白の世界

雑魚ぴぃ

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第一章〜白の世界〜

第2話・真っ白な世界

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――カッチカッチカッチ。

 病院の検査も終わり、春樹は先生の車で家まで送ってもらった。自宅のある階段の下で車を停めるメリー先生。千鶴も心配そうに春樹を見送りに来た。

「千家クン、ここでいいカシラ?」
「はい、メリー先生。すいません、わざわざ送ってもらって……」
「ハイ。先生はスクールに戻るから、何かあれば学校に連絡クダサイネ」
「ハルくん、学校終わったらまた来るね!」
「千鶴ありがとう。大丈夫、大人しく寝てるから。冬弥達にも大丈夫って言っといてくれ」
「わかったわ、ゆっくり休んでね」
「……それじゃぁ、千家くん。マタアシタ……」

ゾクッ!!

 春樹には、メリー先生の目が一瞬青く光って見えた。元々青い目をしているが、その時は獲物を狩る獣の様な恐怖を感じた……。

 春樹は車から手を振る千鶴を見送り、自宅までの階段を登る。自宅は高台にある神社だ。生まれ育った港町全体が見渡せる。眺めは良いのだが、病気の時や天気の悪い日は階段がきつい。

ガラガラ。

「ただいま。まだお昼過ぎか……朝から色々ありすぎて疲れた。少し寝よう」

 家には誰もいなかった。神主である父、パートで生活を支える母。春樹は一人で家にいる事も多く、いつもの事だと思い自分の部屋へと行く。

「はぁ……疲れた。何だったんだ、あれは……」

 春樹はそのままベッドに横になり目をつむる。時計の秒針を聞いていると、疲れもありだんだんと眠くなる。

「……着替え……なきゃ……でも……眠……」

――次の瞬間っ!!

『ズッドォォォォォォンッ!!!!!』

 ベッドの下から突き上げるような感覚に襲われ、慌てて飛び起きる!!

「何だっ!!地震か!」

………
……


 春樹が恐る恐る目を開けると、そこには……何もない真っ白な世界が広がっていた。

「え……?え?ここはどこ?」

 自分の中にある記憶が追いつかない。今まで見てきた世界とは違う真っ白な世界。自分以外の床、壁、天井が全部……白。上下左右の感覚すらおかしくなる。

「おはよう、春樹。ようこそ、私の世界へ」
「え?え……お前はセリ?」

 空間の真ん中に、緑の長い髪に赤い目をした女性が立っている。

「こ、このっ!化物!何をしたっ!!」

震える声を抑え、身構える春樹。

「まぁまぁ、落ち着きなさい。何も取って食いはしないよ。まだ……ね」

 春樹は逃げる場所を探すが、どこがどこだかわからない。四方八方すべてが真っ白な壁に見える。
 春樹がきょろきょろしているとセリが言う。

「ここは私が作った次元の歪み。外の空間とは切り離されてる。さて……私はこれから何をするでしょうか?」
「知るかっ!そんな事よりここから出してくれっ!」
「ふふふ、それは無理。自力で脱出できるくらい強くなってくれないと困るの。頑張ってね……」

そう言うとセリの姿が消えていく。

「ちょっ!ちょっと待てよっ!!」

 呆然とする春樹。セリはあっという間に消えてしまった。

「嘘だろ……俺はどうしたら良いんだ……?」
「あ、そうそう。言い忘れてた。その子は案内人として置いておくわね。あなたの好きな様にしなさい……」
「まだおるんかい!ちょ!セリ!」

 セリの声が最後に聞こえ、もう返事は無かった。そしてセリが居た場所に金色の髪をした女性が横になっている。
 見覚えのあるその女性は、ムクッと起き上がり何かブツブツ言い始める。

「Oh!shit!いっテェ!!扱いが雑すぎルワっ!いつか仕返ししてヤル!コンチクショー!」

パンパン!

