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第25話
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葛城、俺と付き合ってよ――……。
木佐貫くんに後ろから抱きしめられたまま私は動けないでいた。
すると、木佐貫くんの腕が離れた。私は咄嗟に振り返って木佐貫くんの顔を見る。
木佐貫くんは優しい顔をして私を見つめていた。
「……っ」
私が何も言えないでいると、木佐貫くんが私の髪をすくい自分の口元に持っていく。なんだか髪に口付けをされているようで、私の胸が高鳴った。
「葛城、君が好きだ」
木佐貫くんが射抜くような眼差しで私を見る。
「私は……」
そこで私の言葉は途切れた。今はもう、何も考えられない――……私はただ木佐貫くんを見つめていた。
「葛城――」
木佐貫くんが私に顔を近づける。
キスされる……! 私はぎゅっと目をつぶった。だけど、何も起こらなくて私はゆっくりと目を開ける。
「今はやめとく。無理やりじゃアイツと同じだから」
そう言うと木佐貫くんは微笑んだ。
「木佐貫くん、私――」
「何も言わないで」木佐貫くんが人差し指で私の唇を軽く押さえた。「今はこの旅行を楽しもう。返事はまた今度でいいから」
「うん……」
私は、頷くことしか出来なかった。
アラームの音で目が覚めると、重たい身体を起こしてアラームを消した。
木佐貫くんは大浴場に行っているのか、部屋にいなかった。
昨日――……木佐貫くんに告白された後、逃げるように大浴場へ行って部屋に帰ってきた時には木佐貫くんは既にソファーで眠っていた。
私がソファーで寝るって言ったのに……。身体を小さくして寝息を立てている木佐貫くんの横を通り、私もベッドに入ったのだけど全然眠れなかった。
鏡に映った自分の寝不足の顔を見て思わず苦笑いをすると、木佐貫くんが戻ってきた。ちゃんとドライヤーで乾かしてこなかったのか髪がまだ濡れている。
「おはよう葛城」
「木佐貫くん……おはよう」
どんな顔をすればいいのかわからなくて、とりあえず笑ってみたけど、ちゃんと笑えているかわからなかった。
「葛城」
木佐貫くんは真面目な顔をしてじっと私を見る。
「な、何かな……」
私がどぎまぎしてると、ぶっ、と木佐貫くんが吹き出した。
「すげー酷い顔してるぞ。昨日ちゃんと寝なかったのか?」
けたけたと木佐貫くんは笑う。
「こ、これはベッドで寝るように言ったのにソファーで寝た誰かさんに申し訳なくて眠れなかったのよ! それより髪をちゃんと拭く!」
私は木佐貫くんが持っていたタオルを奪うと、頭をゴシゴシと拭いてあげた。
きっと、私に気を遣わせないようにいつもの調子で接してくれているんだろうな……。どんな顔をすればいいのかわからなかった私は木佐貫くんの心遣いに救われた。
帰りは木佐貫くんが車でアパートまで送ってくれた。
「なんかあっという間だったな」
アパートの前に車を停めると木佐貫くんが呟く。
「そうだね、でも楽しかった。デザインの良いアイデアも思いついたし」
「葛城のデザイン楽しみにしてる」
そう言うと木佐貫くんは車のサイドミラーを一瞥する。
「どうかしたの?」
私もつられて後ろを振り返ようと身体をねじると、葛城、と名前を呼ばれた。私は後ろを振り返らずに木佐貫くんに目線をやる。
木佐貫くんが運転席から身を乗り出すと私の顔に触れた。
「ゴミ、ついてたよ」
「あ……ありがとう」
一瞬、キスされるかと思った……。そんなことを思った自分に恥ずかしくなり、慌てて車から降りた。
「それじゃ、またな」
「うん。気を付けて帰って」
窓を開けて私に一言挨拶すると木佐貫くんの車は走り去っていく。
こうして、私と木佐貫くんの旅行は終わった。
翌日、麻耶に植物園のお土産を渡すと、「誰と行ったの?」と興味津々に訊いてきた。
木佐貫くんと行った、なんて言うと麻耶がはしゃぎそうだから私は言葉を濁すと仕事を始める。
「か……ほのか!」
名前を呼ばれていることに気付き、顔を上げると麻耶が呆れた様子で私を見ていた。
「就業時間過ぎてるけど帰らないの?」
「えっ、もうそんな時間⁉」
私は時計に目をやる。コフレのデザインに集中し過ぎていたせいで時間を気にしてなかった。
「私は帰るけど、ほのかはどうする?」
「うーん。もう少し残ろうかな」
「わかった。じゃあまた明日ね」
オフィスには何人か残業で残っていた人がいたけど、時間が経つにつれていつの間にか私だけになっていた。
私は椅子の背もたれに身体を預け、背伸びをするとスマホが鳴った。出てみると麻耶からだった。
「どうしたの?」
『残業中にごめん。私のデスクに定期入れがあるか確認して欲しいんだけど』
私は麻耶のデスクに目をやると、赤色のパスケースが置いてあった。
「うん、あるよ。今から届けようか?」
『ううん、平気。会社にあるなら大丈夫だから』
「わかった。じゃあまた明日――っきゃ」
私は小さく叫んだ。後ろから伸びてきた手が私のスマホを奪ったからだ。
椅子に座ったまま後ろを振り返ると、そこに先輩が立っていた。
「あ……」
