白の世界

雑魚ぴぃ

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第一章〜白の世界〜

第7話・マザードラゴン

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 春樹はマザードラゴンの後に付いていく。その先には魔物の町があるそうだ。しかし、いつもの数倍の磁場が足腰に重くのしかかり、剣を杖代わりに歩く。歩いて付いて行くだけで、足がガクガクしている。

「おいおい、さっきまでの威勢はどしたん?」

ゴブリンが話しかけてくる。

「はぁはぁ……うるさ……い……はぁはぁ」

 魔物達は普通に歩いている。この磁場で普段から生活してるからだろうか。春樹はどんどん置いていかれる。しばらく歩くと町が見えてきた。

「まだ……あんなに先なのか」

 足が限界だった。しかし「休憩させてくれ」という様な距離は歩いていない。

『ピィィィィィィィ!!』

その時、町から警笛が聞こえる。

「獲物が出たみたいやな!おい!お前ら行くでっ!」
「へい!親分!」

走り出すゴブリン達。

「はぁはぁ……嘘だろ?この状態で走るとか……」

 春樹はゴブリン達に置いていかれ、一人で町へと向かった。

「ぜぇぜぇぜぇ……」

 三十分程歩き、ようやく町に到着した。距離にしたら一キロも無い。
 町の入口でへばっているとゴブリンの子供がやって来て水をくれた。

ごくごくごく――っ!

「ぷはぁぁぁ。生きかえる。ありがとう」

コクン、とうなずきその子は走って行った。

◆◇◆◇◆

 春樹は魔物の町でマザードラゴンの屋敷へ通される。足腰がガクガクで、椅子に座ったらもう立ち上がれないくらいだ。

「だらしないのぉ。以前来た人間は初見でわしと互角に戦って見せたぞ?ふふふ」
「もしかして……千家春夫じゃないだろうな?」
「ん?お主、ハルオを知っておるのか?」
「……俺の……父さんだ」
「何だとっ!?お主はハルオの子かっ!!」

ビックリするマザードラゴン。

「……この町はな。ハルオが作ってくれたのじゃ。この世界の魔毒に犯されていない魔物達を色んな所から連れてきては保護しておった。わしもそのうちの一匹じゃ。懐かしいのぉ」
「そうだったんだ。ここに父さんが居たんだ……」
「この緑の扉はの。中心に行くほど磁場が強まる。扉をくぐって来たのであろう?あそこが一番磁場が弱い。セリ様はお主にこの地で修行させてハルオのようになって欲しかったのじゃろう」
「そういうことか。セリはいつも説明してくれないからわからないんだ。なぁ、マザー。仲間がいるんだが後日連れて来ても良いか?」
「あぁ、構わないが今日とて扉まで帰れるのか?フフフ」
「大丈夫だ、マザー。今日はこれで帰るよ。準備をして出直してくる」
「あいわかった。いつでも来られよ」
「ありがとう。じゃぁ、数日後にまた――転移!!」

すぅぅ!と消える春樹をマザーが見つめる。

「なんじゃ、お主もハルオと同じスキルを持つのか。やはり親子なんじゃのぉ……」
「マザー様、食事の準備が出来ま……客人……?あら?もうおらへんわ……」
「フフフ、帰られたよ。そのうちにまた来るじゃろ」

 春樹は自宅に一旦戻り、皆と話し合いをすることにした。凛も少しは動けるようで食事を取っていた。

「――というワケで、これから魔物と戦うにはどちらにせよ訓練をしないと死んでしまう。父さんが残した脱出方法でゴールを目指すにしても魔物が途中で出たらアウトだ」
「ハルくん……私にも出来るのかな」
「ぐす……ママに会いたい」

不安そうな千鶴と、涙ぐむ凛。

「ご主人様、私は喜んで行きます」

メリーは二つ返事だ。

「凛。気持ちは俺も同じだ。だけどここで死んだら、俺の父さんのように元の世界には帰れない。なら、時間をかけてでも自分で強くなるしかないんだ」
「……私もハルくんの意見に賛成するわ。そうよ。ここにいても誰も助けてくれない。強くならなくちゃ!」
「……うん、わかった。千鶴が行くなら私も行く」
「凛……ありがとう」

