ネグリと付与の魔剣

椎木唯

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風船みたいな相手

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 食卓に並べられた豪勢な食事の数々。既にテーブルの上に乗り切らず、団長さんが掃除機のように皿の上の食事を無くす事によって瞬く間に食事の種類が変わっていっている。洋食、和食、中華。そして見た事がない創作料理の数々。これが天国か、桃源郷か、酒池肉林か!! そう思わせるに十分すぎる幸せが目前に揃っていた。

 竜護舎の食堂に団長さん、メイさん、僕。と、圧倒的な広さを誇る場所であるのに対して三人と少数編成であるが、朝食との戦いは熾烈を極めた。主に団長さんの快進撃が物凄い。2メートル越えの巨体に、筋骨隆々なその体。日焼けではないその黒い肌に、戦いでは必要ないと切って捨てる坊主頭。男なら憧れる漢の姿がそこにはあった!!

「どうした? ボケッとしてるとネグリの分が無くなってしまうぞ。ワシが全て食べ切ってしまうからなッ!! ガハハ!!」

 豪快に笑いながら流し込むように自身の顔以上の大きさの大皿を平らげる。豪快だ。

 朝からそんなテンションなのね…と、若干疲弊するが、メイさんの反応は無そのものであり、団長さんの扱いがすぐに分かった。たまに遊びにくる子供好きなおじちゃんって感じ。その対処が分かっているお姉ちゃんって感じだ。成人しているとは言え、前線で活躍している騎士なのだメイさんは。肝が据わっている…!
 若干、団長さんにテンションが飲み込まれそうになるが気を取り戻し、目の前にある大皿からオードブルのように自身の皿に取り寄せる。どれもが美味しそうで、魅力あふれるものである。だがしかし、朝からしっかりと動けるように色彩豊かで、栄養バランス完璧である。団長さんはそんなの関係なしに流し込んでいるので…ある意味健康的なのか?

 まあ、燃費が悪いのだろう。

 そんな認識で終了し、食事を済ませる。片付け終わった食堂で…と言っても大聖堂のような場所だが。その場所で団長さんが凛々しい表情になって今回の説明を始める。姿勢を正す。向かいにメイさんが座っているので、張った胸が強調されて魅力が天井突破しているのが視界に映るが…一騎当千である。手を出そうものなら『拡散』の魔剣で木っ端微塵確定だろう。遺骨は流石に残してもらいたいものである。

 生憎、同じ竜護舎の団員であるのでそんな事にはならないと思うが…気を引き締める。生死に関わる美人局、そんな認識に変更する。それ現代に現れていいの? 的な美貌を持っているのがメイさんである。一緒の空間で、一緒の空気を吸えている事に感謝を。アーメン…。

 まあ、死期を早めたくないのですぐに視界に映らないように顔を移動する。上座に座っている団長さんに向ける。

「作戦は『ネグリ君強化計画一日目!』である」

「…へ?」

 何そのポップな作戦名。強化合宿的なサムシングを感じるんだけど…どうやら本気である。団長さんの表情に曇りが一つもなかった。
 咳払いを一つ入れ、作戦の意図を説明し始める。

「まず一つ目としてネグリの実力を測りたい。『侵略』の新生物を押し退けたとはいえ、相手は末端だ。まだ本体は居る。ウサギモドキも討伐していたが…あれだけではピクニックと何ら変わりはない。ワシなんかデコピンで倒せる自信があるぞ」

「…リアリィ?」

「本当だよー」

 『侵略』がまだ末端とか、本体はまだ居るとか。色々と気になる点はあるけど…まあ、相手は新生物である。人の常識外の生き物であるのでこの場においてはそこまで重要な点ではないだろう。デコピンで倒せる発言の方がよっぽど興味を唆られるし、気になる。もう、団長さんが新生物何じゃね? と、核心についた閃きが飛び出てくる。
 イケメンで、強くて、新生物って役満である。点数は何点だろうね。

 一つ目、との事があり、二つ目を待っていると…出発の為、着替えてくるようにと竜護舎の制服である、青を基調とした服が渡される。

「あれ、説明は…」

 戸惑いを隠せない僕を置いて、団長さんは声高々に宣言する。

「目標はただ一つ! 生きて帰ってこい、以上だ!! 健闘を祈る!!!」

 と、そう言って背を向けて食堂から去って行く。その後ろ姿はとても大きく、偉大で迫力を感じるものがあったが…まあ、細かい事は気にしたら負けだろう。そんなぐちぐち言っていると団長さんみたいに禿げるぞ! ってな! ガハハ。

