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南の大陸の下僕
第82話・世界樹
しおりを挟む――時は戻り、現在。
ハルト達はエルフの森へとやって来た。
……深夜、ロドリゲス温泉
『注意・桶は投げない事、勇者ロドリゲス』
ちゃぽん……。
「ハルト……誰もいないよね?」
「う、うん。アリス達も寝ていたし」
エルと軽くキスを交わす。
「んん……」
誰もいない深夜の温泉、明かりは月の灯りのみ。
ここはエルの故郷、エルフの里。
僕達は世界樹の苗をもらいに来ていた。打ち合わせや歓迎会で遅くなり、深夜に温泉に入りに来たら、偶然にもエルと入口で出会った。そして今、こんな状況。そして月子にもらったたまごっちが温泉になぜかプカプカ浮いている。
「もっとしていい……?」
積極的なエル。
「う、うん……おてやわらかに」
「フフ……いい子……」
エルの吐息が耳元で聞こえ、色白の肌が僕の体に触れる……こうして夜はふけていく……。
◆◇◆◇◆
チュンチュンチュンチュン……。
「うぅ……眩しい……」
「すぅすぅ……」
僕の横で寝息をたてているエル。
「あっ!」
昨夜……そうか。うん、そうだな。いい朝だ!と、ごそごそ起きようとしているとエルを起こしてしまった様だ。
「うぅん……あなた、おはよう」
「あぁ、エル。おはよう。起こしてしまった?」
「うぅん……大丈夫……すぅすぅ……」
そしてまた眠った。かわいい。
「はぁるぅとくぅん!あ~そ~ぼっ!」
「え……」
外から僕を呼ぶ声が聞こえる。誰だ?心当たりはあるが……まさか。
そこには虫かごを肩からかけビーチサンダルにサングラス、水着を着た女の子が待っていた。
「……アリス、何してるの?」
「虫取りじゃ」
「海水浴の格好してるよね?」
「うむ!海に入るからなっ!」
「あのねぇ……今日は世界樹の苗を――」
「ハルト隊員や。昨夜は良い月でしたな……のぉ、プリン隊員。しっしっし……」
「はいっ!ねぇさまっ!温泉に月が映っていて綺麗でしたわ!」
「え……まさか見てたの?」
「ハルト隊員!急ぎ用意をし、クワガタを探すぞ!!」
「お、おう……」
完全にもて遊ばてる。
「やる気がないようじゃな!よし!プリン隊員!例のお写真を読者の皆様に――」
「はいっ!ねぇさま!確かこのカバンに……」
「わかった!わかったぁ!行くから!」
ニヤリとするアリス。
僕は支度し、エルは後で合流すると言う事で、世界樹へ向かいながらクワガタ探しをする事になった。きりんに乗ったら世界樹まですぐなのに……。
「クワガタさんはおられますかぁ?」
「そんなんじゃ出て来ないって……はぁ」
パス、パス……。
「アリス。虫取り網で、草むらをパスパスしてもいないよ……」
「うむ、何か捕まえた」
「そんなパスパスして捕まる虫はいな……い……って。え?」
網にはウサギが入っていた。
「え?」
「何するんですっち!」
「しゃべった……ウサギなのに……」
「しっしっし……うまそうなウサギじゃ……」
「待てっち待てっちっ!」
そこできりんが気付く。
「おや?白兎さん?」
「そうですっち!放して欲しいですっち!」
「ほぅ。それがわしに対する態度か、ウサギよ。わしの本気を見せてやろうか……」
ゴゴゴゴゴ……!!
いや、白兎がクワガタじゃないからってその態度はないと思う。
「アリスっ!!めっ!!」
ビクッ!とするアリス。アリスは誰かに怒られることがない。ちょっときつく叱ると急に弱々しくなる。
「ごめんなさい……」
アリスは最近、謝るという芸を覚えた。
「白兎。ところでこんな所で何をしてたんだ?」
月子……月夜見命様からの命令だろうか?月で何かあったのか?色々と考えてしまう。
「いや、クワガタを捕まえにっち……」
ゴンッ!
「あ。すまん、なんか思ってたのと違った」
「ぴぇぇぇぇぇん!」
頭を抑えて泣き出す白兎。僕をにらむアリスとプリン。
「ハルト、暴力は良くないぞ!」
「そうだそうだ!」
「あらあらまぁまぁ」
きりんに抱きかかえられ、胸に顔をうずめてニヤけるウサギ。嘘泣きをしやがった……こいつはオスだ!
