12 / 20
ふための少女
第11話・50年前
しおりを挟む「はぁはぁはぁ……」
過呼吸になりそうなくらい息が苦しく、涙や鼻水を出しながら……目が覚めた。
「はぁはぁはぁ……ここは……?」
私はいつきに霧川家の屋敷に案内され、そこで使用人のメアリーと出会った。そしていつきの死を目撃し、メアリーが犯人では無いかと疑う。
「それから……ふための水晶を探して、ゆいかさんの部屋に行ったけど見つからなくて……いつきさんの部屋に戻ると、閉じ込められ……水が部屋に入ってきて……はぁはぁはぁ……」
徐々に思い出してきた。最後は溺れて……死を覚悟した……。
「生きてる……ここはお兄ちゃんの部屋……?」
体を起こすと、眩しい太陽の日差しが顔にあたり、同時に生きていた事にほっとする。
「ひっ!」
無意識に握りしめていた水晶を投げ出し、後退りした。
「ひどい目にあったわ……。夢……だったのかしら?」
ふと足元を見ると、靴下を片方履いてない事に気付く。
「夢……じゃない……!確か、あの太い腕に足を掴まれて、靴下が脱げて……!」
急に怖くなってきた。やっぱり自分は死んだのか?現実と夢が混ざり、パニック状態になる。
「お、落ち着け……私。あの声は何て言ってた……?確か……『いつき様』って……」
嫌々だが思い出し、頭を整理する。
「部屋だった場所が急に洞窟みたいな所になって……それで……」
少しずつ思い出しては紙に書き出していく。すると、見えなかった状況が少しわかってきた。
この安心感のある部屋にいるからこそ、客観的に物事を考えれるのだ。屋敷にいた時には分からなかった事も見えてきた。
「あの時、うつ伏せで倒れていたのは本当にいつきさんだったのかしら……?そもそもメアリーさんが確認しただけで私は確認していない。そうだ……あれだけ血が出ていたのに、血痕がなかった気がする……。最悪人形の可能性だってあり得る。でもなぜそんな事を……?」
疑問がたくさん浮かんでくる。メアリーはいつきを恨んでいた?なぜ……?『ゴメンナサイ』と何度も言っていた……あれはどういう意味?
「……ゆいかさんのせい?」
口に出してハッとした。いつきが亡くなれば、当主はゆいかになる。メアリーがそれを望んでいたのだとしたら、いつきを殺害する動機にはなる。
「待って……私はふための力を使っていた……!もしかしてあれはいつきさんの記憶を見ただけなの……!?」
いつきはメアリーに殺される事を事前に知っていた。そして死んだ様に見せかけ、再度メアリーの前に現れる。あたかも亡霊の様に……!
「そうだとしても……最後の洞窟は何だったの……?うぅん……分からないだらけだぁぁぁ!」
私は両手を広げ、大の字になって部屋に転がった。
「お兄ちゃん早く帰って来ないかなぁ……何か知ってるかもしれないのになぁ……」
それから兄が退院するまで、1人で考察をしていたが結局わからずじまいだった。
………
……
…
――2日後。
「お兄ちゃん!お帰り!待ってたの!」
「千草、ただいま。疲れてるんだ……ちょっと休ませて……」
「千草!はるは疲れてるんだから後にしなさい!」
「えっ!でもでも!」
「千草っ!」
「はぁい……」
母に怒られ、千草は自分の部屋に帰って行く。後で落ち着いたら、声をかけてやろう。
僕は2日ぶりに自分の部屋へと入る。真っ先にずっと気になっていた与次郎からの手紙を再度読み返した。
「……あれ?内容が変わってる?どういう事だ……」
おおよその内容は同じだが、最後に気になる一文がある。
「……ダムの建設に反対する者達が、領主様を亡き者にしようという噂を聞いた。万が一の事を考え、ふための水晶を君へ預ける――こんな文章無かったよな……」
胸騒ぎを覚えた。自分がいない2日の間に何か過去で変化があったのだろうか。ふための水晶は木箱に入れて閉まってある。
「いや……閉まった覚えはないな。母さんか千草が……?」
僕は真っ先に千草を疑った。もしかしたら、ふための水晶を覗いたのではないだろうか。すぐに千草の部屋に行き、話を聞く。
「うん……覗いた」
「やっぱり!それで何があったんだ!」
「水晶を覗いて……気が付いたらホテルにいて……」
千草の話を聞き終えると、ようやく意味が分かった。それから僕は知っている限りの話をし、千草が知っている限りの話を聞く。
「これはもう1回……水晶を覗いて過去に行く必要がありそうだな」
「そうね……」
「いや、僕が行く。千草はここにいろ」
「嫌だよ!だってあの人を止めないと――!」
「……でもどうやって。母さんにでも頼むのか?」
「そ、それは……」
「もし僕が2日……いや、3日経っても帰って来なかったら、手紙の送り主の与次郎さんに連絡をしてくれ」
「……分かった。でもお兄ちゃんはまた病院に連れて行かれると思うけど……」
