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第四章―苛立ちと悲しみ―
4−3・へぺの気持ち
しおりを挟む―――エルバルト王国東の塔―――
「王毒……そんな病があるのか……」
「はい……」
花を取り替えるミーサの顔にはいつもの笑顔は無かった……
ミーサの母は、ミーサを産んだ後に病を発症したそうだ。病名は『王毒』。ロメリアによると、王族の遺伝子からくる病で治しようがないみたいだ。
「そういえばサウスタウンに王毒に関する本があったような……?」
「それはたぶん、昔、わしが書いた物じゃな。明確な治療法は書いとらん」
「そうなのか……」
「ロメリア様、桃矢様、ご心配ありがとう御座います。私は母が生きている限り、あらがって見ようと思います」
「ミーサ……」
と、またあの甘い紅茶の匂いがする。どこだ……さっきから付けられているな……
部屋には僕とロメリア、ミーサと母親、ビル、近衛兵が三人、ミーサのお付きが二人……
カツン……カツン……カツン……
バタンッ!カチャン!
「ビックリした!桃矢様!?」
「この中に……ビルを使い、ミーサを殺そうとした者がいる!!」
「えっ!!どういう事ですか!?」
驚く一同。
「じっちゃんの名にかけまして!!」
「桃矢様?ジオナ様がどうしたんですか?」
目を丸くし、意味がわからないミーサが動揺する。
「実は、ビルがミーサを襲った日。エルフの秘薬の匂いがした。そして王広間からそいつが付けてきている」
「桃矢様!それは本当ですか!」
「あぁ、ビル。近衛兵の兜を脱がせてくれ」
「わかりました……お前達、兜を外せ!」
「はっ!」
カシャンカシャン……
三人とも男性。特にこれといって匂いに変化はない。という事は……
「サウスタウンで生き残っている付き人の――」
その時だった。ミーサの付き人がかすかに動いた。甘い紅茶の香り……こいつか!とっさにミーサをかばい、腕を伸ばす。
グサッ……
鈍い音がして、僕の腕にナイフが刺さる!!
「キャーーーー!!」
ミーサの悲鳴が響き、腕から血が吹きでる!
「くっ!しくじった……」
付き人の女性はすぐに近衛兵に取り押さえられる。
「桃矢様!桃矢様!大丈夫ですか!今、止血を!ビル!お医者さんを――」
「平気だ……」
そう言うと、僕はナイフを引き抜く。
ブスッ!
傷口が見る見る塞がっていく。そう、僕の体には人魚の血が入っているのだ。
「よ、良かった……」
ビックリしすぎて床に座り込んでしまうミーサ。
「カナデ……どうしてこんな事を……」
「カナデ……と言うのか。誰の命令だ?答えろ」
「……」
何も答えないカナデ。
「そうか。ビルを拷問してみるか」
「え?俺ですか!?」
「あぁ……」
「や、やめてください!ビル様は関係ありませんっ!」
「しゃべれるじゃないか。サウスタウンでもビルの傷の手当てをしてたみたいだしな。惚れているのか?」
「あ、あなたには関係ありませ――」
パァァァァァン!!
カナデの頬をミーサが引っ叩いた。これは予想外。
「誰に言われたの……」
ドスの効いた声でミーサが尋ねる。……正直怖い。
「お……王妃様に……」
「やはりな。秘薬はどこぞの大臣か?」
「はい……ハリス大臣様に頂きました……」
「わかりました。ビル、カナデを牢に!後ほど処罰する!」
「は、はい!ミーサ様!」
こうして、ミーサの暗殺の黒幕の正体がはっきりとした。そして偶然にも奇跡が知らないうちに起きていた。
「うぅ……どうしたの……騒がしい……」
「え?お母様?え?」
ミーサの母親がベッドから起き上がる。近衛兵、付き人共に一同驚愕し平伏する。
「まさかお主の血か……?」
ロメリアが僕の腕を指差す。さっきナイフが刺さった時に飛び散った血が、ミーサの母親の口に……
「これは大発見じゃな……人魚の血は王毒に効くのか。いや、鬼の血もあるのか……そうなると……こうしちゃおれん!帰るぞ!」
ロメリアが何やらぶつぶつ言い出し、急にロメリアに手を引っ張られる。
「ちょ、ちょっと!まだ話の途中で――」
「あっ!桃矢様!後で行きます!」
「ミーサ……あの御方は……?」
「お母様、あの御方が――」
バタンッ!
―――ロメリアの屋敷―――
「おかえりなさいメシ。旦那サマ」
「あぁ、へぺ。ただいま。……ん?旦那サマ?」
命を吹き込まれた人形……名前は自称へぺ。見た目はメローペの姿だが……
「ゴハンにしめすか?それともオフロにしめすか?それとも、ア・タ・シ?」
「ロメリア……この人形、返却……」
「却下じゃ!」
即答だった。
「そこのベッドに横になりなされ」
「はい……」
ベッドに横になると血液検査のキットらしき物が準備され、点滴の準備もされる。
「ロメリア……協力はするけど、改造とかそういう痛いのはちょっと……」
「せぬわっ!」
「それならいいのだけど……」
「安心せい、寝ている間に終わるわ」
僕はそのまま少しだけ眠る……
………
……
…
「桃矢様、お元気ですか」
「え?メローペ?」
「はい……またこうしてお会い出来て嬉しい……」
「そうか……へぺの魂か……」
「はい……ただ、魂の定着は出来そうにありません。私は次の時代にまた生まれ変わるのです……」
「そうか……でも、またこうして会えて良かった……」
「はい……」
涙を流すメローペ。僕は泣くまいと我慢したが自然に涙が流れた。
「桃矢様……あなたには内緒で……あなたのお子を育ててました。あなたの迷惑にならぬようならいつか一度、顔を見てやってくださいませ」
「僕の子供!?なぜ言わなかったんだ!」
「鬼と神の子は……この世界では生きていくには辛いのです」
「そんな……」
「大丈夫。ロザリアに頼んであります。大事に育ててくれるでしょう」
「わかった。いつか必ず会いに行くよ」
「はい……それを聞いて安心しました。私はもう行きます。お体を大切になさってくださいね……さようなら」
「メローペ!!」
…
……
………
目が覚めると、涙を流す僕の横で手を握る人形があった。もうメローペの姿は成してはいない。ただ最後にもう一度メローペに会えた事を、へぺに感謝した――
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