その名前の通りに侵略して、自分の領地を増やしていく侵略者よ。気を付ける点は…あぁ、貴方には無いみたいね』

 目の前に鎮座する存在、人が折り重なるようにしてできた巨木に苔が生えたその形はとても異形らしい姿であった。
 時々日の当たる場所を変えるように幹になっている人の腕が広がり、花を咲かせるように体積を増やす。広がった瞬間、中心部に見える色が違う部分に剣を突き刺すべく駆ける。

 運動音痴が嘘だったかのように素早い動きで走り出せる事を再認識し、僕が思った通りの動きが出来る事をバク転しながら確認する。

 剣を突き立てた結果、幹として形成されていた腕が剥がれ、個々が意識を持って要るかのように襲いかかってきたのだ。右腕左腕、が自立して向かってくる様はとても気持ちの悪いものだが…

「纏まりが無い波状攻撃は簡単って良く言うからね!! 魔剣さん!」

『りょーかい』

 魔剣さんに声を掛け、「付与の魔剣」の真髄を見せる。
 自身に身体能力の強化を付与するのだ。
 どうやら魔剣さんの能力は、戦う相手の血肉を得る度に持ち主を強化する「付与」を与えるものみたいだ。

 その証拠に神々しい、神の武器と表してもいい僕が握る剣は姿を変え、右腕を覆うように管が伸び、肌を貫いて付与を投与する形になった。
 点滴の仰々しいバージョンである。管が邪魔だな、と思ったが意外にも動きを阻害しない素材で出来ているのか腕の体積が増えただけで、それ以外の悪いところは無かった。
 後は良い所だけである。

 向かってくる腕の大群を強化された剣の一刀で穴を空け、体勢を戻そうとした時に背後に回っていた腕に飛びかかられそうになるが強化された視界で、空いた隙間に移動し回避する。その移動の中で剣を振るい着実に数を減らしていく。
 一騎当千であった。
 剣を振るい、身を逸らし、アクロバティックに回避する。その光景を握られながら見る彼女は振われるたびに歓喜の声を上げていた。

『うわぁ!? そこでその攻撃! 良いじゃん!! とても良いじゃん!! あぁこれ程までに三半規管がない事を嬉しがった事はないよっ!! もっと強く! 早く! 鋭く!!』

 剣の状態では声が脳内に響く形になるので戦闘の最中に副音声として聞こえてくる。戦闘のBGMとして聞けば…と、思ったが惚けるような声色はBGMとしていられない。観客であると認識すればモチベーションが上がるのが僕自身でも確認できた。自転車のギアを上げるみたいな感じである。

「これじゃあ、無双ゲーじゃん!! 『侵略』のその名前は偽りなのかい!?」

 と、挑発が効くのか分からないが一応揺さぶりながら、落ちた腕は全て倒す事が出来た。
 本体がどこに行ったのかが分からないところであるが…正解発表は本人がしてくれるみたいであった。

「わぁ…木じゃなくてトレントだったんだね…」

 植物ではなく、生物だった、と認識を改める。

 気が付けば地面以外、全ての植物が人の腕で形成され、地面から生えるようにして出たのは完全にボスであると認識できるのっぺらぼうのような、表情のない顔が先端に張り付いたツルであった。口がカパッ、と開き微妙に聞こえるもスキートーンのような声を響かせる。瞬間、周囲を囲んでいた腕で形成された植物たちが襲いかかってきた。
 正面ののっぺらぼうなツルは口から触手のように舌を伸ばしてくる。

 最初に正面から飛んできた舌を切り飛ばし、周囲を囲んでいる関係上、逃げる場所は空中しかないと判断する。枝のように伸ばしてきた腕に乗り、綱渡りのような要領で駆け上がっていく。幹幅が3メートル程の巨木である。そんな僕が乗った巨木を、周囲を囲んでいた腕が襲いかかってくる。綱渡りな上に、当たってはいけない。である。
 斬り、切断し、引き千切り、蹴落とし、吐き捨てながら駆け上がっていく。登った天辺には眠るようにして顔が張り付いていた。一畳ほどのスペースに中心部で顔があるのだ。完全な弱点であると認識し、襲いかかってくる腕を掻い潜り、切り飛ばし剣を突き立てる。威勢の良い悲鳴を響かせ、身が崩れる。

 解けるようにして無くなった巨木を形成していた腕。次は駆け下りながら向かってくる腕を切り飛ばしていく。

 相手の攻撃は鋭く、繊細で、息のあった攻撃であるが…「付与」された僕の前では敵では無かった。敵を斬るたびに強化される「付与の魔剣」は対大人数用なんだな、と実感しながら弾丸のようにスピードを上げた攻撃を回避しながら切断していく。







 勝敗が決したのはそこから数十分後の事である。
 消耗戦を制したのは僕であった。ほぼ、相手の攻撃で自身が強化され続ける、強くなっていっている僕に、相手の『侵略』が追いつけなかったのが敗因である。知らんけど。
 戦闘が終わり、辺には腕だけの死体が転がる空間で、妙に開けた場所で様々な視線を受けながら「付与」の効果が終わる。
 解けるようにして腕に繋がっていた管がなくなり、今までの配給が無くなった事によって鼻血が出てしまうが…直ぐに止まった。理由は目の前である。

