白の世界

ざこぴぃ。

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第一章〜白の世界〜

第1話・お前は誰だ?

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――チュンチュンチュンチュン。

春樹ハルくん!おっはよ!」
「あ、千鶴ちづる、おはよう」

 黒のロングヘアにかわいらしい顔立ちで、いつも明るい幼馴染の千鶴。

「千鶴!おっは!ねぇねぇ!昨日のあれ見たぁ?」
「見た!見たぁ!超カッコ良かった!」

 千鶴はすぐに仲の良い同級生のリンとテレビの話題で盛り上がる。

「おう!ハル、おはっ!」
冬弥トウヤ、おはよう」

 春樹の前の席に座る冬弥。小学校からの親友だ。表裏のない性格のイケメン。いつも違う下級生の女の子と歩いてる。
 
 春樹の通う中学校は木造の古い校舎だ。校舎に入ると木の香りの匂いがする。窓から見える景色は海と山ばかり。バスに乗っても町まで三十分はかかる。『ど』がつく程の田舎で春樹は育った。

「なぁ、今度の日曜カラオケ行かねぇ?」

冬弥が振り向いて聞いてくる。

「あぁ、別にいいけど部活は顔を出さなくていいのか?」
「あぁ、今週は休みだった……と思う」

 冬弥はバスケ部だった。この五月に最後の試合が終わり、それからは下級生の部活の面倒を見ている。
 春樹は剣道部、千鶴は弓道部で同じように時間があれば下級生の面倒を見ていた。

 全校生徒百人足らずのこの中学校で何も不自由無く、皆と同じように都会に憧れ、テレビの話題で盛り上がる、そんな日々を過ごしていた。

――ガラガラガラ。
建付けの悪い窓を開けると、海風が入ってきて涼しい。

(トン……)
キーンコーンカーンコーン――

「はいっ!皆さん席に着いてください。朝礼始めます」

霧川先生が教室に入ってくる。

「ひゃぁ、霧川ちゃん。今日も色っぽくね?」

 冬弥が春樹の机に肘を付き、霧川先生への同意を求めてくる。

「そうか?」
(トントン……)
千家春樹せんけはるき君」
「へぇい」

先生の点呼にやる気のない返事をする春樹。

「はぁ、一時限目は数学かぁ……」
(トントントン……)
「てっ!何だよっ!さっきから!」

 と、言ってから気付く。春樹の席は教室の一番後ろだ。朝会が始まって誰か立っていたらさすがに先生の目に付くだろう。
 春樹は振り向いて、ぞッとする。そこには緑色の長い髪に紅い目をした女性が笑って立っていた。

ニヤリ……

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ガシャンッッ!!
春樹は椅子からひっくり返り床に這いつくばる。

「どうしたんですかっ!!」

霧川先生が大声を出す。

「ハルっ!どうしたっ!!」
「だ、誰だっ!!」

教室の後ろを指差す春樹。

「どうしたの?!ハルくんっ!」

 千鶴も春樹が指差す方向を見る。教室の後ろには……クラスメイトが授業で作った土偶が並んでいる。

「ハル!脅かすなよ!土偶見てびっくりしたのかよ!」
「え。冬弥、違くてっ!!」
「こほんっ!千家くん。眠たいなら廊下で頭を冷ましますか?」
「ちょ、先生まで何を?!今、そこに――」
「ハルくん、大丈夫?」

