3 / 7
筋肉発達系美女はお好きですか?
しおりを挟む
「被告人前へ」
「え?」
ガチャ、と断頭台に手首を固定され、首を木の板で固定される。
「罪状を読み上げる…正式な許可なく危険区域に侵入し、無闇に新生物を刺激した『国家反逆罪』」
「国家反逆罪!?」
近くにいたロープを持つ人が生死のスイッチを握っていると思うと…とても、とても大変です。主に心持ちが。どうしてこんな大変な時なのに魔剣さんは魔剣なの!?
どうして貴方はロミオなの!? なテンションでどうして貴方は剣のままなの!? と、剣に当たり散らす。事情が分からなかったらタダのヤク中である。
事実無根である。
「…まあ、前線基地なので法律はほとんど無いがな!! ガハハ!! ゆっくりとしていくが良い! 若人よ!!」
バカ笑いしながら筋骨隆々な体を揺らし、去って行く竜護舎の団長ーー竜の扱いが一番上手いのに、AGMの扱いも上手な神が二物を与えた大大大有名人だ! その才能の片鱗でも僕に分けてくれれば…と、嘆く青年の矛先であり、少年少女の憧れの対象である。
実力もあってカッコいいのだもの。そりゃあ、人気あるよねって話。
ニュースでも新聞でも取り上げられているのを見た事がある。
実際はこんなに茶目っ気のある人だとは思わなかったけどね…。断頭台を持ち出して茶目ってって使わないと思うけど。この場では少数意見だけど、正義は僕にあると思います。
いきなり女竜騎士の人に連れられて、立たされたのは断頭台である。そんな裁判みたいなノリで死刑遂行しないでよ…と、思ったが冗談であったみたいで直ぐに重たい空気はなくなる。初対面で、見るからに子供な僕に対する仕打ち。とくダネ案件だけど、僕のした事はしっかりと国家反逆らしいのだ。考えれば一目瞭然である。
魔剣さんと出会ったのは新生物と人類が拮抗する前線基地であり、しっかりと一般人は入っちゃダメな所である。
被告人前へ、の前に何個か尋問みたいなのをされたが、その最中で大ウサギを狩った事や、『侵略』の新生物を倒した事が分かった為フランクな態度に変化したと言う。女竜騎士さん曰くであるが…まあ、理解はできる。急に現れた一般人が拮抗する前線壊したら国家滅亡の危機だもんね、ごめんなさい。
素直に謝罪の言葉が出てくるが…そう言えばの問題はいじめっ子にあるのだ。どうしていじめられっ子であり、被害者の僕が生死の境に立たされなきゃいけないのか。古今東西、知る者がいない唯一の謎である。力を身に付けちゃったから断頭しに行っちゃうぞ♡ と、乙女心が顔を出してしまう。国家反逆に人殺しである。一晩で犯罪者だね!
そんな訳で生死の境から脱した訳であるが…問題は本格的に変える手段がないという事である。
一応教育機関に通っている裏若き学人である。勉学に育む、将来を担う青年である。常識はしっかりと分かっているつもりである。常識を身に付け、社会貢献を目的とする機関なのにイジメがあるとは社会の縮図かな? そう思ってしまうが世は弱肉強食である。人類VS新生物の構図であるので、血の気が多い交戦的な人間の方が好まれるのは当然の摂理である。その意味では感謝を告げよう、黙祷。
僕の常識あふれる頭脳から導き出されるに前線基地は国家機密の宝庫である。マンボウが一回に産卵する卵の数よりも多い、は常識である。んで、そんな情報の宝庫に何も知らない一般生徒が侵入? しかも新生物を討伐した実績を持っている? 戦力にするしかないでしょって話。
つか、問題は女竜騎士さんなんだけどね。助けて貰ってなんだけど…。
ジト目で、僕に与えられた部屋に何故か居る女竜騎士さんを見る。流石に室内なのでフルフェイスのヘルムは外しているのでしっかりと視線が合う。
「そんな見つめられても私としても困るんだけど…確かに私が連れて来てしまったのが事の発端で、それは謝るけど…キミもキミで『イジメで前線まで送られました』って…保護したのがウチで良かったよ。いやほんと。これが『蒼龍山』とか『連合騎士団』だったら一発で斬首だよ?」
蒼龍山も連合騎士団も有名どころのクラン名である。
蒼龍山は独自に狩ったAGMを使用し、獅子奮迅の成果を挙げる武力派で知られ、年に一回『武力大闘技大会』を開き、有望な出場者を団員に加えるとの行事を行なっている。因みに教育機関の方に参加権が三枠与えられるので、毎年しのぎを削るミニチュア『武力大闘技大会』が行われているのだが…生憎関係ない話である。実力カスだしね、僕。
連合騎士団はその名の通り、連合を組んだ各国の騎士達の団である。
竜護舎や蒼龍山と違うのは国が主体って点であり、活動資金の額が二桁はぶっ飛んでいるって噂である。金に物を言わせた装備の品々、裕福な事からでる心の余裕などが合わさり相当に強い集団なんだと。様々な人種が集まっているので、婚活は入団して入った方が成功しやすいらしい。良いの、その入団理由…?
まあ、両者とも武力派手有名なクランである。もしそんな人達に出会ったら、完全に怪しさの塊である僕は死確定である。剣に首を突き刺され、天高く掲げられるだろう。悪魔じゃん、僕。
「確かにごもっともです…」
「命あっての人生だからね…まあ、団長の言う通りゆっくりしてくと良いよ。どうせ明日には前線に送られるんだし」
至極当たり前のように、今日の天気なんだっけ? のような気楽さで豪快に爆弾を落とす女竜騎士。改めメイさん(19)意外にも若いんだね…と思うが竜護舎は若き天才の集まりだと言う。最年少は十歳とか聞いた事あるけど本当なのかしら…?
