スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第538話 これは我々の戦い

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 人生でこれほど祈りを捧げた事があっただろうか。これほど静かに同じ体勢を続けた事があっただろうか。もうイッシンたちの戦いが始まってから数時間はたったと思う。いや、もしかしたらそんなに経っていないのかもしれない。

 時間を忘れるほど精神が集中されている。そしてそれだけ集中すると自分という人間がどれほどの人間に助けられてここまできたのか思い出した。自分の始まりはミヤマという一人の異世界人からだ。

 彼は未来を見てこの簒奪者たちのことを知った。そしてはるか未来でこの簒奪者たちによって世界の均衡は崩れ去り、世界崩壊を迎えた。だからこそそんな未来を無くすため、世界を救うために彼は全てを捧げた。

 一体なぜそこまでできたのか。それはきっと彼も同じ思いだったからだ。たとえ自分が生まれた世界と違ってもこの世界のことを愛していたのだ。この世界は美しい。そしてこの世界に守りたいものができた。だからその世界を守るためなら全てを捧げられたのだろう。

 そしてその思いを白獣たちは受け取り、未来を変えるために動いた。零戦の所有者である山田は未知の技術を書き残し、彼が愛した記憶する者は金貨の呪いの秘密を後世に残した。

 超大国オリンポスはその技術の粋を集めて、この地に至るための鍵を作り出した。そして戦うための力も。

 十本指は少しでも簒奪者たちの力を削ぐために死者たちを蘇らせ、元のただしき輪廻へと返した。そしてミチナガに全てを託し、この世を去った。

 他にもまだまだ大勢の人々が今日という日のために人生を賭けた。全てはこの世界を愛するがゆえに。そして簒奪者たちを決して許さぬために。

 この背中には背負いきれぬほどの想いが乗っている。その全てがミチナガを応援している。勝ってくれと。終わらせてくれと。もうこんな戦いは終わりにしよう。そしてミチナガは目を開いた。

 そしてその時、戦場に音楽が流れた。しかしその音楽は人々を楽しませるためのものではない。ただその音楽は気が引かれてしまう。それはミチナガ以外も例外ではない。戦闘していた簒奪者、イッシン、フェイミエラルの動きも止まった。

「なんだ?」「耳障りな音だ」「お前か、セキヤ・ミチナガ」

「お静かに願えるか?今から電話なんだ。」

「電話?」「それは確か」「お前たち異世界人の道具だったな」

「ああ、スマホっていうのは小さいコンピューターだと言われる。まあ実際そうなんだがな。でもな、スマホっていうんだからやっぱり電話なんだよ。携帯型電話端末。」

「それがなんだ」「くだらぬことを聞いた」「とっととその音を止めろ」

「はいはい。」

 ミチナガはスマホを耳に当てる。こんな使い方をしたのはなんと久しぶりだろう。普段はスピーカーモードで使い魔たちと会話するし、チャットで会話するのも多い。だからある意味新鮮だ。そんなスマホからはノイズが響いている。

「はは…ずっとノイズだな。でも…きっと繋がっている。そう信じている。なんせ今宵は数百年に一度の好機だからな。」

「ミチナガ、一体何を…」

「この世界とあちらの世界の時間の流れは狂っていてうまく噛み合わない。だから戦時中の人が今の時代に来たり、現代っ子が数百年前に訪れたりする。だから…こんな好機は今しかないんだ。だからミヤマは俺に託すことにしたんだ。」

「何を訳の分からぬことを」「お前のようは半端者では我には届かぬ」「後ろの雑兵もな」

「今宵は神無月。日本から神様がいなくなる月だ。ただし、それは一部を除いてだ。その場所では神有月と呼ぶ。その場所とは出雲。今宵八百万の神々は出雲にて集っている。」

 その瞬間、スマホから出るノイズが途切れ途切れになって来た。通信状態が良くなって来たらしい。今ならきっとこちらの言葉もしっかりと届くはずだ。

「やあ神様。無神論者の俺だが今日ばっかりは神様のことを信じるよ。……来たぞ。ようやく来た。あんたたちが何年、何十年、何百年、何千年と待っていた今日が来たぞ。あんたたちがこの世界に俺を来させたのはこれが目的だったんだろ。」

