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⑱ 届く声になるために
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放課後の放送室。
全国大会まで、あと1週間。
すずりは椅子に座り、膝の上の台本を見つめる。隣にはみどりと、つばさ、さちが静かに耳を傾けていた。
「じゃあ……ここから、プロローグの頭から読んでみようか」
みどりの言葉に、すずりは深呼吸する。胸の奥が、少しだけ震えた。
——マイクはない。ただの読み合わせ。けれど今日は、三人で声を合わせる。
---
さち(静かに、ゆったり)
「雨の音が遠くに残る夏の夕方……
校庭に蝉の声が途切れ途切れに降り注ぐ。
木々の間を風が通り抜け、影がゆらゆら揺れる…」
すずり(小さめ、少し照れた声で)
「でも、僕の目に映る君は…
静かに木陰に座ったまま――
まるで地中にいる蝉みたいに…
表には出さないけれど、確かにそこにいる。」
つばさ(柔らかく、少し内向的に)
「でも、私はひとりだった。
雨の日の水たまりに、ひとりぼっちの空を映していた…
その水面の奥に、君の姿をそっと思い描く。」
さち(情景描写を重ねて)
「夕陽が校庭をオレンジ色に染め、影が長く伸びる…
蝉の声はどこか切なく、でも力強く響いている。」
すずり(少し息を整えながら)
「授業の合間、教室の窓越しに見えた笑顔。
声は小さいのに、不思議と存在感だけははっきりしていて。
ノートに落書きをしながら、何度も目で追ってしまう。」
つばさ(少し感情を込めて)
「私の胸の奥も、君の存在でいっぱいになる。
夏の匂いが、心の中に広がっていく…
もし、この気持ちが届くなら、きっと世界が少し輝くようで。」
さち(余韻を持たせて)
「蝉の声に混じって、遠くで雨の音が響く…
放課後の校庭には、まだ柔らかい光が残っている。」
すずり(心の声を少し強めに)
「だけど、僕の胸の中では…
もう君の声が鳴き始めている。」
つばさ(そっと呼びかけるように)
「ああ、伝えたい…
私の心も、君に届いてほしい…」
さち(情景を重ねながら、少し間を取る)
「蝉の声にかき消されるように、風が木の葉を揺らす…」
すずり(静かに、心の中で)
「僕はそっと…」
つばさ(重ねて)
「私はそっと…」
三人(一緒に、余韻を持たせて)
「心の中で呼ぶ――
その声は、蝉の音に溶けて、夏の空に広がった。」
さち(締めるように)
「水たまりの奥にあるのは、忘れられた想い――
夏の夕方は、まだ終わらない。」
---
読み終わったあと、放送室に静寂が満ちる。
「……うん。すごくいい。前より表現が豊かになってるわ」
みどりがぽつりとつぶやいた。
さち「……そう言ってもらえると、ちょっとほっとします」
つばさ「前より、自分の想いを素直に出せた気がする。」
すずり「孤独とか、胸の奥の想いを、ただ声にするだけじゃなくて、みんなの声と重ねることで広がるっていうか……表現が厚くなる感じがした」
みどり 「そうね。地区大会では、あなたの『私』視点での孤独や想いがすごく鮮明だった。でも今回は、つばさやさちの視点が加わったことで、同じ作品でも立体感が生まれてる。…片思いの微妙な揺らぎなんかもね。」
さち
「……私の読むところも、変じゃなかったですか」
つばさ
「変じゃないよ。さちの気持ちが入ることで、すずりの視点だけじゃ見えなかった景色が見えてくる。水たまりの奥の想いが、もっと広がる感じ。」
すずり「そっか……地区大会の時の作品のコアは変わってないんだね。ただ、私たちの成長や、感じたことを声に乗せたことで、成長したってことかな」
みどり「その通り。作品の本質は『水たまりの奥にあるのは、忘れられた想い』。でもその“忘れられた想い”の形そのものが、あなたたちの成長で少しずつ色を帯びてきたのよ。」
