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第一章〜白の世界〜
第6話・父からの手紙
しおりを挟む「――よ、春樹。お目覚めなさい」
春樹の頭の中で響く声がする。体が重い……。
ドクンッ!!
「うっ……この感じは病室で感じた胸の痛み……」
ドクンッ!!ドクンッ!!!
「く、苦しい……」
「春樹よ、あの時よりそなたはすでに私のモノ。その力を開放するのは造作もないこと……」
春樹の体はだんだんと軽くなり、目をゆっくり開ける。
「はぁはぁはぁ……」
息を整えながら、目を開けると見たことない風景が春樹を待っていた。
「う、うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
よろけて尻もちを着く。
右手には血まみれの獅子王丸が握られている。左手には魔物の首を持っていた。
そして周りの魔物はすべて首をはねられ死んでいる。メリーも千鶴も無事だった……が、千鶴が春樹を見る目が怯えている。
「……い、いったい何があったんだ?」
喫茶店の窓に映る春樹の姿。返り血で真っ赤になっているが本人は覚えてない。気を失って目が覚めたらこうなっていた。
「千鶴……俺はいったい……」
「ひっ!!?」
千鶴が春樹を見て怯えている。喫茶店の窓に近づき、自分の姿を見る。
赤色の目、背中に羽根……そして緑色の髪。その姿は……セリそのものだった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
窓ガラスを思いっきり殴る。
パリィィィィィィン!!!
「はぁはぁはぁ……」
病室で体をいじったとセリに言われた。あの時からすでに春樹の体はセリによって管理されている。
春樹とメリーの体を媒体にして行き来していた。
「でも……これでいいんだ。二人共助かったんだ」
「ご、ごめんなさい!ハルくん!突然のことでビックリしちゃって!でももう大丈夫!いつものハルくんだった!ごめんね!」
そう言うと千鶴が後ろから抱きついてくる。
「あ、千鶴。後ろは羽根が当た……あれ?当たらない」
「ご主人様。その姿は千鶴さんには見えていないかと」
メリーが小声で話しかけてくる。千鶴は春樹の姿ではなく、行動に怯えていたのだ。
向かいのテナントの窓に映る春樹はいつもの見慣れた姿だった。いつの間にかいつもの自分の姿に戻っている。
「彼女はどうなった!?」
魔物の下敷になっているであろう彼女を探す。すると、死んだ魔物達が時間を追う事に粉々になり消えていく。
「いたっ!あそこだ!」
路地の入口で倒れてる人影を見つける。千鶴が駆け寄り、抱き起こす。
「大丈夫ですか!?……え?凛っ!!」
そこに倒れていたのは、同級生でもあり千鶴の親友の凛だった。
「意識がありませんね、ご主人様。一旦、自宅へ連れて帰りましょう」
「そうだな。二人共、俺に掴まって」
「はい」
「転移!!」
春樹は自宅をイメージし、魔法を唱える。四人はその場から一瞬で自宅扉前に移動する。
「とりあえず、回復を――」
春樹達は家に凛を連れ帰り、容態を見ることにした。
………
……
…
――金の扉の先にあるビル郡。春樹達、四人が転移した後に人影があった。
「人間を手に入れ損ねたわね……まぁいいわ。後をつけて報告しなさい」
「ハイ、センセイ……」
「フフ。いい子ね、冬弥」
カツン……カツン……カツン……。
◆◇◆◇◆
翌日。
凛が無事に目を覚まし、少し落ち着いてから事情を聞いた。覚えているのは、学校で誰かに後ろから押され階段を落ち病院へ運ばれたこと。
気が付いた時には真っ白な空間にいた。春樹と同じようにカタログを開き、たまたま金の扉を開けて入ったところで魔物に出会ってしまったらしい。
「セリ……お前が押したんじゃないだろうな」
「まさか。私はここにいました」
「でもこの異次元空間はセリが管理しているのだろ?」
「『ここは』です。それぞれの入口は他の神でも作れます。ちなみにカタログは自動的に付与されます。千鶴さんを呼んだのは私ですが」
「……それはありがとう」
返す言葉が見当たらない。
「いきなり1,000ポイントでバニーガールを選ぶのもどうかと思いますけど」
「悪かったよ、疑ったりして。ごめん」
「……はぁ、ともかく他の神が関わってるとなると、千鶴さんとメリーにももう少し自分の身を守って頂かないと本当に帰れなくなりますよ」
