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この世界の希望
第99話・灯籠流し
しおりを挟む―――コリータ王国―――
パチパチパチパチパチッ!!ピューイ!!ワァァァァァァァァァァァ――!!
大歓声の中、ミレーの歌は皆の心を打った。その後、2曲3曲と歌を披露していく。
『〽落ちていく――落ちていく――
暗闇で一人もがき続け――
あなただけのために生きたいの――
でもそれはかなわない――
なぜならあなたは――
ここにいないから――♪』
(……なぁ、ゼシカ、リン。聞こえてるか?
僕は死んでも蘇ってきた。何度もこの世界に嫌気がさし、何度もこの世界の常識に吐き気がした。でも……お前達がいて支えてくれたからここまで来れたんだ。……またお前達に会いたいよ……)
そう思うと、無意識に涙が流れた。もう10年も経つのに何も変わらない……。
『大丈夫よ、あなた。皆がいるじゃない。千春を守ってあげて!』
『ハルトッ!!次は何を作ろうかっ!!』
「ゼシカ……!リンッ!うぅ……!」
ふいに、ゼシカとリンの声が聞こえた気がした……。
………
……
…
ミレーのライブが無事終わり、昨夜に続き盆踊りの曲が流れてくる。今日で盆踊りも最終日だ。
子供達は、はしゃぎすぎて疲れたのか皆眠たそうにしている。
「国王様」
「秋子?どうした?浮かない顔して」
「ここに来る前に月子様から聞きました。この世界は近々……崩壊するのだと。そして千秋の力を必要としている、と」
「そうだな……僕も長年その崩壊を止めるために準備をしてきた。だけど……きっと大丈夫だよ」
「えぇ……でも最近、怖い夢ばかり見るんです」
秋子と千秋は引っ越して来たばかりで、慣れない生活に疲れているのかもしれない。
「そうだ。今日は特別に僕の部屋を空けてあげるから、子供達全員をそこで寝かせようか。布団は各自持ち寄って」
「あら!それは良いですわね!」
「マリンに聞いてみよう!マリンッ!ちょっといいか!」
マリンとメイド達にお願いして、子供達をお風呂に入れ、僕の部屋で寝かせるようお願いした。
「ママ、おやすみなさい……」
眠たそうな目をこすって千秋が言う。
「はい、おやすみ。皆と仲良くするのよ」
昼間の闘技大会とは別人だったかのように普通の子供に戻っている。
「父上、おやすみなさぁぁぁい……」
「あぁ、千春おやすみ」
手を振って子供達を見送る。僕達はこの後灯籠流しをしてお盆が終わる。
「あなた、千夏達を寝かせたら灯籠流しに行くから、マリンさん達と先に行ってて下さいね」
「あぁ、エル。わかった」
エルもいつの間にか母親らしくなった。そんな感情を抱く。
エルフ族は長命の為、見た目はほとんど変わらない。だけど、僕もあの頃からほとんど変わっていないのかもしれない。
「不満か?」
「アリス……いや、そうでもない」
イカ焼きを食べながらアリスが隣に座る。盆踊りの掛け声がなんだか心地良い……。
「わしはの。本当はどうでもいいのじゃ」
「え?どういう意味?」
「この世界が無くなっても特に困りはせぬ。お主がいなければな」
「……僕がいなくなったらこの世界を見捨てるってこと?」
「いや、そういう意味ではない。お主との思い出……今もそうじゃが。わしにとってはそれがすべてなのじゃ。ガッコウもコリータも、いつもお主が中心にいる。それがわしの楽しみなんじゃ。クチャクチャ……」
「よくわからないが、アリスが良いならいっか……」
アリスが夜空を見上げ、つぶやく。
「ハルトよ、わしと世界だったら、どっちを取る?」
「何を言ってるんだ。アリスに決まってるだろう」
僕は芝生に寝転び空を見上げる。綺麗な星空だ。
「ねぇさまぁぁぁぁ!!たこ焼きがラスト1個ですってぇぇぇぇぇ!!」
「なんじゃとっ!!すぐに行くぞっ!!」
「はやくぅ!!」
「ハルトよ……わしはいつでもお主と一緒じゃ!しっしっし!」
「え?」
そう言うとぴゅーんと走っていくアリス。
「子供なのか神なのか、いまだにわからん……」
リーンリーンリーン……とスズムシが近くで鳴き出し、そろそろ盆踊りも終わりの時間を迎える。
