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第17話 第一環再接触、帰還路を塞ぐもの
黒門の裂け目をくぐった瞬間、全身を包んだ浮遊感は前回よりずっと短かった。
落ちるような感覚。
引き込まれるような感覚。
その二つが一瞬だけ重なって、次の瞬間には足の裏へ黒い岩の感触が戻ってくる。
「っ……」
目を開ける。
そこはやはり、黒門第一環《外縁内界》だった。
赤黒い空。
黒い大地。
亀裂の中を流れる金色の光。
空中に浮かぶ幾つもの輪。
景色そのものは前回と同じだ。
だが空気は、明らかに違っていた。
「……重い」
ミリアがすぐに言った。
そう。
通行権のおかげで門前の圧は軽減されていたはずなのに、内側へ入った途端、今度は別種の緊張が空間全体を満たしている。
何かが、いる。
「キュル……」
「キュイ……」
ルクスとネフィも低く鳴く。
二体とも前回より警戒が早い。
俺はすぐにUIを開いた。
⸻
【第一環《外縁内界》】
【状態:変動中】
【第一環通行権(仮):有効】
【同行者判定:ミリア 一時許可】
【注意】
【帰還路付近に未確認反応】
【応答核周辺の試練個体反応:低下】
⸻
「応答核の方じゃない……やっぱり帰還路側だ」
「その“帰還路”って、前に戻った出口のことよね?」
ミリアが槍を構えながら訊く。
「たぶんそう」
「嫌な感じしかしないんだけど」
「同感だ」
前回は、応答核まで進んで認識更新を終えたあと、祭壇の奥に帰還路が開いた。
今回はその帰還路側に、最初から何かがいるらしい。
つまり――向こうは、俺たちの前回の攻略をちゃんと学習している。
「ほんと、性格悪いな黒門……」
思わず本音が漏れた。
だが、ここで足を止めても意味はない。
目的は《外縁内界》の変動源の確認。
そして可能なら、その対処法を探ること。
「行こう」
「うん」
ミリアが短く頷く。
俺たちは前回と同じく、応答核のある祭壇方向へ進み始めた。
ただし真っ直ぐではない。
《竜脈感応・微》に意識を向けると、大地に走る金色の流れの中へ、不自然な黒い淀みが混じっているのが見える。
それが、祭壇側から帰還路側へ回り込むように流れていた。
「……流れが変わってる」
「分かるの?」
「うん。前は応答核を中心にまとまってた。でも今は、そこから何かが“ずれて”帰還路の方へ溜まってる」
ミリアは嫌そうに眉を寄せる。
「出口を腐らせてるみたいな感じ?」
「たぶん近い」
その表現は妙にしっくりきた。
◆
少し進んだところで、前回の試練個体がいた位置が見えてきた。
迅牙が現れた岩場。
霧翼が浮かんでいた亀裂。
問代が立っていた祭壇前。
だが、今日は違う。
岩場も亀裂も静かだった。
代わりに祭壇の左右へ、半透明の黒い像のようなものが二つ立っている。
「……守護影?」
ミリアが小さく言う。
俺のUIが反応する。
⸻
【第一環守護影】
【状態:静観】
【第一環通行権、および第二問突破を確認】
【敵対行動なし】
⸻
「敵じゃない」
「毎回毎回、敵じゃないようで不安なのよね、この門の連中」
「分かる」
守護影たちは本当に動かなかった。
俺たちを見ている。
だが、排除する気配はない。
つまり今回の問題は、第二問を繰り返すことでも、応答核へ再挑戦することでもない。
やはり、別の場所に変動源がある。
「レン」
ミリアが祭壇の向こうを指差した。
「あれ……前に帰った道じゃない?」
そこには、前回帰還路が開いた位置に繋がる細い道があった。
黒い岩の間を抜ける、緩い下り坂。
そして、その奥に――
黒い霧。
いや、霧ではない。
もっと粘る。
もっと重い。
闇そのものが液体みたいにたゆたい、帰還路があったはずの空間を覆い隠していた。
「……うわ」
思わず声が出る。
あれは嫌だ。
