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墓標――ふたりで謳う終わりの歌
アンフェールと裂界の底と祭壇
しおりを挟むアンフェールは慣れた調子で裂界を下降していく。
下に行くにつれ魔素は濃密になっていく。底まで降りれば濃密な魔素の海だ。所々に噴気孔があり、音を立てる勢いで魔素が噴出している。
噴気孔はあまり大きくない。その分、数が多い感じだ。岩場にぽっかりと空いた穴の周囲は紫に変色している。
噴気孔の無い丁度いい広さの場所があったので、そこに墓地――祭壇を建築している。
墓地づくりを始めて十日目になる。
作業中は人型をとっている。この方が細かい作業に向くのだ。精霊の力を借りながらであっても、彫刻のような繊細さを求められるものは竜体では難しい。
作業着はここに置きっぱなしにしているので、サッと着替えてテキパキと進めていく。
(どうせ作るなら美しくしたいからな。いずれ自然に還るとはいえ、皆が眠る場所なのだ)
本日も頑張った。
時間は掛ってしまったが、今日の作業で完成だ。アンフェールは引きで全景を眺めバランスを確認する。
天に昇る竜の為の祭壇、といった感じのものをつくった。
祭壇と呼ぶには巨大だ。全体の構造としては円形で、階段があり、上がれるようになっている。天井や壁が無い形なのは魔石の気化を妨げないようにする為だ。
祭壇の中心は、広く深く窪んでいる。そこに魔石を安置する予定でいる。
祭壇を降りた周囲は、等間隔に設置した石柱でぐるりと囲った。グレングリーズが作った石柱のような墓標も、そのうちの一本だ。それ以外の石柱は、アンフェールが同じデザインで新たに制作したものだ。
仕上がりは円形の遺跡っぽい。
「うむ。カッコいい」
『かこいー』
『すてき、すてき』
『あんふぇ、がんばたー』
力作が完成した、とアンフェールは満足げにふむふむ頷く。
周囲にいる精霊たちも真似っこして『ふむー』と頷いている。
「よし、一旦上に戻ろう」
『もどろー』
『きかん、きかんー』
アンフェールは服を脱いで竜体化し、浮上する。吹き上がる気流に乗れば、ポンと裂界から飛び出す勢いで戻れる。一瞬だ。
天高く舞い上がり、そこから下降する。
里の中心にグレンがいる。彼は里に魔石が残っていないかチェックしている。
グレングリーズが作った共同墓地以外にも墓所はある。略奪に来た人間に荒らされた墓もあったけど、無事だった墓もあるのだ。
『ただいまー』
「おかえり、アンフェール」
アンフェールはスマートに着地し、人型に戻る。
全裸のままグレンに駆け寄り、飛び掛かるような勢いでギュッと抱き付く。グレンは「おっと」と小さく声を零し、受け止める様に抱いてくれる。
「祭壇が完成したんだ」
「そうか。お疲れさま。こちらも魔石は全部集まったと思う」
「ありがとう、グレン」
視線をやればそこに魔石の山がある。
自然に返らない魔石は生きてきた竜の数だけ残っている。しかし魔導兵器等、燃料として使用すれば消失してしまう。だからここに残った魔石は運よく利用されずに済んだ命でもある。
「思ったより残っていて良かった」
「前世、かなり取り締まったからね。回収しては竜の谷に運んだものだよ」
「本当にありがとう……」
何から何までだ。
本来アンフェールがやるべきだった事を、グレンが代わりにしてくれた。
つい、癖のようにシュンとしてしまうと、その気配を察したのか彼は背中をポンポンしてくれた。
「番は足りない部分を補い合うんだよ。あの時、きみがいなかったから私がしただけ。だからそんなしょげないで」
「補うって……グレンは足りない部分、ある?」
「あるよ。いっぱい。アンフェールだって知っているだろう? 出会った頃の情けない私を。……ふふ。埋め合わせるの大変だと思うよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
なら、グレンの足りない部分を見つけたら補おう、手助けしよう、とアンフェールは決意する。
彼が立派に育ってしまったせいで、すぐに思いつかないけれど。
「このまま魔石、下に運んじゃおうかな」
「アンフェール、祭壇を見る事は出来ないだろうか?」
「魔素がかなり濃いから連れて行くのはちょっと……」
グレンの見届けたい気持ちが分かるだけに、アンフェールの顔は渋くなる。
魔素防護服はあるけれど、万一を考えたら了承できない。それ位最深部の魔素は濃いのだ。
ううん、の考え込むと、アンフェールの周囲をぴかぴかが飛び回りだした。無言のアピールのようにアンフェールの視界の前で八の字ターンを決めている。
はっ、とアンフェールは思いつく。
「精霊の力を借りよう。視覚を私と繋ぐから。現場にはいかないけれど見れるよ」
「……!」
「これも、補い合いかな?」