さち
「……じゃあ、全国大会でも、ちゃんと丁寧に読まなきゃね」
つばさ「うん。みんなで声を重ねれば、きっともっと届く。」
すずり「私も、前より確かに声に出したい想いが見えてきた。だから、ちゃんと届けるんだ……。」
---
放課後の喫茶店。
さち
「……もう全国大会なんだなぁ。信じられないくらい早い。」
小さな声だったが、胸の奥の高鳴りが隠せない。目の前の台本に指を滑らせながら、言葉にならない期待と不安が入り混じる。
つばさ
「すごいよね!ちょっと緊張するけど、みんなで頑張れば絶対大丈夫だよ!私たちの声、届けようね!」
そう言いながら、胸の奥がじんわり熱くなる。
不安よりも、期待の方が強い。
――この二人と一緒なら、きっと大丈夫。
そう自然に思えた。
すずり
「私も……前より、少し強くなった気がする。孤独だった『私』の想いも、みんなと一緒ならちゃんと伝えられる。」
思い返すのは、廃校の放送室で月島さんと話した時。秘密を打ち明けて、理解してもらえた。あの時から、少しだけ、一人じゃないって思えるようになった。
さち
「私たち、少しずつ変わったんだね……でも、作品のコアはそのまま。水たまりの奥にある想い――」
つばさが頷く。
つばさ
「うん。だから、怖がらなくてもいい。私たちの声と想いを重ねれば、きっと、聴いてくれる人に届く。」
すずり
「私は……この声で、私たちの想いを届ける。孤独だった『私』も、きっと、今なら輝ける。」
三人は互いに視線を交わす。言葉に出さなくても、心の中で「大丈夫」と確認し合うような静かな連帯感。夏の余韻と共に、静かに温かい空気で満ちていた。
蝉の声が再び途切れ、風が木の葉を揺らす音が微かに響く。
全国大会の朝は、もうすぐだ。
全国大会まで、あと1週間。
すずりは椅子に座り、膝の上の台本を見つめる。隣にはみどりと、つばさ、さちが静かに耳を傾けていた。
「じゃあ……ここから、プロローグの頭から読んでみようか」
みどりの言葉に、すずりは深呼吸する。胸の奥が、少しだけ震えた。
——マイクはない。ただの読み合わせ。けれど今日は、三人で声を合わせる。
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さち(静かに、ゆったり)
「雨の音が遠くに残る夏の夕方……
校庭に蝉の声が途切れ途切れに降り注ぐ。
木々の間を風が通り抜け、影がゆらゆら揺れる…」
すずり(小さめ、少し照れた声で)
「でも、僕の目に映る君は…
静かに木陰に座ったまま――
まるで地中にいる蝉みたいに…
表には出さないけれど、確かにそこにいる。」
つばさ(柔らかく、少し内向的に)
「でも、私はひとりだった。
雨の日の水たまりに、ひとりぼっちの空を映していた…
その水面の奥に、君の姿をそっと思い描く。」
さち(情景描写を重ねて)
「夕陽が校庭をオレンジ色に染め、影が長く伸びる…
蝉の声はどこか切なく、でも力強く響いている。」
すずり(少し息を整えながら)
「授業の合間、教室の窓越しに見えた笑顔。
声は小さいのに、不思議と存在感だけははっきりしていて。
ノートに落書きをしながら、何度も目で追ってしまう。」
つばさ(少し感情を込めて)
「私の胸の奥も、君の存在でいっぱいになる。
夏の匂いが、心の中に広がっていく…
もし、この気持ちが届くなら、きっと世界が少し輝くようで。」
さち(余韻を持たせて)
「蝉の声に混じって、遠くで雨の音が響く…
放課後の校庭には、まだ柔らかい光が残っている。」
すずり(心の声を少し強めに)
「だけど、僕の胸の中では…
もう君の声が鳴き始めている。」
つばさ(そっと呼びかけるように)
「ああ、伝えたい…
私の心も、君に届いてほしい…」