理屈抜きに、本能が近づくなと言ってくる。
ネフィが細く鳴き、俺の足へ寄ってきた。
「キュイ……」
ルクスも火花を散らしながら低く唸る。
「キュルル……」
UIが強い警告色で点滅した。
⸻
【未確認反応を視認】
【仮称:《帰還喰らい》】
【分類:第一環変動個体】
【傾向:帰還路汚染/接続阻害】
【危険:高】
⸻
「帰還喰らい……」
ミリアが顔を引きつらせる。
「名前からして最悪なんだけど」
「帰り道を食ってる感じだな……」
その瞬間、黒い塊がゆっくりと動いた。
液体のような闇が持ち上がり、輪郭を作る。
四足獣とも、蛇ともつかない異形。
だが顔だけは妙に人の面影があった。
目の位置に金色の線が二本、裂けるように光っている。
「っ……!」
ぞっとする。
大きさはブラストファングほどではない。
しかし門牙よりは大きい。
そして何より、存在の仕方が不安定すぎる。
固体じゃない。
斬って終わる相手じゃない。
《帰還喰らい》は、俺たちを見ると頭をもたげた。
声はない。
だが、頭の中へ直接ざらついた感覚が流れ込んでくる。
――還るな。
「……は?」
意味を理解した瞬間、背筋が粟立つ。
還るな。
つまりこいつは、本当に帰還路を塞ぐための存在だ。
ミリアも何か感じたのか、顔を青ざめさせていた。
「今……何か、言われた?」
「還るな、って」
「最悪」
それ以上ないくらい最悪だ。
◆
《帰還喰らい》はすぐには襲ってこなかった。
代わりに、帰還路の前でゆっくりと体を揺らし、黒い靄を周囲へ滲ませていく。
その靄が大地へ触れるたび、金色だった亀裂の光がくすみ、道の輪郭が曖昧になっていった。
「侵食してる」
俺が呟く。
「放っておくと?」
「帰還路そのものが開かなくなるかもしれない」
つまり、今ここでこいつを放置したら、次に第一環へ入ったとき、出る道がなくなる可能性がある。
冗談じゃない。
「倒す?」
ミリアが言う。
単純な問いだ。
でも答えは単純じゃない。
「たぶん普通に殴るだけじゃダメだ」
俺は《竜脈感応》と《竜の審美眼》へ意識を集中した。
すると《帰還喰らい》の体の中に、何本もの流れが見える。
黒い淀みの中心で、赤金の細い核が脈打っている。
位置は一定じゃない。
体内を漂うように移動している。
⸻
【《帰還喰らい》】
【傾向:門由来変動個体/帰還接続の阻害】
【特徴:核位置が流動】
【示唆:霧による輪郭固定、火による核露出が有効の可能性】
⸻
「……なるほど」
「その顔、嫌な攻略法を見つけた顔ね」
「失礼だな」
「当たってるでしょ?」
「当たってる」
つまりこうだ。
ネフィの霧で、あの不定形の輪郭を一時的に固定する。
その上でルクスの火で内部の核を炙り出す。
そこへ俺かミリアが叩き込む。
問題は、こいつが帰還路の目の前にいることだ。
派手にやりすぎると、出口そのものを巻き込むかもしれない。
「ミリア」
「うん」
「俺たちの役目は二つ。帰還路を傷つけずに、こいつをどかすこと」
「厄介すぎる」
「でもやるしかない」
ミリアは嫌そうな顔をしながらも、槍を構え直した。
「役割は?」
「ネフィが霧で固定。ルクスが核を炙る。俺とお前は核が露出した瞬間だけ叩く」
「了解」
こういう時、話が早くて助かる。
「ルクス、ネフィ」
「キュル!」
「キュイ!」
二体もすでにやる気だ。
「ネフィ、広げるんじゃなくて絡め取れ! 形を縛る!」
「キュイィッ!」
ネフィの霧がいつもと違う動きを見せる。
薄く広がるのではなく、糸みたいに細くなり、《帰還喰らい》の周囲を何重にも巻いていった。
黒い塊がぐにゃりと形を変え、反発する。
だが霧が触れた部分だけ、輪郭が固定される。
「今だ、ルクス!」
「キュルアァッ!」
圧縮火球が飛ぶ。
黒い表皮を焼く、というより、内側を炙り出すような熱だ。