「ああ、そうだな。嬉しい。アンフェールの力作を見たかったんだ」
そういえば、光の上位精霊と契約したおかげで、視覚を繋ぐなんていう離れ業まで使えるようになったのだ。
契約したてな上、前世特に使った事の無い技なので思いつかなかった。
アンフェールは再び竜体化する。
とりあえずいっぱいの魔石を運搬しなくてはならない。なので竜体用荷袋ことリュックの中身を出して空っぽにした。そこに魔石をうんしょと詰める。
巨大なリュックがパンパンになる位だけど、一応ふたは閉まった。
「……」
『どうしたの? グレン』
「建物を壊すんだよね」
『うん』
「壁の絵も祭壇に持って行ってくれないか?」
『えっ!?』
アンフェールはビックリして声が大きくなってしまった。竜体なので音が大きい。
すごく良い絵なので、国に持ち帰ろうと考えていたのだ。ふたりの思い出も詰まっているし、時々愛でたいと思っていた。
(置いていくのか。勿体ないな……)
アンフェールは地面に着きそうなぐらい首を下げて、分かりやすくションボリする。
その様子を見たグレンは困ったように眉尻を下げた。
「あれはあくまで『墓標』だから。みんなの元に置いておきたいんだ」
『……そっか』
「合作ならこれからいくらでも出来るよ。新しく今の二人の絵を描こう」
『……! うん!』
アンフェールはぴかっと光った。現金なので、途端に嬉しくなってしまった。
そうだ。前世と違ってお互い若いんだ。これからふたりで長く生きていくのだし、合作だっていっぱい出来る。
ふたりで、ああだこうだ言いながら筆を走らせる情景を想像してみると、胸が仄かに温かくなる。
アンフェールは尻尾でのの字を書きながら、グルグルと喉を鳴らした。
(過去を想うのも良いけれど、未来を描くのはもっと良い。そうだ。そういえば精霊時代に、グレンに教えられた事だったな)
アンフェールは自宅の壁をカッティングし、『えい』と掛け声をかけて取り外した。ポコッと必要な部分だけが綺麗に外れる。
それから絵の位置が見栄えよくなるようトリミングを考えて、サイズ調整した。壁は厚かったので、自立する四角柱に絵が描いてある状態になった。
リュックサックを装着して、四角柱を抱える。これで準備万端だ。
光の精霊が行こう行こうと誘いを掛けてくる。
『つないでー』
『みるみるー?』
『うん。光の、頼む。グレンと私の視覚を繋いでくれ』
『了解した』
人間と同じサイズの光の精霊がふわりと浮き上がり、アンフェールの目に触れる。それから地面に降り立ち、グレンの目に触れた。
触れられた瞬間、視界が真っ白になる程の光を感じたけれど、アンフェール側に変化は特にない。
『グレン、どう?』
「ああ。よく見える。目線が高いな」
『視界を切ろうと思えば元に戻るから。飛行の視界で酔ったらそうしてね』
「分かった」
グレンは観賞モードだ。地面に座り、目を閉じている。
彼が気分よく見られるように、ゆったり飛んだ方がいいだろう。
『じゃあ、行ってくるね!』
アンフェールは元気に声を掛けてから、ふわりと舞い上がった。
◇◇◇
「素晴らしかった、アンフェール。あんなに美しい祭壇が、誰の目にも触れることなく裂界の底に眠っているという事に、勿体なさを感じてしまうよ」
アンフェールはグレンに見せる為にたくさん祭壇を眺めてから、里に戻った。
繋いだ視界は良好で、よく鑑賞できたらしい。グレンは頬を紅潮させて賛辞を贈ってくれた。
「グレンの『墓標』と同じだよ。あの祭壇は、それで良いんだ」
アンフェールは素直に照れた。
『誰の目にも触れない場所に弔う』という目的があるものだったから、自己満足に終始していたけれど、やはり作品として褒められると嬉しい。
「そうか。そうだな。みんなが静かに眠る場所だしな」
「年に一度でいいから墓参りに来よう。祭壇の様子も見たいし」
「ああ」
祭壇に収めた魔石は、中心の窪みがいっぱいになるくらいの量だった。気化し、全てが自然に還るには、おそらく長い時間が掛るだろう。
なので、どの程度気化に掛かるか経過は観察したいと思っている。
魔素防護服があるとはいえ、人間が裂界の底に降りてくる可能性は低いと思っている。
やはり人間や交雑種にとって高濃度魔素は怖い要素だ。アンフェールだって万一を考えてグレンを置いてきた位なのだ。
だから放っておいても誰かにここを発見される事は無いだろう。
『墓標』こと、あの壁の絵の四角柱は、祭壇上の、魔石が収まる窪みを見守る様な位置に設置した。
あの絵はかつて里を見守った古代竜と、みんなを救うために奔走した守護竜の『心』だ。
グレンの言う通り『墓標』として置いて来るのは、とても意味深い事なのだ。
「頑張ってよかった」
「ふふ。そうだな」
グレンは労う様に頭を撫でてくれた。
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