『――テステス……ピィィィ!えぇ!こほん。以上をもちまして、盆踊り大会を終了させて頂きます!皆様お疲れ様でした!この後、東町の川辺にて灯籠流しで締めくくりとなりますので、お時間のある方は――』
盆踊りが終わり簡単に後片付けを済ませると、灯籠流しをする東町の川へと皆で向かう。灯籠流しは亡くなった人達を見送る儀式だ。
川辺にはホタルが飛び交い、辺りを照らす。
「あなた、綺麗ね……」
子供達を寝かしつけて合流したエル。
「あぁ……ほんと、綺麗だ」
たくさんの灯籠が川に流れていく。それぞれの思いを乗せて、ゆっくりと川を下る。
この時間はきっと、人間だろうが魔物だろうがエルフだろうが関係無いのだろう。一様に皆、同じ様に祈りを捧げる。
「マリア、ゼシカ、リン……安らかに……」
時間が経つのを忘れ、ただぼんやりと流れていく灯籠を見つめる。
そして、最後の1つの灯籠が流れて行くのを見送るとそれぞれが家族の待つ帰路へと着き、お盆祭りは終わりを告げたのだった……。
◆◇◆◇◆
城へと戻ると日付が変わっていた。お風呂で汗を流し、部屋へと戻る。部屋の前では秋子が中の様子を伺っていた。
「あれ?そうか、僕の部屋は子供達に空けたんだった」
「よく眠っています。国王様。さ、こちらへ」
カチャ……秋子と千秋の部屋へと案内される。
「あっ!今夜、寝る場所の事を考えてなかった」
「ふふ、国王様ったら。この布団を使って下さいませ。私はお風呂に入って来ますので」
「ありがとう」
そう言うと秋子は部屋から出ていく。
「はぁぁ、疲れた……」
この新しい体にも慣れたつもりだったが、朝から動き続けると流石に疲労を感じる。ベッドに横になると、大の字で天井を見上げる。すぐにまぶたが重くなり、僕はそのまま目をつむる。
…
……
………
――いつの間にか眠ってしまい明け方に目が覚めた。
「ん……あれ……昨夜は……?確か……」
「すぅ……すぅ……すぅ……」
隣で寝息を立てる下着姿の女性。部屋はまだ薄暗く、誰なのかはよく見えない。
「んんん……?」
これはどういう状況なんだ?状況がわからない。
昨夜は部屋に帰ったら、秋子がいて……あぁ、部屋を子供達に空けて秋子の部屋でそのまま寝落ちしたんだった。という事はこの寝ている人影は……?
「秋子?」
声に出てしまった。茶色で短めの髪、子供がいるとは思えない幼い顔立ち。彼女との距離は数十センチ。
「ん……」
起こしてしまったか。
「……国王様?」
「何でもない、まだ早いからおやすみ」
「はい……」
と、秋子の腕が僕を引き寄せキスをする。
「っ!?」
「ん……ん……はぁ……」
自然に手が秋子の胸へといく……柔らかい。
「すぅ……すぅ……」
「秋――」
秋子はまた寝てしまった様だ。この手をどうしよう。僕は身動きできず、そのまましばらく硬直し、いつの間にか眠ってしまっていた……。
――チュンチュンチュン。夜が明け、小鳥の声が聞こえてくる。
「おはようございます、昨夜は寝れましたか。」
ベッドの中で小声で話しかけてくる秋子。
「う、うん……」
手はまだ胸に置いたままだった。
「ふふ……嘘つき」
胸に置いてある手を握り、秋子がキスをしてくる。
「子供達が起きて……ん」
「大丈夫です……んん……はぁ……」
チュンチュンチュン……ギシ……ギシ……ギシ……!!チュンチュ――バタバタバタバタッ!!
「あぁぁぁぁっ!!」
………
……
…
朝食の時間になり、秋子と僕の部屋へ向かう。頬を赤らめ、少しだけ寄り添って歩く彼女。何だかちょっと照れくさい。
「みんなおはよう!朝だよ!」
サァァァァ――!カーテンを開けると、朝日が部屋の中に入ってくる。
「ん……おはようございます……」
まだ眠たそうな子供達。
「さっ!みんな起きてっ!朝ごはんの時間ですよ!!国王様は先に行ってて下さい。子供達を連れて行きますので」
「わかった。秋子、頼んだ」
「はいっ!」
にこやかに微笑む彼女。
――しかし、この平和な時間は長くは続かなかった。間もなく始まる世界崩壊の合図……この時はまだ知る由もない……。
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