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「ふぁ……あれ、ここどこ?」

知らない部屋のベットの中で奏は目覚めた。

木とレンガでできた、童話の中にでてくるような趣のある部屋に、ふわふわの大きなベットが1つ。椅子が2つ付いた小さな机と壁掛けのハンガーには自分の着古したぼろぼろの上着と、キラキラと輝くユキの上着がかかっている。

窓の外は青空が広がっていて、どうやら町に着くどころか、1日寝過ごしてしまったようだ。

『起きたのか?』

ベットの下からガイの声が聞こえる。床を見ると、敷かれたマットの上に寝そべるガイが顔をこちらへ向けていた。

「おはよう、ガイ。昨日はありがとう。身体も楽になったよ。」

そっと身体を起こし、ガイの毛並みに手を伸ばすとガイはベットの端へ跳び乗り、奏の頬を舐める。

『そうか。体調も良さそうだな。』

ガイのふわふわの毛並みを堪能しながら、起きたばかりの回らない頭で昨日のこと、そして現状を整理していく。

「ここはどこ?それにユキは?」

ガイが答える前に扉が数回ノックされ、静かにユキが入ってくる。

「おはよう、奏。気分もよさそうだね。身体は辛くないかい?ガイも見守りをありがとう」

「おはよう、ユキ。お陰様で。このとおり何ともないよ。」

ユキは昨日と同じようにおでこに手を当てながら、奏の体調を確認する。

「うん。上手く世界に馴染んだみたいだ。お腹は空いてるかな?朝食の前に少し話がしたいんだけど」

「大丈夫だよ」

ガイと同じようにベットの縁へ腰かけたユキは、話すと長くなっちゃうからと、奏の頭に自身の手をかざして脳へと直接情報を流し込んだ。

ここがイズガルドという星のクラナド大陸ガーランド王国、デンドリッヒ領であること。
神様はこのイズガルドと地球の2つの星を担当していること。
星と言っても自分の見ていた宇宙の星ではなくて、次元も空間も異なり、帰ることは不可能であること。
神様は直接星に力を送ることができないため、星の検診などの際には、一方の星からもう片方の星へ生命を送る過程で間接的に働きかけること。
奏は10000年ぶりの選定者であり、世界を渡った時点でその使命は全て完了していること。
イズガルドは魔力に覆われた星であり、昨日奏が動けなかったのは身体を魔力に馴染ませるためであったこと。
お金を持っておらず身分証明書も無かったことから、ユキとガイと奏は地図にも載らないような小さな集落からでてきた世間知らずという設定であること。
宿の人は病弱な奏をとても心配していること。

「びょっ病弱……」

奏は地球では健康に一番気を遣って生きてきたのにと、まだ見ぬ人からの偏見に少し傷付いていた。

『昨日寝たまま宿に着いて夜も下りてこなかったからだろ。気にすることはねぇ』

ガイは奏を舐めながら元気だせと身体を擦り付けた。奏はガイの毛並みに顔を埋めて拗ね始めている。

「まだまだ必要な知識はあるんだけど、それは追々ね。さて、そろそろ朝御飯を食べに行こうか」

ユキは話を聞いて一番気になるのはそこなんだと面白がりながらガイと一体になりかけている奏を誘う。

「はーい」

『おぅ』

いろいろ脱線しつつもようやく奏は2人と新しい世界へ踏み出した。

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