 ミチナガは一方的に喋る。返事など全く来ない。しかしそれでも届いていると信じている。

「この盗人は自分の生み出した能力の実験台として俺たち異世界人の魂を盗んだ。この世界の人間の魂には魔力が宿っているからな。作り出した魔法を乗せるのには不適だった。しかし魔力を持たない俺たち異世界人は都合が良かった。だからこいつによってこの世界へ呼び出された異世界人は特殊な能力を持っていた。」

 ミチナガのような魔力を持たない異世界人と、特殊な能力をもつ異世界人の違いが起きた理由がこれだ。特殊な能力を持つ異世界人は全てこの簒奪者によって他の世界から盗まれた魂だ。その魂に特殊な魔法を植え付けて都合の良い実験台にした。

 そしてその魂を回収すれば成熟した能力を自分たちのものにできる。そして回収しやすいように生前苦痛を味わい、精神の弱くなったものたちの精神を弄って高慢にさせ、死に至りやすいようにした。

 ただの実験動物のように異世界人の魂を扱った。そんなことは決して許されない。決して許さないからこそ、ミチナガはここにいる。彼らによってこの世界へと来ることになった。

「あんたは決してこの盗人を許さなかった。だからこそ俺たちみたいな奴らをこの世界へ送り込んだ。俺たちはあんたらの使徒だ。まあ…なんで俺を選んだかはよく分からないけどな。もっと相応しい奴がいただろ。」

 ミチナガのような魔力を持たない人間は八百万の神々によって選ばれた尖兵だ。神の遣わし使徒だ。彼らの思いを果たすための神の遣いなのだ。だからこそトウショウやカナエ・ツグナオのように優秀なものが多い。

「さて…無駄話はこのくらいにしておこうか。それじゃあ……あんたたちの遣わした男、関谷道長が願い奉る。…力を貸してくれ。あの野郎をぶん殴るための力を。この背中に背負ったすべてのものたちの思いを叶えるための力を。この世界を救うために…あんたたち神々の力を貸してくれ。」

 スマホから出るノイズが何度も途切れる。何度も何度も途切れていき、そして声が聞こえた。

「…ひ……人の…子…よ……我ら……屈辱……晴らせ……お前に………すべて……託そう……今こそ……盗人に…我らの…怒りを………」

「ああ、託された。」

 その瞬間、一本の光の糸がスマホに繋がった。その光はスマホを通じ、すべての使い魔たちへと繋がる。しかしその光はただの光ではない。それが一番よくわかっているのは敵である簒奪者であった。

「なんだ…」「ありえない!」「その膨大な神の力は」「こんなことが…」

「さて…ここからは俺たちも参戦させてもらうから、改めて名乗りを上げようか。」

 ミチナガの号令のもと全ての使い魔たちが、エヴォルヴが立ち上がる。その全てに神の力、神力が供給されている。それも生半可なものではない。エヴォルヴの一人一人が魔神クラスの力を得ている。

「俺の名は関谷道長。肩書きはミチナガ商会商会長。セキヤ国国王。魔神第1位二神。そして異世界より遣われし最後の使徒だ。正真正銘…俺が最後だ。俺がここで全て終わらせる。この長きに渡るお前と我らが神々の戦いに終止符を打つ!我らが神々はお前の行いを決して許さない!!我が神に代わり俺がお前に裁きを下す!!さあ行くぞ神の簒奪者!」

 そう、これで終わりにするのだ。長きに渡る戦いを、世界を股にかけた戦いを今こそ終わらせる。最後の使徒、セキヤ・ミチナガの最後の戦いが始まる。
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