火球が当たった箇所から黒が一瞬薄れ、その奥で赤金の核がちらりと見えた。
「見えた!」
俺はブレイズミストを構えて踏み込む。
前より一歩遠くから届く。
この武器の間合いだ。
「はぁっ!」
穂先が核へ伸びる。
だが、《帰還喰らい》はそこで大きく身をねじった。
不定形の体が鞭みたいにしなり、槍の軌道を逸らす。
「ちっ!」
完全には入らない。
浅い。
その直後、黒い腕のようなものが地面から突き出し、俺の足を払おうとした。
「レン!」
ミリアの槍がそれを横から弾く。
「助かった!」
「どういたしまして!」
さらに彼女はそのまま踏み込み、槍の石突で《帰還喰らい》の下半身――と呼んでいいのか分からないが、足場になっている黒い塊を打ち払った。
その一撃で、帰還喰らいの姿勢が少しだけ崩れる。
「もう一回行ける!」
「ネフィ、右側を縛れ! ルクス、次は連射で核を動かす!」
「キュイ!」
「キュルッ!」
ネフィの霧が右側へ集中し、黒い体を半分固定。
ルクスの火球が二発、三発と叩き込まれ、核が左上へ逃げるように移動する。
見えた。
今度は見失わない。
「ミリア、上だ!」
「分かった!」
俺とミリアが、ほぼ同時に踏み込む。
ブレイズミストの穂先。
ミリアの槍。
狙いは一点。
黒の内側で脈打つ赤金の核。
「通れぇぇっ!!」
ブレイズミストの穂先が核へ触れた瞬間、火脈導板が光った。
ルクスの火が柄を通して流れ込み、刃先で一気に弾ける。
そこへネフィの霧も絡む。
火と霧が、槍の中で一瞬だけ混ざり合う。
バチィッ!!
《帰還喰らい》が、初めてはっきりと悲鳴めいた振動を放った。
「効いた!」
ミリアが叫ぶ。
核が露出したまま揺れている。
今なら押し切れる。
「ルクス、ネフィ! 《灼霧衝》までは要らない、でも重ねろ!」
「キュルアァァッ!!」
「キュイィィッ!!」
今度は大技じゃない。
点で穿つ、短い重ね撃ち。
ルクスの火が核を貫き、
ネフィの霧が逃げ道を塞ぐ。
そこへブレイズミストをさらにねじ込む。
「終われッ!!」
次の瞬間、《帰還喰らい》の体が内側から崩れた。
黒い液体みたいだった表皮が、さらさらと砂のように崩れて落ちる。
中心の赤金核は砕け、残った闇は霧みたいに散っていった。
そして――
その背後にあった帰還路の輪郭が、再び淡く光を取り戻す。
「……戻った?」
ミリアが息を切らせながら言う。
UIが応答する。
⸻
【《帰還喰らい》の変動反応が消失】
【帰還路接続の阻害を解除】
【第一環帰還路:安定度回復】
⸻
「よし!」
思わず拳を握る。
危なかった。
でも、やれた。
しかも。
「今の……ブレイズミスト、やばいくらい使いやすいな」
槍を見つめて呟く。
火と霧の中継。
ベルダさんの言っていた意味が、今ようやく本当の実感を伴って分かった。
ミリアも頷く。
「前よりずっと“合わせやすい”。ルクスとネフィの力を、そのまま武器へ通してる感じ」
「うん。俺もそう思う」
ルクスが得意げに鳴く。
「キュル!」
ネフィも、少し誇らしげだった。
「キュイ」
そのとき、祭壇の方から静かな振動が伝わってきた。
振り向く。
応答核が、前回よりも穏やかな光で脈打っていた。
「……また何か来る?」
ミリアが警戒する。
だが今度は敵意じゃなかった。
頭の中へ、はっきりとした声が落ちる。
――帰還路の維持を確認。
――第一環通行者、変動への対処を記録。
「記録?」
俺が眉をひそめると、UIが表示を更新した。
⸻
【第一環再接触:第一目的達成】
【変動個体《帰還喰らい》への対処を記録しました】
【報酬】
【ガチャ石×15】
【帰還路保全因子×1】
【補足】
【第一環の安定度が微増しました】
⸻
「また報酬だ」
ミリアが少し呆れたように言う。
「でも今回はかなり大事そうね」
「帰還路保全因子……完全に必要なやつだな」
