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15話 やさしい風
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別れてから1週間が過ぎた頃だった。春菜はいつもより早く家を出た。彼女の心にはまだ癒えない痛みがある。
「今日は、普通に振る舞う」――そう自分に言い聞かせながら。
オフィスに到着すると、いつものようにデスクに向かう。仕事に集中していると、優斗のことを考える時間も減る。それが、今の春菜には必要だった。
昼過ぎ、スマホに通知が入った。差出人は、蒼真だった。
《今日、お時間取れますか?少し話をしたくて》
春菜はすぐに返事を打った。
《はい、大丈夫です》
夕方、彼女はKITE社を訪れた。受付を通り、応接室の扉を開けると、そこにはジャケットを脱いでソファに腰かけている蒼真の姿があった。シャツの袖を無造作にまくり、リラックスした雰囲気が漂っている。その目元には穏やかな気遣いが宿っていた。
「お疲れさまです」
春菜が挨拶すると、蒼真は静かに頷いた。そして、少し躊躇したあと、口を開いた。
「急に呼び出してしまって申し訳ありません。...正直に言うと、仕事の件もありますが、水沢さんの様子が気になって。お節介かもしれませんが」
少し戸惑いながらも、その言葉に心の奥が温かくなった。彼の声が、優しく包み込むように響く――それが、なぜだかとても嬉しかった。
けれどその優しさに触れた瞬間、春菜は一瞬、言葉に詰まった。頭の片隅に浮かぶのは、優斗との別れ――あの泣いた夜の記憶。
蒼真は、それ以上を急かすようなことはしなかった。ただ、静かに、彼女が言葉を見つけるのを待ってくれていた。
「……ありがとうございます。正直、まだ辛いです。でも……少しずつ、時間が癒してくれると信じています」
春菜はそう言ったものの、自分の声がわずかに震えているのを感じた。
蒼真はゆっくりと頷き、穏やかな声で続けた。
「つらいときは、誰かに話すと、ほんの少しだけでも軽くなります。……僕でよければ、ですけど」
その申し出は、意外だった。だが、彼の声には一切の押しつけがなく、ただ春菜の心を労わる優しさだけが込められていた。
春菜は、息を吐いて、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……ありがとうございます。そういうの……慣れてなくて」
「僕もですよ」
蒼真は照れたように笑った。その笑顔が、春菜の心の緊張を少し和らげてくれた。
そのあとは、いつものように仕事の話に切り替わった。春菜が差し出した資料に目を通しながら、蒼真はさりげなく目を合わせ、小さく微笑む。
まるで「無理しなくていい」と伝えるかのように――。
オフィスの中には穏やかで静かな時間が流れていた。
春菜はふと、複雑な想いが心をよぎった。自分の心が蒼真に向かってしまったのは、いつからだったのだろう。
(もしかしたら私も、どこかで逃げ道を求めていたのかもしれない)
その想いが、静かに心に沈んでいった。
「今日は、普通に振る舞う」――そう自分に言い聞かせながら。
オフィスに到着すると、いつものようにデスクに向かう。仕事に集中していると、優斗のことを考える時間も減る。それが、今の春菜には必要だった。
昼過ぎ、スマホに通知が入った。差出人は、蒼真だった。
《今日、お時間取れますか?少し話をしたくて》
春菜はすぐに返事を打った。
《はい、大丈夫です》
夕方、彼女はKITE社を訪れた。受付を通り、応接室の扉を開けると、そこにはジャケットを脱いでソファに腰かけている蒼真の姿があった。シャツの袖を無造作にまくり、リラックスした雰囲気が漂っている。その目元には穏やかな気遣いが宿っていた。
「お疲れさまです」
春菜が挨拶すると、蒼真は静かに頷いた。そして、少し躊躇したあと、口を開いた。
「急に呼び出してしまって申し訳ありません。...正直に言うと、仕事の件もありますが、水沢さんの様子が気になって。お節介かもしれませんが」
少し戸惑いながらも、その言葉に心の奥が温かくなった。彼の声が、優しく包み込むように響く――それが、なぜだかとても嬉しかった。
けれどその優しさに触れた瞬間、春菜は一瞬、言葉に詰まった。頭の片隅に浮かぶのは、優斗との別れ――あの泣いた夜の記憶。
蒼真は、それ以上を急かすようなことはしなかった。ただ、静かに、彼女が言葉を見つけるのを待ってくれていた。
「……ありがとうございます。正直、まだ辛いです。でも……少しずつ、時間が癒してくれると信じています」
春菜はそう言ったものの、自分の声がわずかに震えているのを感じた。
蒼真はゆっくりと頷き、穏やかな声で続けた。
「つらいときは、誰かに話すと、ほんの少しだけでも軽くなります。……僕でよければ、ですけど」
その申し出は、意外だった。だが、彼の声には一切の押しつけがなく、ただ春菜の心を労わる優しさだけが込められていた。
春菜は、息を吐いて、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……ありがとうございます。そういうの……慣れてなくて」
「僕もですよ」
蒼真は照れたように笑った。その笑顔が、春菜の心の緊張を少し和らげてくれた。
そのあとは、いつものように仕事の話に切り替わった。春菜が差し出した資料に目を通しながら、蒼真はさりげなく目を合わせ、小さく微笑む。
まるで「無理しなくていい」と伝えるかのように――。
オフィスの中には穏やかで静かな時間が流れていた。
春菜はふと、複雑な想いが心をよぎった。自分の心が蒼真に向かってしまったのは、いつからだったのだろう。
(もしかしたら私も、どこかで逃げ道を求めていたのかもしれない)
その想いが、静かに心に沈んでいった。
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