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④ 見えない視線
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翌週、いつものように放送が始まった。
リスナーたちとの軽妙なやり取りが続き、スタジオは和やかな空気に包まれていた。
中盤、悠の元に一通のメールが届く。差出人は「四葉のクローバー」だった。
「『月島さん、こんばんは。今日も声を聴けて嬉しかったです。
少し疲れているように感じましたが、それでも“誰かに届けたい”という想いは、ちゃんと伝わっています。
ラジオを通して、私も前を向けることができています。
今夜は、ゆっくり休めますように。』」
温かな言葉が胸に沁みる。悠は思わず笑みを浮かべ、静かに応えた。
「四葉のクローバーさん、こんばんは。
メッセージ、ありがとうございます。少し沈んでいた気持ちが、ふっと軽くなりました。
顔も名前も知らないのに、こうして心が繋がれるのは、ラジオならではですね。
僕も、そんな言葉を届けられていたなら嬉しいです。
今夜は、安心して眠れそうです」
スタジオに優しい空気が流れる。だが、その次に読み上げたメールが、雰囲気を一変させた。
「『夜の住人』さんから……」
「『月島さん、いつも放送を楽しみにしています。
昨日のスタジオ、窓際の花がとても綺麗でしたね。
月島さんがその前で話している姿を、ずっと見ていました。
今日も、あなたの声が聞けて幸せです。』」
悠は一瞬、言葉に詰まった。
スタジオの窓際に白い花が飾られているのは確かだ。しかし、その位置は外からは見えないはずだった。
「……ありがとうございます。お花、気に入ってもらえてよかったです」
何とか返答したものの、胸の奥に不安の影が差し込む。
放送後、井上が心配そうに声をかけてきた。
「悠さん、さっきのメール……ちょっと気になりませんでした?」
「うん。スタジオのこと、詳しすぎる気がする」
「念のため、警備には話しておきます。最近、建物の周りで不審な人影を見かけたって報告もあるんで」
悠は頷いたが、不安は胸の底に残ったままだった。
*
同じ頃、高校の放送室では遅くまで録音作業が続いていた。
つばさがふうっと息を吐き出す。
「よかったぁ……さっきのセリフ、ほんとに緊張したー。胸の奥から出す感じしたもん」
「その“感じ”がたぶん、聴いてる人に届くんだよ」
さちが笑って応じる。
すずりは原稿を持ったまま、小さくうなずいた。だが、その目は一行の言葉をじっと見つめている。
「すずり、そのページ……何か気になる?」
みどりが優しく問いかける。
「……逆かも。書いてると、自分の奥から“誰かに届いてほしい”って気持ちが出てきて……」
すずりの声は震えていた。
「だからこわい。届かなかったらどうしようって。でも、声にしたくなるんです」
みどりは静かにうなずいた。
「怖いのは、それだけ本気だから。声は正直だからね。迷いも、願いも、全部のっかる」
「じゃあさ、最後のナレーション、やってみようよ」
つばさが勢いよく言った。
「今の気持ちで。音とか編集とか、あとでどうにかなるし!」
「……うん、やってみる」
すずりはマイクの前に立ち、ヘッドホンをつける。
静寂を切り裂くように、声が放たれた。
「――言葉にした瞬間、それは、ただの“気持ち”じゃなくなる。
声にした瞬間、それは、どこかの誰かの“風景”になるかもしれない。
わたしは今、信じてみたい。この声が、届く場所を」
その声は、まっすぐだった。震えも迷いも含んだまま、どこかを目指していた。
録音が終わると、しばし沈黙が訪れる。
「……泣きそうになった」つばさがつぶやく。
「私も」さちも笑った。
「ねぇ、今の……本番でも使えるくらい、すごくいいんじゃない?」
みどりが目を閉じ、深呼吸をして言った。
「じゃあ……しばらくは、それで練習してみよう」
すずりの声は少しだけ弾んでいた。
*
夜。放送を終えた悠は帰宅の途中、妙な違和感を覚えた。
背後から視線を感じ、何度か振り返る。だが誰もいない。
「……気のせいかな」
そう思いながらマンションに入ると、郵便受けに封筒が差し込まれていた。
差出人の欄には――「夜の住人」。
悠の手が震える。封を開けると、丁寧な字で書かれた手紙が現れた。
『月島さん、いつも素敵な放送をありがとうございます。
あなたの声を聞いていると、とても安らぎます。
もっと近くで、あなたの声を聞いてみたいです。
きっと、いつか直接お会いできる日が来ると信じています。』
悠は慌てて井上に電話をかけた。
「井上さん……自宅の住所を知られてるみたいで」
「えっ!? それはまずいですね。すぐ警察に相談しましょう」
その夜、悠は眠れなかった。
カーテンを閉め切り、鍵を何度も確かめる。
窓の外から響く足音に、心臓が鐘のように鳴り響く。
ラジオが「癒しの場所」から「恐怖の種」へと変わり始めていることを、悠は痛感していた。
それでも――「四葉のクローバー」の言葉を思い出すと、わずかに心が和らいだ。
