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第四章―苛立ちと悲しみ―
4−2・王族の病
しおりを挟む―――エルバルト王国西の塔―――
「ちょ、離れてください」
「いやで御座います!私はあなた様のお子を産みとう御座います!」
「困ったなぁ……ミーサ、何とかし……」
ゴン……ゴン……ゴン……
ミーサが壁を殴っている。
「馬鹿桃矢様……馬鹿桃矢様……」
「あ……う、うん……なんかすいません」
身に覚えのないダリアの行動に戸惑う。
ここはエルバルト王国西の塔。第一王女のダリアは呪いのたぐいなのか、生気を失いここに幽閉されていた。毎日窓の外を眺め一人で何やらぶつぶつ言い、周囲の者も困り果てこの部屋に閉じ込めたそうだ。
それがまさか『トウヤサマノ、オコヲウミタイ』と言っているとは知らずに……
「ま、まぁ……とりあえずダリアは元気になったみたいじゃしな……王に挨拶しに行こうではないか。とダリアよ、お風呂くらい入らないと桃矢に嫌われるぞぃ」
「はっ!?すぐに!!誰ぞ!!お風呂の準備を致せ!私はお風呂に入るぞ!」
「はっ!!直ちに!」
付き人達がバタバタとし始める。
「桃矢様……一緒にお風呂に……」
「いえ、大丈夫です。離れてください」
「はぁん!何て冷たい態度……私は負けませんからね……」
ゴン……ゴン……ゴン……
しばらくして王広間の待合室に通され、謁見を待つことしばし――
「エルバルト国王がいらっしゃいました!」
近衛兵が声をかけ兵士達が整列し、僕らも王広間へと通される。
「よい、皆の者……楽にせい……」
あれがエルバルト国王……と、王妃か。ダリアも着飾り、先程とは別人の様だ。
「ロメリア……久しいのぉ。で、今日は何用か……」
「はい、国王陛下。先の戦の件で少しお話を聞きとう御座いまして――」
「その件か……して、そっちの御仁達は?」
「はい、姉のロザリアのお仲間の皆さんです」
「そうであったか。よもや鬼の手の者かと思ったぞ」
ほう……するどい。大当たり。さすが国王。と、国王を観察しているとさっきから足元がゾワゾワする。なぜかこんな所で足が人魚化しようとする。制御は出来るようになったが……これはまさか身の危険を知らせてる?
と、国王の上で何か光った気がした……
「なるほど……そういう事か……ミーサ、ちょっと行ってくる」
「桃矢様?」
「おいっ!お前っ!国王様の御前であるぞ!それ以上近づくと!!」
「おやめなさい!その方は私の――」
「ダリア様!お下がりください!」
カツン……カツン……カツン……
国王に近付き、剣を抜く……あっと言う間に近衛兵に囲まれた。
「捕らえよっ!!」
「跳躍!!」
ビュンッ!!
一瞬で国王の頭上、天井まで跳躍する!!
「くっ!?」
「おい貴様こんな所で何をしている……」
ザシュッッ!!
……バタンッ!!
国王の目の前に、黒ずくめの男が天井から落ち気を失う。
「キャァァァァ!!」
王妃の悲鳴をきっかけに護衛達が駆けより、男を取り押さえる。国王も力なく気を失った。
「桃矢様!?ご無事ですか!!」
後ろからギュッと抱きしめられ驚いた。
「大丈夫だよ、ミー……」
ダリアだった。かわいいとこもあるじゃないか。いや、そうじゃない。
「クソ桃矢クソ桃矢……」
「ミーサ様!痛い!おやめください!ミーサ様!」
ゴン……ゴン……ゴン……
ミーサはもう僕の名を呼び捨てだ。そしてビル、なんかごめん……
「これはどういう事かっ!説明致せ!」
王妃が僕を指差し問う。
「……え……と。どれの話でしょう?」
「全部じゃっ!!」
謎の男はひっ捕らえられ、王は気を失ったまま救護室へと運ばれる。僕は近衛兵に囲まれ、王妃が僕をにらみつける。
「まず、先程の黒ずくめの男は王を操り、定期的に毒を盛っていたものと推測致します」
「毒じゃと?」
「はい。先程、男が天井に潜んでいた際に光る物を見ました。吹き矢のたぐいかと。男か……天井を調べれば出てくるでしょう」
「わかった。すぐに調べさせよう。で次は娘のダリアだが、なぜそなたに懐いておるのだ」
「知りません」
「ふざけるな!!」
「身に覚えがありません」
「貴様っ!!私の娘が一方的にそなたに近付いたと申すか!!」
「たぶん」
「ピキッ!!この者を捕らえよっ!!」
「は、はい!」
バタバタバタ……
近衛兵達に縄をかけられる。捕まったみたいだ……ん?この甘い匂い……どこかで……
「王を助けてくれた御人だ!死罪は免ずる!だが、娘にちょっかいを出した罪は償ってもらう!!」
「へいへい」
「くっ!連れて行け!」
「はっ!!」
バタンッ!!
「桃矢様、助けて欲しいですか?」
「ミーサ……ニヤニヤして何か企んでるな……」
「べっつにぃ!フフ」
「はぁ……全部破壊して逃げてもいいが、ミーサ達を危険にさらすわけにはいかないか。はいはい、降参します」
「フフ、良い子ね。さ、縄をといてちょうだい」
「はっ!」
「え?いいの?」
大広間を出て、廊下を曲がった辺りで近衛兵が縄を解いてくれる。
「この近衛兵達は私の専属の近衛兵なの。王の護衛は昨夜からいないわ」
「なんだ。そういう事か。だから慌てもせず見てたのか」
「あら、鼻の下を伸ばしてた桃矢様が悪いのですけど」
「へーい、すいません」
「わかればよろしい。さて、このままお母様に会いに行きましょうか」
「また王妃に怒鳴られるのか?それは勘弁……」
「違うわよ!私のお母様よ」
「私のお母様?」
そう言うと、ミーサは城から東の塔へと向かって歩き出す。
「私はね。第二王女と言っても、お父様は国王様で、お母様は王妃じゃないのよ……」
カツン……カツン……カツン……
カチャ……
「お母様、ただいま帰りました」
返事はない。ベッドには寝ている人がいる。
「こちら、オニノ国の当主桃矢様です」
「初めまして、桃矢と言います。ミーサさんには……」
話しかけても返事はなかった。目は虚ろ、遠くを見て生気は感じられない。
「王毒……そう、呼ばれてる病です。王族の血族がかかる不治の病。お母様は私を産むかわりにこの難病にかかり、死を待つだけなのです……」
「王毒……そんな病があるのか……」
「はい……」
花を取り替えるミーサの顔にはいつもの笑顔は無かった……
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