瑞々しい、恋愛心真っ最中な大人と子供の狭間で葛藤する良い年頃のメイさんである、あるのだが爆弾発言をしたのには変わらない。可愛さで許されるのは愛玩動物だけであるのは周知の事実。猫が史上。次いでダックスフンド。
どうやらメイさんは活発運動系な人であるみたいで、日焼けした肌に、追い討ちをかけるような凛々しい表情。そして幼さが残る顔立ちでハテナを浮かべられるが…僕は男女平等主義である。いや、この状況に平等とか不平等とか関係ないんだけど。
まあ、武力行使で行ったら百、アイアンクローで脳髄をぶち撒けて墓にゴートゥーヘルである。何故死に先が地獄であるのか…。女の子を大事にしない者の末路である。それはそう。
…肌が焼けている=活発運動系は安易な考え方だったのか?
クソ程くだらない思考が脳内を支配するがメイさんは知らない所である。そりゃそうだ。妄想は個人に許された最後の自由だからね。だから僕は最後の自由で、思考の翼を広げて大空へ逃げるんだぁ…。
出会った当初より静かな…と言うより無言を貫いている魔剣さんを、剣の重みでしか感じられず、不信感が募るが…僕も未来を担う騎士の一人である落ちこぼれだけど。
どうして驚いてるの? と、そう言うメイさんにしっかりと質疑応答をする。
「えっと、僕は保護って扱いですよね…?」
「うん、そうだね」
「なのに明日いきなり前線に行く?」
「そうだね。雑魚な大ウサギもどきは置いといて、能力持ちの新生物を討伐したのは私も驚いたよー。もしかしてあの時私が加勢しなくても倒せてた?」
「その時は本当に助かりました…。ですけど、僕は非力でありまして…ほら、尋問の時『ネグリは落ちこぼれの生き恥だ』と言ってたじゃないですか。なので僕は言われた通りに恥の多い人生を謳歌したくて…」
「そんな事言われたの…? 尋問の件は私は知らないけど…でも、キミは魔剣の使い手なんでしょ? その立派な武器がキミの強さを表してるよ」
「強さ…ですか?」
魔剣さんも、メイさんも結構な魔剣推しだけど…いやね、確かに『付与』があった時は全能感でなんでもできるぜーって感じだったけど…でも、どこまで行っても人の域は出ないんだし、出来る事も限られてくるでしょ? 実際、一瞬で2体の新生物を焼き払い、抵抗虚しく焼き新生物を嗜んでいたドラゴンさんと戦えって言われても…うん。一秒も経たないで殺される自信あるよ? ブレスで焼身自殺確定だね。
結局は人対バケモノの構図なのだ。人は新生物みたいに腕は二本で限界だし、足は二本だ。脳みそは一つしかなく、関節の可動域も限られている。そんな制限ばっかの人間が、魔剣って武器を手にしただけで戦況がひっくり返ると? 現実は現状である。実際、今の人類対新生物は拮抗で保たれているのだ。
人も生物で進化する生き物である。だがそれは新生物も同じだ。同じかそれ以上か。それ未満かもしれないが…増殖を繰り返し、その度に個性を持って生まれるのだ。
ある時に暗算がアホ程出来る天才が生まれたとする、一方で新生物側では容易に人を殺せる化け物が生まれるのだ。等価交換どころではない。その強さの質量はどこから来てるの…? と、世界の神秘を知りたいまであるのだ。
ただ感情論で「無理でしょ」て言ってる訳じゃないのだ。確かにあの時は魔剣さんの口車に乗せられたけど…。
と、人の強さについて論文を脳内で展開していると…メイさんは一冊の本と、一人の妖精を連れて戻ってきた。
「…あれ? 魔剣さん性転換した? イメチェン?」
『…人の性をイメチェンってカテゴライズして欲しくないんだけど』
「居るなら居るって返事してくれれば良いのに…次会う時が天国か地獄だったかもしれないんだよ? 一応首繋がってるけど。…首繋がってるよね?」
『ええ繋がってるわ…って、貴方が死ぬのは勝手だけど私を巻き込まないでくれる?』
「刀身(・・)自殺ってね」
『…』
痛い! 小人サイズだけど地味にこめかみを腰の入ったストレートで殴られるから痛い!
久しぶりの魔剣さんとの再会に喜びを表し、世間話でもしようとお茶を入れようとするがメイさんに止められる。話は「キミの強さだ」と言って止められた。結構な握力で立ち上がらせないように肩を掴んでいるので強制である。そんな華奢な体の何処に筋肉があるんだ…と、本を取りに行く流れで普段着に着替えたのか、ずいぶんラフな格好になったメイさん。
随分可愛い格好であるが…半袖から出る両椀は凶暴そのものである。アイアンクローで脳髄飛沫は夢じゃないのか…。メイさんを積極的にレディーファーストしていこう。そう決めた。
本をテーブルの上に置き、あるページを開く。そこには『付与の魔剣』と絶妙に汚い文字で書かれた紹介文と、妙にイキイキとした魔剣さんの…
「いや、結構イメチェンしてるよね、これ」
例えるなら金髪のギャルである。都会の駅で逆ナンされ過ぎて男をお手玉のように扱える雰囲気が醸し出しているビッ…
『それ以上言うと貴方を女の子にするわよ?』
「ひぃい…」
どうやら心の中を読めるようで、って事は出会ってから今まで僕の心の中を覗き見ていたって訳ですね。キャー、センシティブ超能力者!! 将来は心が読める系としてテレビに引っ張りだこだね!
