イケメンとテンネン

流月るる

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結婚アイサツ編

02

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 朝陽は三人兄弟の長男だ。長男の嫁……と思ったけれど別におうちを継ぐとか同居する必要とかないとは言われている(今のところ)。だから目の前の学生っぽい男の子は大学生だと言っていた末の弟なのだろう。
 朝陽が父親似か母親似か知らないけれど弟はあまり朝陽には似ていない、でも一見さわやかな好青年風のやっぱりイケメンだ。その隣には高校生ぐらいの女の子……いまどきめずらしいのではないかと思うノーメイクで、肩にかかる髪はまいてもいなければ染めてもいない。純朴でけれど顔立ちは整っているから今は目立たないけれど、化粧とか覚えたら一気に大人びるそんな風貌だ。なにより大きな目が感情を隠さずまっすぐに私をさす。

 身に覚えがある、こういう目。

陽人はると……姫奈ひな

 朝陽が驚いて名前を呼んだ。どうやら女の子のほうも朝陽の知り合いらしい。彼女の不躾ともいえる素直な視線に気づかないように彼らの様子を見守った。
 弟くんも私と朝陽を興味深く見比べている。フライングだ、まさかご両親より先に兄弟に会うことになるとは、こういう場合どうすべきなのかわからない。

「なんでここに?」
「オレらも買い物に来たんだよ。さっきまで香奈かなも一緒だったんだぜ。兄ちゃんこそ……来週連れてくる人ってその人?」

 陽人くんはじろじろ私を見るけれど、それよりも彼の言葉にはっと目を大きく開いた姫奈ちゃんのほうが気になった。
 まずい……今の格好はどう考えてもご家族や身内にはあまりいい印象を与えないだろうことが彼らの視線でわかる。
 膝上のタイトミニ、体にぴったりとしたカットソー、せめて上着を着ていればちょっとは柔らかく見られたかもしれないけれど、暖かいデパート内では不要だった。
 せめて最初に着ていた服だったら……朝陽のばかー。

「ああ、来週紹介する予定だったけど、彼女が牧野咲希さん」
「朝陽くんもしかして結婚するの?」

 はい、確定、はい、確定。

 この口調この声音、この姫奈ちゃんどう考えても私の存在を嫌悪しているー。そして驚きと同時に浮かぶ傷ついたような表情。

「ああ」
「ふーん、兄ちゃんらしいって言えばらしいけど、らしくないっていえばらしくないね」

 はい、弟からも微妙な反応いただきました。
 陽人くんは少し困った表情をしながら、わかるようなわからないようなことを言った。





 今宮陽人いまみやはるとくんは大学三年生、木原姫奈きはらひなちゃんは高校二年生。
 今宮家の三兄弟と木原家の三姉妹は御近所さんの幼馴染という関係らしい。
 「兄ちゃんおごってー」というかわいらしい弟の願いに否をとなえられるはずもなく、私たちはみんなで中華バイキングのランチにきている。
 
 チャーハンはパラりとしていておいしいし、小籠包は肉汁がジューシーだ。丸い黒テーブルは私の隣に朝陽と陽人くんがいるために姫奈ちゃんと向かい合う羽目になっている。中華粥やちまきなどの移動車がやってきたので注文する。ふかひれスープ早くまわってこないかなあ。

 陽人くんのお皿は大学生らしく、こんもり量があったのにあっというまに空になっていてバイキングにして正解だった。かえって姫奈ちゃんはあまり食欲がないのか、一度バイキングのお料理をとったあとおかわりにはいっていない。

 私はといえば、おなかが空いていたのもあるけれどしゃべらずにすむならと食事を黙々と続けている。なので会話は今宮兄弟によるものが多い。
 陽人くんは自宅から大学に通っていることとか、真ん中の弟は社会人で地方転勤になっているので私のご挨拶のために金曜日の夜に帰ってくるらしいとか。

「姫奈は? そろそろ進路決めたころか?」

 朝陽がものすごく優しい口調で姫奈ちゃんに声をかけると、彼女は嬉しそうに頬をそめてきらきらした目で朝陽を見て答えている。朝陽に憧れているのがよくわかるシーンだ。これだけで朝陽がいままでテンネンちゃんや子リスちゃんに甘かった理由を思い知らされていた。

 木原三姉妹……姫奈ちゃんを見ているとおそらくテンネンちゃんや子リスちゃんタイプの姉妹と見た。彼女は末っ子のようだが上の姉二人も似ているのではないかと想像する。陽人くんと姫奈ちゃんを見ていると、恋人同士という空気は微塵もないので彼らにとって彼女たちは姉や妹みたいな感じなのだろう。
 おそらく本当の兄弟姉妹より仲がいい、気がする。

 だから憧れのお兄ちゃんにまとわりついている派手な女が気に食わない……図。

 確かに私は派手なほうだよー。化粧だってきちんとするし、髪だって華やかにまくし、爪の先も今日はキラキラだ。そして極め付けが朝陽の選んだ派手でエロい服(多分そう)。
 恋人として連れて歩くにはいいけれど結婚相手としてはどうかなーと思いそうな見た目だ(会社でもそう噂されたことあるしね)。
 「朝陽くんには似合わない」と姫奈ちゃんがしっかり視線で訴えているし。

