スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第39話 迷子

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 翌朝、いやもう昼近いだろう。時間で行ったら10時あたりか。妖精たちのせいで、正直まだ寝足りない。それでも随分と遅い時間なので、テントの外に出ると全員すでに釣りに行ったようだ。スマホを見るとポチとシェフもいない。また勝手に釣り餌になりにいっているな。

 スマホの中から食事を取り出し、遅めの朝食をとる。今日は昨日やれなかった分、ゆっくり釣りでもするか。妖精たちもまたお礼の品を持ってくるだろう。ならこの野営地から遠くないところで釣りをしよう。

 そういえば、今日の昼にはここから出て、帰るって言っていたな。いつになるかわからないが、呼びに来るまでゆっくりさせてもらおうか。時間的には残り2時間あるかな?まあその間はこの世界を楽しもう。

 朝食を終えた後は湖のそばまで行って釣りを始める。初めのうちはルアーで釣っていたが、徐々に俺が起きたことに気がついた妖精たちが集まってきたので、餌のウキ釣りに変えた。妖精たちとのおしゃべりは、妖精たちの生態系をよく知ることができて興味深かった。それに妖精女王の弱点なんかも色々聞けた。

「それで今の妖精女王は正直まだ300年しか生きていない子供なのよ。素質だけはあるんだけどね、まだ子供だから色々問題もあるの。20年前までおねしょしていたって話よ。怖い話も苦手でね、今でも怖くなったら誰かに寝かしつけてもらわないといけないくらいなの。」

「300年だと人間の場合何代も世代交代しているくらいなんですけどね。妖精だとそのくらいの感じなんですね。」

「その代わり人一倍優しい子なの。人間たちは気難しいって言うけどね。っと、そういえばミチナガは今日帰るのね。そろそろみんなのところに戻ったほうがいいわよ。」

「まだ大丈夫ですよ。誰かがそのうち呼びに来ますから。まあ置いて行かれたら困りますけど。」

「あら?もしかして聞いていないの?」

「何をです?」

「この妖精の隠れ里は人間の滞在時間が決まっているの。その時間を経過すると自動的に元の世界に戻されるわ。その場合ここだと…危険な森じゃなかったかしら。」

「ま、まじでか…」

 そんな話は一度も聞いたことがない。ただ2日後に帰ると聞いただけだ。だとするとここでこうしてのんびりしているのはまずいかもしれない。いつ戻されるか正確な時間を覚えていない。ならば今すぐにみんなと合流するべきだ。

「すみません、俺今すぐに戻ります。一人だと何かあった時に困りますから。」

「それはいいけど、ちゃんとみんなからのお礼の品は持って行ってね?」

 しまった。お喋りに夢中で、後でしまおうと思っていたお礼の品の数々が山のようにある。命に関わるかもしれないので無視して置いて行きたいが、それは色々とまずいだろう。急いで荷物をしまい込む。

「よし、これで全部ですね。ではもう戻りま…あ、あれ?視界がなんだか…」

「あらいけない。もう時間みたいね。野営地の方角は戻っても同じよ。それと魔法をかけてあげる。声は絶対に出さないでね、魔法が解けちゃうから。」

 ふっと息を吹きかけられると何かが体を覆った。最後に妖精の手を振る姿を見た瞬間、目の前には巨大な蜘蛛がいた。

「~~~!!」

 声は出すなと言われた。どちらにしろ声を出したら色々なものが寄って来そうだ。巨大な蜘蛛は振り返って複数の複眼を俺に向ける。正直もう失神しそうだが、なんとか堪えられた。

 すると蜘蛛は俺にまるで気がつかず、どこかへ去って行った。本当に魔法が効いているみたいだ。ならばとにかく移動しよう。この魔法もいつまで持つかわからない。確か戻っても野営地の方角は変わらないと言っていた。記憶を頼りに進もう。



 怖い、まじで怖い。さっきから巨大蟻の軍団が目の前を通って行ったり、何かの死骸が飛んで来て、その死骸を食べようとしたモンスターがまた死骸になって…。食物連鎖が激しすぎる。少し漏らしかけたが、臭いでバレるといけないのでなんとか堪えた。俺の尊厳にも関わるしな。

 しかし先ほどから一向に進んでも、目的地にたどり着かない。スマホのマップ機能を見てみたが、妖精の隠れ里から出されたせいで道が繋がっておらず、まともに使うことができない。高い金払ったのにとんだポンコツだよ。

 改めて思ったが、俺ももう少し自衛の術を身につけたほうがいいな。こんなふうにはぐれることだってありえるし、いつかアンドリュー子爵のところを出て行った時に、身を守ることができない。街で買い物をするのにも護衛が必要なくらいだからな。