これがあれば、今後第一環への出入りがもっと安定するかもしれない。
少なくとも、帰還路を狙われるたびに同じ恐怖を味わう確率は下がる。
ただし。
それで終わらないのが黒門だ。
応答核の光が、少しずつ色を変え始めた。
赤金から、わずかに深い赤へ。
「……レン」
ミリアが低く言う。
「嫌な感じ」
「俺も」
UIに新しい反応が走る。
⸻
【第一環安定度の変化を確認】
【安定化に伴い、封鎖されていた側路の一部が開示されます】
⸻
「……側路?」
俺が呟いた瞬間、祭壇の右奥の岩壁に、細い亀裂のような道が浮かび上がった。
前回はなかった。
明らかに新しく開いた道だ。
その奥は暗い。
だが、ただ暗いだけじゃない。
微かに青白い光が脈打っている。
「青……?」
ミリアが眉を寄せる。
「黒門の中なのに、色が違う」
その瞬間、俺の頭に、第一環突破時に流れ込んだ“複数の門”の記録がよみがえる。
黒。
白。
青。
それぞれ別の門。
まさか。
「これ、他環門の気配かもしれない」
「えっ」
ミリアが息を呑む。
UIも、それを裏づけるように表示した。
⸻
【未確認側路を検出】
【第一環内部接続路の可能性】
【先に青系統反応を確認】
【詳細不明】
⸻
「やっぱり……」
思わず呟く。
第一環の中に、別の門系統へ繋がる可能性のある道。
それが今、帰還路を守ったことで開いた。
「……行く?」
ミリアが小さく訊く。
その問いに、俺はすぐには答えられなかった。
行きたい。
正直、ものすごく気になる。
でも今ここで踏み込むのは、準備不足にも程がある。
第一環再接触の目的は達した。
帰還路の安定も確認した。
ここで欲を出すのは、黒門が一番待っている展開かもしれない。
「……今日は行かない」
俺ははっきり言った。
ミリアが目を丸くする。
「珍しい」
「俺だって学習する」
「ほんとに?」
「今回はほんとに」
ルクスとネフィも、今は静かだった。
無理に進みたがる感じはない。
むしろ、あの青白い側路を警戒しているように見える。
だったら答えは出ている。
「帰る。情報を持って」
「賛成」
ミリアもすぐ頷いた。
「それでいいわ。今ここで別ルートとか、さすがに怖すぎる」
同感だった。
俺はもう一度、青白い側路を見た。
第一環の先。
黒門の内側に、別の色の気配。
それはきっと、この世界の謎そのものへ繋がっている。
でも今日はまだ、その時じゃない。
「……次は、お前の正体も見に行くからな」
小さくそう呟いて、俺は帰還路へ向き直った。
落ちるような感覚。
引き込まれるような感覚。
その二つが一瞬だけ重なって、次の瞬間には足の裏へ黒い岩の感触が戻ってくる。
「っ……」
目を開ける。
そこはやはり、黒門第一環《外縁内界》だった。
赤黒い空。
黒い大地。
亀裂の中を流れる金色の光。
空中に浮かぶ幾つもの輪。
景色そのものは前回と同じだ。
だが空気は、明らかに違っていた。
「……重い」
ミリアがすぐに言った。
そう。
通行権のおかげで門前の圧は軽減されていたはずなのに、内側へ入った途端、今度は別種の緊張が空間全体を満たしている。
何かが、いる。
「キュル……」
「キュイ……」
ルクスとネフィも低く鳴く。
二体とも前回より警戒が早い。
俺はすぐにUIを開いた。
⸻
【第一環《外縁内界》】
【状態:変動中】
【第一環通行権(仮):有効】
【同行者判定:ミリア 一時許可】
【注意】
【帰還路付近に未確認反応】
【応答核周辺の試練個体反応:低下】
⸻
「応答核の方じゃない……やっぱり帰還路側だ」
「その“帰還路”って、前に戻った出口のことよね?」
ミリアが槍を構えながら訊く。
「たぶんそう」
「嫌な感じしかしないんだけど」
「同感だ」
前回は、応答核まで進んで認識更新を終えたあと、祭壇の奥に帰還路が開いた。