「そうだな……。何か方法はあるのか?」
「そうですねぇ……緑の十番の扉ですかね。行けばわかります。それとこの腕輪をお渡します。お守りみたいな物です。では失礼」
そう言うとセリは姿を消した。
「ハルくんっ!ちょっと来て!!」
千鶴が凛のいる部屋から呼んでいる。春樹は階段を上がり凛の部屋へと向かう。
「どうしたんだ?」
「これ見て。凛が東京で見つけたんだって」
そこには古ぼけた手紙があった。いまにも破れそうな古いものだった。
パサ……。
【この手紙を見つけた者に脱出方法を教える】
書き出しにはこの白世界の脱出方法が記されてあった。
【この異次元空間は全部で八つの宝玉を集めた時に最後の扉が現れる。各扉内にはヒントも隠されている。出現場所は赤、青、金・・・】
「宝玉?ハつの宝玉というのが必要なのか。だけど残りの場所が……」
「虫食いね。食べられちゃってる。」
パサ……。
一枚目は脱出方法が書いてあった。そして二枚目の手紙を開く。
パサ……。
【もし脱出に成功した場合には、この手紙を千家松に渡して欲しい】
「千家松っ!!母さんじゃないかっ!」
「ということは、この手紙はご主人様のお父上が書かれた物なの?」
メリーが覗き込んでくる。
【松よ、無事に現実世界に戻れただろうか。あれから何年経ったのだろう。後悔はしてないと言えば嘘になるが、お腹の子を生かしてやるには一刻も早く君を脱出させる事だけで精一杯だった。無事に子供が産まれる事だけを神様に祈る。
寿命を削られいつ死ぬともわからない。だが僕は最後までここで生きる。そして、もし他の誰かがこの異次元空間に迷い込んで出れなくならない様に脱出方法を書く事にした】
パサ……。
【君を一人にしてしまったこと許してくれ。竹ちゃん、梅ちゃんには申し訳ないと思っている。松よ、愛している。叶うならもう一度君に会いたかった。千家春夫】
手紙はこの三枚だけだった。手紙を持つ手が震え、春樹は自然に涙が溢れてくる。
「父さん……!松の子は元気でここにいます。そしてあなたと同じようにこの世界にいます……父さん!!」
春樹は涙が止まらない。事故で亡くなったと聞かされて育った。他の子とは違い、父親がいなかった。それを恨んだ時もあった。
しかし、春夫はここで松と子供の事を思い必死で生きていた。
「ありがとう父さん。父さんのおかげで俺はここにいる……!」
春樹はしばらく千鶴とメリーに支えられ泣いた。写真でしか知らない父親の本当の姿を見た気がした。
しばらく後に、落ち着きを取り戻し脱出方法を紙に書き写す。そして手紙を閉じた。
「千鶴、メリー。俺達は全員生きてここを出るんだ!」
「もちろんよっ!ハルくん!!」
「ご主人様の意のままに」
「父さん、見守っていてくれ!」
◆◇◆◇◆
「凛、この手紙はどこにあったんだ?」
「最初……ポイントで交換した扉が都会に繋がって夢だと思ったんだ。んで……夢だからと思いっきって喫茶店でパフェを食べて、それから図書館へ向かったの。図書館でね。一冊の本がキラキラ光ってて……その本の中に手紙があった」
「で、その後に魔物に見つかったのか?」
「うん。図書館で本を借りて公園を探してたら魔物に遭遇したんだ。逃げたんだけど、掴まって……。そこからは覚えてない。たぶん、あんなことやこんなことをされて今に至るんだと思う」
読書好きな彼女は妄想の中で色々されたみたいだ。
「大丈夫よ、凛。すり傷は多かったけど、大きな傷はなかったわ」
千鶴が凛の頭を撫でる。
「ううん。心の傷なの。きっと私はもう大人の女になったんだわ。魔物達に汚されて……はぁ」
遠くを見つめ、ため息をつく凛。
「私が後で診てあげます。動けるようになったら先にお風呂に入りましょう」
メリーは元々看護師だった。赴任してきた時の自己紹介で言っていた。
「はい。メリー先生」
「あとはメリーに任せよう。千鶴、ちょっといいか」
「ん?なに?」
春樹は千鶴を一階のリビングに呼んで話をすることにした。
「凛にもこの世界の説明を後でお願いできないか。俺が説明するより千鶴が言った方が説得力があると思うんだ」
「わかった。話してみる」
「それから、セリに緑の十番の扉に行くように言われたんだ。先に様子を見てくるから留守番を頼めるか?」
「緑の十番?次は緑色の扉なのね」
「あぁ。脱出とは違うけど、先にそこに行った方が良いらしい」
