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ふための少女
第8話・霧川家
しおりを挟む私は気が付くと、ホテル百鶴にいた。そこで霧川いつきに出会い『ふための水晶』を探す事になる。
「いつきさん!と、とっくりさんはもうわかったから!ふための水晶を探しましょっ!」
「――とっくりさんとっくりさん……千草さんの未来の恋人の名前――」
「ンギャァァァ!やめいぃぃ!」
謎のとっくりさんで盛り上がる2人。
「さて千草さん。ふための水晶ですが、4階の物置には見当たりませんでしたわ。このフロントの辺りも一通り探したのですけど……」
「後は……1部屋ずつ見ていくしかないのですかね」
「そうですわねぇ……千草さんの方がこのホテルに詳しいと思います。どこか心当たりはないのですか」
「うぅん……水晶……かぁ。水晶水晶……光る……!あっ!」
「どこか心当たりでも!?」
「もしかしたら!」
私は思い出した様に廊下を走り、温泉へと向かう。
「千草さん!ちょ待って……」
「いつきさん!温泉に来て下さい!」
「温泉……?ちょ……待てよ!」
後ろでいつきの声が聞こえるがお構い無しに温泉へと向かう。思い出したのだ。以前、このホテルに泊まった時に眺めていた綺麗な石の事を!
浴室に入ると浴槽には既に湯は無く、温泉も止まっている。私は迷わず空の浴槽に入り、真っ直ぐにそこへと向かう。
「はぁはぁ……やっぱりあった!!」
その玉は浴槽にある竜の形をした吐出口にすっぽり収まっていた。
「千草……さん……待って……はぁはぁ……」
「いつきさんありましたよ!」
「ほんと!?」
「えぇ!どこかで見た事があったんです。この竜の口がキラキラしてて綺麗だなぁ……て眺めてた事があって!」
お湯が出ていたら熱くて取れないどころか、気付かなかったかもしれない。ふための水晶は、竜の口の奥に挟まっていた。
「こ、こんな所に!?」
「この温泉は源泉をそのまま利用していたはずです。誰かが上流で捨てたか落としたか……そしてそれがそのまま流れて来たのかも」
理由はどうであれ、無事にふための水晶を見つけれた。
「なるほどね……。千草さんがここに来れたのは、このふための水晶を見てたからかもしれませんね」
「どういう事ですか?いつきさん」
いつきは大事そうにふための水晶を布に包み、懐へと仕舞う。
「これで揃ったわ。ふための水晶はね、1個だけではその効果は無いのよ。2個見る事で不思議な力が解放される……」
「不思議な力……?」
なぜかいつきが不適な笑みを浮かべている様に見えた。
「さ、千草さん。戻りましょうか」
「は、はい」
私は『元の時間』に戻ると言う意味に受け取った。しかし、いつきの後ろを付いて歩くがいつまで経ってもそんな気配がない。
ホテルを出て、霧の湖沿いの道路を歩いていく。辺りは暗くなり始め、夜が近付いている様に思えた。
あれからいつきは一言も発しない。黙って付いて歩く事、およそ30分。
「着きましたわ、ここが私の家です」
「ここが……」
森の中の開けた場所にその大きな屋敷はあった。表札には『霧川』と書かれている。
「あの、いつきさん。これで私は元の時間に戻れるのですよね?」
「……どうでしょうね」
「え?だってさっき『戻りましょうか』ていつきさんが言うから、私はてっきり……」
「はい?私は家に『戻りましょうか』て言ったのです。千草さんが元の時間に戻れるとは言ってませんわ……」
「そんな……」
言葉の受け取り方が違っていた事に今更気が付いた。しかし辺りはもう暗く、ホテルに戻るにしてもまた30分は歩いて帰らないといけない。
「千草さん。さ、上がって――」
「はい……」
私は言われるままに霧川家の門をくぐった。
「おかえりなさいメシ。な……いつき様」
「……メアリー、ただいま。こちらは――」
「ぞ、存じあげておりメス」
「そう、お客様をご案内して下さいまし」
「ハイ、いつき様……」
玄関ではメイドの格好をした金髪の女性が、いつきに頭を下げている。しかし怯えているのか?弱わしい物腰だ。
「は、初めまして。千草です。日本語で……大丈夫なんですか」
「ヘイ、シリ。私はメアリー。オマエは誰ダ」
客には態度がでかいらしい。
「千草さん、メアリーはこの家の使用人なの。身の回りの事を任せているわ。私は少し疲れたから部屋で休むわね」
「あっ、いつきさん!」
いつきはそう言うと、そそくさと2階への階段を上って行く。
「千草様。1名様、お部屋へご案内いたしメス」
「は、はぁ……」
メアリーに案内され、私は1階の客間へと通された。純和風の屋敷だ。廊下も中庭も手入れが行き届き、昭和へタイムスリップした様だ。
「こちらでございメス。千草様、すぐにメシ出来ル」
「は、はい。ありがとうございます……」
客間は6畳程の畳の部屋で、中央には立派な木製のテーブルが置いてある。
「ひゃぁ……高そうなテーブル……」
物置と床の間もあり、床の間には掛け軸が掛かっている。
「南無釈迦牟尼仏……ここにもあの文字が……」
掛け軸にも、水晶と同じ文字が書かれている。
「そう言えばちゃんと検索する前にここに来たから、意味がわからないままだったなぁ……」
「いらっしゃいマセ」
「ギャァァァ!」
いつの間にか背後にメアリーが立っている。気配を全く感じず、大声で叫んでしまった!