そんなよいしょとも言えないよいしょが効いたのか、去勢の話は流され、メイさんから説明が入る。
「本来は魔剣と契約した時に説明されるんだけどね…。キミの契約している剣の形状から『付与の魔剣』って思ったんだけど…その反応を見ると正解だね」
正解です。って、説明が入るのがデフォルトなんだ…なんか初対面では有無を言わせない強制力で契約させられたけど。
ジト目で魔剣さんを見る。本当の姿がバレたからなのか、妙に姿勢を崩したギャルがそこに居た。ヒェ…美少女の胡座は需要しかないけど…小人サイズである。ほぼ人形遊びと同義であるが…本に書かれた魔剣さんの絵は人並みである。気になる所である。耳をかっぽじる。
「…ルーツから話そうか。魔剣シリーズは合計で十三本あるんだって。製作者は不明、作成された時期も不明、でも能力はこんな感じで本に記載されている。そもそも魔剣の意味としては意識ある剣なんだけどこの子達って…」
『我は古から伝わる天使なり』
『過去だけどねー』
「…って事で過去があるの」
「天使ですか…」
見るからにアークエンジェル感半端ないメイさんの周りを浮遊する…確か『拡散』だっけ? 『拡散の魔剣』である彼を見て、天使なんだな~ってのは容易に想像できるけど、この魔剣さんは…。
『どこからどう見ても品行方正でしょうが』
「出会って1時間も経ってないはずなのに…」
ギャルである。まあ、でも、しっかりと見れば容姿は天使と言っても過言ではないほど整っている金髪美女であるし、着ている服も天使っぽい布である。ほぼ下着にパレオである。水着にパレオである。防水加工の有無じゃないか…。とは思うが心の持ちようである。それが下着と言われれば更衣室から出た彼女たちは変態であるし、それが水着と言われればそれは泳ぎに来た若者たちである。
そんな事を考えていると案の定こめかみを結構なハイキックを蓮撃で食いながら、続きを促す。
「良いのね…まあ、成り立ちはどうでも良いんだけどね」
「あ、どうでも良いんですか」
「うん。問題は能力だもん。私の魔剣は『拡散』で、まあ、最初に会った時に見せたけど能力は私の攻撃を拡散させるって感じのものなの。で、キミの能力は…」
薄汚い文字を必死に読むメイさん。整った顔を歪ませての解読である。製作者はどんな意図で本を記入したのか…美女の歪んだ顔が見たいって特殊性癖なら救いようはない。僕は普通の趣味嗜好してるし…。耳は性感帯だもんね?
特殊な身体的要素であるが…まあ、長い耳を持っている僕である。凍傷だけは気を付けないといけなんだぜ? これ。冬場は痛くて痛くて…。
解読待ちの中、空中戦を繰り広げる二者の魔剣さんを見る。どうやらうちの魔剣さんの方が実力は上のようで、拡散する攻撃を華麗に避けながらペシペシとジャブを打っている。ジャブで鳩尾を狙ったらそれはもう、ジャブの威力じゃないんだよな…。と、実体験を元に観察していると、解読が終わってスッキリした表情になったメイさんが顔を上げた。近くで繰り広げられる空中戦に驚きながら説明に入る。
「キミの魔剣は『付与』で、相手の血肉を得る度に『付与』を使い手に与えるって効果ね。……説明文の最後に「彼女は目立ちたがり屋である。真の姿は彼女そのものである」ってあるけど…『付与の魔剣』の挿絵が全て女性ってのは関係するのかな?」
片面が『付与の魔剣』の説明文であるので所々に空白を埋めるようにして挿絵が載っている。そのどれもが女性であるとメイさんは言うが…本当である。関係するって言っても魔剣さんの性別が女性ってのが原因じゃないんですか? メイさんの魔剣さんは男性ですし…。
と思ってしっかりと見てみるとーー
「よく見るとそれ、全部魔剣さんっぽいですね。ほら、こことかこことか特徴が凄く…」
短髪な魔剣さん、下ろした髪の魔剣さん、内側に巻いているボブカットの魔剣さん、刈り込みが目立つ魔剣さん…と、そのどれもが魔剣さんのイメチェンイラストであるのだ。この部分だけ見ると説明じゃなくてヘアイラストってイメージが強いんだけど…そこの所はどうなんですか、魔剣さん?
