ふための少女

ざこぴぃ。

文字の大きさ
9 / 20
ふための少女

第8話・霧川家

しおりを挟む

 私は気が付くと、ホテル百鶴ひづるにいた。そこで霧川いつきに出会い『ふための水晶』を探す事になる。

「いつきさん!と、とっくりさんはもうわかったから!ふための水晶を探しましょっ!」
「――とっくりさんとっくりさん……千草さんの未来の恋人の名前――」
「ンギャァァァ!やめいぃぃ!」
 謎のとっくりさんで盛り上がる2人。
「さて千草さん。ふための水晶ですが、4階の物置には見当たりませんでしたわ。このフロントの辺りも一通り探したのですけど……」
「後は……1部屋ずつ見ていくしかないのですかね」
「そうですわねぇ……千草さんの方がこのホテルに詳しいと思います。どこか心当たりはないのですか」
「うぅん……水晶……かぁ。水晶水晶……光る……!あっ!」
「どこか心当たりでも!?」
「もしかしたら!」
 私は思い出した様に廊下を走り、温泉へと向かう。
「千草さん!ちょ待って……」
「いつきさん!温泉に来て下さい!」
「温泉……?ちょ……待てよ!」
 後ろでいつきの声が聞こえるがお構い無しに温泉へと向かう。思い出したのだ。以前、このホテルに泊まった時に眺めていた綺麗な石の事を!
 浴室に入ると浴槽には既に湯は無く、温泉も止まっている。私は迷わず空の浴槽に入り、真っ直ぐにそこへと向かう。
「はぁはぁ……やっぱりあった!!」
 その玉は浴槽にある竜の形をした吐出口にすっぽり収まっていた。
「千草……さん……待って……はぁはぁ……」
「いつきさんありましたよ!」
「ほんと!?」
「えぇ!どこかで見た事があったんです。この竜の口がキラキラしてて綺麗だなぁ……て眺めてた事があって!」
 お湯が出ていたら熱くて取れないどころか、気付かなかったかもしれない。ふための水晶は、竜の口の奥に挟まっていた。
「こ、こんな所に!?」
「この温泉は源泉をそのまま利用していたはずです。誰かが上流で捨てたか落としたか……そしてそれがそのまま流れて来たのかも」
 理由はどうであれ、無事にふための水晶を見つけれた。
「なるほどね……。千草さんがここに来れたのは、このふための水晶を見てたからかもしれませんね」
「どういう事ですか?いつきさん」
 いつきは大事そうにふための水晶を布に包み、懐へと仕舞う。
「これで揃ったわ。ふための水晶はね、1個だけではその効果は無いのよ。2個見る事で不思議な力が解放される……」
「不思議な力……?」
 なぜかいつきが不適な笑みを浮かべている様に見えた。
「さ、千草さん。戻りましょうか」
「は、はい」
 私は『元の時間』に戻ると言う意味に受け取った。しかし、いつきの後ろを付いて歩くがいつまで経ってもそんな気配がない。

 ホテルを出て、霧の湖沿いの道路を歩いていく。辺りは暗くなり始め、夜が近付いている様に思えた。
 あれからいつきは一言も発しない。黙って付いて歩く事、およそ30分。
「着きましたわ、ここが私の家です」
「ここが……」
 森の中の開けた場所にその大きな屋敷はあった。表札には『霧川』と書かれている。
「あの、いつきさん。これで私は元の時間に戻れるのですよね?」
「……どうでしょうね」
「え?だってさっき『戻りましょうか』ていつきさんが言うから、私はてっきり……」
「はい?私は家に『戻りましょうか』て言ったのです。千草さんが元の時間に戻れるとは言ってませんわ……」
「そんな……」
 言葉の受け取り方が違っていた事に今更気が付いた。しかし辺りはもう暗く、ホテルに戻るにしてもまた30分は歩いて帰らないといけない。
「千草さん。さ、上がって――」
「はい……」
 私は言われるままに霧川家の門をくぐった。

