異世界おにぃたん漫遊記

雑魚ぴぃ

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第九章―世界の向こう側―

9−7・復讐を誓う

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【エスポワール大陸】
―――トメト村―――

 赤蛇と古代兵器オヘビウェポンの戦いを終えて、トメト村に帰ってきた桃矢とノア。その翌日、祭壇下の転移門は消えていた。早紀達に事情を説明していると、その人は現れた。

カツンカツンカツン……

「村長、この祭壇に何があると言うんだ?」
「桃矢様……デゼスポワール大陸は元々、ある神様が作った大陸でしたのじゃ……」

神妙な面持ちで、村長が話始める。

「あぁ……」

言いかけて桃矢は口を紡ぎ、村長の話を聞く。

――昔々、エスポワール大陸にいた女神の一人が鬼族の男と恋に落ち、子供を授かった。
 それは禁じられた恋。それに気付いた天の神達は鬼とその子供を殺そうと天兵をこの世界へ派遣した。
 女神は天へと連れ去られ、鬼はあっと言う間に見つかった。鬼は命からがら神の山へとたどり着く。
 そして神の山で鬼はそこに住まわれていた月読様にお願いをする。

「自分の命と引き換えにどうか、この子だけでも助けてください!」

と。

 気まぐれなのかどうなのかはわからない。その赤子は月読様の作られた別世界、デゼスポワール大陸へと転移させられた。そしてそこで……。

「わしの双子の弟、トキに赤子を預けたのですじゃ……」
「!?」
「あなたはトキじいさんの……兄だったのか……!」
「そうですじゃ……」
「そう言われたら似ている……トキじいさんは……その……」
「桃矢様。みな、知っております。あやつが人間や異世界の者を恨んでいた事も……」
「ぬぅ……そういう事か。その転移させられた赤子がジオナじゃったのか」
「左様ですじゃ。そしてここの祭壇の転移門を使い、赤子の様子を見る様にと時々、鬼の里へ行っておりましたのじゃ……」

 天井を見上げ、寂しそうな顔をする村長。一人で背負ってきたものがあったのだろう。

「ジオナ様はまるで桃矢の様に産まれて異世界に飛ばされ、再びこのエスポワール大陸へと戻って来たのね……」

早紀が桃矢を見つめて言う。

「ぬ……そういう星の下に産まれたのじゃろう。それも運命……で、村長よ。この転移門が無くなった理由は知っておるのか?」
「はい……転移門は元々月読様の作られた物。推測ですがおそらく月読様の身に何かあったか、力を失ってしまわれたか……いずれにせよ、もうこの世界にはデゼスポワール大陸へ行く手段は無いと思いますじゃ……」
「ぬ……そうか……」
「愛ちゃんがここで村を守る為に封印されていたのは偶然ではなく、転移門を守るためだったのね……」

そう言うと、舞は愛の手を握る。

「そして……桃矢様。今日はこの壁画を見てもらいたく、この祭壇にお連れしました」
「壁画?この壁に描かれてる絵と文字にいったい何が?」
「これはエスポワール大陸が生まれてからの歴史を記しています……」

 そう言うと村長は、持っている杖で壁画をなぞりながらゆっくりと壁際を歩く。

「こちらを見て下さい……」

カツンカツンカツン……

 村長が祭壇の方へ歩き、壁の一部を指差す。そこには血のような文字でこう書かれていた。

『――世界が切り放される時、私は目覚め復讐を誓う』

「復讐を誓う……?世界が切り放される時……?」
「実はこの部分だけ何者かが後で書き足したものなのです」
「それはどういうこと!?」
「マイア神様。わしにもわかりませぬ。ただ……」
「ただ?」
「これが書かれたのは、ジオナ様と太郎様の戦いの前後。恐らくは鬼の者の仕業では無かろうかと」
「鬼の……」
「はい……」

 冷たい地下の祭壇の前で明かりを取るための松明の火が揺れる。
 しばしの沈黙の後、早紀が口を開いた。

「もう一度、転移門を開く手立てはないのかしら?そうすればまた繋がるのでしょう?」
「……早紀様。無いことは無い……のですが……その……」
「ぬぅ……そういうことか。愛のように、生贄になる者がいるのじゃな?」
「左様ですじゃ……」
「生贄……」
「桃矢様。この壁画に残された文面が本当であるのならば、転移門が無くなった今、おそらく世界のどこかで異変が起こると思われますじゃ。十分に気をつけてくだされ」
「あぁ、わかった。村長……ありがとう」
「ふぉふぉふぉ……」

 村長はニヤリと笑い、祭壇の松明を外すと、地上へと上がって行く。皆も村長に続き、地上へと戻る。

カツンカツンカツン……

「わしは村の様子を見てからバナナ街へと戻りますじゃ」
「僕らは一旦、オニノ国へ戻るよ。村長、変わった事があればまた教えておくれ」
「はい……それではくれぐれもお気をつけて」

 トメト村で村長と別れ、桃矢達はようやくオニノ国へと帰還した。数年ぶりの帰還だった。

―――オニノ国―――

ドサ……

桃矢は王広間の椅子に深々と腰掛け、一息つく。

「ふぅ……ようやく、帰ってきたなぁ……」
「あら?私にまずは言う事がなくって?」
「ん?早紀に?あぁ、留守番ありがとう。助かった」
「それだけ?」
「え?」
「それだけかって聞いてるの」
「……他に何かあるのか?」
「桃矢、あんたがいない間に私はこの国の王となったの。今や民衆の大半は私を王と認めている!」

ビシッ!と早紀は桃矢を指差す。

「王の命令です。私と結婚しなさい!」
「はぁ?僕と早紀は親族……」
「おだまりっ!王の命令です!」

桃矢は助けを求めんと、舞と愛の方に目をやる。

「あっ……」

二人共、話を合わせたように視線をそらす。

「ちょ、二人共……」
「桃矢くん、諦めた方が良さそうよ?早紀ちゃんはもうその気になってて……ははは……」
「舞!」
「残念だけど、早紀さんに譲るわ……」
「愛!」

そこへミーサがやって来た。

「あら?何やら賑やかですわね。また桃矢様がつまみぐいでもしたのかしら?フフ」
「つまみぐい……?桃矢?デゼスポワールで女の子をつまみぐいしたの……?」
「してないしてない!それにチグサは……!あっ……」
「チカゲさん?桃矢どういう事?チカゲさんはお姉さんて言ってなかったかしら……」

ゴゴゴゴ……

「ゴシュジンサマ、オッパイガ、カオノヨコ二ツイテタ……ゲンメツ……」
「ちょ!メイ!余計な事を言うな!」
「死ね!桃矢!!!」
「ぎゃぁぁぁ!!!」

こうして後日、桃矢は早紀とめでたく結婚したそうな。

めでたしめでたし。

「ぬ……まだもうちょっと続くぞよ。シシシ……」
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