 女性はお尻を叩くと、こっちに気付き歩いてくる。そしてこう言った。

「あっ、千家様。いや、ご主人様。お待たせしました」
「メリー先生……?なんでここに?」

 服がボロボロになって、ちょっとエッチな姿のメリー先生。

「はぁもう!学校へ車で帰る途中、セリ様が急に来て「今から試験を始める」って言うものですから急いで引き返したら事故しちゃいまして。はははは……お恥ずかしい」
「何?どういう事?事故?千鶴は?」
「千鶴さんは大丈夫です。少し眠ってもらっていますがしばらくしたら目を覚まされるでしょう。さて……」

そう言うとメリー先生は片ひざを着き頭を下げる。

「ご主人様、私はメリー・ダ・エルバルト。セリ様の部下にしてあなた様の案内人に御座います。何なりとお申し付けください」
「メリー先生っ!色々聞きたいことがあるんだけど!ちょっとその前に目のやり場に困る……!」

半分下着姿のメリー先生。

「……そ、それでは!私をご所望でしたらそれも受け入れましょう!さぁご主人様!思う存分、わたしを堪能してくださいっ!さぁ!!」

腕を広げ、春樹を受け止める準備をするメリー先生。

「……わかった。メリー先生がそこまで言うのなら俺も覚悟が出来た」

「え?」という顔をするメリー先生。

「いや、ご主人様!冗談でして!はは……は……」
「……脱げ。命令だ」
「いや、あのぉ……」
「メリー、ご主人様の命令が聞けないのか」

 春樹は何だかノッてきた。セリへの八つ当たりもあるのかもしれない。
 顔を真っ赤にして、破れた服を脱ぎ始めるメリー。時々、ちらっとこちらの様子を伺う。服を脱ぎ終え下着姿になったメリーが言う。

「これ以上は……か、堪忍してください、ご主人様……」

春樹は着ていた学生服を脱ぎメリーにかける。

「いいかメリー。セリが君を好きな様にして良いと言ったが俺にとっては一人の女性だ」
「きゅん……!はい、ご主人様!」

 キラキラした青い瞳に涙を浮かべてスリスリしてくる。

「さて、ご主人様ごっこをしてる場合じゃない。色々と聞きたいことがある。メリー、詳しく説明して欲しいんだけど。ここから出るにはどうしたらいいんだ?」
「はい、ご主人様。ここから出るには……」
「出るには?」
「出るには……どうすればいいんでしょう?」
「こっちが聞きたいわっ!!」

春樹は思わずツッコミをいれてしまう。

「まさか、知らないのか?」
「はい、申し訳ありません。これを見てください。セリ様が書かれたこの空間の仕様書です」

 メリーが一通の手紙を渡してくる。春樹は手紙を開封してみる。

『メリー・ダ・エルバルト様。いつもお世話になっております。本日ご連絡致しましたのは、お家賃がまだご入金して頂けていないようなので――』
「わぁぁぁぁ!!!」

メリーが春樹から手紙をもぎ取る。

「メリー……家賃はちゃんと入れないと……」
「すいませんすいませんすいません!!」
「俺に謝られても困るだが……」
「こ、こちらの手紙です!」

別の手紙と本を渡された。

――パサ。

 メリーから渡された異次元空間の仕様書には、とんでもないことが書かれていた。

『セリの異次元空間へようこそ』

「この異次元空間は、パーティーポイント(以下PP)方式を採用しております。
初めての方のみ、初回PPが1000ポイントが付与されます。使用期限はありません。
神技、魔法、武器、その他のカタログギフトよりお好きな物をお選びください。尚、返品は未使用にて2週間以内でお願いします。
尚、この異次元空間では定期的に魔物が発生します――」

「……これを信じろと?」
「はい、ご主人様。セリ様のご意見はこの世界では絶対的支配権をお持ちでして」
「何者なんだ、あの緑色は……」

 手紙には数ページに渡り説明書きがあったが、肝心の脱出方法は書いていない。

「なぁ、メリー。これ脱出方法が書いてないな」
「そうですわねぇ……」

 次は二人でカタログギフトをめくりながら思案にふける。
 そして目に止まったのは……!!