動けずに固まっていると、先輩は私から視線を離さずにスマホの電源を切った。
木佐貫くんに後ろから抱きしめられたまま私は動けないでいた。
すると、木佐貫くんの腕が離れた。私は咄嗟に振り返って木佐貫くんの顔を見る。
木佐貫くんは優しい顔をして私を見つめていた。
「……っ」
私が何も言えないでいると、木佐貫くんが私の髪をすくい自分の口元に持っていく。なんだか髪に口付けをされているようで、私の胸が高鳴った。
「葛城、君が好きだ」
木佐貫くんが射抜くような眼差しで私を見る。
「私は……」
そこで私の言葉は途切れた。今はもう、何も考えられない――……私はただ木佐貫くんを見つめていた。
「葛城――」
木佐貫くんが私に顔を近づける。
キスされる……! 私はぎゅっと目をつぶった。だけど、何も起こらなくて私はゆっくりと目を開ける。
「今はやめとく。無理やりじゃアイツと同じだから」
そう言うと木佐貫くんは微笑んだ。
「木佐貫くん、私――」
「何も言わないで」木佐貫くんが人差し指で私の唇を軽く押さえた。「今はこの旅行を楽しもう。返事はまた今度でいいから」
「うん……」
私は、頷くことしか出来なかった。
アラームの音で目が覚めると、重たい身体を起こしてアラームを消した。
木佐貫くんは大浴場に行っているのか、部屋にいなかった。
昨日――……木佐貫くんに告白された後、逃げるように大浴場へ行って部屋に帰ってきた時には木佐貫くんは既にソファーで眠っていた。
私がソファーで寝るって言ったのに……。身体を小さくして寝息を立てている木佐貫くんの横を通り、私もベッドに入ったのだけど全然眠れなかった。
鏡に映った自分の寝不足の顔を見て思わず苦笑いをすると、木佐貫くんが戻ってきた。ちゃんとドライヤーで乾かしてこなかったのか髪がまだ濡れている。
「おはよう葛城」
「木佐貫くん……おはよう」
どんな顔をすればいいのかわからなくて、とりあえず笑ってみたけど、ちゃんと笑えているかわからなかった。
「葛城」
木佐貫くんは真面目な顔をしてじっと私を見る。
「な、何かな……」
私がどぎまぎしてると、ぶっ、と木佐貫くんが吹き出した。
「すげー酷い顔してるぞ。昨日ちゃんと寝なかったのか?」
けたけたと木佐貫くんは笑う。
「こ、これはベッドで寝るように言ったのにソファーで寝た誰かさんに申し訳なくて眠れなかったのよ! それより髪をちゃんと拭く!」
私は木佐貫くんが持っていたタオルを奪うと、頭をゴシゴシと拭いてあげた。
きっと、私に気を遣わせないようにいつもの調子で接してくれているんだろうな……。どんな顔をすればいいのかわからなかった私は木佐貫くんの心遣いに救われた。
帰りは木佐貫くんが車でアパートまで送ってくれた。
「なんかあっという間だったな」
アパートの前に車を停めると木佐貫くんが呟く。
「そうだね、でも楽しかった。デザインの良いアイデアも思いついたし」
「葛城のデザイン楽しみにしてる」
そう言うと木佐貫くんは車のサイドミラーを一瞥する。
「どうかしたの?」
私もつられて後ろを振り返ようと身体をねじると、葛城、と名前を呼ばれた。私は後ろを振り返らずに木佐貫くんに目線をやる。
木佐貫くんが運転席から身を乗り出すと私の顔に触れた。
「ゴミ、ついてたよ」
「あ……ありがとう」
一瞬、キスされるかと思った……。そんなことを思った自分に恥ずかしくなり、慌てて車から降りた。
「それじゃ、またな」
「うん。気を付けて帰って」
窓を開けて私に一言挨拶すると木佐貫くんの車は走り去っていく。
こうして、私と木佐貫くんの旅行は終わった。
翌日、麻耶に植物園のお土産を渡すと、「誰と行ったの?」と興味津々に訊いてきた。
木佐貫くんと行った、なんて言うと麻耶がはしゃぎそうだから私は言葉を濁すと仕事を始める。
「か……ほのか!」
名前を呼ばれていることに気付き、顔を上げると麻耶が呆れた様子で私を見ていた。
「就業時間過ぎてるけど帰らないの?」
「えっ、もうそんな時間⁉」
私は時計に目をやる。コフレのデザインに集中し過ぎていたせいで時間を気にしてなかった。
「私は帰るけど、ほのかはどうする?」
「うーん。もう少し残ろうかな」
「わかった。じゃあまた明日ね」
オフィスには何人か残業で残っていた人がいたけど、時間が経つにつれていつの間にか私だけになっていた。
私は椅子の背もたれに身体を預け、背伸びをするとスマホが鳴った。出てみると麻耶からだった。
「どうしたの?」
『残業中にごめん。私のデスクに定期入れがあるか確認して欲しいんだけど』
私は麻耶のデスクに目をやると、赤色のパスケースが置いてあった。
「うん、あるよ。今から届けようか?」
『ううん、平気。会社にあるなら大丈夫だから』
「わかった。じゃあまた明日――っきゃ」
私は小さく叫んだ。後ろから伸びてきた手が私のスマホを奪ったからだ。
椅子に座ったまま後ろを振り返ると、そこに先輩が立っていた。
「あ……」
動けずに固まっていると、先輩は私から視線を離さずにスマホの電源を切った。
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