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第一章〜白の世界〜
第3話・ポイント交換
しおりを挟む春樹が目を覚ますと、真っ白な天井が見えた。天井なのかどうかもわからない。上下左右すべての壁が真っ白だ。
「あ、おはようございます。ご主人様」
聞き慣れた声がする。声がする方を見るとメリーがいた。バサっと布団から起き上がる春樹。
「ど、どうしたんだ?その格好は!!」
春樹は「夢なら覚めてくれ!」と強く願う。
「はいっ!PPポイントで普段着もろもろと交換しちゃいました!」
「なんてこった。バニーガールはもうこの世界にいないのか……」
昨日、春樹はPPポイントを全て使いバニーガールの服と交換しメリーに着せた。しかし目が覚めるとバニーガールがいない。
「……バニーガールがいない世界なんて、滅んでもかまわない」
春樹はそう言うと、布団に戻る。
「ちょ、ちょっと!ご主人様!千鶴さんを助けなくていいんですかっ!」
その言葉に、我に返る春樹。
「そうだ!夢で、俺も千鶴もメリーも病室にいたんだった!」
「そうですよ!早く助けないと!」
メリーの一言である疑問に気付く。
「待てよ。千鶴も同じくこの白世界に飛んでる可能性もあるのか?」
春樹は頭が冴えてきた。
「どうなんでしょう。確かにセリ様が来られ千鶴さんを眠らせましたが、そのような話はしておられませんでした」
「……それともう一つ。メリーがここにいる意味だ。俺の案内人にとセリは言ったが、メリーがこの世界の事をあまり把握していないのが妙だ」
「ははは……すいません」
「じゃぁ、なんのためにメリーはここに呼ばれたのか」
「どうしてでしょうか?「サポートをしなさい」て事ではないのでしょうか?」
不思議そうに首を傾げるメリー。
「それは、バニーガールになるた……」
キッとにらむメリー。
「そ、それはメリーが何らかの鍵になっている可能性がある」
「鍵?それはどういう……?」
春樹もはっきり言葉では言い表せないが、何となくそんな気がした。
「カタログで鍵とか無いかな。そこにヒントがありそうな気がする……メリーがここにいる意味を考えよう」
「わかりました」
春樹の言う事に素直に従うメリー。
「そういえばお腹も減らないし、トイレもしたくならないな。後、メリーの日本語がスムーズになってる」
「本当ですね。この白世界の中では日本語はスムーズに喋れる様ですね。実体で話す時はカタコトになってしまいますけど……」
そんな事を言いながら、カタログをめくっていく。
「ありましたっ!異次元の扉!」
メリーが見ていたカタログに、鍵ではないが異次元の扉が載っていた。
「これだ。しかし……NO1~NO999まであるな」
「これはわかりませんね。どれを選ぶかなんて……」
「千鶴が仮にこの白世界にいたとして、同じ色の扉を選ばせることが出来るかどうか」
二人で悩む。扉の交換ポイントは500ポイント。メリーの残りのポイントは800ポイント。一回しか交換ができない。
「とりあえず千鶴に扉の番号を伝える方法と、説明書をもう一度読んでポイントの貯め方を考えよう」
「はい!ご主人様!」
「それにこの扉のどれかが脱出用の扉だとしたら、全部の扉を交換したら良いという結果になる」
メリーが計算すると50万ポイント貯めれば、全部の扉を交換できる。
「何々……ポイントを貯めるには世界の開放と魔物討伐……か。そしてそれぞれの扉は他の異世界に繋がっている……と。そういう話か」
「そうみたいですね。試しにこのポイント使ってみましょうか。500ポイントは残して置きますね」
そういうとメリーは『青空』と書かれたボタンを押す。
『ポイントが交換されました。またのご来店お待ちしています』
機械音声が流れた後、真っ白だった天井が一変青空に変わっていく。