明日も、誰かに声を届けよう。そう決意して、悠は目を閉じた。
リスナーたちとの軽妙なやり取りが続き、スタジオは和やかな空気に包まれていた。
中盤、悠の元に一通のメールが届く。差出人は「四葉のクローバー」だった。
「『月島さん、こんばんは。今日も声を聴けて嬉しかったです。
少し疲れているように感じましたが、それでも“誰かに届けたい”という想いは、ちゃんと伝わっています。
ラジオを通して、私も前を向けることができています。
今夜は、ゆっくり休めますように。』」
温かな言葉が胸に沁みる。悠は思わず笑みを浮かべ、静かに応えた。
「四葉のクローバーさん、こんばんは。
メッセージ、ありがとうございます。少し沈んでいた気持ちが、ふっと軽くなりました。
顔も名前も知らないのに、こうして心が繋がれるのは、ラジオならではですね。
僕も、そんな言葉を届けられていたなら嬉しいです。
今夜は、安心して眠れそうです」
スタジオに優しい空気が流れる。だが、その次に読み上げたメールが、雰囲気を一変させた。
「『夜の住人』さんから……」
「『月島さん、いつも放送を楽しみにしています。
昨日のスタジオ、窓際の花がとても綺麗でしたね。
月島さんがその前で話している姿を、ずっと見ていました。
今日も、あなたの声が聞けて幸せです。』」
悠は一瞬、言葉に詰まった。
スタジオの窓際に白い花が飾られているのは確かだ。しかし、その位置は外からは見えないはずだった。
「……ありがとうございます。お花、気に入ってもらえてよかったです」
何とか返答したものの、胸の奥に不安の影が差し込む。
放送後、井上が心配そうに声をかけてきた。
「悠さん、さっきのメール……ちょっと気になりませんでした?」
「うん。スタジオのこと、詳しすぎる気がする」
「念のため、警備には話しておきます。最近、建物の周りで不審な人影を見かけたって報告もあるんで」
悠は頷いたが、不安は胸の底に残ったままだった。
*
同じ頃、高校の放送室では遅くまで録音作業が続いていた。
つばさがふうっと息を吐き出す。
「よかったぁ……さっきのセリフ、ほんとに緊張したー。胸の奥から出す感じしたもん」
「その“感じ”がたぶん、聴いてる人に届くんだよ」
さちが笑って応じる。
すずりは原稿を持ったまま、小さくうなずいた。だが、その目は一行の言葉をじっと見つめている。
「すずり、そのページ……何か気になる?」
みどりが優しく問いかける。
「……逆かも。書いてると、自分の奥から“誰かに届いてほしい”って気持ちが出てきて……」
すずりの声は震えていた。
「だからこわい。届かなかったらどうしようって。でも、声にしたくなるんです」
みどりは静かにうなずいた。
「怖いのは、それだけ本気だから。声は正直だからね。迷いも、願いも、全部のっかる」
「じゃあさ、最後のナレーション、やってみようよ」
つばさが勢いよく言った。
「今の気持ちで。音とか編集とか、あとでどうにかなるし!」
「……うん、やってみる」
すずりはマイクの前に立ち、ヘッドホンをつける。
静寂を切り裂くように、声が放たれた。
「――言葉にした瞬間、それは、ただの“気持ち”じゃなくなる。
声にした瞬間、それは、どこかの誰かの“風景”になるかもしれない。
わたしは今、信じてみたい。この声が、届く場所を」
その声は、まっすぐだった。震えも迷いも含んだまま、どこかを目指していた。
録音が終わると、しばし沈黙が訪れる。
「……泣きそうになった」つばさがつぶやく。
「私も」さちも笑った。
「ねぇ、今の……本番でも使えるくらい、すごくいいんじゃない?」
みどりが目を閉じ、深呼吸をして言った。
「じゃあ……しばらくは、それで練習してみよう」
すずりの声は少しだけ弾んでいた。
*
夜。放送を終えた悠は帰宅の途中、妙な違和感を覚えた。
背後から視線を感じ、何度か振り返る。だが誰もいない。
「……気のせいかな」
そう思いながらマンションに入ると、郵便受けに封筒が差し込まれていた。
差出人の欄には――「夜の住人」。
悠の手が震える。封を開けると、丁寧な字で書かれた手紙が現れた。
『月島さん、いつも素敵な放送をありがとうございます。
あなたの声を聞いていると、とても安らぎます。
もっと近くで、あなたの声を聞いてみたいです。
きっと、いつか直接お会いできる日が来ると信じています。』
悠は慌てて井上に電話をかけた。
「井上さん……自宅の住所を知られてるみたいで」
「えっ!? それはまずいですね。すぐ警察に相談しましょう」
その夜、悠は眠れなかった。
カーテンを閉め切り、鍵を何度も確かめる。
窓の外から響く足音に、心臓が鐘のように鳴り響く。
ラジオが「癒しの場所」から「恐怖の種」へと変わり始めていることを、悠は痛感していた。
それでも――「四葉のクローバー」の言葉を思い出すと、わずかに心が和らいだ。
明日も、誰かに声を届けよう。そう決意して、悠は目を閉じた。
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