『…真の姿だし、はっちゃけても良いかなって。べ、別に良いでしょ!? 私だって女の子だし! 剣じゃないし! あと妖精じゃないし!』
「…妖精?」
「ああ、こっちの話ですのでどうぞお気になさらずに」
必死に女の子らしさをアピールする魔剣さんであるが…残念。魔剣さんは魔剣さんであるのだ。普通の女の子は剣に変身できないし、心も読めない。ついでに真の姿って言う第二形態も女の子は持ってない。イメチェンはあるがメタモルフォーゼは無しである。第二形態が許されるのは魔王とか、ボスだけなのよ…。残念ながら現代にいるのは魔王ではなく新生物であるが。まあ、似たようなものである。
そんな魔剣さんの結構遅れの自己紹介場面であるが、自己紹介だけである。僕が前線に行くのに納得する部分が一つもなかった訳である。唯一分かったのは魔剣さんはギャルで、コスプレ好きって点である。イメチェンでメイド服も、ナース服も着ないでしょ…それはイメチェンじゃなくてキャラチェンだって。
不満たらたらにアークエンジェルさんーー通称、拡散さんに入れてもらった紅茶を飲みながら現実の満たされ具合におっかなびっくりする。
一日前は周りの同年台の子に石を投げられ、暴言を吐かれ、女子トイレに押し込められたりしていたのだ。そんな未来を担う騎士を要請する機関とは思えない仕打ちだったが…今はどうだ。何故か前線に連れて行かれ、死と生の境界で反復横跳びしろと実質言われている事を除けば美女と、小人二人との夢のような空間である。薬物でもヤっているのか? と、そう思わざる終えないハッピーな空間であるが現実である。ついでにほぼ死刑宣告も事実である。
まあ、どうせ団長さんってやらに「向かうぞ」とか言われたら全力で謙りながらついていくだろうな、と容易に想像できる。長い物に巻かれろ、強者に絶対服従。ダックスフンドのような自身の性格をしっかりと理解した上で戦地へ向かう前の、至福と時を堪能する。どうしてメイさんが一緒の部屋にいるのか疑問だったけどそんな意図があったのか…ほぼ、死刑遂行する前の死刑囚じゃん、扱いが。
因みに絶対服従の例でダックスフンドを例に挙げたのは意味はないです。無理やり意味を付けるならダックスフンドが好きなんで、僕。
しっかりと腰が入り、力の乗ったアッパーを、ストレートを、パンチの数々を放ち、コンボを繋げている格闘ゲームの住人な二人を視界に収めながら、メイさんの朗読と一緒に文字を追いかける。
「『とても気分屋だが能力自体はとても強く、生前を思い出すものがある。真価を発揮する時は魔剣よりも自由が効かないが、効かないゆえに強力である。基本的にゲットしたなら確保が安定。支配系統の新生物にも有効であり、終盤まで力を発揮する強力な魔剣である。良き相棒になるだろう』……ああ、支配系統は新生物の最上位の系統の事ね。能力持ちをも支配し、使役するから相当に強いんだよ。うちの団長さんでも一人で討伐するのに苦戦したって言ってたし」
「…」
微妙に団長さんがレベちな実力者である事が挙げられたが…問題はそこではない。説明文である。何々…『支配系統の新生物にも有効であり、終盤まで力を発揮する強力な魔剣である。良き相棒になるだろう』だって?
よし、
「メイさん、今すぐにでも前線に行きましょう。今、この一瞬でも新生物に脅かされている罪なき人たちが嘆き、悲しんでいるんです。その為に僕たちが立ち上がらなくては誰が立ち上がるんですか」
「随分都合の良い口だね…」
メイさんに呆れらているが…コラテカルダメージである。特に問題はない。問題は『付与の魔剣』が終盤まで有益な武器であると…って、終盤ってどこのこと言ってるんだ…?
微妙に核心に迫る一文に心が惹かれる思いであるが…扉がガチャリと開き、最近見た記憶に新しい顔が出てくる。
「気兼ね良し!! だが作戦は明日である!! 今日の休息は明日の活力!! 明日に備えてしっかりと睡眠を取るように! もう夜も遅しな!! ガハハ!!!!」
団長さんの元気の良い声が決して狭くはない部屋に響き、反響し、扉が閉じた。び、びっくりした…。首だけ出していたのでぱっと見は浮遊する生首であった。結構ガタイいいし、身長高いからね。高さ順に僕<メイさん<<<団長さんである。2メートル優に超えてるよねあの人…。
再開した事で首に嫌な感触を思い出させるが…窓を見る。団長さんの言う通り夜も遅く、部屋から溢れる照明で蛾が集まっている様子が見えた。結構デカめである。手のひらは優にあるだろう。
団長さんの鶴の一声…ではないが、就寝を告げる元気の良い言葉によって解散となった。同じ部屋で一緒に寝る、とそんな考えがあったが残念。竜護舎は結構広い建物である。だって竜も槍も船も突き刺さる程の大きさである。男女別々妥当だよね、と再確認しながら手を振る。
「じゃあ、また明日。キミの勇姿が待ち遠しいよ」
「明日、僕の『付与』が火を噴くんで見ていてくださいっ!」
『私は火を吹かないし、ネグリも火を出せないだろ?』
小人の形態になっているので普通に声がメイさんにまで届く。うっさいなぁ、もう! 比喩表現なんだからなんでも良いでしょ! 火も、血も、返り血も同じようなもんだって。
『同じではないけど…。でも、自分の実力を認めるのは大事な事だよ! 私の実力が大部分を占めてるけどね!!』
魔剣さんも明日が楽しみなのかテンションが上げっているようで、一人、ベットで永遠とゴロゴロしている。距離があってメイさんには聞こえてないようだったが…契約者である僕にはガツンと脳内に響くようにして聞こえる。毎発言直接脳内に語りかけてくる系だ。ほぼ以心伝心である。一方通行だけどね。
「おやすみなさい」
「おやすみです」
元気に手を振り終わり、静寂が部屋に訪れる。魔剣さんは脳内に語り掛ける系にシフトしたのか聞こえるのは僕の独り言だけである。妙にイヤらしい話しかけ方…! 誰かに見られてたら変な人だと思われるじゃないか!!
『…私から見ると十分貴方の方が変な人だけどな』
「口に出して言っていないからセーフで。…怒涛の一日だったけど、良い日だったよ魔剣さん。明日は晴れると良いね」
『そう思って貰えたら嬉しいわ。明日はもっと、明後日はより輝けるような日になると良いわね。…そして行く末は私に集まる全国民からの支持の声!! 集まる期待の視線、身分差の好模様!! ああ、そんな言葉を掛けたってあたしは魔剣、叶わぬ恋なんだぜ…』
シンクロ率、と言って良いのか。
魔剣さんとの繋がりが深まっていっているのか脳内妄想がダイレクトに届き、深層心理を見させられる。若干そのケがあったけど魔剣さんって全然清楚系じゃなかったね。出会いの時の、清楚系な金髪女性は何処へ…。
妙に未来への期待で心が煮立っているのか、今日の会話はそれで終了し、照明を消してベットインである。風呂とか…って、そう言えば食事…と急展開で滅入り、自己表現を忘れた空腹に愛情を、との考えで出た所の自販機でコンポタを買いました。77777で当たったのでお汁粉缶も買いました。冷えた夜に、よく染みる味でした…。
「え?」
ガチャ、と断頭台に手首を固定され、首を木の板で固定される。
「罪状を読み上げる…正式な許可なく危険区域に侵入し、無闇に新生物を刺激した『国家反逆罪』」
「国家反逆罪!?」
近くにいたロープを持つ人が生死のスイッチを握っていると思うと…とても、とても大変です。主に心持ちが。どうしてこんな大変な時なのに魔剣さんは魔剣なの!?