今回はその帰還路側に、最初から何かがいるらしい。
つまり――向こうは、俺たちの前回の攻略をちゃんと学習している。
「ほんと、性格悪いな黒門……」
思わず本音が漏れた。
だが、ここで足を止めても意味はない。
目的は《外縁内界》の変動源の確認。
そして可能なら、その対処法を探ること。
「行こう」
「うん」
ミリアが短く頷く。
俺たちは前回と同じく、応答核のある祭壇方向へ進み始めた。
ただし真っ直ぐではない。
《竜脈感応・微》に意識を向けると、大地に走る金色の流れの中へ、不自然な黒い淀みが混じっているのが見える。
それが、祭壇側から帰還路側へ回り込むように流れていた。
「……流れが変わってる」
「分かるの?」
「うん。前は応答核を中心にまとまってた。でも今は、そこから何かが“ずれて”帰還路の方へ溜まってる」
ミリアは嫌そうに眉を寄せる。
「出口を腐らせてるみたいな感じ?」
「たぶん近い」
その表現は妙にしっくりきた。
◆
少し進んだところで、前回の試練個体がいた位置が見えてきた。
迅牙が現れた岩場。
霧翼が浮かんでいた亀裂。
問代が立っていた祭壇前。
だが、今日は違う。
岩場も亀裂も静かだった。
代わりに祭壇の左右へ、半透明の黒い像のようなものが二つ立っている。
「……守護影?」
ミリアが小さく言う。
俺のUIが反応する。
⸻
【第一環守護影】
【状態:静観】
【第一環通行権、および第二問突破を確認】
【敵対行動なし】
⸻
「敵じゃない」
「毎回毎回、敵じゃないようで不安なのよね、この門の連中」
「分かる」
守護影たちは本当に動かなかった。
俺たちを見ている。
だが、排除する気配はない。
つまり今回の問題は、第二問を繰り返すことでも、応答核へ再挑戦することでもない。
やはり、別の場所に変動源がある。
「レン」
ミリアが祭壇の向こうを指差した。
「あれ……前に帰った道じゃない?」
そこには、前回帰還路が開いた位置に繋がる細い道があった。
黒い岩の間を抜ける、緩い下り坂。
そして、その奥に――
黒い霧。
いや、霧ではない。
もっと粘る。
もっと重い。
闇そのものが液体みたいにたゆたい、帰還路があったはずの空間を覆い隠していた。
「……うわ」
思わず声が出る。
あれは嫌だ。
理屈抜きに、本能が近づくなと言ってくる。
ネフィが細く鳴き、俺の足へ寄ってきた。
「キュイ……」
ルクスも火花を散らしながら低く唸る。
「キュルル……」
UIが強い警告色で点滅した。
⸻
【未確認反応を視認】
【仮称:《帰還喰らい》】
【分類:第一環変動個体】
【傾向:帰還路汚染/接続阻害】
【危険:高】
⸻
「帰還喰らい……」
ミリアが顔を引きつらせる。
「名前からして最悪なんだけど」
「帰り道を食ってる感じだな……」
その瞬間、黒い塊がゆっくりと動いた。
液体のような闇が持ち上がり、輪郭を作る。
四足獣とも、蛇ともつかない異形。
だが顔だけは妙に人の面影があった。
目の位置に金色の線が二本、裂けるように光っている。
「っ……!」
ぞっとする。
大きさはブラストファングほどではない。
しかし門牙よりは大きい。
そして何より、存在の仕方が不安定すぎる。
固体じゃない。
斬って終わる相手じゃない。
《帰還喰らい》は、俺たちを見ると頭をもたげた。
声はない。
だが、頭の中へ直接ざらついた感覚が流れ込んでくる。
――還るな。
「……は?」
意味を理解した瞬間、背筋が粟立つ。
還るな。
つまりこいつは、本当に帰還路を塞ぐための存在だ。
ミリアも何か感じたのか、顔を青ざめさせていた。
「今……何か、言われた?」
「還るな、って」
「最悪」
それ以上ないくらい最悪だ。
◆
《帰還喰らい》はすぐには襲ってこなかった。
代わりに、帰還路の前でゆっくりと体を揺らし、黒い靄を周囲へ滲ませていく。
