先生、時間です。

斑鳩入鹿

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第1章

退勤時間

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事務所に着いてから、締め作業を始めた。
締め作業と言っても先生から貸してもらっているデスク周りを少し整理するだけだが。


スリープ状態のパソコンをつけると、画面にはニュース速報の続き。


ーー事件は警察特殊部隊により制圧されました。


"先生が制圧して、特殊部隊が突入した"が真実なんだけど…。
世の中はだいたいあってれば文句は言わないし、それが嘘だとか憶測が起きることもないのだ。メディアは虚構だ。


先生は「自分の存在をこういう形、つまりマスメディアで悪目立ちするような形で表にしてほしくない」と言っていた。
「地位とか名誉に興味ない」と語っていたのは本当だと思う。

ニュースでは、今回の件はお金目当ての麻薬密売を生業とする、在留外国人による犯行とのことだった。

しかし、真実はどうだろう。
国家や組織の欲望に騙されて日本に連れてこられたような人たち。

もともと悪い奴が悪いことをしているのと、やむに止まれずしたことが結果悪いことに繋がったというのでは意味が全然違う。

国家や組織は、多少頭のまわる人もいるのに。だから、悪いことをするのかもしれないけど。

技能実習生がどのような扱いをうけて、心を痛めていたのか。メディアを操るような連中に、痛みを理解できる人間はいないのかもしれない。

システムで退勤を打った。
労基法は遵守してるという、体裁は必要だ。
パソコンを閉じた。

僕は午後3時に事務所に来たはずだが、システムでは午前10時からいたことになっている。先生はこうしていつも多めに賃金を計算してくれる。粋な人だ。

ツーベーイーツとは大違いである。


締め作業が終わった僕に先生が話しかける。

「そうだ、田崎くん。明日以降ちょっと面倒な案件になるんだけど、また僕の荷物を運んでもらえるかな。大丈夫、臨時手当もだすよ。」

「先生、手当は嬉しいんですが内容を聞かずにイエスとはいえませんよ。」

「はは、そうだね。そういう慎重な姿勢大事だよ。長生きするね。」


そう言い終わると、少し間を置いて案件の説明をしてくれた。

「今回の事件があったことで、収穫があってね。そう、タトゥーの件ね。」

"知られたくないやつら"。
先生はそう口にした。
世間様に"知られたくない組織アンノウン"と呼ばれる名前すらもない集団。
日本にいる外国人を構成員としているらしい。


名前すらもない集団がアンノウンと呼ばれる理由は、誰もその名前を知ることができずに捜査機関も頭を悩ませていたからだそうだ。

末端を捕まえても意味がない。
組織のトップをだれもしらない。
本当の名前を誰も知らない奴ら。

ドクロの額に逆さまの蜘蛛、これがキーワードなんだ。

先生が言うには、
海外のいわゆるギャングの"スカル"と日本の指定暴力団"覇知葦会ハチアシカイ"が関係しているそうだ。

スカルは、数年前から日本に進出していて日本版のスカルは髑髏ドクロと呼ばれている。
覇知葦会という日本のいわゆるヤクザは、俗に"蜘蛛"と呼ばれている。

この二つが合わさったというか、協力関係にある組織があるらしい。

覇知葦会の蜘蛛の家紋は上向き、頭が上だ。
天を喰らうという意味がある。
だが、アンノウンと思われる髑髏蜘蛛どくろぐものデザインは蜘蛛の頭が下向きになっている。


先生曰く、

「これはまあ、組織的な意味で言えば所属してるけど下部組織なんですよって、へりくだる意味かな。
あとは上と下、上に対してお前らとは見てるところが違う。と言いたいのかね。」


「なるほど。先生はこの組織と接点があるんですか?」


「田崎くん、エクセレントだよ。今日は冴えてるね。」


「僕の大嫌いな兄がね、その組織のなかにいるんだよ。っていうかまあ兄って言っても血は繋がってないんだけどね。」

言葉を失った。




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