「はぁ、もう嘘つきウサギはほっといて行こう」
世界樹までの道中、結局クワガタはいなかった。
道中、アリスがきりんにキノコやバッタを取って食べさせていた。聖獣とわかってはいるんだが、人型の姿でバッタは食べないで欲しい。
「大丈夫ですわ、フフフ。バッタさんは無事ですわ」
口を開け、バッタを逃がすきりん。
「いや、うん。そうなんだけど。そういう絵面が無理かも……」
きりんは気にせずニコニコしながら歩いて行く。
―――世界樹跡―――
「着いたぁ!ヤッホー!プリン泳ぐぞぉ!」
「はいっ!ねぇさま!!」
ドドドドド……!!
浮き輪を装着し、海へと一目散に走っていくアリスとプリン。
「あぁぁぁれぇぇぇぇぇぇ……」
そして沖に流されていくアリス。
「ねぇさまぁぁぁぁ!私!私!クラゲは無理です!」
クラゲが怖くて助けに行けないプリン。
「ひぃぃぃ!海怖い海怖い!」
なぜか海がトラウマな様子の白兎。
「お前ら何しに来たんだっ!!」
きりんがすかさず聖獣に姿を変え、アリスの救出に向かう。
数分後、きりんがアリスを咥えて戻って来た。
バシャバシャバシャ……。
「ぴゅぅぅぅぅ―――!」
水を吐き出し、無事に生還するアリス。
「ふぅ、ちょっと飲んじゃいました」
「きりん助かったよ、大丈夫かい?」
「はい。慌ててバッタを2、3匹飲んだだけなので」
「おい、海水の話だ。まだバッタがいたのか」
「おぉい!みんなぁ!」
そこへエルがようやく合流する。
「楽しくやってるみたいで良かった!」
「まぁ、色々ありましたけどね……。エル、お墓参りはすんだかい?」
「うん。ばぁばのお墓参り、久々だったけどしてきたよ」
「そうか、そういえばエルの両親はいないんだったか」
「うん。いないというか、産まれてからずっとばぁばと住んでたから両親の顔を覚えてないというか――」
遠くを見つめるエルの横顔が何だか寂しそうに見えた。
ビュゥゥゥゥ……!と、急に突風が吹き、海岸の城壁の旗がなびく。
「げほげほ……おえ……。誰じゃ?わしらに何用じゃ」
アリスが誰もいない方向にしゃべりかけると、返事が返ってくる。
「アリス様、ご無沙汰しております。ジュリと申します」
姿は見えないが声だけが聞こえた。
「ジュリ……?どこかで聞いたことがあるような……」
「はい。その昔、アリス様に育てていただいた朱里……いえ、蓮の花でございます」
「蓮の花……?」
すると、アリスが向いている方向に1人の妖精が現れる。
「はい。梅ばぁちゃんの池で長年暮らしていました。今では世界樹様のお側でこうして生きております」
急にウメきたぁぁぁぁぁぁ!長かった……これで、謎のウメが少し解けそうだ!
「そうかっ!梅さんとこのっ!懐かしいのぉ。元気そうで何よりじゃ!」
「はい。ですが、お声をかけさせて頂いたのはその件ではなく、世界樹様が元気がなく心配しておるからなのです」
「世界樹は元々古樹じゃろ?寿命で既に世代交代したのではなかったのか?」
「先代の世界樹様はその役目を終えられたのですが、新しい世界樹様が元気がなく一度見て頂けないかと思いまして」
「うむ。よくわからぬが案内いたせ」
「ありがとうございます」
よくわからないのに引き受けちゃうアリス。
「こちらです」
元の世界樹の切株の裏手にある花壇。真ん中に1本、背丈ほどの木があり、周りには小さな芽が出ている。今回エルフの里に来たのはこの小さい芽をもらって帰るつもりだったのだが……。
「こ、これは!!」
めずらしく原因がわかったみたいだ。
「クワガタではないか!!」
「ねぇさま!クワガタですわ!」
真ん中の世界樹にとまるクワガタが1匹。パシッ!と捕まえて虫かごに入れるアリス。
「で、なんだったかの?」
「え、えぇと……世界樹様が……」
困惑するジュリ。助けを求めこちらをチラッと見てくる。
「あのね、アリス。ジュリさんがこの世界樹が元気がないから見てくれって言ってたの」
「おぉ。そうか!うむ、これはあれだな。妖精の蜜をかけたら良いのではないか?」
全員、はっ!!と顔を見合わせる!
『まともな事言ったぁぁぁ!!』
「ん?なんじゃ?」
鼻をほじりながら、キョトンとするアリスだった。
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