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この世界の希望
第96話・迎え盆
しおりを挟む―――コリータ国盆踊り会場―――
――お盆3日前の8月10日。
皆、盆踊り会場の準備に大忙しだった。城内3箇所に矢倉を組み、会場周辺の飾り付けから、屋台の設置、警備員の確認から、灯籠流しの確認まで全て同時進行だ。
「エルッ!灯籠流しの準備はどうだ?」
「東門に集合して、城内の川に流すとこまでは準備できたけど問題は流した後の回収。さて、どこで回収するか……」
「それなら、北の排水設備に一旦集めるように水路をその時だけ変更しようか。レディに聞いて見るよ」
「お願いね、あなた。ちょ!千夏っ!そっちに行ったら危ないって行ってるでしょ!あなた!また後でっ!」
エルは川で遊ぶ千夏を掴まえに走る。
「ご主人様!ここにおられたのですか」
空からきりんの声がした。見ると背中には千春とノエルを乗せている。
「父上!!」
千春が飛びついて来た。
「あっ!千夏君とおば様も!」
「っと!ノエルちゃん待って!」
「きりん、ありがとう。子守りをしてもらって」
「いえいえ、ご主人様。私の方こそ楽しませてもらってますよ。ふふふ」
「そういえばアリスとプリンを見なかったか。今朝から部屋にもいないんだ」
「あぁ……確かアリス様とプリン様は妖精の森の湖でピクニック?とか言われてましたよ」
あいつら、この忙しい時に……。
「こっちは任せた。ちょっと妖精の森に行ってくる」
「はい。ご主人様」
ニコッと笑うきりん。
「お前達っ!気をつけて遊べよっ!」
「はぁい!!」
僕は一旦城に戻り、レディに北の町の水路変更を頼んでから、東の妖精達の住む森へと向かった。
カサ……カサカサ……!
「湖って言ってたからこの辺りにいるはずなんだけど……ん?」
何か聞こえる……。
「それでプリンよ、ハルトとはどこまでいったんじゃ?」
「もうっ!ねぇさま!その話ばっかり!もうっ」
「しっしっし!そのぉ……キ、キスはしたのか?」
「ギャァァァ!もう!そんな恥ずかしいっ!」
……何だかすごく出て行きにくい。
「プリン、ちょっと耳をかせ」
「ねぇさま、何ですの?」
「ハルトのピーーーは、ピーーーでな。ピーーーなのじゃ」
「何ですって!!それじゃ!」
「はい。そこまでぇ~」
「げっ!スケベザムライっ!!」
どんなサムライ魂持って産まれたんだよ、そいつは!
「2人にはメリダの手伝いをお願いしてたでしょ!ピクニックはここまで!帰るよ!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「手……です」
「はい?」
「手……手を繋いで帰って欲しいですます」
「プリン、あのなぁ……」
僕が拒否しようとすると、アリスがすんごい勢いで睨んでくる。
はぁぁぁぁぁ……子供か。
「わかった、わかった。はい。じゃぁ帰るよ!」
「お、お願いしますわ」
「へぇぇぇい……」
アリス、めんどくさそうな声を出すな。2人の手を引き、そのままエルバルト教会へ連行する。
「あら、あなた。どうしたの?」
「メリダ、お手伝いの猫の手を連れてきた」
「ちょうど良かったわ!エリサさんがお墓掃除してるからお願いできるかしら?」
「わかった。手伝わせるよ」
「ぐぬぬぬぬ」
抵抗するアリス。
「お手伝いしたら、お小遣い増えるかも……」
ボソっと言ってみる。
「プリン!墓掃除じゃ!」
「はいっ!ねぇさま!」
ちょろい。僕達は教会裏のお墓へとやって来た。
マリア、ナツト、チハヤ、リン、メリー、アキネ、トウヤ……そして、ゼシカとリン。皆ここで眠っている。
それぞれの人生があった。それに関われた事を誇りに思う。
「やぁ、エリサ。お盆って教会でも何かするの?」
「あら、ご主人様。お盆はニッポンの風習ですからね。特に無いですがお参りしてはいけないワケでもないですし、そういう風習にしてもいいかもしれませんね」
「そっか、ありがとう。手伝うよ」
僕達はお墓掃除をして、亡くなった仲間たちの供養をした。
◆◇◆◇◆
――お盆2日前、執務室。
「あら、ドムドさんおはようございます」
「マリン殿おはようごぜぇます!殿っ!トロッコ列車が全線開通致しましたっ!!」
ガタッ!!