「わかったわ、気をつけて……と言ってもハルくんはもう強いから大丈夫かっ!」
笑顔で答える千鶴。
「あぁ、ちょっと行ってくる」
◆◇◆◇◆
春樹は緑の扉をポイント交換し、一人で開けてみる。
カチャ……ギィィィィ……。
扉に一歩踏み込みとそこは草原だった。草原に川、山脈が見えた。
「ここは……?セリはここに行けばわかると言ってたが、魔物でもいるのか……しかし、これは……」
春樹は妙に体が重く感じる。米を担いで歩いてる様だ。
慎重に草原を歩いて行くと魔物の姿がある。スライムやゴブリン達が木陰で休んでいる。
春樹はそっと剣を構え近付く。
カチャ……。
気配を感じてか、魔物達が春樹の方を見る。
「気付かれたか!うぉぉぉぉぉぉ!!」
「マテマテッ!」
一匹のゴブリンが話しかけてくる。
「ちょ!ちょい!あぁた!いきなり何すんねん!」
なぜか関西チックな魔物。
「お前達は魔物だろう?」
春樹は剣を構えたまま話しかける。
「そやねんけど!わしらも一生懸命生きとんねん!魔物や魔物や言うて、すぐ剣を向けるんはちょっとちゃうんやないか!」
ごもっともである。怒るゴブリンとスライム達。
「わしらは魔毒を吸うてへん。普通の魔物やねん」
「魔毒?」
春樹は詳しく話を聞いた。何でも魔毒を吸ったり、植え付けられた魔物は凶暴化し死ぬまで敵に向かって行くのだと言う。
しかし、魔毒を受けていない魔物も存在し普通に暮らしているのだとか。大きな違いは言葉を話せるか話せないか、眼が赤色になっているかいないかなど色々教えてくれた。
「では、お前らは良い魔物なんだな」
「せやで。旦那わかったんか?」
「あぁ、わかった。……わかった上で、俺の修行の糧になってくれ」
カチャ。
春樹は剣を再度、魔物に向ける。
「ちょ!待て待て!人の話を聞いとったんかい!いや人やないけど!旦那の人でなしっ!」
魔物にツッコミを入れられる春樹。
「生かしてはおけん。奥義……!!」
「ヒィィィ!!」
「奥義?……いや、そんなものはなかった。言ってみたかっただけだ」
「なんでやねん!」
ズッコケる魔物達。
「死ねぇぇぇぇい!!」
春樹は否応なく剣をふりかざす。その時だった。
「そこまでだ」
ドスン……ドスン……。
向こうから大きなドラゴンが歩いてくる。
「マザー!!おぉ!マザー!!助けてくれ!」
「ガルゥゥゥゥ……そなたは初めて見る顔だな。私のかわいい子供達に剣を向けるとはいい度胸だ」
マザーと呼ばれるドラゴンが牙をむく。
「ふ、何を言っている!ドラゴンよ!よく聞け!!俺は……」
ザッ!
そう言いかけると突然、体が重くなる。たった一歩、前進しただけだった。地面の色が変わっている。草原からむき出しの土だ。その土に触れた瞬間、押しつぶされる様な重力が春樹にのしかかる。
「くっ!どういうことだ!何だこ……れ……動けない……」
「人間よ、ここの磁場は通常の十倍はある。生身の人間では動けまい」
「なんやねん。口ばっかりやないか。びびって損したわ。マザーおおきに、後はわしらでケジメつけますわ」
地面に体が引きつけられ、思うように立てない春樹。魔物達は春樹を取り囲むように、集まって来る。
「お、俺は……こんな所で……!?」
と、マザードラゴンは春樹の腕に目が止まった。
「……人間よ、お主はセリ様の加護を受けておるのか?」
「セリの加護……?加護かどうかは知らないが、この腕輪はセリにもらった物だ」
「なんじゃ、セリ様がよこした人間か。おいお前ら客人だ。食べるでないぞ」
「えぇぇ!マザー!わしら殺されかけ……まぁ、ええわ。昨日の敵は今日の友って言うしな。旦那、立ちな」
「え?お前ら……いい魔物だな」
「何言うてんねん!最初からそう言うてるやないかい!」
「人間よ、付いて来い。案内してやる」
ドスン……ドスン……。
ドラゴンはきびすを返し歩いて行く。
「旦那。わしらも町へ帰るとこや、一緒に行くで」
そう言うとゴブリンの親玉らしき魔物がドラゴンの後を追う。
「町があるのか?いや、そもそもこの魔物たちはここで暮らしているのか?」
「細かい事は町に行ってからや。ほな、行くで。よいしょ」
「あぁ、わかった。頼む」
春樹は魔物に肩を借り、町へと向かった。
応援ありがとうございます!
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