どうして貴方はロミオなの!? なテンションでどうして貴方は剣のままなの!? と、剣に当たり散らす。事情が分からなかったらタダのヤク中である。
事実無根である。
「…まあ、前線基地なので法律はほとんど無いがな!! ガハハ!! ゆっくりとしていくが良い! 若人よ!!」
バカ笑いしながら筋骨隆々な体を揺らし、去って行く竜護舎の団長ーー竜の扱いが一番上手いのに、AGMの扱いも上手な神が二物を与えた大大大有名人だ! その才能の片鱗でも僕に分けてくれれば…と、嘆く青年の矛先であり、少年少女の憧れの対象である。
実力もあってカッコいいのだもの。そりゃあ、人気あるよねって話。
ニュースでも新聞でも取り上げられているのを見た事がある。
実際はこんなに茶目っ気のある人だとは思わなかったけどね…。断頭台を持ち出して茶目ってって使わないと思うけど。この場では少数意見だけど、正義は僕にあると思います。
いきなり女竜騎士の人に連れられて、立たされたのは断頭台である。そんな裁判みたいなノリで死刑遂行しないでよ…と、思ったが冗談であったみたいで直ぐに重たい空気はなくなる。初対面で、見るからに子供な僕に対する仕打ち。とくダネ案件だけど、僕のした事はしっかりと国家反逆らしいのだ。考えれば一目瞭然である。
魔剣さんと出会ったのは新生物と人類が拮抗する前線基地であり、しっかりと一般人は入っちゃダメな所である。
被告人前へ、の前に何個か尋問みたいなのをされたが、その最中で大ウサギを狩った事や、『侵略』の新生物を倒した事が分かった為フランクな態度に変化したと言う。女竜騎士さん曰くであるが…まあ、理解はできる。急に現れた一般人が拮抗する前線壊したら国家滅亡の危機だもんね、ごめんなさい。
素直に謝罪の言葉が出てくるが…そう言えばの問題はいじめっ子にあるのだ。どうしていじめられっ子であり、被害者の僕が生死の境に立たされなきゃいけないのか。古今東西、知る者がいない唯一の謎である。力を身に付けちゃったから断頭しに行っちゃうぞ♡ と、乙女心が顔を出してしまう。国家反逆に人殺しである。一晩で犯罪者だね!
そんな訳で生死の境から脱した訳であるが…問題は本格的に変える手段がないという事である。
一応教育機関に通っている裏若き学人である。勉学に育む、将来を担う青年である。常識はしっかりと分かっているつもりである。常識を身に付け、社会貢献を目的とする機関なのにイジメがあるとは社会の縮図かな? そう思ってしまうが世は弱肉強食である。人類VS新生物の構図であるので、血の気が多い交戦的な人間の方が好まれるのは当然の摂理である。その意味では感謝を告げよう、黙祷。
僕の常識あふれる頭脳から導き出されるに前線基地は国家機密の宝庫である。マンボウが一回に産卵する卵の数よりも多い、は常識である。んで、そんな情報の宝庫に何も知らない一般生徒が侵入? しかも新生物を討伐した実績を持っている? 戦力にするしかないでしょって話。
つか、問題は女竜騎士さんなんだけどね。助けて貰ってなんだけど…。
ジト目で、僕に与えられた部屋に何故か居る女竜騎士さんを見る。流石に室内なのでフルフェイスのヘルムは外しているのでしっかりと視線が合う。
「そんな見つめられても私としても困るんだけど…確かに私が連れて来てしまったのが事の発端で、それは謝るけど…キミもキミで『イジメで前線まで送られました』って…保護したのがウチで良かったよ。いやほんと。これが『蒼龍山』とか『連合騎士団』だったら一発で斬首だよ?」
蒼龍山も連合騎士団も有名どころのクラン名である。
蒼龍山は独自に狩ったAGMを使用し、獅子奮迅の成果を挙げる武力派で知られ、年に一回『武力大闘技大会』を開き、有望な出場者を団員に加えるとの行事を行なっている。因みに教育機関の方に参加権が三枠与えられるので、毎年しのぎを削るミニチュア『武力大闘技大会』が行われているのだが…生憎関係ない話である。実力カスだしね、僕。
連合騎士団はその名の通り、連合を組んだ各国の騎士達の団である。
竜護舎や蒼龍山と違うのは国が主体って点であり、活動資金の額が二桁はぶっ飛んでいるって噂である。金に物を言わせた装備の品々、裕福な事からでる心の余裕などが合わさり相当に強い集団なんだと。様々な人種が集まっているので、婚活は入団して入った方が成功しやすいらしい。良いの、その入団理由…?
まあ、両者とも武力派手有名なクランである。もしそんな人達に出会ったら、完全に怪しさの塊である僕は死確定である。剣に首を突き刺され、天高く掲げられるだろう。悪魔じゃん、僕。
「確かにごもっともです…」
「命あっての人生だからね…まあ、団長の言う通りゆっくりしてくと良いよ。どうせ明日には前線に送られるんだし」
至極当たり前のように、今日の天気なんだっけ? のような気楽さで豪快に爆弾を落とす女竜騎士。改めメイさん(19)意外にも若いんだね…と思うが竜護舎は若き天才の集まりだと言う。最年少は十歳とか聞いた事あるけど本当なのかしら…?