 鍛治アプリもあるし、武器を作ってみるのもいいな。それで剣術を誰かに習うのもありだ。いや、剣よりも弓の方がいいかもしれない。俺みたいなビビリには近くに寄って戦うよりも、遠くから戦う方があっている。安全圏からの攻撃が一番だ。

 そういえばこの世界には魔法がある。俺も少しくらい習ってみる価値はあるかもしれない。どんな魔法が使えるかわからないが、最低でも、ちょっとしたライトくらいは使えるかもしれない。あれ?けどスマホあるからそんなものはいらないか。

 そういえば俺って今まで弱い弱い言っていたけど、実際のところはどうなんだろ。試したことないから全くわからない。無事に街に戻ることができたら色々調べてみよう。戻れるかなぁ…

「おーい、先生ー」

「ミチナガー無事かぁ?」

 あ、あの声は!やった、ようやくたどり着いたんだ。長いこと歩き続けたが、ようやく目的地にたどり着いたんだ。ああ、これでようやく落ち着ける。

「すみませんでした。無事に会えてよかったで…」

「おーい、先生ー」
「ミチナガー無事かぁ?」
「ミチナガーミチナガーミチナガー」

「え?」

 誰もいない。いるのは鳥?しかも人の言葉を話している。インコみたいなものか。音を真似して声を出す鳥。だけどでかい。50cm以上あるぞ。しかも大量にいるし。これってモンスターか。まずい、早いとこ逃げないと。

「あ、俺もう声出して…」

 声を出したら魔法が解ける。そう妖精は言っていた。つまり今の俺には何も魔法がかかっていない。つまり…

「ミチナガァ!!」

「その声で襲いかかるなぁ!」

 全速力で逃げる。木の裏に隠れながらなんとか攻撃をかわす。鬱蒼としている森なので鳥たちも木の間をすり抜けるのが難しそうだ。なんとか逃げ切って、草むらに隠れよう。あの鳥たちがあの声を真似ていたと言うことは、近くでみんなが探してくれていると言うことだ。

「鳥たちの羽音が消えた。とりあえずそこの茂みに隠れれば!」

 茂みに思いっきりダイブした。すると意外にも茂みは薄く、反対側に貫通してしまった。そしてそこには様々なモンスターたちがすでに争っていた。しかし俺の声と音に反応して、全員がこちらを向いた。

「あ、終わった…」

 襲いかかる瞬間。俺の頭の中に走馬灯がよぎった。学生時代、社会人になってから、色々な思い出がよぎり…

「あ、俺スマホしかいじってないや。」

 自分の記憶のほとんどがスマホ一色だった。なんとも薄い走馬灯だ。もっと色々やっておけばよかった。あ~あ…

 目の前が霞んできたのか、白く見えてくる。これが死ってやつか。なんともつまらないもんだな。すると襲いかかってきたモンスターたちが、飛び上がった状態から全く動かなくなる。死の間際は物事がスローモーションに感じると言うけど、止まって見えるくらいまでになるのか。とっとと楽にして欲しいんだけどな。

「ミチナガ君、大丈夫ですか?なんとか間に合ったようですね。」

「…ルシュール辺境伯?なんで…」

 白く霞んだ視界の中には細い長剣を携えたルシュール辺境伯がいた。やばい、惚れそう。かっこよすぎだろ。

「なんでって…助けに来たんですよ。周囲を探索していたのですが、君のポチ君が場所と危険を知らせてくれたんです。」

「ぽ、ポチぃ…」

 お前は命の恩人だよ。ほんと、まじで助かった。ポチが知らせてくれなきゃ死んでいたところだった。

「さて、少し待ってくださいね。今終わらせますから。」

「は、はい。お願いします。」

 そこからは一瞬だった。俺の視界が白く霞んでいると思っていたものは霧で、この一帯を覆っていた。しかしその霧はただの霧ではない。魔力によって力を持った霧だ。霧に包まれたモンスターは霧によって動くことができない。そしてその霧は形を変えていく。

 それは幻想的な風景だった。一部の霧が形状を変えて剣のようになる。その剣は空中でくるくると回転して、モンスターの息の根をとめる。ただの霧が、本物の剣のように、いや本物の剣なんかよりも鋭い切れ味の武器になる。

 これが魔帝、これが白幻の魔帝ルシュールの力の一端だ。正直これよりも強いと言われる魔神の力なんて想像もつかない。

「終わりましたよ。それでは戻りましょ……その前に…着替えておきますか?」

「……すみません。お願いします。」

 一応言っておく、さっきまでは大丈夫だったんだよ?ほんとだよ?さっきまでは許容範囲内だったもの。今は範囲外だけど。

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