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ふための少女
第9話・ふための少女
しおりを挟むいつきに連れられ、霧川家にやって来た私は『ふための水晶』の意味を知る事になる。
そしてそれは意外にも使用人のメアリーの口から語られた。
「千草様。もしかして、ふための水晶を見られました……パードゥン?」
「えぇ、メアリーさん。ふための水晶は見たわ。1つは霧川家に祀ってあった物、もう1つはお兄ちゃんがゆいかさんからもらった物……」
「やはりそうですか……。それでは始めますか……!イッツショータイム!」
「え?何!」
そう言うと、メアリーは指をパチンッと鳴らした。
「え!何!?何が始まるの!」
私は身構え、メアリーの動きを注視する。
「……」
「……」
「まぁ、お座りくだサイ」
「は?」
「長くなるので座れと言ったんダ。コンチキショー」
「え?私はさっきの指パッチン待ちなのだけ――」
「Sit down……」
「……はい」
メアリーの指パッチンには何の意味も無かった様だ。辺りは静か過ぎるくらいに、物音ひとつしない。
「千草様。右目をつむって下サイ」
「右目?こう?」
右目をつむるとメアリーが見える。
「ヘイ。次に左目をつむって、右目を開けて下セイ」
「は、はぁ……」
メアリーに言われるがまま左目をつむり、右目を開ける。
そこにはメアリーの姿がある。
「私が見えまスカ」
「いや……それは普通に見えるでしょ……?何?」
「それでは両目を開けて下セイ」
「いや、だからなっ――!?」
両目を開けて気が付いた。今の意味不明な動作をした後にメアリーを見ると、メアリーが……!
「2人いる……!?何これ……」
「これが『ふための水晶』を覗いた者にしか見えぬ未来と過去の姿でゲス」
「未来と過去……?」
「千草様の目には今存在するメアリーチャンと、いつの日かわからナイ、昔のメアリーチャンが映ってると思いメス。ちなみに昔のメアリーチャンはナイフの様に尖っては触る者皆、傷つけ――」
「そうなのね!だからさっき大広間にもう1人のメアリーさんがいたんだ!」
「触る者皆、傷つけ――」
「そう言う事なのか……いつきさんも『ふための水晶』を見つけてから様子がおかしかったわ。お兄ちゃんも私には見えない何かを追いかけてた……そう言う事だったのね」
「……私が傷つイタ」
「ん?メアリーさん、ごめんなさい。聞いてなかったわ。続けて下さい」
「……ヘイ、シリ」
「それでこの現象はどうやったら元に戻るの?」
「数分経てば元に戻るデシ」
「なるほど……」
メアリーは立ち上がると、戸を開け縁側に座った。
「霧の湖のほとりにある祠には、いつき様とゆいか様のお母様が祀られてあるのデシヨ」
「お母様が?」
「ヘイ。奥方様は霧の湖で亡くなられたのでス……」
「えっ!?そうだったんだ……」
「2人がまだ幼子だった頃デス。その奥方様が大事になさっていたのが、2つの水晶デシタ。亡くなられた後に、水晶に文字が浮かび上がったとかなんとかカントカ……1つは霧川家に。もう1つは湖に祀られてました」
「そうだったんだ……」
「ヘイ。そして奇妙な事に、その2つの水晶玉を見た者は霧が出るとどこかへと行ってしまい、いつの間にか戻って来ていまシタ」
「ねぇ、もしかして2人のお母さんは何か伝えたい事があるんじゃないのかしら?」
「わかりまセン……ですが、先程帰られたいつき様を見て思いまシタ。いつき様は――」
「やっぱり!私もいつきさんの様子が少しおかしいと思ったの――!」
「――いつき様はいつ見ても可愛い顔をして――え?千草様?エッ?」
「メアリーさん、そこじゃないわ。いつきさんの様子がおかしいのよ」
「えぇぇ!どどどどどどどうしまショウ!気付きマセンデシタ!」
「なんでやねん。どちらにしてもいつきさんの様子を見に行った方が良いわね。私も元の時間に戻れる方法を聞かなきゃだし」
「千草様。それは大人気デス」
「大人気?」
「いえ、大丈夫デス。ふための水晶には――」
メアリーに詳しく話を聞いた後、いつきの部屋へと向かう。既に屋敷に来てから3時間余りが経っている。しかしあれからいつきは部屋から出て来ていないそうだ。
「いつき様、メアリーどす。いつき様。お食事はイカですか?いつき様!」
ドアをノックしながらメアリーが声をかけるが、返答は無い。ドアには鍵がかかっている様だ。
「困ったわね。いつきさんにふための水晶を借りないと……」
時間の戻り方にはいくつか方法があるらしい。一番簡単な方法が、最初に触れた水晶をもう1度覗くという方法だ。それは兄の部屋で覗き込んだふための水晶。この屋敷のどこかにそれはあり、そしていつきが管理していると思われた。