瑞々しい、恋愛心真っ最中な大人と子供の狭間で葛藤する良い年頃のメイさんである、あるのだが爆弾発言をしたのには変わらない。可愛さで許されるのは愛玩動物だけであるのは周知の事実。猫が史上。次いでダックスフンド。
どうやらメイさんは活発運動系な人であるみたいで、日焼けした肌に、追い討ちをかけるような凛々しい表情。そして幼さが残る顔立ちでハテナを浮かべられるが…僕は男女平等主義である。いや、この状況に平等とか不平等とか関係ないんだけど。
まあ、武力行使で行ったら百、アイアンクローで脳髄をぶち撒けて墓にゴートゥーヘルである。何故死に先が地獄であるのか…。女の子を大事にしない者の末路である。それはそう。
…肌が焼けている=活発運動系は安易な考え方だったのか?
クソ程くだらない思考が脳内を支配するがメイさんは知らない所である。そりゃそうだ。妄想は個人に許された最後の自由だからね。だから僕は最後の自由で、思考の翼を広げて大空へ逃げるんだぁ…。
出会った当初より静かな…と言うより無言を貫いている魔剣さんを、剣の重みでしか感じられず、不信感が募るが…僕も未来を担う騎士の一人である落ちこぼれだけど。
どうして驚いてるの? と、そう言うメイさんにしっかりと質疑応答をする。
「えっと、僕は保護って扱いですよね…?」
「うん、そうだね」
「なのに明日いきなり前線に行く?」
「そうだね。雑魚な大ウサギもどきは置いといて、能力持ちの新生物を討伐したのは私も驚いたよー。もしかしてあの時私が加勢しなくても倒せてた?」
「その時は本当に助かりました…。ですけど、僕は非力でありまして…ほら、尋問の時『ネグリは落ちこぼれの生き恥だ』と言ってたじゃないですか。なので僕は言われた通りに恥の多い人生を謳歌したくて…」
「そんな事言われたの…? 尋問の件は私は知らないけど…でも、キミは魔剣の使い手なんでしょ? その立派な武器がキミの強さを表してるよ」
「強さ…ですか?」
魔剣さんも、メイさんも結構な魔剣推しだけど…いやね、確かに『付与』があった時は全能感でなんでもできるぜーって感じだったけど…でも、どこまで行っても人の域は出ないんだし、出来る事も限られてくるでしょ? 実際、一瞬で2体の新生物を焼き払い、抵抗虚しく焼き新生物を嗜んでいたドラゴンさんと戦えって言われても…うん。一秒も経たないで殺される自信あるよ? ブレスで焼身自殺確定だね。
結局は人対バケモノの構図なのだ。人は新生物みたいに腕は二本で限界だし、足は二本だ。脳みそは一つしかなく、関節の可動域も限られている。そんな制限ばっかの人間が、魔剣って武器を手にしただけで戦況がひっくり返ると? 現実は現状である。実際、今の人類対新生物は拮抗で保たれているのだ。
人も生物で進化する生き物である。だがそれは新生物も同じだ。同じかそれ以上か。それ未満かもしれないが…増殖を繰り返し、その度に個性を持って生まれるのだ。
ある時に暗算がアホ程出来る天才が生まれたとする、一方で新生物側では容易に人を殺せる化け物が生まれるのだ。等価交換どころではない。その強さの質量はどこから来てるの…? と、世界の神秘を知りたいまであるのだ。
ただ感情論で「無理でしょ」て言ってる訳じゃないのだ。確かにあの時は魔剣さんの口車に乗せられたけど…。
と、人の強さについて論文を脳内で展開していると…メイさんは一冊の本と、一人の妖精を連れて戻ってきた。
「…あれ? 魔剣さん性転換した? イメチェン?」
『…人の性をイメチェンってカテゴライズして欲しくないんだけど』
「居るなら居るって返事してくれれば良いのに…次会う時が天国か地獄だったかもしれないんだよ? 一応首繋がってるけど。…首繋がってるよね?」
『ええ繋がってるわ…って、貴方が死ぬのは勝手だけど私を巻き込まないでくれる?』
「刀身(・・)自殺ってね」
『…』
痛い! 小人サイズだけど地味にこめかみを腰の入ったストレートで殴られるから痛い!
久しぶりの魔剣さんとの再会に喜びを表し、世間話でもしようとお茶を入れようとするがメイさんに止められる。話は「キミの強さだ」と言って止められた。結構な握力で立ち上がらせないように肩を掴んでいるので強制である。そんな華奢な体の何処に筋肉があるんだ…と、本を取りに行く流れで普段着に着替えたのか、ずいぶんラフな格好になったメイさん。
随分可愛い格好であるが…半袖から出る両椀は凶暴そのものである。アイアンクローで脳髄飛沫は夢じゃないのか…。メイさんを積極的にレディーファーストしていこう。そう決めた。
本をテーブルの上に置き、あるページを開く。そこには『付与の魔剣』と絶妙に汚い文字で書かれた紹介文と、妙にイキイキとした魔剣さんの…
「いや、結構イメチェンしてるよね、これ」
例えるなら金髪のギャルである。都会の駅で逆ナンされ過ぎて男をお手玉のように扱える雰囲気が醸し出しているビッ…
『それ以上言うと貴方を女の子にするわよ?』
「ひぃい…」
どうやら心の中を読めるようで、って事は出会ってから今まで僕の心の中を覗き見ていたって訳ですね。キャー、センシティブ超能力者!! 将来は心が読める系としてテレビに引っ張りだこだね!
