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16話 静かな夜、胸の奥で
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いつものように遅くまで残っていたオフィスで、忙しい毎日に追われながらも、春菜の心には時折、空虚な感覚が広がった。けれど、その空白を誰かに埋めてほしいとまでは、思わなかった。――少なくとも、そう思い込もうとしていた。
「春菜さん、お先に失礼します」
同僚が声をかけてきて、春菜は笑顔を返す。
「お疲れさまでした。気をつけてくださいね」
オフィスに残ったのは、数名だけ。パソコンの画面を見つめながら、春菜は静かにため息をついた。資料のチェックはあと少し。もう少しだけ、頑張ろう――そう思った矢先、画面の隅に映った日付が目に入った。
――この日、初めて出かけたんだっけ。
優斗との思い出が、不意に心の底から立ち上がる。手をつないだときの温もり。笑い合った横顔。あの夜、最後に見た彼。
けれど、その痛みの根は、決して単純ではなかった。
春菜は、心に残るもやもやとした感情を思い返していた。優斗と一緒にいて、幸せな瞬間も確かにあった。だけど、どこかで感じていたのだ。彼の視線が、時折、誰か別の人に向いていることを。
(きっと、晃くんだったんだよね……)
優斗の中にある晃への想い。好きになる相手に性別は関係ない。そう頭では理解できても、気持ちが追いつかなかった。
(何かが違うって、薄々感じてた。でも、それが何なのか、向き合うのが怖かった。だからこそ、私も……)
「自分だけを見ていてほしかった」――そんな独占欲が、優斗の本当の気持ちを見ようとしない言い訳になっていたのかもしれない。
春菜は、バッグの中からスマートフォンを取り出す。ホーム画面に浮かんだ優斗との写真。彼の笑顔の隣で、自分も笑っている。
「ごめんね……」
画面をロックして、机の上に置いた。
そのとき、スマホが小さく震えた。
《高瀬社長:お疲れさまです。明日の打ち合わせですが、10時で問題ないでしょうか?》
たったそれだけの業務連絡なのに、春菜の手が、ほんのわずかに止まった。彼の名前を見るだけで、どこか安心するような気がしてしまうのは――きっと、疲れているせいだ。
《水沢:はい、大丈夫です。明日よろしくお願いします》
送信ボタンを押したあと、しばらく画面を見つめていたが、返信は来なかった。
けれどそれでよかった。まだ、何かが動き出すには、少しだけ時間が必要だから。優斗への不安から生まれた感情だったのか、それとも本当の想いなのか――それを見極めるためにも。
春菜はスマホを鞄にしまい、静かなオフィスをあとにした。
「春菜さん、お先に失礼します」
同僚が声をかけてきて、春菜は笑顔を返す。
「お疲れさまでした。気をつけてくださいね」
オフィスに残ったのは、数名だけ。パソコンの画面を見つめながら、春菜は静かにため息をついた。資料のチェックはあと少し。もう少しだけ、頑張ろう――そう思った矢先、画面の隅に映った日付が目に入った。
――この日、初めて出かけたんだっけ。
優斗との思い出が、不意に心の底から立ち上がる。手をつないだときの温もり。笑い合った横顔。あの夜、最後に見た彼。
けれど、その痛みの根は、決して単純ではなかった。
春菜は、心に残るもやもやとした感情を思い返していた。優斗と一緒にいて、幸せな瞬間も確かにあった。だけど、どこかで感じていたのだ。彼の視線が、時折、誰か別の人に向いていることを。
(きっと、晃くんだったんだよね……)
優斗の中にある晃への想い。好きになる相手に性別は関係ない。そう頭では理解できても、気持ちが追いつかなかった。
(何かが違うって、薄々感じてた。でも、それが何なのか、向き合うのが怖かった。だからこそ、私も……)
「自分だけを見ていてほしかった」――そんな独占欲が、優斗の本当の気持ちを見ようとしない言い訳になっていたのかもしれない。
春菜は、バッグの中からスマートフォンを取り出す。ホーム画面に浮かんだ優斗との写真。彼の笑顔の隣で、自分も笑っている。
「ごめんね……」
画面をロックして、机の上に置いた。
そのとき、スマホが小さく震えた。
《高瀬社長:お疲れさまです。明日の打ち合わせですが、10時で問題ないでしょうか?》
たったそれだけの業務連絡なのに、春菜の手が、ほんのわずかに止まった。彼の名前を見るだけで、どこか安心するような気がしてしまうのは――きっと、疲れているせいだ。
《水沢:はい、大丈夫です。明日よろしくお願いします》
送信ボタンを押したあと、しばらく画面を見つめていたが、返信は来なかった。
けれどそれでよかった。まだ、何かが動き出すには、少しだけ時間が必要だから。優斗への不安から生まれた感情だったのか、それとも本当の想いなのか――それを見極めるためにも。
春菜はスマホを鞄にしまい、静かなオフィスをあとにした。
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