不思議そうな顔をする千鶴。

「いや、あの……何でもありません……」
『アッハッハッハッハッ!!』

教室で笑いが起きる。

――ガタガタ。

 千鶴が手伝い机と椅子を元に戻し、一旦座る春樹。背中には冷や汗が流れる。

「先生っ!ハルくん、おでこから血が出てるので保健室に連れて行きます!」
「血?」

 手で額を拭うと血がついていた。机か椅子で切ったのだろう。千鶴が気付いて先生に言ってくれた。

「わかったわ。千鶴さんお願いね」
「はいっ!さ、行こハルくん」
「あぁ……ありがとう」

ガラガラガラ。

 二階にある教室から千鶴に寄り添われ、一階の保健室に向かい階段を降りていく。

ギシギシギシ……。

 階段がきしむ音が廊下に響く。一年生も二年生も授業が始まったばかりで廊下は静かだった。床のきしむ音と、外から鳥の鳴き声だけが聞こえる。

コンコン。

保健室のドアをノックする千鶴。

「失礼します」

ガラガラガラ……。

中には誰もいない。

「おかしいわね、メリー先生いないわ」

 保健室の先生は不在だった。日本好きが講じてアメリカから日本に越して来たという先生。美人で生徒にも人気の先生だ。

「ハルくん、ちょっと先生呼んで来るからここで待ってて」

 そう言うと千鶴は廊下に戻る。長い髪が春樹の前を横切り、シャンプーの香りが鼻を抜ける。その時だった。

「お、おいっ!千鶴!!」

 急に春樹が大声を出した。静かな廊下に声は響き、中庭にいた鳥達は驚き羽ばたいて行く。春樹はまたしても見てしまったのだ。千鶴の後ろに……。

「え?何?」

振り向く千鶴。

「ハルくん、どうしたの?やっぱり頭を打ったのかな?」
「いや、千鶴の……」

 心配そうな顔をする千鶴。しかし千鶴には見えていない。春樹は言いかけて口をつむぐ。

「変なハルくん。すぐ先生呼んでくるから待ってて!」

 長い髪をなびかせ千鶴は職員室に走っていく。千鶴が立ち去った後に例の女性がこっちを向き、かすれた声で話かけてくる。

『あなたにしか……わたしの声は聞こえない。姿も見えない……』
「お、お前は誰だっ!」

 春樹は腰を抜かし、後ずさりをしながら女性に話しかける。

『私の名前は……セリ。人間……を食らうもの』

 緑色の前髪の間から、紅い目が春樹を見ている。口は笑みを浮かべ、およそこの世の者ではない形相に見えた。
 「殺される」そんな思いが春樹の頭をよぎる。

『美味しそうね……ふふふ……』

セリと名乗った女性が春樹の額に手を伸ばす。

「や、やめろぉぉぉぉ!!」

 身の危険を感じとっさに殴りかかった瞬間、女性の姿が消えた。そして今度は春樹の後ろで声がする。

『あなたの名前は……そう、春樹と言うのか』

 慌てて春樹は振り返るが……誰もいない。そのまま腰を抜かしたまま座り込む春樹。心臓の鼓動が速くなる。

「はぁはぁはぁ……どこに行った……」

 上を見上げるがどこにも姿は無い。心臓の鼓動がますます激しく打つ。

「ハルくんっ!!先生を連れてき……ちょっとハルくん!?」

バタン。

 春樹は千鶴の声を聞いて安心したのか、そのまま廊下に倒れ込む。

(体が重い……それに眠い……何だこれ……。あいつはいったい……)
「千鶴サン!千家クンを見てなサイ!救急車を呼んでくるカラ!」
「は、はい!先生!」

 メリー先生の声が聞こえ……春樹はそのまま気を失った。

ピーポーピーポー……。

――市内中央病院。

「――CTも撮ってみましたが異常はありませんね。点滴が終わったら帰ってもらっても大丈夫です。あっ、二、三日は様子を見てくださいね」
「はい。ありがとうございます」

 ベッドの上で横になり、点滴をされながら医者と千鶴の会話が聞こえてくる。
 意識はあるが体が動かない。

「先生、学校に電話してくるカラ千鶴サンちょっとマッテテネ」
「はい……」

カラカラカラ……。

先生が病室を出ていく音がする。

「ハルくん……」

 目をゆっくり開けると、心配そうに覗き込む千鶴の顔がある。

「気が付いたの?良かった……」

 今にも泣きそうな千鶴。春樹は手を動かしたいが体が動かない。まるで金縛りに合っている様だ。

 (あいつはどこに行きやがった?見える範囲にはいないな……)

 目を動かし辺りを見渡す春樹。と、ふいに頭の中で声がした。

「起きたのね、春樹。今ね……あなたの体を少しだけ借りてるから我慢してね。すぐに慣れるわ……ふふふ」
(!?あいつの声だ!)
「うっ……あぁ……」
「どうしたの?気分が悪い?」
(頭の中で声がする。気持ちが悪い、吐き気がする……)
「す……ごし……きも……ち……がわるい。はぎけが……ずる……」

 春樹は精一杯の声をふりしぼるが、声がうまく出ない。

「え!!ここで言うのっ!!え?!やだっ!もう!心配してるんだからね!!」
(は?なんだ?会話が噛み合ってない気がする)

この時、千鶴にはこう聞こえていた。

「『すきちずる』……だなんて。ぽっ」
(おい、待て。そんな事は言っていない)
「そ……んな事は……言って……」
「私も……実はハルくんの事が前から……好きです。きゃ!」
(きゃ!じゃねぇ)

カラカラカラ……。

メリー先生が病室に戻って来た。

「千家サンの様子はドゥ?……どうシタ千鶴サン?顔が赤いダワ。熱でもあるのかシラ?」

先生が千鶴の額に手を当てる。

「ンン……熱はないミタイネ。千家クンは……?」

春樹の額に先生の冷たい手が触れる。

ドクンっ!!!

心臓の鼓動が大きくなる。

ドクンっ!ドクンっ!ドクンっ!

(なんだ!?これは!まさか……!!恋っ!?)

しばらくすると動悸は徐々に治まってくる。

「千家クン……Haa……」

 メリー先生が吐息を洩らす。顔も若干赤めいて見える。
 春樹は動悸が治まると同時に体の自由が戻ってくる。

「メリー先生、もう大丈夫そうで……」

 春樹が起き上がろうと手を伸ばすと、先生の胸に手が当たり先生が変な声を出す。

「アッ……!」
「柔らかい!違う!ごめんなさいっ!起き上がろうとして手が!」

言い訳を考えているとメリー先生が先に口を開く。

「い、いいのだワ……気にしなイデ……」

メリー先生の顔が真っ赤になってる。

「ちょっと!ハルくんっ!さっき私に――!」

千鶴が何か言いかけると誰か病室に入って来た。

カラカラカラ。

「千家さん、点滴そろそろ終わりそうですか?」

看護師さんが見計らった様に入ってくる。

「あ、はい。もう終わりそうです。」
「では、処置して終わりますね。ちょっと我慢してください、チクッとしますよ」

 看護師さんが慣れた手付きで点滴を外していく。
 ぷっと膨れた千鶴と、顔がまだ赤いメリー先生がそれを見ている。

「千家クン、先生の車で家まで送ルワ。確か小学校の所の神社?だったワヨ」
「はい、そうです。よろしくお願いします」
(あれ?メリー先生は俺の家を知ってるのか)

 疑問に思う春樹を他所に、拗ねたままの千鶴も乗せて車は病院を出た。
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