そんなよいしょとも言えないよいしょが効いたのか、去勢の話は流され、メイさんから説明が入る。
「本来は魔剣と契約した時に説明されるんだけどね…。キミの契約している剣の形状から『付与の魔剣』って思ったんだけど…その反応を見ると正解だね」
正解です。って、説明が入るのがデフォルトなんだ…なんか初対面では有無を言わせない強制力で契約させられたけど。
ジト目で魔剣さんを見る。本当の姿がバレたからなのか、妙に姿勢を崩したギャルがそこに居た。ヒェ…美少女の胡座は需要しかないけど…小人サイズである。ほぼ人形遊びと同義であるが…本に書かれた魔剣さんの絵は人並みである。気になる所である。耳をかっぽじる。
「…ルーツから話そうか。魔剣シリーズは合計で十三本あるんだって。製作者は不明、作成された時期も不明、でも能力はこんな感じで本に記載されている。そもそも魔剣の意味としては意識ある剣なんだけどこの子達って…」
『我は古から伝わる天使なり』
『過去だけどねー』
「…って事で過去があるの」
「天使ですか…」
見るからにアークエンジェル感半端ないメイさんの周りを浮遊する…確か『拡散』だっけ? 『拡散の魔剣』である彼を見て、天使なんだな~ってのは容易に想像できるけど、この魔剣さんは…。
『どこからどう見ても品行方正でしょうが』
「出会って1時間も経ってないはずなのに…」
ギャルである。まあ、でも、しっかりと見れば容姿は天使と言っても過言ではないほど整っている金髪美女であるし、着ている服も天使っぽい布である。ほぼ下着にパレオである。水着にパレオである。防水加工の有無じゃないか…。とは思うが心の持ちようである。それが下着と言われれば更衣室から出た彼女たちは変態であるし、それが水着と言われればそれは泳ぎに来た若者たちである。
そんな事を考えていると案の定こめかみを結構なハイキックを蓮撃で食いながら、続きを促す。
「良いのね…まあ、成り立ちはどうでも良いんだけどね」
「あ、どうでも良いんですか」
「うん。問題は能力だもん。私の魔剣は『拡散』で、まあ、最初に会った時に見せたけど能力は私の攻撃を拡散させるって感じのものなの。で、キミの能力は…」
薄汚い文字を必死に読むメイさん。整った顔を歪ませての解読である。製作者はどんな意図で本を記入したのか…美女の歪んだ顔が見たいって特殊性癖なら救いようはない。僕は普通の趣味嗜好してるし…。耳は性感帯だもんね?
特殊な身体的要素であるが…まあ、長い耳を持っている僕である。凍傷だけは気を付けないといけなんだぜ? これ。冬場は痛くて痛くて…。
解読待ちの中、空中戦を繰り広げる二者の魔剣さんを見る。どうやらうちの魔剣さんの方が実力は上のようで、拡散する攻撃を華麗に避けながらペシペシとジャブを打っている。ジャブで鳩尾を狙ったらそれはもう、ジャブの威力じゃないんだよな…。と、実体験を元に観察していると、解読が終わってスッキリした表情になったメイさんが顔を上げた。近くで繰り広げられる空中戦に驚きながら説明に入る。
「キミの魔剣は『付与』で、相手の血肉を得る度に『付与』を使い手に与えるって効果ね。……説明文の最後に「彼女は目立ちたがり屋である。真の姿は彼女そのものである」ってあるけど…『付与の魔剣』の挿絵が全て女性ってのは関係するのかな?」
片面が『付与の魔剣』の説明文であるので所々に空白を埋めるようにして挿絵が載っている。そのどれもが女性であるとメイさんは言うが…本当である。関係するって言っても魔剣さんの性別が女性ってのが原因じゃないんですか? メイさんの魔剣さんは男性ですし…。
と思ってしっかりと見てみるとーー
「よく見るとそれ、全部魔剣さんっぽいですね。ほら、こことかこことか特徴が凄く…」
短髪な魔剣さん、下ろした髪の魔剣さん、内側に巻いているボブカットの魔剣さん、刈り込みが目立つ魔剣さん…と、そのどれもが魔剣さんのイメチェンイラストであるのだ。この部分だけ見ると説明じゃなくてヘアイラストってイメージが強いんだけど…そこの所はどうなんですか、魔剣さん?