『バニーガールセット1000ポイント』
(これは、アレか。バニーガールになれてしまうという例のアレか……)

 ポイント交換と書かれたボタンを押しそうな春樹を、もう一人の良心の春樹が必死で止めようとする。

「ご主人様、やっぱり最初は武器や魔法をもらって魔物に備えるべきかと思……えっ?」
「え?」

ポチ。

「……え?」
(俺には無理だ。三大欲求だ。この何もない世界から一生出れなかったらどうする。せめて、せめて、自分の欲求に素直でありたい)

そう春樹は思った。

『交換致しました。またのご来店お待ちしています』

 そんな音声がどこからともなく流れ、バニーガールセットが何もない空間に突如現れメリーの前に落ちる。

パサ……。

「ご主人様……まさか……」
「あぁ、わかってる。向こうを向いてる」
「いや、そうじゃなくて……私にこれを着ろと?」
「……嫌ならいいんだが、これから先俺の楽しみはもうないんだ……きっと。この何もない空間で静かに死んでいくんだ……」

真っ白な空間の向こうを眺める春樹。

「はぁ……。わかりました」

 春樹の気持ちを察してか、メリーはバニーガールセットに着替える。

ごくり。

「え、うそ……こんな格好……はぁ」
「もういいかい」
「まだですっ!ちょっと待ってください!」
(しかしこの歳で生のバニーガールを見れるとはついてる。この世界も悪くないのか)そんなことを春樹が思っていると……。

「も、もう大丈夫です……」

 恥ずかしそうなメリーの声がする。ドキドキしながら春樹は振り返る。

「!!!???」

何ということでしょう!メリーのその姿は!!

 頭から伸びたうさぎの耳。おしりから突き出たモコモコの白いシッポ。そしてスラッと伸びた足に……大きな胸。

ごくり。

「ちょっ!ちょっと!ご主人様!目がオオカミみたいにっ!!」

逃げ出すメリー。追いかける春樹。

「お嬢さんお待ちなさい……」
「いやぁぁぁぁぁ!!」

欲望に飲まれ、性格が崩壊していく春樹。

「あはは!メリー!待てぇぇ!あはは!……って!ちょっと待て!」
「え?」

 数分間メリーを追いかけて真っすぐ走ったはずだった。しかしさっき読んだ仕様書が床に置いてある。

「これって、ぐるっとこの部屋を一周したってことか」
「おそらくは……」
「つまり地球と同じ形をした球体の部屋なのか」

すとんっ。

春樹は突然足から力がぬけ座り込む。

「あれ?何だ。力が入らない」
「たぶん、一気に精神力を使ったからでしょう。少し休めば大丈夫です」
「精神力?」
「はい。この見えてる姿は実体ではありません。幽体と言うべきでしょうか。実際の肉体は元の世界で眠っています」
「そうなのか、これは現実ではないのか……」

むぎゅ。

確かめる為にメリーの胸を揉んでみる。

「あっ!ご主人っ!そんな!いきなりですわっ!」

のけぞるメリー。

「あれ?柔らかい。病院で触った感じと変わらない。さわり心地は変わらないんだな、現実と同じ気がする」
「ちょっと!ご主人様!あれぇぇ!」

良い感じになってきたところでバタン、と倒れる。

「え。指一本動かない……」
「あら。興奮しすぎて、精神力が尽きたのでしょう。今日はもう休みましょう。もうすぐ日が暮れます」
「日が暮れる?部屋なのに?」
「この空間でも昼夜があります。今、お布団を出しますね」

メリーはそう言うと、ポイントを使い布団セットを出してくれる。

「あれ、ポイントは全部使ったはずでは?」
「いえ、ご主人様のポイントは0ですが、私のは残っていますので大丈夫です」
「あ、そういうことね。ポイントは一人一人なんだね」

 ポイントがもったいないからと、1つの布団に入るメリー。

「なぁ、このPaiPaiポイントってどうやったら増えるんだろ?」
「ぷっぷぷぷっ!ご主人様、パーティーポイントです」
「え!あっ!うん、そうだ。それだ」
「胸を見すぎです。もう、気をつけてくださいね」
「うん……ごめん」
「もういいです。ゆっくり寝て明日また考えましょう。おやすみなさい」

 そう言うとメリーは春樹の方に寄りそい、目をつむる。

(いい匂いがする……)

 こんな興奮状態で寝れるのか、と思っていたが体が動かせないせいか目をつむると自然に眠りについた。

◆◇◆◇◆


……
………

(何だ?夢の中か?)

目を開けた春樹の前に、なぜか春樹が寝ている。

(病院……なのか?)

 天井から自分を見下ろす形で春樹が宙に浮いている。そして春樹と千鶴とメリーが並びのベッドで点滴をされ、眠っていた。

(こっちが現実の世界の……早く帰らないと……)

春樹は夢の中でそう誓った。
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