「おかえりなさいメシ。な……いつき様」
「……メアリー、ただいま。こちらは――」
「ぞ、存じあげておりメス」
「そう、お客様をご案内して下さいまし」
「ハイ、いつき様……」
 玄関ではメイドの格好をした金髪の女性が、いつきに頭を下げている。しかし怯えているのか?弱わしい物腰だ。
「は、初めまして。千草です。日本語で……大丈夫なんですか」
「ヘイ、シリ。私はメアリー。オマエは誰ダ」
 客には態度がでかいらしい。
「千草さん、メアリーはこの家の使用人なの。身の回りの事を任せているわ。私は少し疲れたから部屋で休むわね」
「あっ、いつきさん!」
 いつきはそう言うと、そそくさと2階への階段を上って行く。
「千草様。1名様、お部屋へご案内いたしメス」
「は、はぁ……」
 メアリーに案内され、私は1階の客間へと通された。純和風の屋敷だ。廊下も中庭も手入れが行き届き、昭和へタイムスリップした様だ。
「こちらでございメス。千草様、すぐにメシ出来ル」
「は、はい。ありがとうございます……」
 客間は6畳程の畳の部屋で、中央には立派な木製のテーブルが置いてある。
「ひゃぁ……高そうなテーブル……」
 物置と床の間もあり、床の間には掛け軸が掛かっている。
「南無釈迦牟尼仏……ここにもあの文字が……」
 掛け軸にも、水晶と同じ文字が書かれている。
「そう言えばちゃんと検索する前にここに来たから、意味がわからないままだったなぁ……」
「いらっしゃいマセ」
「ギャァァァ!」
 いつの間にか背後にメアリーが立っている。気配を全く感じず、大声で叫んでしまった!
「千草様、食べるのご用意ができましたメス」
「あっ、ありがとうございメス。あっ……」
 思わず語尾を釣られてしまう。
「フフ……千草様、カワユイ」
「えっ……は、はぁ……」

 ――カタン。

「ギュワァァァァ!」
「ヒィィィィィィ!」
 物置で何か音がし、メアリーが叫ぶと同時に釣られて叫んでしまう。
「千草様千草様!今、物置で何か音がしましたわ!」
「メアリーさん、日本語上手じゃない!」
「そうアルカ?」
「なんでやねん……」
 メアリーが物置を開けろと言わんばかりに、襖を指差し、終いにはぐずる私の後ろから手を取り、襖の取手にかけさせる。
「はぁ……メアリーさん……開けるわよ……」
「ヘイ、シリ……」
「それどこで覚えたのよ……はぁ……」
 私は覚悟を決め、襖を一気に開けた!
「だだだだれかいるの!!」
「ヒィィィィィィ!」
 メアリーの叫び声が部屋と私の耳に響く。
「チュウ……?」
「出て来なさ……チュウ?」
 見ると布団の上にネズミが1匹座っている。
「なんだぁ……ネズミか。びっくりさせやがって」
 今のは私が言ったのではない。メアリーがはっきりと日本語でしゃべったのだ。
「メアリーさん、あなた日本語上手よね?」
「なんでやネン」
「いや、こっちのセリフなのだけど……ん?いたっ……目に何か入って……」
「ネズミのフンでスカ?」
「ちがわいっ!あっ、取れたかな」
 ほっとした所で、大広間に案内され食事を頂いた。しかしいつきの姿はなく、メアリーが1人、私の後ろに黙って立っている。
「メアリーさん……そこにずっと立たれてると……食べにくいのだけど……」
「……」
「……い、いただきます……」
 背中にメアリーの視線を感じながらの食事はすごく食べづらい。

………
……


「ごちそうさまでした。メアリーさん――」
 私は立ち上がり振り向くと、メアリーにお礼を言った。
「メアリーさんありがとうございま――!?」
 しかし、さっきまでそこにいたメアリーの姿が見当たらない。
「あれ……?メアリーさん?」
 呼びかけるが大広間は、しーんと静まり返り、誰の返事も返ってこない。
「嘘でしょ……?誰もいない……?」
 私は薄気味悪くなり、一旦部屋へと戻る事にした。先程案内された廊下を歩き、中庭を過ぎて……。
「確か、この部屋だったわよね……」
 案内された部屋の襖を開けた。
「え……何?なんなの……これ……!」
 先程は部屋の中央に木の装飾があるテーブルがあったはずだ。しかしテーブルは片付けられ、布団が敷いてある。
 そして……。
「メアリーさん……何で寝てるの……」
「ぐぅぐぅ……」
「メアリーさん!起きて!」
「はっ!?ここはドコ!?私はメアリー」
「知ってるわよ……。急にいなくならないでよ、びっくりするじゃない」
「ん……千草様?おかえりナサイ」
「なんでやねん」
「私はメアリー。千草様がお食事に行かれてから、布団を敷き、お待ちしているとそのまま寝てしまいました。ありがたきオコトバ」
「ちょ、冗談はよしてよ。さっきまで大広間に一緒にいたじゃない!」
「はて?……ははん……」
 メアリーは何かに気付いたかの様な顔をして、布団から起き上がる。
「何?メアリーさん、あなた何か知ってるの?」
「千草様。もしかして、ふための水晶を見られました……パードゥン?」
「ふための水晶は見たわ。1つは霧川家に祀ってあった物、もう1つはお兄ちゃんがゆいかさんからもらった物……」
「やはりそうですか……。イッツショータイム」
「え?何!」
 そう言うと、メアリーは指をパチンッと鳴らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...