『…真の姿だし、はっちゃけても良いかなって。べ、別に良いでしょ!? 私だって女の子だし! 剣じゃないし! あと妖精じゃないし!』
「…妖精?」
「ああ、こっちの話ですのでどうぞお気になさらずに」
必死に女の子らしさをアピールする魔剣さんであるが…残念。魔剣さんは魔剣さんであるのだ。普通の女の子は剣に変身できないし、心も読めない。ついでに真の姿って言う第二形態も女の子は持ってない。イメチェンはあるがメタモルフォーゼは無しである。第二形態が許されるのは魔王とか、ボスだけなのよ…。残念ながら現代にいるのは魔王ではなく新生物であるが。まあ、似たようなものである。
そんな魔剣さんの結構遅れの自己紹介場面であるが、自己紹介だけである。僕が前線に行くのに納得する部分が一つもなかった訳である。唯一分かったのは魔剣さんはギャルで、コスプレ好きって点である。イメチェンでメイド服も、ナース服も着ないでしょ…それはイメチェンじゃなくてキャラチェンだって。
不満たらたらにアークエンジェルさんーー通称、拡散さんに入れてもらった紅茶を飲みながら現実の満たされ具合におっかなびっくりする。
一日前は周りの同年台の子に石を投げられ、暴言を吐かれ、女子トイレに押し込められたりしていたのだ。そんな未来を担う騎士を要請する機関とは思えない仕打ちだったが…今はどうだ。何故か前線に連れて行かれ、死と生の境界で反復横跳びしろと実質言われている事を除けば美女と、小人二人との夢のような空間である。薬物でもヤっているのか? と、そう思わざる終えないハッピーな空間であるが現実である。ついでにほぼ死刑宣告も事実である。
まあ、どうせ団長さんってやらに「向かうぞ」とか言われたら全力で謙りながらついていくだろうな、と容易に想像できる。長い物に巻かれろ、強者に絶対服従。ダックスフンドのような自身の性格をしっかりと理解した上で戦地へ向かう前の、至福と時を堪能する。どうしてメイさんが一緒の部屋にいるのか疑問だったけどそんな意図があったのか…ほぼ、死刑遂行する前の死刑囚じゃん、扱いが。
因みに絶対服従の例でダックスフンドを例に挙げたのは意味はないです。無理やり意味を付けるならダックスフンドが好きなんで、僕。
しっかりと腰が入り、力の乗ったアッパーを、ストレートを、パンチの数々を放ち、コンボを繋げている格闘ゲームの住人な二人を視界に収めながら、メイさんの朗読と一緒に文字を追いかける。
「『とても気分屋だが能力自体はとても強く、生前を思い出すものがある。真価を発揮する時は魔剣よりも自由が効かないが、効かないゆえに強力である。基本的にゲットしたなら確保が安定。支配系統の新生物にも有効であり、終盤まで力を発揮する強力な魔剣である。良き相棒になるだろう』……ああ、支配系統は新生物の最上位の系統の事ね。能力持ちをも支配し、使役するから相当に強いんだよ。うちの団長さんでも一人で討伐するのに苦戦したって言ってたし」
「…」
微妙に団長さんがレベちな実力者である事が挙げられたが…問題はそこではない。説明文である。何々…『支配系統の新生物にも有効であり、終盤まで力を発揮する強力な魔剣である。良き相棒になるだろう』だって?
よし、
「メイさん、今すぐにでも前線に行きましょう。今、この一瞬でも新生物に脅かされている罪なき人たちが嘆き、悲しんでいるんです。その為に僕たちが立ち上がらなくては誰が立ち上がるんですか」
「随分都合の良い口だね…」
メイさんに呆れらているが…コラテカルダメージである。特に問題はない。問題は『付与の魔剣』が終盤まで有益な武器であると…って、終盤ってどこのこと言ってるんだ…?
微妙に核心に迫る一文に心が惹かれる思いであるが…扉がガチャリと開き、最近見た記憶に新しい顔が出てくる。
「気兼ね良し!! だが作戦は明日である!! 今日の休息は明日の活力!! 明日に備えてしっかりと睡眠を取るように! もう夜も遅しな!! ガハハ!!!!」
団長さんの元気の良い声が決して狭くはない部屋に響き、反響し、扉が閉じた。び、びっくりした…。首だけ出していたのでぱっと見は浮遊する生首であった。結構ガタイいいし、身長高いからね。高さ順に僕<メイさん<<<団長さんである。2メートル優に超えてるよねあの人…。
再開した事で首に嫌な感触を思い出させるが…窓を見る。団長さんの言う通り夜も遅く、部屋から溢れる照明で蛾が集まっている様子が見えた。結構デカめである。手のひらは優にあるだろう。
団長さんの鶴の一声…ではないが、就寝を告げる元気の良い言葉によって解散となった。同じ部屋で一緒に寝る、とそんな考えがあったが残念。竜護舎は結構広い建物である。だって竜も槍も船も突き刺さる程の大きさである。男女別々妥当だよね、と再確認しながら手を振る。
「じゃあ、また明日。キミの勇姿が待ち遠しいよ」
「明日、僕の『付与』が火を噴くんで見ていてくださいっ!」
『私は火を吹かないし、ネグリも火を出せないだろ?』
小人の形態になっているので普通に声がメイさんにまで届く。うっさいなぁ、もう! 比喩表現なんだからなんでも良いでしょ! 火も、血も、返り血も同じようなもんだって。
『同じではないけど…。でも、自分の実力を認めるのは大事な事だよ! 私の実力が大部分を占めてるけどね!!』
魔剣さんも明日が楽しみなのかテンションが上げっているようで、一人、ベットで永遠とゴロゴロしている。距離があってメイさんには聞こえてないようだったが…契約者である僕にはガツンと脳内に響くようにして聞こえる。毎発言直接脳内に語りかけてくる系だ。ほぼ以心伝心である。一方通行だけどね。
「おやすみなさい」
「おやすみです」
元気に手を振り終わり、静寂が部屋に訪れる。魔剣さんは脳内に語り掛ける系にシフトしたのか聞こえるのは僕の独り言だけである。妙にイヤらしい話しかけ方…! 誰かに見られてたら変な人だと思われるじゃないか!!
『…私から見ると十分貴方の方が変な人だけどな』
「口に出して言っていないからセーフで。…怒涛の一日だったけど、良い日だったよ魔剣さん。明日は晴れると良いね」
『そう思って貰えたら嬉しいわ。明日はもっと、明後日はより輝けるような日になると良いわね。…そして行く末は私に集まる全国民からの支持の声!! 集まる期待の視線、身分差の好模様!! ああ、そんな言葉を掛けたってあたしは魔剣、叶わぬ恋なんだぜ…』
シンクロ率、と言って良いのか。
魔剣さんとの繋がりが深まっていっているのか脳内妄想がダイレクトに届き、深層心理を見させられる。若干そのケがあったけど魔剣さんって全然清楚系じゃなかったね。出会いの時の、清楚系な金髪女性は何処へ…。
妙に未来への期待で心が煮立っているのか、今日の会話はそれで終了し、照明を消してベットインである。風呂とか…って、そう言えば食事…と急展開で滅入り、自己表現を忘れた空腹に愛情を、との考えで出た所の自販機でコンポタを買いました。77777で当たったのでお汁粉缶も買いました。冷えた夜に、よく染みる味でした…。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる