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ふための少女
第3話・再会
しおりを挟む霧の湖からの帰り道、雨が降り出し僕のすぐ後ろで雷が落ちた。
ガラガラドッシャァァァァン!!
「うわっ!?」
思わず自転車から落ちそうになる。そして、100メートルも離れていない場所の木から煙が上がっていた。僕は慌てて一旦ホテルの軒下へと身を隠す……。
「やばいやばい!あれはやばかった!」
大きな独り言を言いながら、自動ドアに身を預け一息吐く。
「ふぅ……本降りになってきたな。帰って正解だった。携帯は……あっ、電波が立ってる」
僕はとりあえず祖母の家に電話をし、安否を知らせ、ホテルで雨宿りしている事を伝えた。
「――うん、大丈夫。雨が小降りになったら帰るから……うん。はーい」
ふと、電話を切り顔を上げると、ロビーに人影が見えた。
「誰かいる?」
不動産の関係者だろうか。しかし駐車場には車は見当たらない。自動ドアのすき間に指をかけ、横に引っ張るとドアはゆっくりと開いていく。鍵は掛かっていない様だ。
「すいません!誰かおられますか!少し雨宿りをさせ――!?」
「ん?なんじゃ。確か……はるとと言うたかの。わしじゃよ」
「え!ゆいかさん!?」
なぜかゆいかが待合室の椅子に座りくつろいでいる。
「急に雨が降り出しての、今日はキリノコには行かれぬのぉ」
「ちょ、ちょっと!ゆいかさん!どうやって入ったんだ?」
「さっき雷が鳴りだしたので雨宿り……ひっ!」
ピカッ!ゴロゴロゴロ……!!近くで雷が鳴っている。すると、自動ドアがひとりでに開いた。
「え……接触不良か?」
雷が近くに落ちると、なぜか自動ドアが開閉する。薄気味悪い……。電灯もチカチカと点滅し始める。
「これ、主電源切って無いんじゃないか……?帰ったら母さんに言っておこう」
「わしは昔から雷が苦手でのぉ……くわばらくわばら……」
「昔って……僕と対して変わらない歳じゃないか」
僕は笑い飛ばし、ゆいかの向かいのソファに座わった。外は雨風が強くなり、治まる気配は無い。
「何を言うておる……わしは今年で――」
「え……?冗談言わないで――」
ピカッ!ゴロゴロゴロ……!!ガラガラドッシャァァァァン!!
「うわっ!」
「ひぃっ!」
また近くで雷が落ち、室内の電気が点滅する。
「……ゆいかさんが冗談言うから、神様が怒ってるんじゃないか」
「がくぶるがくぶる……」
「そうだ。僕、電源見て来るよ。漏電してたら危ないから」
「お、おう……頼むぞよ」
ゆいかはソファに顔を埋め、震えている。僕はフロントの奥にある関係者立ち入り禁止のドアを開け、事務所へと入った。
昼間と言え、窓の無い室内は暗く、ドアを閉めるとほとんど何も見えない。入口横の非常灯に目が止まり、懐中電灯を点ける。
「電気室……はどこだ」
小さい頃に事務所内だけではなく、このホテルは一通り探検した事がある。確か、事務所の奥に雷のマークの付いた部屋があり、母に「電気室は危ないから入っては駄目」と言われた事があった。
「確か……あれが電気室って言ってた様な……」
僕は事務所奥の電気室を開ける。
「あった。これが主電源……え?」
……なぜか主電源は切られている。
「……え?これって主電源じゃ……え?」
電源を2度見し、混乱した。さっき自動ドアも開閉していたし、電灯も点滅していた。それは電気が無いと起こらない現象だ。
「何なんだよ……!」
『ガタンッ!』
「誰っ!?」
奥で物音がし、急に怖くなった僕は事務所から急いでフロントへと戻る!
「はぁはぁはぁ……!ゆ、ゆいかさん!奥に誰かいるかもしれないっ!」
待合室でソファでうずくまっているであろうゆいかに声をかける。
「ゆいかさん!電気が切れてて、それで――!」
ソファに駆け寄ると、まくし立てる様に説明をしようとした。しかし……そこには誰もいない。
「――それで……え?ゆいかさん……?」
暗いロビーには先程と変わらず、雨風が窓に打ちつける音が響く。
「ど、どこに……?」
怖くなり、足が震え始める。恐怖とは一旦取り付くとなかなか離れないものだ。さっきまでと変わらないはずのこの空間が重く、暗く、恐怖を掻き立てる。
「に、逃げないと……!」
僕は気が付くと、自動ドアに指をかけドアを開けていた!重いドアが少しずつ開き、雨が顔に当たる。体がギリギリ通れる程ドアを開けると外へと逃げ出す様に飛び出した。雨で全身が濡れていくのがわかる。
外に出れただけで気持ちが少し落ち着いた。雨は相変わらず降り続け止みそうにない。おまけに霧まで出始めている。
「今日は帰ろう……」
僕は止めていた自転車に手をかける。びしょ濡れになるのは覚悟の上だ。このホテルに残ってるよりは良い。
そう思い、自転車に乗った時だった。
『プップー!』
後ろでクラクションが聞こえ、霧の向こうからヘッドライトが見える。赤い軽自動車はホテルへと横付けし、窓が開いた。
「母さん……!」
「はる!びしょ濡れじゃないの!自転車は置いといて乗りなさい!」
「お兄ちゃん、早く乗って!もう濡れるじゃない!」
母と千草の乗る車に僕は乗り込む。
「もう!家に電話したら、お婆ちゃんがはるはホテルで雨宿りしてるって言うし!何してたの!こんなびしゃびしゃになって!」
「……ごめんなさい」
「そうよ!お兄ちゃん!お母さん心配してたんだから!」