さち(情景を重ねながら、少し間を取る)
「蝉の声にかき消されるように、風が木の葉を揺らす…」
すずり(静かに、心の中で)
「僕はそっと…」
つばさ(重ねて)
「私はそっと…」
三人(一緒に、余韻を持たせて)
「心の中で呼ぶ――
その声は、蝉の音に溶けて、夏の空に広がった。」
さち(締めるように)
「水たまりの奥にあるのは、忘れられた想い――
夏の夕方は、まだ終わらない。」
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読み終わったあと、放送室に静寂が満ちる。
「……うん。すごくいい。前より表現が豊かになってるわ」
みどりがぽつりとつぶやいた。
さち「……そう言ってもらえると、ちょっとほっとします」
つばさ「前より、自分の想いを素直に出せた気がする。」
すずり「孤独とか、胸の奥の想いを、ただ声にするだけじゃなくて、みんなの声と重ねることで広がるっていうか……表現が厚くなる感じがした」
みどり 「そうね。地区大会では、あなたの『私』視点での孤独や想いがすごく鮮明だった。でも今回は、つばさやさちの視点が加わったことで、同じ作品でも立体感が生まれてる。…片思いの微妙な揺らぎなんかもね。」
さち
「……私の読むところも、変じゃなかったですか」
つばさ
「変じゃないよ。さちの気持ちが入ることで、すずりの視点だけじゃ見えなかった景色が見えてくる。水たまりの奥の想いが、もっと広がる感じ。」
すずり「そっか……地区大会の時の作品のコアは変わってないんだね。ただ、私たちの成長や、感じたことを声に乗せたことで、成長したってことかな」
みどり「その通り。作品の本質は『水たまりの奥にあるのは、忘れられた想い』。でもその“忘れられた想い”の形そのものが、あなたたちの成長で少しずつ色を帯びてきたのよ。」
さち
「……じゃあ、全国大会でも、ちゃんと丁寧に読まなきゃね」
つばさ「うん。みんなで声を重ねれば、きっともっと届く。」
すずり「私も、前より確かに声に出したい想いが見えてきた。だから、ちゃんと届けるんだ……。」
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放課後の喫茶店。
さち
「……もう全国大会なんだなぁ。信じられないくらい早い。」
小さな声だったが、胸の奥の高鳴りが隠せない。目の前の台本に指を滑らせながら、言葉にならない期待と不安が入り混じる。
つばさ
「すごいよね!ちょっと緊張するけど、みんなで頑張れば絶対大丈夫だよ!私たちの声、届けようね!」
そう言いながら、胸の奥がじんわり熱くなる。
不安よりも、期待の方が強い。
――この二人と一緒なら、きっと大丈夫。
そう自然に思えた。
すずり
「私も……前より、少し強くなった気がする。孤独だった『私』の想いも、みんなと一緒ならちゃんと伝えられる。」
思い返すのは、廃校の放送室で月島さんと話した時。秘密を打ち明けて、理解してもらえた。あの時から、少しだけ、一人じゃないって思えるようになった。
さち
「私たち、少しずつ変わったんだね……でも、作品のコアはそのまま。水たまりの奥にある想い――」
つばさが頷く。
つばさ
「うん。だから、怖がらなくてもいい。私たちの声と想いを重ねれば、きっと、聴いてくれる人に届く。」
すずり
「私は……この声で、私たちの想いを届ける。孤独だった『私』も、きっと、今なら輝ける。」
三人は互いに視線を交わす。言葉に出さなくても、心の中で「大丈夫」と確認し合うような静かな連帯感。夏の余韻と共に、静かに温かい空気で満ちていた。
蝉の声が再び途切れ、風が木の葉を揺らす音が微かに響く。
全国大会の朝は、もうすぐだ。
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