『…聞かれてたら首が飛んでるわね』

「…マジ?」

『デリケートな話なんだから…女の子に「あれ、今日テンション低いね? 生理?」って聞くようなものよ』

「万死に値するな…」

 女性に対して生理の話と、ハゲに対してハゲの話では言葉の重みや、気持ち悪さが段違いだと思うのだが…生まれて此の方16年である若人である。人生の先輩に従順しといた方が確実だよね、とそんな考えで素直に受け入れる。その理論だと結構な確率で魔剣さんは周期に入っていると思うのだけど…。

 無言でこめかみをエルボーするのは止めていただきたいです。結構脳にまでダメージがいくんですよね、それ…。







・・・・・・・・・・・・・・・

「はっ!? こんな、幼稚園児みたいな身長で僕に敵うとでもぉ!!?? 僕、舐めプよろしいか!?」

 数分後ーー

「ちょ、分裂するって聞いてないんだけど! え、なんか体積が膨張してるんだけど!!! 既に僕の何十倍も大きくなっちゃったんだけど!!?? 魔剣さんヘルプみぃいイィいぃいい!!!!!!」

 攻撃を与える度に、傷を覆い隠すように体積が膨張する新生物。向かう途中でメイさんには名無しの新生物を狩ってもらうって言われたけど…相手は結構な初見殺しであった。
 これ、普通に対峙したら体格差で押し切られて一発KOだよね…。攻撃したらした分だけ大きくなるのだもの。僕が魔剣さんを握っていなかったら、て思うと夜しか眠れません…。

『りょ』

 段々態度が軟化してきた…もしくは、素が出てき始めているのか。清楚系の皮が剥がれかけている魔剣さんの猛烈な管アピールを右腕に集めて『付与』を頂く。こっからは攻撃速度が数倍に上がっていくよ!!
 誰に宣言するでもなく、気持ちとしては剣を握る強さが二割増しになった心持ちで、ほぼ山と言っても過言ではない新生物と対峙する。

 相手は攻撃を受けた瞬間に、その傷跡を覆い隠すよに膨張する。
 何度も攻撃をするのではなく、一撃で仕留められるように考えを改めるのが普通だと思うが…

「生憎、うちの魔剣さんは手数が売りでねぇ!! チキンレースと洒落込もうか!!」

 おっと、魔剣さんのテンションが移りましてことよ。

 ぶくぶく太った新生物の腹を足場に、駆け上がりながら決して弱くは無い斬撃を道中で打つける。与える事に体積が増え、足場が不安定になるが、その都度僕に対して『付与』が入る。ハイリスクハイリターンの構図が出来上がっていた。

 考えとしては一つ「膨張できると言っても限りがあるでしょ」である。無限に膨張するのであればコイツは名無しの新生物でないし、物理法則を完全に無視するのは幾ら何でも不可能であると踏んだからだ。まあ、空を飛ぶドラゴンに、マシンガンの様に歯を飛ばす新生物等を目の当たりにしているのでしっかりと物理法則が機能しているのかは甚だ疑問であるが。
 まあ、でも、新‘生物‘であるのだ。生きているからには何百回か斬ったら流石に死ぬでしょう。

「はい、顔面滅多切り!! これで結婚できないな、お前!! …女の子、なのかな?」

『口は良いから手を動かす』

「何その食事の時のマナー。別にアクロバティックに動いても、今の僕に失敗するビジョンはなギッ」

『…ほら、言わんこっちゃない』

 舌を噛んだ恨みを全力で殺意へと変換する。元はと言えば風船野郎のせいだからなぁ!?




 それから十数分後。
 凡そ30分程かけて膨張するためのリソースが切れたのか、はたまた膨張の限界まで達したのか。雲にまで届きかねない高さで討伐する事が出来たわけである。心身共に疲労真っ最中である。とても、疲れました…。
 いや、普通はそこまで大きくならないと思うじゃん? 後半なんて、膨張だけにリソース割いていたのか攻撃一歳してこなかったし…何だよ、マジで。見た目は完全に綿飴に人の顔面が張り付いた奴だったが…掴めない相手だった。

 流石に僕も怒っちゃうぞ、的な感じで張り付いて滅多切りした訳である。途中で魔剣さんもテンションが上がったのか、永遠とロックについて語り出していたし…知らないよ、ロックンロールとか、ロック魂とか…。剣に宿るロックとは。まだギターに宿った方が理解はできるよ…。

 無事討伐し終わり、メイさんに若干呆れられながら本日の任務を完了する。
 僕が一体と真剣勝負している中、メイさんは死屍累々を築いていた。多勢に無勢である。一騎当千とはこのことなのか、と熟語を再確認させられる。上には上がいるんだなぁ、と膨れ上がった自尊心を木っ端微塵にされてしまう。
 …いや? そこまで自尊心は無かったわ。結局、僕は魔剣さんのついでって感じだもんね…。僕が選ばれたって言う特別性はあるけど…ここまで、圧倒的な力の差を見せつけられると虚しさより、誇らしさが勝つ。

「これが…恋?」

 いいえ、命の危機を感じているだけです。
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