「どういう仕組みなんだこれ……」
びっくりする春樹。さらに草原、小川をメリーが追加した。
「わぁ!すごいっ!部屋の中とは思えないっ!」
まるでおとぎ話の中にいるような風景に変わる。すると、機械音声が流れてくる。
『おめでとうございます。風景3点がコンプリートされました。100ポイント獲得です』
「そういう仕組みなのかっ!」
「300ポイント使って、100ポイントもらえました!」
偶然見つけた攻略法。
「これを使ってコンプリートすればいいのか。まるでゲームだな」
「残り600ポイントです。さてご主人様、どうしましょうか」
春樹がカタログをめくっていると、偶然目に入った物がある。
『手紙・想いの相手に送ることができる』
「これだっ!これを千鶴に送ればいいのか!」
しかし、眠っている千鶴にどう伝えるか。
「待てよ。想いの相手ということは、白世界にいるかもしれない千鶴に直接送ればいいのか」
そう言うと春樹は手紙とペンをポイント交換し、扉の色を指定する。
「これで千鶴に届くはず。メリー、赤扉をポイント交換してくれ」
「わかりました。ご主人様」
メリーが赤色の扉をポイント交換する。同時に春樹の手元にあった手紙が消える。
『ポイントが交換されました。またのご来店お待ちしています』
いつもの機械音声が流れる。
「これで出来た……のか」
「少し待ちましょう。千鶴さんに届いてるはずです」
――数十分後。
カチャ……ギィィィ……。
赤い扉がゆっくりと開く。
「……ハルくん?いるの?」
扉から恐る恐る顔を出す千鶴の姿があった。
「千鶴っ!!」
「ハルくんっ!!」
春樹は思わず千鶴を抱きしめる。
「ハ、ハルくんっ!く、くるしい!」
「ごめんっ!でも良かった!本当に繋がった。」
『おめでとうございます。転移扉が一箇所接続されました。100ポイント獲得です』
メリーも涙目で喜ぶ。しかしそんなメリーを千鶴は心良く思わなかった。
「メリー先生っ!どうしてハルくんと二人でいるんですかっ!!しかもしかも!!お布団が一つしかないってどういうことですかっ!!」
千鶴はまくし立てる様にメリーに詰め寄る。
「千鶴、ちょっと落ち着いて。メリーは俺の……」
春樹は言ってしまってから気が付いた。
「メリー?俺の?ハルくん。どういうことなの?説明してもらいましょうか」
今にも殴りかかってきそうな千鶴に、今までの経緯を説明した。
………
……
…
「……ふぅん」
バニーガールのくだりは言わなかった。血の雨が降りそうだったから仕方がない。
「わかったわ。ひとまず許してあげます。でも変なことしたらその時は……」
「千鶴さん、さっきから黙って聞いてましたけどそもそもご主人様とお付き合いなさっているのですか」
バニーが……違う。メリーが手榴弾を投げ込んできた。
「そっそれは!これから、デートとかしたりお茶したりしてお互いのことを……!そのぉ……」
言葉に詰まる千鶴。
「それでしたら、まだご主人様を千鶴さんには任せられませんね!私はもうバニー……」
「春樹ちょっぷ!」
春樹はメリーの後頭部にちょっぷをする。
「いたぁぁぁい!!ご主人様っ!!何を!!」
「二人共そこまでだっ!今はここから出ることを考えよう!」
「はい……」
「わ、わかりましたわ」
二人共ようやく落ち着いた。春樹はバニーガールの1000ポイントは後悔していない。だが、メリーには墓まで持って行ってもらおう。
「それで千鶴は残りポイントはいくつあるの?」
「さっき扉を開通したポイントが入って600ポイントあるわ」
千鶴は説明書を先に読み、無駄使いはしていなかった。
「俺とメリーもさっきのポイントが100ポイントずつか。これをどうやって増やすかだ」
「え?ハルくんとメリー先生は何に使ったの?」
「え?……ふ、風景とか色々かな。手紙とかも送ったし」
「ふぅん……」
