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ふための少女
第10話・死ぬんだ……
しおりを挟む「それじゃ、メアリーさん。まずいつきさんの部屋からですね」
「そうですわヨ、千草さん」
私とメアリーは『ふための水晶』を探して、再度いつきの部屋へと行く事にした。
いつきが持ち帰ったふための水晶が元々この屋敷にあった物だったとしたら、もう1つの水晶……ゆいかから兄に贈られた水晶を覗く事で私は元の時間に戻れるはず。それがあると思われるのはいつきの部屋が1番濃厚だ。
「メアリーさん……あ、あ、開けるわよ……」
「ハイ……」
いつになく真剣な顔のメアリー。いつきの使用人であったメアリーは、ご主人の亡骸をまた見るのはつらいだろう。しかし私も背に腹は代えられない。
私はゆっくりとドアを開けた。
「え……?」
「……」
部屋の中央にはいつきがうつ伏せで亡くなってると思っていた。いや、実際さっきまではそうだったはずだ。
「いつきさんが……いない?」
「ハテ……ドコへ……?」
何事も無かった様に部屋には電気が点き、誰もいない部屋を照らしている。
「どういう事……?さっきまでここに……」
「わかりまセン……」
メアリーもまた不思議そうな顔をして部屋の中を覗いている。
この時、私はとんでもない事に気付いてしまった。もしここで『ふための水晶』の力を使えば、いつきが現れるかもしれない。
メアリーには気付かれない様に、右目をつむり、左目をつむった。すると……!
――いたのだ。いなくなったはずのいつきが部屋の真ん中に……。
あれはたぶん過去のいつき……それが黙ってこっちを見ていた。
「メアリーさん……あなたもしかして……」
「ナンですか?千草さん……怖い顔をシテ……」
薄暗い中で見るメアリーは微笑んでいる様にも見える。
「千草さん……さぁ、部屋に入っテ……さぁ……」
メアリーが何だかせかしている様にも取れた。
「メアリーさん……あなた……」
「なんだコノヤロー」
「あなた……見えてないの?」
「へ?」
メアリーがゆっくりと視線を部屋の中央へと向ける……そして顔つきがだんだんと変わっていく。
「フンギャァァァァァァ!!」
とんでもない音量の声を出し、メアリーは部屋の中を駆け回り出した。
「シャラップ!シッツ!アウチ!」
「メ、メアリーさん落ち着いて!」
「千草さん!助けて!早く!お願い!ねぇ!早く!」
「メアリーさん日本語上手よね……」
「そ、そげん事はナカ……」
「誰やねん」
メアリーは床に頭をつけ、震えながら1人でブツブツ何かを言い始めた。
再度いつきを見ると、少し呆れ顔でメアリーを見ている。
「なるほどね。さて、メアリーさん。疑いたくないのだけど、あなた何か隠してるわね?」
「ブツブツ……ブツブツ……」
私の声が聞こえているのかどうか、メアリーは床に向かって何かを言い続けていた。
メアリーに近付き、もう1度声をかける。
「メアリーさん。あなた何を隠し――!?」
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……」
「!?」
やはり彼女の姿が見えているのだろう。メアリーが私にふための水晶の使い方を教えてくれた。それは裏を返すと、メアリーもふための水晶を覗いた経験があると言う事になる。
――メアリーがブツブツ言い始めて、数分が経過した。時々、チラっと顔を上げてはまたブツブツ言い始める。彼女の顔色を伺っているのだろう。
メアリーが何かを知っている事は間違いない。しかし、この状況で話しかけても、答えてくれるとも思えない。
私はいつきの部屋を見渡す。寝具、タンス、物置、窓……和風な屋敷とは違い、洋風な家具を揃えてある。その為か1箇所だけ不自然な場所へと目がいく。
それは床の間の掛け軸……。
「ここだけ和風なのよね……」
神様の絵だろうか。掛け軸には天女の絵が描かれていた。洋風に見えなくもないが、絵画ではなく掛け軸を掛けている所が怪しい。私は床の間に近づき掛け軸をめくった。
「やっぱり……」
掛け軸の裏には神棚が隠れていた。そこに光る水晶が1つ。
「あったわ。これがいつきさんが持ち帰った元々この屋敷にあった『ふための水晶』ね。と言う事は、もう1つはどこに……」
もう1つの水晶は元々湖の祠にあったはず。しかしいつきは『これで2つ揃った』と言っていた。と言う事はこの屋敷に保管している可能性がある。
「ふための水晶……ふための水晶……」
私は1つ疑問を抱いた。もし2つの水晶を同時に覗いたらどうなるのだろう?そもそも『ふための水晶』と言う呼び名から、何か起こる可能性もあるのではないだろうか。
「ここに無いとすれば、もう1つの水晶はやっぱりゆいかさんの部屋……よね」
メアリーはまだブツブツ言いながら震えている。ここはいつきに任せて私はゆいかの部屋を探す事にした。
「こんなに広い屋敷でどこにゆいかさんの部屋……あっ」
隣だった。隣の部屋の入り口に『ゆいかちゃんのお部屋』と何ともきらびやかなプレートが掛けてある。
「ゆいかさんはお茶目さんか……」
ドアには鍵が掛かっていない様だ。
「失礼します……」
室内はお姫様が住む洋風の飾りかと思いきや、いつきの部屋とは対照的に、純和風の部屋だった。
「なんでやねん、プレートと合わないじゃない」
そんなどうでもいい愚痴をこぼし、部屋の中を漁る。
「特に変わった所はないし……床の間の掛け軸の裏にも何もない……さてさて、どこに隠したのか……」
タンスや物置、掛け軸と部屋にある物を見てみたが、何も見つからない……。
「おかしいなぁ……」
その時だった。カチャン!と後ろで音がし、ドアの鍵が掛かる。
「え!?誰!」
鍵を掛けたのはメアリーしか思い当たる人はいない。いつきの呪縛から解放されたのだろうか。私は慌ててドアノブを回し鍵を開ける!――カチャン!