 朝陽だって見た目派手なイケメンなんだから、私の見た目でもつりあうとは思うんだけどなー。姫奈ちゃんの思いが間違いでないことを弟の視線が証明していることからも、彼らから見れば私は受け入れがたいものがあるのだろう。

 ああ、来週朝陽のおうちのご挨拶嫌だなあ……。

「あ、水餃子くださーい」

 移動販売を持ってきたお姉さんに(ちなみにチャイナ服を着ていて色っぽい)私は声をかけた。






 朝陽が会計をすませたあと「お手洗いに行ってくるね」と言うと、姫奈ちゃんも「私も」と言った。私に何か言いたいことがあるんだろうなあという空気がばんばん伝わってきたので、トイレをすませたあとあえてゆっくりとパウダースペースで化粧直しをしていた。あわいピンク色の壁に横長の鏡がついていて、お化粧ポーチを置くのにちょうどいいスペースもある。

 姫奈ちゃんは手を洗った後私がいるのに気が付いて隣に立った。デパートのトイレは手洗いとパウダースペースが区切られているのがとてもいい。さらに鏡の前に立つのは私たち二人だけだ。私はあえて服にあわせて赤みの強い口紅を塗った。
 
 ふふん、これでますます派手なお姉さんだぞー。

 姫奈ちゃんは高校生らしく? マリメッコ柄のポーチからリップをだしてぬった。リップだけでも十分ピンク色の唇には艶が出てかわいらしい。若さか? 若さゆえか?

「本当に朝陽くんと結婚するんですか?」

 彼女の目は鏡の中の私から私の左手の薬指にうつっていく。

「ええ」

 にっこりと嫌みたらしく笑ってやると彼女の表情は苦痛に歪む。泣きそうにも見えるその視線を私はどうして向けられないといけないんだろう。近所に住む憧れのお兄ちゃんの相手だからってここまで好戦的なのはいかがなものか。初対面なのに。

「あなたって……朝陽くんのそばにまとわりついてお姉ちゃんをいじめていた人たちとそっくり」

 ぼそぼそっと言い放つと彼女はつんとしてそのまま逃げていく。言い逃げされたよ女子高校生に。そしてたった一言でいろんなものが見えてくる。
 ふっとそこに体を預けて鏡の中の自分を見た。
 気の強そうな目、赤く色づく唇、ふわりと大きくまかれた髪。


「お姉ちゃん、ね」


 あああああ、本気で来週の挨拶憂鬱だよ。







「すげー色っぽい姉ちゃんだね」
「おまえがどういう風に思っているかわからないけど、見た目だけで決めつけるな」

というより妙な目で咲希を見るなと言いたい。あの服はオレが楽しむために着せたものだったのに、どうやら今日はそれが裏目に出ている。まさかこんなところで弟たちに会うとは思っていなかったから。

 トイレから少し離れた喫煙コーナーのそばのソファーに腰をおろすと、陽人はそう言葉を放ってきた。彼女を連れて挨拶に行く、その意味をこいつだってきちんとわかっているはずだ。なのに咲希への視線はずっと何かを探るように疑いをかけている。陽人が何を考えているかどう思っているかはオレにだってなんとなくわかる。なんせオレが咲希を最初に見たときと同じことを感じただろうから。

 「派手でバカっぽい女。男に媚びをうりそうな軽い女」もちろんほかの男から見れば「色っぽい美人」ともとらえられるだろう。所詮好みの問題だ。そんな低い印象は、話をして仕事ぶりを見ればだんだん変化していく。
 「ああ意外にきちんとしているんだな」とか「仕事はできるな」「気は強そうだけど」オレの咲希への印象はずっとそんな感じでそのあたりからは変化しなかったのに、お手軽すぎるきっかけで崩れた。

 オレだって時間がかかったんだ。陽人に咲希の本質を見抜くことなんかできるわけがない。来週のあいさつでお嬢さんっぽい格好をしていったとしても、今日の印象が強くて払拭できない可能性は高い。

「ああいうタイプ昔も兄ちゃんのそばにいたじゃん。優奈ゆなさんと別れてから女の趣味悪くなったよな」
「おまえには咲希の良さは一生わからない。まあオレはそのほうがいいけど」

 陽人がむっとしてオレを睨む。睨みたいのはオレのほうだ。どうしてオレが付き合っている女についてこいつに文句を言われなきゃならない? オレはおまえがどんな女と付き合ったって興味なんかないのに。
 陽人の睨みから目をそらさずに対峙するとその目が泳ぎ始める。陽人はオレから目をそらしてふうっとため息をついた。

「母さんには言うなって言われていたけどさ……優奈さん今帰ってきているんだよ」

 優奈は木原家の長女だ。彼女が自分の家に帰ってくるのは別におかしいことじゃない。

「優奈さん夏に離婚したんだ。兄ちゃん、本当にあの人と結婚するの?」

 オレの中の衝動を探るような陽人の視線が逆にオレに冷静さを課した。

 優奈が離婚した。

 結婚すれば誰に訪れてもおかしくない結末、けれどそれが優奈にあてはまるとは考えもしなかった。あいつが結婚した時点でオレたちの間にあったかもしれない縁はとっくに途切れている。いいや、結婚した時点じゃない……オレたちが別れた時点で道は違えた。


「もちろん、咲希と結婚する」


 陽人は何も答えなかった。トイレから出てきた姫奈に気が付いてそちらに顔を向ける。二人の咲希へ向ける視線の意味がはっきりとわかった。 
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