「……」
『九死に一生を得た』と言うことわざが頭を巡り、一刻もここから立ち去りたかった。
僕はその日、母と千草に散々に言われながらも、救われたと言う思いから感謝すら覚える。
後に母から聞き知ったのだが、このホテルには非常用発電機があり、落雷の際に作動したのではないかと言っていた。
………
……
…
「ふぅ……スッキリしたわい。あれ?誰もおらんではないか……まあ良い。雨が上がれば霧が出よう。ぼちぼち向かうかの……おや?ネズ公。どこから来たのじゃ?」
「チュウ?」
「まったく、あやつはドアも開けっ放しで行きおって……ん?お主は……」
トイレから戻ったゆいかは、そこで意外な人物と出会った……。
――8月8日。
翌朝、案の定、熱を出した僕は町の病院で点滴を射つ。
「37.6度。少し下がったかしら?点滴が1時間程かかるそうだから少し寝なさい」
「うん……」
「はる。明日もおばあちゃんちで大人しく寝てなさいね」
「うん……」
3年前にもこの天井見てたな、そんな事を考えてるうちにまぶたが重くなる。忘れてかけてた記憶が走馬灯の様に脳裏に浮かび、あの日もこんな風に湖に行かなきゃって思いながら、寝てたんだっけ……。その時、枕元に置いていた携帯が鳴る。
『ブーブーブー……』
「ん?電話?母さん、ちょっと携帯を取っ……て、て、誰もいない。んん……!」
点滴の繋がっていない右手を曲げ、携帯を取ると、画面も見ずそのまま着信ボタンを押す。
「もしもしぃ?」
「……」
友達だろうか。もしかしたら祖母からだろうか?
「もしもしぃ?今、病院――」
「タスケテ……」
「え?」
『プープープー……』
「切れた……え?今の……誰……?」
着信履歴を見るが、履歴がない。そしてだんだんと眠気に襲われる。点滴が効いてきたのかもしれない。
僕はそのまま深い眠りについた。
…
……
………
気が付くと、なぜか霧の湖のベンチに座っている。
「ここは……?」
「はるくん……!」
「え?何で……?」
「はるくん!来てくれたのね!約束の時間を過ぎたからもう来ないのかと思ってましたわ!」
「いつきさん……!?」
3年前のあの日、止まったままだった時間が動き出す。
「あれ……僕は熱を出して……病院で……」
「良かったですわ!さっ!日が暮れます!早く逃げましょう!あの人が来るわ!」
「逃げる?あの人?」
「さっ!早く!」
いつきに手を引かれ、僕は湖の西側へと走って行く。そこは自転車で通った事がある道。昨日の記憶と3年前の記憶が混ざり合い、どちらが正解なのかわからなくなる。
「確か、この道を抜けて道路に出て……」
「はるくん!そっちは行き止まりよ!さっ!こっちへ」
いつきに言われるがままに湖をぐるりと周って行く。違和感はあるものの、不思議と立ち止まりはしなかった。手を繋いで走っている……たぶんそれが嬉しくて、その柔らかい手が懐かしくて離したく無かったのかもしれない。
僕といつきは湖を西側から周り、あの祠が見える場所までやって来た。
しかし以前来た時は祠までの道は無く、近くまで行けなかったはずだ。そうなるとあの人とやらに追い詰められてしまう。
「いつきさん!この先は行き止まりになっ――」
「大丈夫ですわ!祠の後ろに周れます!」
「いや!その祠までが行けないはず……」
祠に近付くと、あっさりと辿り着いてしまった。祠の前まであった湖が数メートル下がっているのだ。道もしっかりしている。
「どういう事……だ?」
「さっ!早く!」
いつきに手を引かれ、祠の後ろへと周る。祠の後ろには木々が茂っており、その先は岩壁になっているのが見える。
いつの間にか足元が見えないくらいの霧が出始めていた。
「ここですわ!」
「ここ?」
岩壁の一部に小さな穴が空いている。しかし子供が入れるかどうかの小さな穴だ。
「さすがにここには入れないよ!いつきさん!他に隠れる場所を探そう!」
「いいえ!大丈夫ですわ!」
そう言うといつきは、ほふく前進で小さな穴へと入って行く。
「ちょ!ちょっと危ないって!」
僕の静止を振り切る様に、いつきの足は穴の中へと見えなくなった。
「……ど、どうしよう」
僕は穴の前で躊躇する。そもそも後ろから追いかけて来るあの人とは誰なんだと思い、後ろを振り返る。
そこには……誰もいない。そして更に霧は深くなっている。このままでは帰り道すらわからなくなりそうだ。
「いつきさん!帰りましょ!誰も追いかけて来てないですって!いつきさん!」
穴の中から返事は無い。
「そうだ!電話を!」
僕はポケットから携帯を取り出す。
「110、110……」
通話ボタンを押す。
『プ・プ・プ・プ――』
「繋がった!?もしもし!助けて下さい!今、霧の湖の――」
『プ―――――』
「え……?圏外……」
一瞬繋がった様に思えた携帯には圏外の文字が表示され、時刻は16時を示している。
その時、誰もいないと思っていた祠の方から声がした。
「どこに逃げたんだ……」
野太い声で、いつきを探しているであろう人の声が聞こえる。幸い、霧で僕の姿は見えてはいない様だ。僕は足音を立てない様に木の陰へと周り込みしゃがむと同時に人の影が霧から現れる。心臓がバクバク言うのを手で押さえ、木の陰からそっと姿を見た……。
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