その靄が大地へ触れるたび、金色だった亀裂の光がくすみ、道の輪郭が曖昧になっていった。
「侵食してる」
俺が呟く。
「放っておくと?」
「帰還路そのものが開かなくなるかもしれない」
つまり、今ここでこいつを放置したら、次に第一環へ入ったとき、出る道がなくなる可能性がある。
冗談じゃない。
「倒す?」
ミリアが言う。
単純な問いだ。
でも答えは単純じゃない。
「たぶん普通に殴るだけじゃダメだ」
俺は《竜脈感応》と《竜の審美眼》へ意識を集中した。
すると《帰還喰らい》の体の中に、何本もの流れが見える。
黒い淀みの中心で、赤金の細い核が脈打っている。
位置は一定じゃない。
体内を漂うように移動している。
⸻
【《帰還喰らい》】
【傾向:門由来変動個体/帰還接続の阻害】
【特徴:核位置が流動】
【示唆:霧による輪郭固定、火による核露出が有効の可能性】
⸻
「……なるほど」
「その顔、嫌な攻略法を見つけた顔ね」
「失礼だな」
「当たってるでしょ?」
「当たってる」
つまりこうだ。
ネフィの霧で、あの不定形の輪郭を一時的に固定する。
その上でルクスの火で内部の核を炙り出す。
そこへ俺かミリアが叩き込む。
問題は、こいつが帰還路の目の前にいることだ。
派手にやりすぎると、出口そのものを巻き込むかもしれない。
「ミリア」
「うん」
「俺たちの役目は二つ。帰還路を傷つけずに、こいつをどかすこと」
「厄介すぎる」
「でもやるしかない」
ミリアは嫌そうな顔をしながらも、槍を構え直した。
「役割は?」
「ネフィが霧で固定。ルクスが核を炙る。俺とお前は核が露出した瞬間だけ叩く」
「了解」
こういう時、話が早くて助かる。
「ルクス、ネフィ」
「キュル!」
「キュイ!」
二体もすでにやる気だ。
「ネフィ、広げるんじゃなくて絡め取れ! 形を縛る!」
「キュイィッ!」
ネフィの霧がいつもと違う動きを見せる。
薄く広がるのではなく、糸みたいに細くなり、《帰還喰らい》の周囲を何重にも巻いていった。
黒い塊がぐにゃりと形を変え、反発する。
だが霧が触れた部分だけ、輪郭が固定される。
「今だ、ルクス!」
「キュルアァッ!」
圧縮火球が飛ぶ。
黒い表皮を焼く、というより、内側を炙り出すような熱だ。
火球が当たった箇所から黒が一瞬薄れ、その奥で赤金の核がちらりと見えた。
「見えた!」
俺はブレイズミストを構えて踏み込む。
前より一歩遠くから届く。
この武器の間合いだ。
「はぁっ!」
穂先が核へ伸びる。
だが、《帰還喰らい》はそこで大きく身をねじった。
不定形の体が鞭みたいにしなり、槍の軌道を逸らす。
「ちっ!」
完全には入らない。
浅い。
その直後、黒い腕のようなものが地面から突き出し、俺の足を払おうとした。
「レン!」
ミリアの槍がそれを横から弾く。
「助かった!」
「どういたしまして!」
さらに彼女はそのまま踏み込み、槍の石突で《帰還喰らい》の下半身――と呼んでいいのか分からないが、足場になっている黒い塊を打ち払った。
その一撃で、帰還喰らいの姿勢が少しだけ崩れる。
「もう一回行ける!」
「ネフィ、右側を縛れ! ルクス、次は連射で核を動かす!」
「キュイ!」
「キュルッ!」
ネフィの霧が右側へ集中し、黒い体を半分固定。
ルクスの火球が二発、三発と叩き込まれ、核が左上へ逃げるように移動する。
見えた。
今度は見失わない。
「ミリア、上だ!」
「分かった!」
俺とミリアが、ほぼ同時に踏み込む。
ブレイズミストの穂先。
ミリアの槍。
狙いは一点。
黒の内側で脈打つ赤金の核。
「通れぇぇっ!!」
ブレイズミストの穂先が核へ触れた瞬間、火脈導板が光った。
ルクスの火が柄を通して流れ込み、刃先で一気に弾ける。
そこへネフィの霧も絡む。
火と霧が、槍の中で一瞬だけ混ざり合う。
バチィッ!!