「そこはあれだ。上手く寝ている事にでもしといてくれ」
「もう……気を付けてよ?」
「あぁ、行ってくる」
僕は千草に別れを告げ、仰向けに寝転がると再びふための水晶を覗き込んだ。
…
……
………
「……?」
ゆっくり目を開けると木目の天井らしき物が見え、そして隣の部屋から聞いた事のある声が聞こえた。
タイムリープをしてきたせいか、頭が重い。ゆっくりとベッドから起き上がると窓をそっと開け聞き耳を立てる。
「――15時かぁ……晩ご飯は18時頃って言ってたから少し時間があるわね。はる、お母さん温泉に先に行くけどどうする?1人で入れる?また叔母さんが仕事終わるまで待つ?」
「う……ん……。まだいいや、部屋にいる」
「そう……そしたら鍵は持って行くから出る時は受付の叔母さんに言うのよ、わかった?」
「はぁい……」
「あっ!さっきの子……!お母さん、僕ちょっと出てくる!」
「はるっ!どこ行くの!ちょっ!ちょっと待なさ――」
隣の部屋がちょうど401号室なのか?さっきの声は過去の母と僕の会話の様に聞こえた。
「3年前に戻っ……え?」
窓から外を覗き込んでその違和感にすぐに気が付いた。4階だと思って窓から外を覗いたのだが、せいぜい2階位の高さだ。そして眼下を着物を着た男の子が走って行く。
よく見ると、部屋もコンクリート造りではなく、木造の古い建物……。壁にあるカレンダーを見ると、日めくりカレンダーになっており、1967年の8月7日になっている。
……僕がいつきと会った日まで戻ったみたいだ。
「1967年……?もしかしてここは50年前の百鶴旅館なのか?と言う事は、さっきのはるって呼ばれてたのはもしかして……」
疑問も残るが、今は時間が無い。まずはゆいかの屋敷に向かう事にした。おおよその場所は千草に聞いている。旅館の裏口から出て舗装もされていない道を歩いて行く。
15分程歩くと小高い丘の上に屋敷の屋根が見えた。
「あそこか……」
屋敷を目指しさらに山道を登って行く。山道を登る事、15分……ようやく屋敷に着いた。
「はぁはぁはぁ……この山道を毎日往復はきついな……はぁはぁはぁ」
運動不足か、既に足は仔鹿の様にぷるぷる震えている。屋敷の側にある石に腰掛け、一旦息を整えた。
息を整えると、玄関のチャイムを押した。
『ビィィィィィ!』
「ふぅ……御免下さい!」
「ゴメンは簡単にはアゲレナインダ、アホタレ」
「うわっ!!」
いつの間にか背後に金髪の女性が立っている。歳の頃は、30代と言った所だろうか。以前来た時にいたメアリーと言うメイドさんだろうか。
「キサマ、何しに来たノダ?理由に寄っては……コロ……」
「ちょ!ちょっと待てよ!いや、待って下さい!僕は怪しい者では御座いません!千家春彦と言いまして――」
「千家……?」
金髪の女性は僕の足から頭までを舐める様に見つめる。
「ソノ出で立ちは西洋の……?」
「え?あぁ、洋服ですね!はは……は……(しまった!この時代は着物なのか!)」
「よし、入レ」
「いいんかーいっ!」
「オマエ……死にた……」
「いえ!ツッコミ……冗談なので気にしないで下さい!あはは……」
彼女はやはりメイドのメアリーだった。彼女に案内され屋敷の中へと入る。千草の言っていたメアリーと同一人物で間違いないだろう。『日本語の変な金髪』と千草は言っていた。
客間に通されると、しばらくここで待つように言われる。日本人形が並べられ、どことなく不気味な雰囲気の部屋だ。
「これか……千草の言っていた掛け軸は……」
床の間にある掛け軸が少しだけ傾いていた。直すフリをして手を掛けると、掛け軸の裏に扉らしき物がある。
隠し扉を開けて確認したい所だが、いつメアリーが帰ってくるかわからない。僕は夜まで待つ事にした。
「それにしても……この日本人形……皆後ろを向いてくれないかな。こっちを見ている様で落ち着かない……」
その何気なく放った一言が、僕を恐怖へと落とし入れる。
『ギシ……』
「え……?今の音……」
廊下の方から足音が聞こえる。メアリーだろうか。
『ギシ……ギシ……』
足音が近付いてくる。そして部屋の前で……止まった。
「メ、メアリーさん?ですよね?」
襖の向こうには誰かがいる気配はする。しかし返事はない。
「ちょ!メアリーさん!驚かせないで下さいよ!」
動揺を隠す様に、僕は話かけながら襖を勢い良く開けた……。
「メアリーさん、どこ行ってたんで……え……?」
廊下には誰もいない。そして部屋の中から声がする。そう、誰もいないはずの僕の背後から……。
「アナタ……」
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
振り向くとそこにいたのは……!?
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる