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69話 肩越しの視線
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朝のロビーは冷たい空気に包まれ、3人は軽く挨拶を交わした。息を白くしながら、エレベーターで会場へ向かう。
会場に着くと、スタッフたちは朝礼の準備で忙しそうに動き回る。昨日の喧騒とは打って変わり、張り詰めた静寂が場内を支配していた。
春菜は資料を抱え、ステージ袖へ歩みを進める。ふと視線の端に、昨日と同じ人物――管理者の笑みが映る。距離はあるのに、視線だけが絡みつくように刺さる。
(来ないで……今日は大丈夫、田中さんも蒼真さんもいるし……)
必死に自分に言い聞かせた瞬間、管理者が足を滑らせるように近づきかけた。
「――おはようございます。ご用件でしょうか」
低く落ち着いた声。蒼真が間に割り込む。語気は強くないが、目だけが鋭く光る。管理者は一瞬戸惑ったように微笑む。
「いや、挨拶を……」
「僕が代わりにご挨拶します」
蒼真は一歩踏み出す。周囲の空気が張りつめる。
春菜の手をかすめた時のこと――手の甲をなぞった感触、背筋に走った冷たい衝撃。あの瞬間が蘇る。胸がざわつき、資料を握る手に力が入る。
田中も声を張る。
「水沢さん、これまでの件についてですが、正式に報告しておきます。当社の社員に対する接触行為や不適切な発言・視線について、記録があります」
管理者は笑みを浮かべて誤魔化そうとするが、田中の視線は揺らがない。
「記録……?」管理者が言葉を探す間もなく、田中はスマートフォンを軽く掲げ、出張初日からの状況を示す。あくまで業務確認のための記録だ。
管理者の笑みが薄れ、言葉に詰まる。
「……そ、そうですか」
蒼真の声は低く静かだが、命令の響きを帯びている。背筋を伸ばし、目だけで管理者を圧する。
「彼女は仕事をするためにここに来ています。あなたの視線や接触は不要です。二度と近づかないでください」
周囲のスタッフが空気を察し、目線を交わす。春菜は胸が高鳴り、立ち尽くす。
田中はさらに冷静に続ける。
「この件は統括責任者に報告し、正式な対応を取ることになります。その場で処分が確定するわけではありませんが、あなたには近くに留まってもらう必要はありません」
管理者は小さく肩をすくめ、その場を離れた。蒼真はすっと春菜の横に立ち、肩が触れそうな距離で視線を向ける。
春菜は胸の奥で小さく息をつく。やっと安全が確保された実感に、肩の力が抜けた。
「……ありがとうございました」
声が少し震えながらも、春菜は田中と蒼真の方に向き直る。
「……守っていただいて、本当に助かりました」
蒼真は視線を柔らかくして、低く返す。
「大丈夫です。君が安心して仕事できる環境を作るのは当然のことです」
田中も微笑みを返す。
「こちらも記録や確認ができてよかったです。水沢さんも落ち着いて仕事に取り組めますね」
春菜は深く頷き、胸の中で安堵が広がった。
(……助けてもらった。ちゃんとお礼を言えてよかった)
---
その後のリハーサル準備では、春菜は落ち着いた表情で資料を抱え、進行表の確認を始める。
田中が近づき資料を確認する瞬間も、蒼真は自然に横に立ち、肩が触れそうな距離で視線を春菜に向け続ける。
春菜は心臓の高鳴りを感じながらも、視線を逸らさずメモを取る。
(守ってくれた……感謝の気持ちを忘れずに、しっかり準備しよう)
蒼真の胸の奥には、田中が春菜に近づくたびにわずかにざわつく感覚が芽生え始める。
しかし表情や言葉には出さず、あくまで仕事のフォローとして動く。その嫉妬の種は、夜まで静かにくすぶり続けるのだった。
会場に着くと、スタッフたちは朝礼の準備で忙しそうに動き回る。昨日の喧騒とは打って変わり、張り詰めた静寂が場内を支配していた。
春菜は資料を抱え、ステージ袖へ歩みを進める。ふと視線の端に、昨日と同じ人物――管理者の笑みが映る。距離はあるのに、視線だけが絡みつくように刺さる。
(来ないで……今日は大丈夫、田中さんも蒼真さんもいるし……)
必死に自分に言い聞かせた瞬間、管理者が足を滑らせるように近づきかけた。
「――おはようございます。ご用件でしょうか」
低く落ち着いた声。蒼真が間に割り込む。語気は強くないが、目だけが鋭く光る。管理者は一瞬戸惑ったように微笑む。
「いや、挨拶を……」
「僕が代わりにご挨拶します」
蒼真は一歩踏み出す。周囲の空気が張りつめる。
春菜の手をかすめた時のこと――手の甲をなぞった感触、背筋に走った冷たい衝撃。あの瞬間が蘇る。胸がざわつき、資料を握る手に力が入る。
田中も声を張る。
「水沢さん、これまでの件についてですが、正式に報告しておきます。当社の社員に対する接触行為や不適切な発言・視線について、記録があります」
管理者は笑みを浮かべて誤魔化そうとするが、田中の視線は揺らがない。
「記録……?」管理者が言葉を探す間もなく、田中はスマートフォンを軽く掲げ、出張初日からの状況を示す。あくまで業務確認のための記録だ。
管理者の笑みが薄れ、言葉に詰まる。
「……そ、そうですか」
蒼真の声は低く静かだが、命令の響きを帯びている。背筋を伸ばし、目だけで管理者を圧する。
「彼女は仕事をするためにここに来ています。あなたの視線や接触は不要です。二度と近づかないでください」
周囲のスタッフが空気を察し、目線を交わす。春菜は胸が高鳴り、立ち尽くす。
田中はさらに冷静に続ける。
「この件は統括責任者に報告し、正式な対応を取ることになります。その場で処分が確定するわけではありませんが、あなたには近くに留まってもらう必要はありません」
管理者は小さく肩をすくめ、その場を離れた。蒼真はすっと春菜の横に立ち、肩が触れそうな距離で視線を向ける。
春菜は胸の奥で小さく息をつく。やっと安全が確保された実感に、肩の力が抜けた。
「……ありがとうございました」
声が少し震えながらも、春菜は田中と蒼真の方に向き直る。
「……守っていただいて、本当に助かりました」
蒼真は視線を柔らかくして、低く返す。
「大丈夫です。君が安心して仕事できる環境を作るのは当然のことです」
田中も微笑みを返す。
「こちらも記録や確認ができてよかったです。水沢さんも落ち着いて仕事に取り組めますね」
春菜は深く頷き、胸の中で安堵が広がった。
(……助けてもらった。ちゃんとお礼を言えてよかった)
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その後のリハーサル準備では、春菜は落ち着いた表情で資料を抱え、進行表の確認を始める。
田中が近づき資料を確認する瞬間も、蒼真は自然に横に立ち、肩が触れそうな距離で視線を春菜に向け続ける。
春菜は心臓の高鳴りを感じながらも、視線を逸らさずメモを取る。
(守ってくれた……感謝の気持ちを忘れずに、しっかり準備しよう)
蒼真の胸の奥には、田中が春菜に近づくたびにわずかにざわつく感覚が芽生え始める。
しかし表情や言葉には出さず、あくまで仕事のフォローとして動く。その嫉妬の種は、夜まで静かにくすぶり続けるのだった。
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