ふための少女

ざこぴぃ。

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ふための少女

第17話・また会う日まで

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 僕と千草は祖母の家を訪ね、あの日起きた真相を聞く。そして過去に何度か現れたメアリーにも再会し、祖母に連れられ霧の湖へと向かう。
 霧の湖に着くと、メアリーが懐から脇差を取り出した。

 カチャ……。
「ごくり……」
「さぁ……受け取レ……」
 メアリーは蓋を開けた脇差を僕に差し出す。
「……これでどうしろと言うんだ?」
「坊っちゃん……怖いノカ?」
 メアリーは僕の目を見ると、不敵な笑みを浮かべた。脇差……それは無子に襲われた記憶の中にある小刀。それに僕は恐る恐る手を伸ばす。
 トントン……。
 メアリーは脇差を逆さにし、僕の手の上に何かを落とそうとする。脇差には刃先は無く、入れ物として使っている様だった。
 トントン……。
「引っかかって上手くデナイ……」
「脇差の中に何が入っているん――て!線香かいっ!」
 割れた線香が手の上に落ちる。
「お兄ちゃん見て!」
 千草が指差す方に目をやると、祠があった場所にお墓が2つ見えた。確か祠は老朽化で撤去されたと手紙で書いてあったはずだ。その後にお墓を建てたのだろう。
 僕達が折れた線香をお墓に立てると、祖母が何やらお経を唱え始める。
「南無釈迦牟尼仏、南無釈迦牟尼仏……」
 祖母の真似をし、お墓に手を合わせ唱えた。
「南無釈迦牟尼仏、南無釈迦牟尼仏……」
「南無釈迦牟尼仏、南無釈迦牟尼仏……」
 意味はわからないが、たぶん2人が成仏される事を願っているのだろう。
 千家春十、霧川八千代……この2つのお墓は寄り添い合う様に並んで建てられていた。
「さて、これで思い残す事はないの。はるくん、ふための水晶は持って来ておるんかい?」
「うん、婆ちゃん。粉々になっているけど……」
「どれ、貸してみな……」
「うん」
 僕はリュックから木箱を取り出し、粉々になった水晶を渡す。
 祖母はまたお経を唱えながら、それを霧の湖へと撒いた。
 きらきらと舞いながら、ふための水晶は湖の中へと沈んでいく……。
「オマエタチ……」
「どうしたの?メアリーさん」
「こんな言葉を知ってイルカ?」
「言葉?」
「唯一無二……」
「唯一無二?それしか無い……他に代わりがないって意味?」
「ソウナノカ?」
「メアリーさんが聞いたんじゃん!」
 イライラする千草を見て、どんまいと思う。
「ソレは……ゆいか、いつき、無子、仁美を意味するンダ」
「えっ!そうだったの!」
 千草、騙されるな。メアリーの作り話だ。
「お墓の後ろを見てミロ」
「後ろ?」
 千草とお墓の後ろに周り、ビックリする。そこには本当に『唯一無二』と掘られていた。
「本当だ……メアリーさん、これはそう言う意味なのね……」
「シラン」
「知らんのかいっ!」
「お兄ちゃん!メアリーさんに乗せられちゃ駄目!」
「はっ!」
 思わずメアリーのペースになる所だった。
「ふふ……楽しそうじゃな。さて、帰っておやつにでもしようかの。メアリーさん、家までまた運転頼むよ」
「祖母殿、お断りダ」
「断るなっ!」
 最後は千草のツッコミでこの物語は結末を迎えた。
 南無釈迦牟尼仏ナムシャカムニブツ……それは唯一無二という言葉を隠した、大切なお経だったのかもしれない。
 湖を後に、そんな気がした……。

 ――数年後。霧の湖は祖母の話通り、ダム建設の為に埋め立てられたそうだ。霧川の……いつき達の母は結局見つからなかったそうだ。そしてゆいかの行く先もわからぬまま……。
 しかし僕はあの時、一度だけゆいかの姿を見た気がする。それは――。


……
………

 2018年の夏。僕は16歳になり、高校へ通っていた時の事だ。
 登下校の通路にようやく慣れた頃。駅前の交差点で信号待ちをしていると、交差点の向こうに黒いワンピース姿の少女の姿が見える。記憶を辿ると、その少女がなぜかゆいかに見えた気がした。
「え?ゆいかさん……?」
 歩道の信号が青に変わると同時に僕は横断歩道を走り出す。
 ゆいかに見えたその少女は横断歩道を渡らず、駅前の喫茶店へと向かって歩く。
「ゆいかさんっ!」
 横断歩道を走りながら、僕はゆいかを追いかけた。
 周りの状況など見えていなかった。反対側の歩道に着いた時にその声は聞こえた。
「おいっ!君!危なっ――!!」
「え?」

 ――キィィィィィィィ!!ガッシャァァァンッ!!!
「キャァァァァァァァァ!!」
「やべぇ!!車が歩道に突っ込んだっ!!」
「おいっ!!学生が引かれたぞっ!!救急車!救急車を呼べっ!!」
 蛇行して来た1台の車があろう事か、歩道へと突っ込んで来たのだ。
「救急車!!おい!警察にも電話だ!」
(……あぁ、騒がしいな。あれ?体が動かない……?冷たい?これはコンクリート?あぁ、もしかして僕がひかれたのか。頭がぼぅとする……)
「――ルトッ!ハルト!ねぇっ!しっかりして!」
「あ……あれ?この声は……?……じゃないか。……ひさしぶりだな……」
「しゃべらないで!今、何とかするからっ!THE複製ザコピー!!」
「……雑魚……ぴぃ?ははは……ゲームばかりして……」
「くっ!何で!何でうまくいかないのっ!!お願いっっ!!」
(僕はここで死ぬのか……あぁ、……懐かしい……最後に会えて良かっ……)
 ここで僕の意識は無くなった。

 目が覚めた時は病院の天井が見え、奇跡的に生きていた事を知る。
 たまたま事故現場の近くに、看護師の女性がおり心臓マッサージをしてくれたそうだ。救急車が到着すると、彼女は名も告げずに去って行ったと言う。
「でも……たぶん、ゆいかさんなんだろうね。お兄ちゃん」
「あぁ……千草。たぶん、ゆいかさんが助けてくれたのだと思う……」
「そうね……いつかまた会えたらお礼を言わなきゃね」
「あぁ……」
 そう答える僕の手の中には、いつの間にか、ビー玉程の大きさのふための水晶が握られていた。

―完―
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