「開くんかい!」
私は部屋の内側にいる。ドアノブを回すことで内側から鍵は開けれたのだ。何の為に鍵を掛けられたのか意味がわからない。
一旦部屋から出ると、隣のいつきの部屋に戻りメアリーに声をかける。
「ちょっとメアリーさん!ゆいかさんの部屋の鍵かけ……あれ?メアリーさん?」
今度は部屋にメアリーの姿が見当たらない。そればかりか、いつきの姿も見えなくなっている。
「どういう事……?」
急に1人になり、また意味のわからない不安が押し寄せてくる。
「どういう事……メアリーさんがいつきさんを殺めたんじゃないの……?」
頭の整理がつかない。するとまた、カチャン!と後ろで音がし、ドアの鍵が掛かる。
「もう!メアリーさん!いい加減にして!鍵を掛けても内側から開……」
ドアの取っ手に手を伸ばし、ハッとした。ドアノブが見当たらないのだ。
「うそ……」
部屋から出られない、その感情が一瞬にして恐怖に変わる。
「ちょ……誰か!誰か!」
ドンドンドンッ!ドアを叩いて呼んでみるが自分の声が部屋に響くだけだ。声を張れば張るほど、返答がない事で恐怖心がどんどん膨らんでいく。
「開けて!誰か!メアリーさん!いるんでしょ!ねぇ!」
ドンドンドンッ!どのくらい叫んだのだろう。だんだんと声が枯れてきて、さすがに疲れてきた。
「疲れた……」
私はその場に座り込み、部屋の中を見渡す。確かここは2階、最悪窓から飛び降りる事も出来るだろう。夜中に森へ入るのは危険だ。朝になってドアが開かなければ、窓から飛び降りよう。
私はいつきのベッドに腰掛け、仰向けになる。
「最悪……何でこんな事に……はぁ」
天井を眺めていると、静かなはずの部屋で何か音が聞こえてきた。
「今度は何……?」
ベッドから身を起こすと、床に着いた足が一気に冷えていく。
「冷たっ!何!?」
どこからか水が部屋に入ってきている様だ。見渡すと先程のドアの下部の隙間から水が部屋へと入って来ている。
「嘘……どどどうしよう……」
私はすぐさま、非常用にと残して置いた脱出手段の窓に手を掛ける。ここから飛び降りるしかもう方法が思いつかない。窓の取っ手に手を掛け、力いっぱい窓を押す!
「……開かない。え?もしかして引くの?」
ガタガタ――引いてみたが窓は開かない。外は暗闇と霧が混じり、何も見えない状態だ。
「お、落ち着け私……」
何度か窓を押して引いてみたが、やはり開かない。
「何か……何か方法は……」
既に水位はベッドの上まで上がってきている。このままでは10分もしないうちにこの部屋は水でいっぱいになるだろう。
「そうだ!ふための力で何か……!」
私は急いで右目をつむり、左目も同じ動作をする。
「……え。ここは……どこ?」
目を開けると部屋の中は薄暗くなり、辺りには岩肌が見えた。部屋の壁ではない。ゴツゴツとした岩そのものだ。
「どういう事よっ!ここはどこなの!」
自分の声がこだまする。するとドアのあった場所にさっきまで無かった穴があり、そこから1本の腕が伸びてくる。
「いや……何!誰!来ないで!いやぁぁぁ!」
「い、いつき様……!」
その腕の声の主が野太い声でいつきの名を呼んだ。
――グラ!
グラグラグラッ!
突如洞窟が揺れ始め、私は水の中へと投げ出される!
「ごぼごぼごぼっ……!」
息が出来ない。もがけばもがく程に息が苦しくなり、自力ではもうどうする事も出来なかった。
――私、死ぬんだ。
意識が遠ざかっていく中、先程見えた腕が私の足をたぐり寄せた……。靴が脱げ、生暖かい手の感触が足に伝わる。
もう恐怖はない。このまま死ぬのだから……。好きにすればいい……。
私はゆっくりと目を閉じた。
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