「観客って線は…」

『試合終了後に挑んでくるサドンデス系だね』

「挑む気満々の表情…ああ、夢に出てくるよ…」

『走馬灯にならないと良いね』

 今までその空間は『侵略』の新生物が収めていた事で他の新生物が手出しできなかったが、僕がその『侵略』を倒した事で空いた領地を埋めようと向かってきた様子で、目に見える限りで十を超える異形な特大サイズの新生物が見える。

 全身を毛で覆った体長10メートル越えのモジャモジャ。
 モツが好きなのか全身に腸を、心臓を生やす一本足。
 歯列矯正が失敗したのか歯並びの悪さが顔にまで飛び火している四足歩行。
 爛れた顔と、整った顔が入り混じった数十個の顔がぬりかべに張り付いた奴。

 とか何とか様々な新生物たちである。いの一番に背を向けて走った事が功を制したのかその4体以外の新生物はそのばで大怪獣バトルを勃発させ、同族同士てしのぎを削っていた。

「何でかめっちゃ強そうなのが追いかけてくるんだけどっ!?」

『真に強者を理解している事で、より上の存在に上がれる上位種…の一歩手前の特殊能力無し。後は任せたよ、がんばれネグリ』

「ちょ、武器にならないでっ! え、本当に一人で4体捌くの…?」

 全身で絶望を表しながら剣の形態になった魔剣さんを握る。直ぐさっき、「付与」を使った為か、それともリキャストタイムがあるのかただの剣になっただけの魔剣さんで走りながら、髪の毛を針のように伸ばしてくる攻撃を斬り、自身の歯をマシンガンかのように飛ばしてくる攻撃を十秒間隔で三秒間してくる相手を掻い潜りながら野山を走る。

 諦めて、一体くらいは道連れにしよう、と振り返ったその時である。僕と新生物との間で立ち塞がるようにして『竜騎士』が現れたのだ。

「どうして前線にこのような子供がいるか分からないが…まあ、加勢に来た。人の獲物だ、と言わないでおくれよ?」

 ーードラゴン、炎を吐け。

 向かってくる歯のマシンガンを、針のような髪の攻撃も、自身が空中で乗り捨てたドラゴンのブレスで焼き払う。その余波で先頭を走っていた全身に毛を生やす巨人が燃え、全焼した。圧倒的な火力だった。
 だが、そんな今まで一緒に追っていた仲間をどうとも思わないのが新生物である。目の前で起こったブレス、はそうなんども吐けないだろうと考えたモツ好きは顔が張り付いたぬりかべと一緒に一歩前進する。
 次に見えた光景は首から上が、体が全て細切りになった。二者の死体であった。

「ーー『拡散』残った歯列矯正は…ああ、ドラゴンが食べてくれたのか」

『ふん…まあ、旨くはないが焼けば旨味は出てくるだろう。交通費だ』

「別に仕事終わりなのに、また仕事を増やすようなことはしないよ……っと、キミ大丈夫だった? まあ、反撃する考えでその『魔剣』を握った所を見るに大丈夫だろうけどね」

 そう言ってドラゴンの捕食シーンを背景に語りかけてくる女性(・・)。
 助けてくれたお礼や、前線で活躍する騎士にしか与えられない『竜騎士』や、同じ『魔剣』の使い手。様々な情報が入り混じるが…

「…香ばしい匂いですね」

 肉が焼けた、良い匂いが漂う事への感想である。脳内で魔剣さんが呆れながら何か言ってくるがシャットダウンである。朝から何も食べてないのに、今まで激しい戦闘をしてきたのだ。腹が減るのは当然の摂理である。

 腹の虫を聞かれながら、僕が言った言葉を咀嚼する竜騎士さん。どうやら理解がいったのかフフッ、と笑いが溢れた。

「なら、保護も兼ねて竜護舎に向かおうか。色々、キミの事も報告しないといけないからね」

 と、手を引かれ初めてのドラゴン乗馬体験である。ドラゴンの「本当に乗せるのか?」の言葉に焼かれた歯列矯正を思い出し、身震いするが竜護舎に着くまで食べられる事はなかった。
 ドラゴン曰く「人は焼いてもエグ味が強い」と言っていたので食べられる心配はそう無いだろう。感想が出ることに恐怖を覚えたが、まあ、些細な差である。

 落ちこぼれいじめられっ子から、ビバ竜護舎である。何階級昇進なんだろうね…? まあ、立場的に保護されたんだけど。

 でも、だが、竜護舎は迷子センターではないのだ。少なからず何かしらを期待しているんだろう、と思っている。『魔剣』も初見でバレたしね。隠さないといけない、って訳では無かったら別に良いのかもしれないけど…けど、魔剣さんの説明では危ないところもあったと思うけど…。

 まあ、腹が減っては戦は出来ぬ、である。竜騎士を警戒してか言葉数が減った魔剣さんを心配しながら竜騎士に連れられて豪快な建物に向かって行く。竜の首と、船と、槍が飾りとして突き刺さっている建物は豪快の何者でもない。
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