「ドムドさん!ついにっ!!」
「まぁ、素晴らしい!」
ガシッと握手をする僕とドムドさん。
「10年か……長かった。本当にありがとう」
「いえっ!最高の仕事でしたよ!なんなら、もう1周作りましょうか!はっはっは!!」
相変わらず豪快なドワーフおじさん。この人のおかげでコリータ王国は発展したと言っても過言ではない。
「これでコリータ王国を中心に5都市を自由に行き来できる。しかも半日で多くの人や資材をいっぺんに」
「えぇ。流通が加速しそうですわね。また忙しくなりそうっ!わくわく!」
小躍りするマリン。
「マリン!今日は寝かせないぞ!」
「え?いや、そんなハッキリ言われると……そりゃ仕事ばかりで独身ですけど、なんと言うか……」
真っ赤になりウネウネしだすマリン。
「いや……そうじゃなくて……」
「と、とにかく、旦那!後で北門の駅に顔を出してくだせぇ!失礼いたしあす!」
バタンッ!
「ハルト様……私……」
なぜかすり寄ってくるマリン。
「ハルト様がいけないのです。こんな歳になるまで私をほっておいて……」
「ちょちょ!ストップ!ストップ!」
ぷに。
「あっ……」
手を伸ばした先に当たる柔らかい感触。
「あぁぁぁぁぁ!!ハルト様ぁぁ!!」
「ちょ!マリンっ!!」
ガシッと抱きつかれ、離れないマリン。
「おねぇちゃん……ナニしてるの……」
冷たい目線を送るアクア。
「国王様、遅くなりました!警備員点呼終わり……まし……あれ?お取り込み中?」
「そうみたいね」
「た、たすけ……うっ……」
マリンの胸の間に挟まれ窒息寸前な僕。
「あれ?ハルト様?もしもーし」
「もうっ!おねぇちゃん!何してるの!」
通りすがりのアクアとギルに介抱され、ソファで横になる僕。胸で窒息死するかと思った。
「すいません!すいません!すいません!」
何度も謝って部屋を出ていくマリン。
まぁ……うん。僕も反省しないとな。仕事ばかり押し付けてきたし。
しばらく横になった後でギル達と警備の打ち合わせを行い、ドムドさん達と合流し、列車の開通を祝った。
――その日の夜。
子供を寝かしつけ、執務室に戻り報告書に目を通していく。
【にゃーんにゃにゃーにゃーんだふるにゃー】
クルミの報告書が読めないにゃーん……これは猫語なのか。いつもはマリンが和訳してくれてるのか。ポリポリと、頭を掻く僕。
「はぁ、今日はお風呂に入って寝るか」
時間は0時。もうお盆祭りの前日だった。
…
……
………
カポン……ザパァァン……!
「ふぅ。疲れたぁ。はぁ、気持ちいいなぁ……」
「ハ、ハルト様!?あ……あの……張り紙してませんでしたかっ!!」
ふいに湯気の向こうから女性の声が聞こえ、びっくりした。
「だ!だれ!張り紙?何?」
動揺する僕。湯気の向こうにはマリンがいた。
「あっ!女湯の蛇口が壊れていて、今日は男湯に交代で入る予定になってまして……」
「そ、そうなのか!!見てなかった!すぐ上がるからっ!」
ザパァァン!急いでお風呂から上がろうとするとマリンに止められる。
「あっ!いえ!いいんです!私がもう上がるので!」
マリンが近づいて来て、僕の手を握る。そこには眼鏡を外し、髪を下ろした美しい女性がいた。
「ごっくん」
「今、ごっくんて言いました?」
「言ってない言ってない!」
巻いていたタオルを外し、ぐっと引き寄せられる。
「誰にも言わないでくださいよ……」
顔を赤らめたマリンは少女のように照れていた。
「その気になったらどうするの!」
「いいんです。ずっとあなたの側にいましたので。今なら、アキネ様の気持ちが少しわかります」
そう言うと、マリンの方からキスをしてきた。僕は抵抗しようと思ったけど……けど、僕の責任でもあると今は自分を納得させた。
「マリン、誰にも言わない?」
「もちろんです」
「絶対?」
「お静かに」
ニコッと笑う彼女。
もう無理です。読者の皆さんごめんなさい。
僕はマリンを抱きしめて、その日は朝まで2人で過ごした……。
カッポーーーン!
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