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第六章―愛すべき人―
6−10・おにぃたん
しおりを挟む―――鬼の里―――
「メイッ!メイッ!メイィィィィ!!」
魔王太郎との決着は着いた。しかし猿鬼の魂を宿したメイは太郎の横に横たわり、動かなくなっていた。
泣き叫ぶ舞の肩にアリダがそっと手を当てる……
「舞様……メイさんを休ませてあげましょう……たくさん頑張ってくれた……んですから……」
「メイ……やだよぉ……起きて……」
「ぬ……二人共、泣いてる場合ではないぞ?誰ぞ来る……」
ザッザッザッ……
村の方から数人の鬼が歩いてくる……
「お前らが太郎様を殺したのか?」
「ぬ……お前らは誰ぞ?」
「わしは太郎様より命じられた里の守護者。名をトキと言う。ジオナ様、太郎様より預かりしこの命……今、ここで使う時が来たようじゃな!!」
「ぬ……太郎様?ジオナを殺した太郎を様扱いとは、鬼の者は頭の中も鬼なのかえ……」
「いい加減な事を申すな!!ジオナ様を殺したのは次郎と三郎ではないかっ!異世界の化け物め!成敗してくれる!!」
「待って!!ジオナさんを殺したのも、次郎さん、三郎さんを殺したのも太郎さんだよ!!」
「なっ!!何をでまかせを言うておるか!小娘!!いい加減な事を言うと許さぬぞ!!」
「お待ちなさいっ!!」
一人の女性が鬼の中から割って出てくる。
「私はジオナの妹、サクラ。詳しく話を聞かせてちょうだい」
「サクラ様!!この異世界の者の話を聞くのですか!」
「トキよ、落ち着きなさい。私は太郎の言うことを全部は信じてはおらぬ。自分の弟の首をはね、野蛮な魔人を作るなど普通の考えでは出来ぬ事」
「そ、それは……」
「そこの娘達よ、取って食ったりはせぬ。村はすぐそこじゃ。少々話をしてくれぬか?」
「ぬ……どうやら話のわかる者もおるようじゃの」
「そうね……メイちゃん……ちょっとだけ待ってて……」
舞、ノア、アリダはサクラに言われるまま鬼の里へと向かった。
―――鬼の森―――
「ハァハァハァ……早紀はどこまで行ったんだ……」
桃矢は早紀を追って、森の中を彷徨っていた。
カサ……
「早紀かっ!?」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
「来にゃいでぇ!!おにぃたん助けてっ!!」
「え……?レディス……?クルミ?」
森の中で、こちらも迷子になってたレディスとクルミを保護する。
「二人共……なんで……」
「ごめんなさい……隠れんぼしてたら扉が開いてて……」
「ごめんにゃさい……おにぃたん、早紀様を探してるにゃ?」
「あぁ……そうだが?そうか。クルミ、早紀の居場所がわかるのか?」
「はいにゃ!向こうで誰かの叫び声が聞こえたにゃ!」
「よし、行こう!!」
早紀は川を見つけ魚を捕まえようと川へと入っていた……最初は上手く捕まえてそのまま丸呑み出来たのだが空腹は満たされず、さらに魚を探して川の中央へと進んで行くと……
ドボンッッ!!
急に川底が深くなり、足を取られ沈んでいった。
「ギャァァァァァ!!ゴボゴボ……」
「おにぃたん!!あそこ!あそこ!!」
レディスの指差す方向に、溺れる早紀の姿が見える。
「まずい!この先は滝壺か!間に合え!」
バシャンッッ!!
桃矢は無我夢中で川へと飛び込み早紀の姿を探す。桃矢の足は尾ヒレに変わり、滝壺手前で何とか気を失ってる早紀の腕を掴んだものの二人はそのまま滝壺の中へと消えていく――
「クルミちゃん!追いかけましょ!」
「はいにゃ!!」
―――鬼の里―――
舞達は鬼の里で長の屋敷……ジオナの家へと案内されていた。
「――なるほど。そうなると、太郎が兄上、姉上、三郎を殺し、次郎が太郎を封印したと。それを魔物が復活させた……という話なのじゃな?」
「はい。魔王を封印したと言うとこまでは、向こうの世界の伝承記にそう記されていました」
「なるほどの……そして三郎の息子、次郎の娘が太郎を成敗したと?」
「……でも早紀ちゃんは鬼になって、桃矢くんが追いかけて……」
「話はわかった。お主らここでしばらく待つが良い。誰ぞ!捜索に出て参れ!!」
「はっ!!」
「時にそなた、何者ぞ?異質な物を放っておるが……?」
「ぬ……わしか?わしは死神ノア。命の裁判神じゃ」
「……ノア?はて、どこかで見たことがある顔立ちじゃが……」
「ぬ……わしに似ているのは創造神アリスのみじゃ。こんな美しい顔立ちの神は他にはおらん」
なぜか自信満々のノア。
「創造神アリス……?もしや姉上が言っていた……」
サクラは本棚から一冊の古い本を取り出す。そしてペラペラとページをめくる。
「――この地を治める創造神天照大神(またの名をアリスと云う)は、異界で自らの分身たる死神をお造りになられた。その名はノアリス。魂の裁判を行い魂を未来へ誘う者也」
ガタンッ!!
いきなり、両手を床に着き頭を下げるサクラ。
「申し訳御座いません!!ノアリス様!!我が姉上は元々、異世界の神!!私は姉上を崇拝していた鬼に御座います!」
「ぬ……そうだったのかえ」
「サクラ様……まさかその様な事……」
「トキよ、今まで黙っててすまなかった。たぶんだが、兄上と私しか知らない話じゃ……」
「キシボイン様が神だったとは……そしてこのお方も……も、申し訳御座いませんでした」
サクラを始め、トキ達一同が頭を下げる。
「ぬ……良い。それにわしは今、桃矢と契約を結んでおる。あやつの魂が死ぬまでは安泰じゃ――」
「誰かぁ!!おにぃたんを!おにぃたんを助けて!!」
ノアが話している最中に、外から大声が聞こえた。
そして、屋敷に担ぎ込まれたのは気を失った桃矢と早紀だった……
「おにぃたん……死なないで……!!」
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