《帰還喰らい》が、初めてはっきりと悲鳴めいた振動を放った。
「効いた!」
ミリアが叫ぶ。
核が露出したまま揺れている。
今なら押し切れる。
「ルクス、ネフィ! 《灼霧衝》までは要らない、でも重ねろ!」
「キュルアァァッ!!」
「キュイィィッ!!」
今度は大技じゃない。
点で穿つ、短い重ね撃ち。
ルクスの火が核を貫き、
ネフィの霧が逃げ道を塞ぐ。
そこへブレイズミストをさらにねじ込む。
「終われッ!!」
次の瞬間、《帰還喰らい》の体が内側から崩れた。
黒い液体みたいだった表皮が、さらさらと砂のように崩れて落ちる。
中心の赤金核は砕け、残った闇は霧みたいに散っていった。
そして――
その背後にあった帰還路の輪郭が、再び淡く光を取り戻す。
「……戻った?」
ミリアが息を切らせながら言う。
UIが応答する。
⸻
【《帰還喰らい》の変動反応が消失】
【帰還路接続の阻害を解除】
【第一環帰還路:安定度回復】
⸻
「よし!」
思わず拳を握る。
危なかった。
でも、やれた。
しかも。
「今の……ブレイズミスト、やばいくらい使いやすいな」
槍を見つめて呟く。
火と霧の中継。
ベルダさんの言っていた意味が、今ようやく本当の実感を伴って分かった。
ミリアも頷く。
「前よりずっと“合わせやすい”。ルクスとネフィの力を、そのまま武器へ通してる感じ」
「うん。俺もそう思う」
ルクスが得意げに鳴く。
「キュル!」
ネフィも、少し誇らしげだった。
「キュイ」
そのとき、祭壇の方から静かな振動が伝わってきた。
振り向く。
応答核が、前回よりも穏やかな光で脈打っていた。
「……また何か来る?」
ミリアが警戒する。
だが今度は敵意じゃなかった。
頭の中へ、はっきりとした声が落ちる。
――帰還路の維持を確認。
――第一環通行者、変動への対処を記録。
「記録?」
俺が眉をひそめると、UIが表示を更新した。
⸻
【第一環再接触:第一目的達成】
【変動個体《帰還喰らい》への対処を記録しました】
【報酬】
【ガチャ石×15】
【帰還路保全因子×1】
【補足】
【第一環の安定度が微増しました】
⸻
「また報酬だ」
ミリアが少し呆れたように言う。
「でも今回はかなり大事そうね」
「帰還路保全因子……完全に必要なやつだな」
これがあれば、今後第一環への出入りがもっと安定するかもしれない。
少なくとも、帰還路を狙われるたびに同じ恐怖を味わう確率は下がる。
ただし。
それで終わらないのが黒門だ。
応答核の光が、少しずつ色を変え始めた。
赤金から、わずかに深い赤へ。
「……レン」
ミリアが低く言う。
「嫌な感じ」
「俺も」
UIに新しい反応が走る。
⸻
【第一環安定度の変化を確認】
【安定化に伴い、封鎖されていた側路の一部が開示されます】
⸻
「……側路?」
俺が呟いた瞬間、祭壇の右奥の岩壁に、細い亀裂のような道が浮かび上がった。
前回はなかった。
明らかに新しく開いた道だ。
その奥は暗い。
だが、ただ暗いだけじゃない。
微かに青白い光が脈打っている。
「青……?」
ミリアが眉を寄せる。
「黒門の中なのに、色が違う」
その瞬間、俺の頭に、第一環突破時に流れ込んだ“複数の門”の記録がよみがえる。
黒。
白。
青。
それぞれ別の門。
まさか。
「これ、他環門の気配かもしれない」
「えっ」
ミリアが息を呑む。
UIも、それを裏づけるように表示した。
⸻
【未確認側路を検出】
【第一環内部接続路の可能性】
【先に青系統反応を確認】
【詳細不明】
⸻
「やっぱり……」
思わず呟く。
第一環の中に、別の門系統へ繋がる可能性のある道。
それが今、帰還路を守ったことで開いた。
「……行く?」
ミリアが小さく訊く。
その問いに、俺はすぐには答えられなかった。
行きたい。
正直、ものすごく気になる。
でも今ここで踏み込むのは、準備不足にも程がある。
第一環再接触の目的は達した。
帰還路の安定も確認した。
ここで欲を出すのは、黒門が一番待っている展開かもしれない。
「……今日は行かない」
俺ははっきり言った。
ミリアが目を丸くする。
「珍しい」
「俺だって学習する」
「ほんとに?」
「今回はほんとに」
ルクスとネフィも、今は静かだった。
無理に進みたがる感じはない。
むしろ、あの青白い側路を警戒しているように見える。
だったら答えは出ている。
「帰る。情報を持って」
「賛成」
ミリアもすぐ頷いた。
「それでいいわ。今ここで別ルートとか、さすがに怖すぎる」
同感だった。
俺はもう一度、青白い側路を見た。
第一環の先。
黒門の内側に、別の色の気配。
それはきっと、この世界の謎そのものへ繋がっている。
でも今日はまだ、その時じゃない。
「……次は、お前の正体も見に行くからな」
小さくそう呟いて、俺は帰還路へ向き直った。
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