メアリーが合鍵を使い、部屋のドアを開ける。
「失礼しメス。いつき様、大丈夫で……!?」
「どうしたの?メアリーさん。何かあったの?」
私はメアリーの立つ隙間から部屋を覗き込んだ。そして、その光景に息を飲んだ……。
「いつき様!いつき様!」
「何て事……」
いつきは部屋の中央でうつ伏せに倒れており、床にはおびただしい血が広がっている。
メアリーは必死に呼びかけていたが、いつきの手を握った瞬間にメアリーの叫び声が止まった。
「……冷たィ……うぅぅ……!」
「嘘でしょ……」
メアリーにとってはご主人様になるいつき。それが目の前で動かなくなっている事にメアリーはひどく嘆いた。
しばらくの間、メアリーは泣きながらいつきの側を離れようとしない。私も近付いてはみたものの、大量の血を見て吐きそうになる。
「メアリーさん……気持ちはわかるけど、警察とか救急車とか……そういう連絡もした方が……うっ……」
「……そうでゲスね……そうでゲス」
そう言いながら、フラフラと立ち上がりメアリーは廊下に出て行く。
私も廊下に出てメアリーの帰りを待つ事にした。この屋敷には他に人がいないのだろうか。静けさと、部屋の中のいつきが気になり、恐怖に襲われる。
「もしかして……まだこの屋敷に犯人がいるの……?」
そんな事を考えていると余計に怖くなったが、まだメアリーの姿は見当たらない。メアリーを追いかけるにしてもどこに行って良いのかも見当がつかない。
「どうしよ……とりあえず、ドアを閉めて……客室に一旦戻ろうか……」
私は恐る恐るいつきの部屋のドアを閉め、階段を降りる。耳を澄ませてみたが、メアリーの声は聞こえない。
「どこに行ったのよ……メアリーさん……」
『ゴーンゴーンゴーン……』
大広間の方で時計が鳴る。階段を降りた所でメアリーの帰りを少し待ってみたが、帰って来る気配もない。
「メアリーさんどこまで行ったのかしら」
廊下の電気は点いてるものの、この広い屋敷でメアリーを探しに行く勇気が出ず、私は客間へと戻る事にした。廊下を歩いていると、先程の中庭が見えてくる。
「霧……?」
窓の外は既に暗いのだが、白いモヤがかかっている様に見えた。
「ふぅ……」
客間に戻り一息つくが、相変わらず屋敷は静まり返り薄気味悪い。敷いてあった布団を折りたたみ、片付けてあったテーブルをもう1度置いた。
この状況でぐっすり眠れるはずがない。いつきは誰かに襲われたのだろうか?それとも事故?
客間に戻って来れて一安心はしたのだが、頭の中はさっき見た光景でいっぱいだ。
テーブルに顔を付け、ぼーと眺めていると一瞬掛け軸が揺らいだ気がした。
「隙間風……?いや……床の間だけ……?」
不思議に思い、床の間の掛け軸にふれると、掛け軸の後ろに何かが見えた。
「何これ……?」
掛け軸の後ろに小さいドアがある。隠し扉と言うやつなのだろうか。扉の下には御札が剥がれて落ちている。明らかに触れてはいけない空気感が漂う。
「見なかった事にしよう……」
開ける勇気も無く、何も無かったかの様に掛け軸を元に戻した。
…
……
………
……どのくらい経ったのだろう。眠るつもりはなかったが、いつの間にか布団を枕代わりに眠ってしまっていた様だ。
気が付くと、メアリーが正座をしてお茶を飲んでいる。
「メアリーさん!良かった……帰って来ないから心配したのよ」
「お目覚めですカ、千草様。お茶が入っておりますレバー」
「あ、うん。ありがとう」
テーブルの上の湯呑みにはお茶が淹れてあった。喉の渇きもあり一気に飲み干す。
そして一番聞きたい事、それは警察を呼べたかどうかと言う事。
「メアリーさん、警察は――」
「警察には連絡が出来ませんデシタ。電話が繋がらないのレス」
「そんなぁ……」
「あらあらまぁまぁ、千草様。まぁ、もう一杯ドウゾ」
メアリーにお茶を淹れてもらい、少し落ち着いてきた。
「いつきさんをそのままにしておくわけにいかないし……」
「千草様、電話が繋がるまでにふための水晶を探しまショ?」
「ふための水晶を?いつきさんが2つ持ってるんじゃないの?」
「いえ、いつき様はお持ち帰られた1つだけのはずデス。千草様が探しておられる、もう1つのふための水晶もこの屋敷のどこかに……」
「そうなの?……うん。待ってても誰も来ないし……そうね……いつきさんには悪いけど、先に探させてもらいましょうか」
「フフ……良い子……」
「え?メアリーさん何か言った?」
「いえ、ナニモ……」
こうして2人で、屋敷のどこかに祀られている『ふための水晶』を探す事にしたのだった。
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