「千草様、食べるのご用意ができましたメス」
「あっ、ありがとうございメス。あっ……」
思わず語尾を釣られてしまう。
「フフ……千草様、カワユイ」
「えっ……は、はぁ……」
――カタン。
「ギュワァァァァ!」
「ヒィィィィィィ!」
物置で何か音がし、メアリーが叫ぶと同時に釣られて叫んでしまう。
「千草様千草様!今、物置で何か音がしましたわ!」
「メアリーさん、日本語上手じゃない!」
「そうアルカ?」
「なんでやねん……」
メアリーが物置を開けろと言わんばかりに、襖を指差し、終いにはぐずる私の後ろから手を取り、襖の取手にかけさせる。
「はぁ……メアリーさん……開けるわよ……」
「ヘイ、シリ……」
「それどこで覚えたのよ……はぁ……」
私は覚悟を決め、襖を一気に開けた!
「だだだだれかいるの!!」
「ヒィィィィィィ!」
メアリーの叫び声が部屋と私の耳に響く。
「チュウ……?」
「出て来なさ……チュウ?」
見ると布団の上にネズミが1匹座っている。
「なんだぁ……ネズミか。びっくりさせやがって」
今のは私が言ったのではない。メアリーがはっきりと日本語でしゃべったのだ。
「メアリーさん、あなた日本語上手よね?」
「なんでやネン」
「いや、こっちのセリフなのだけど……ん?いたっ……目に何か入って……」
「ネズミのフンでスカ?」
「ちがわいっ!あっ、取れたかな」
ほっとした所で、大広間に案内され食事を頂いた。しかしいつきの姿はなく、メアリーが1人、私の後ろに黙って立っている。
「メアリーさん……そこにずっと立たれてると……食べにくいのだけど……」
「……」
「……い、いただきます……」
背中にメアリーの視線を感じながらの食事はすごく食べづらい。
………
……
…
「ごちそうさまでした。メアリーさん――」
私は立ち上がり振り向くと、メアリーにお礼を言った。
「メアリーさんありがとうございま――!?」
しかし、さっきまでそこにいたメアリーの姿が見当たらない。
「あれ……?メアリーさん?」
呼びかけるが大広間は、しーんと静まり返り、誰の返事も返ってこない。
「嘘でしょ……?誰もいない……?」
私は薄気味悪くなり、一旦部屋へと戻る事にした。先程案内された廊下を歩き、中庭を過ぎて……。
「確か、この部屋だったわよね……」
案内された部屋の襖を開けた。
「え……何?なんなの……これ……!」
先程は部屋の中央に木の装飾があるテーブルがあったはずだ。しかしテーブルは片付けられ、布団が敷いてある。
そして……。
「メアリーさん……何で寝てるの……」
「ぐぅぐぅ……」
「メアリーさん!起きて!」
「はっ!?ここはドコ!?私はメアリー」
「知ってるわよ……。急にいなくならないでよ、びっくりするじゃない」
「ん……千草様?おかえりナサイ」
「なんでやねん」
「私はメアリー。千草様がお食事に行かれてから、布団を敷き、お待ちしているとそのまま寝てしまいました。ありがたきオコトバ」
「ちょ、冗談はよしてよ。さっきまで大広間に一緒にいたじゃない!」
「はて?……ははん……」
メアリーは何かに気付いたかの様な顔をして、布団から起き上がる。
「何?メアリーさん、あなた何か知ってるの?」
「千草様。もしかして、ふための水晶を見られました……パードゥン?」
「ふための水晶は見たわ。1つは霧川家に祀ってあった物、もう1つはお兄ちゃんがゆいかさんからもらった物……」
「やはりそうですか……。イッツショータイム」
「え?何!」
そう言うと、メアリーは指をパチンッと鳴らした。
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