春樹は千鶴に疑われている。カタログのポイントを計算されたらバレそうだ。
「そういえばセリ様が以前言われていたのですが、なんでも寿命を削って脱出した方もおられるとか……」
ペラペラペラ……。
メリーがその他のカタログ『スキルのポイント交換』を調べてくれた。挿絵もなく小さい字でたくさん説明があり、飛ばして読んだ所だ。
『寿命の交換について』
寿命の交換をするにはスキル『寿命読み』が必要です。寿命読みを習得すると人の寿命を見ることが出来き、その寿命をポイントに交換することが可能です。尚、最少単位は一年です。
春樹は寿命読みスキルのポイントを見てみる。
「10,000ポイント……か」
寿命一年と10,000ポイントと交換できるらしい。ちょっと割高な気がする。
「どちらにしてもポイントを貯める方法を考えないと三人で800ポイント。これが0ポイントになり、何もできなくなると出れなくなるわけだ」
つまり春樹とメリーだけなら詰んでいたかもしれない。二人だけなら無駄にポイントを消費してしまう可能性はあった。その辺、千鶴はしっかりしていた。
「千鶴がいて良かったよ、メリーと二人ならもうポイントを使ってしま――」
「これかな?ポチり」
と言った矢先、千鶴がポイントを扉と交換してしまう。
「ちょっと!千鶴!扉を出してもどこに繋がるかわからないのに!」
慌てる春樹。しかし千鶴はもうポイントを使ってしまった。
「ハルくん、色々読んでわかったんだけど扉が999枚あるってことはこのどれかが脱出ルートなわけだし、他の扉もどこにかに繋がってるわ。カタログも一通り見たけどポイントを稼ぐには扉を交換して見て行くしかないと思うの」
一理あった。確かに他に方法が見つからない。でも吟味するべきだったのではないか。
そう春樹が思っていると、青い扉を迷わず開ける千鶴。
……カチャ。
青い扉の先は!?
「わぁぁぁぁ!!綺麗!!」
「ちょ、千鶴!危ないから……」
そこは海だった。砂浜、防波堤、そして水平線が見える。
「ご主人様……この世界にも海があるんですね」
「あぁ、びっくらこいた……」
「ちょっと!早くおいでよっ!ハルくん!アハハハッ!」
笑いながら砂浜を走る千鶴。男子なら「待てよっ!」と追いかけたくシチュエーションだ。しかし春樹は思う。
「メリー、ここでどうやってポイントを稼ぐんだ?」
「はい……。泳ぐ、魚を釣る、食べる、溺れる。いずれかでしょうか……」
現実的なのは魚を釣るパターンである。
「メリー、釣り道具ってポイント交換にあるのか?」
ペラペラペラとカタログをめくるメリー。
「あっ!ありますね!釣り竿セット100ポイントで交換できます。エサもポイントによって違いますね」
「あるのかっ!!あるのならそれが正解か」
「ちなみに水着もパラソルも、海の家も載ってます」
「それはいらない気がする」
早速、釣り竿セットと試しに10ポイント分のエサを交換し魚釣りをすることにした。
シュ――チャポン……。
春樹は小さい頃から魚釣りはしてたので、慣れた手つきで竿を振る。
クックックッ……。
竿に当たりがくる。
ググィッ!
「今だっ!」
シュン!と竿を立てて合わせる。クゥゥとしなる竿。
「ご主人様!ヒットですわっ!頑張って!!」
結構引っ張られている!いきなり大物の予感!
「よしっ!こいこい!」
バシャァァァン!!
そして、釣れたのはクサフグだった。
「……」
「ご主人様やりましたね!」
と、何もない空間から本が一冊現れる。
ドサッ。
『魚図鑑』
そう書かれた図鑑には、クサフグが載っている。
「クサフグは……10ポイントですわ。エサ代は出ましたね」
「なるほど、こうやってポイントを稼ぐのか」
春樹は初めて自分の手でポイントを稼いだのだった。
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