 千鶴が凛を抱きしめる。しぶしぶだが凛も承諾してくれた。

「よし。四人の役割を決めよう」
「役割?」
「あぁ、東京での戦闘でわかったんだ。バラバラに攻撃しても意味がない、得意な戦闘を極める方が良いってね」
「そうかもしれませんね、私が攻撃魔法を使っても全く効きませんでした。でしたら私は回復と掩護魔法をしたほうが良いのかもしれません」
「そうだな。メリーは元看護師、回復系の方が相性が良いのかもしれない」
「ねぇ、私はどうしたらいい?」
「千鶴は弓を使ってみないか?部活が弓道だったからちょうど良いかもしれない」
「そっか!剣しかないわけじゃないんだね!弓なら使えそう!」
「凛は何が得意なんだ?」
「うんとね……読書」
「読書か……攻撃魔法の書を読んでみるか?」
「わかった。やってみる」
「ハルくんはどうするの?」
「俺はこれしか無いと思ってる」

春樹は立ち上がり、獅子王丸を見せる。

「この剣は魔力を吸収できると書かれていた。吸収される前に魔法を付与できないか試してみるつもりだ」
「ご主人様、魔法剣というところか!」
「そうだ。相手の属性がわかれば有利に戦える」

 そして四人はそれぞれ魔法をポイント交換する。数千ポイントを残して準備をした。

「ハルくん、そのスキルは何?」
「あぁ、複製のスキルだ。安かったから覚えておいた。何かに使えるかしれないから」

 こうして準備を進め凛の回復を待ち、三日後にまたマザードラゴンの町に行くことにした。

――三日後。

緑の扉を開け、三日ぶりに草原の大地に入る。

「わぁ……綺麗」

千鶴と凛は景色に感動している。

「ご主人様、これは本当に動きにくいですね」

 早速、地場がのしかかる。二回目とはいえ、前回同様に体が重い。

「さっ!行きましょう!」
「風もあって気持ちいいね!」

 なぜかスタスタと歩く千鶴と凛。弓道で鍛えた足腰が強いのか。しかし凛は運動部ではない。春樹とメリーは苦しそうな顔をしている。

「あれ?凛も大丈夫なの?」
「うん?大丈夫だよ。浮いてるから」
「へ?」

良く見るとちょっと浮いている。浮遊魔法だ。

「え?ずるいくない?」
「私は頭を使う方だから体力は鍛えないことにしたの」

さすが魔法少女。

「でも浮遊魔法でも下に引っ張られる感じはあるわ。魔力が切れたらその場から動けないと思うからよろしくね」
「どんなよろしくだ」

 春樹達四人はマザードラゴンの町を目指して歩く。町に近づくに連れだんだん磁場が強くなる。

「ぜぇぜぇぜぇ……」

 春樹とメリーは千鶴と凛の後を追う。普段の運動不足が足にくる。
 ――三十分後、無事に町に辿り着きマザードラゴンの所へ挨拶に向かった。

「良く戻って来た。なんじゃ、おなごばかりじゃの。まぁ良い、この屋敷を好きに使うが良い」

 春樹達は当面、この生活に慣れるように訓練は一週間後とした。

◆◇◆◇◆

 一週間が経ち、ようやく普段通りに歩けるようになっていた。
 千鶴はすでに弓と魔法をマザーに教わっている。凛はマザーの紹介でゴブリンの長老に攻撃魔法を教えてもらっていた。

そして春樹と、メリーはというと……。

「旦那っ!そっちに行きましたぜ!」
「くっ!早い!」

ドサッ……。

「はぁはぁはぁ……」

狩りのお手伝いで足を引っ張っていた。

「大丈夫ですか?ご主人様」
「あぁ、メリーこそ大丈――嘘だろ」

 メリーも浮いていた。こっそり凛に浮遊魔法を教えてもらいポイント交換していた。

「あ、あら、そんなズルしたみたいな顔されてもやめませんよ!」
「くそぅ!でもメリーも後方支援がメインだしな。俺はもっと訓練しないと!!」

 それからさらに二週間が経過した。四人とも地場に慣れ、普段の生活を送れる様になっていた。
 春樹達が生活している場所が低磁場地帯だ。中央にそびえる山脈は高磁場地帯と呼ばれていた。
 千鶴も凛もどんどん弓や魔法の技を習得していく。一方でメリーも魔法の練習はしているがなかなか上達しないみたいだった。
 春樹はようやく剣が振れるようになってきた。初日には数回振って倒れそうだった訓練も、百回は素振りが出来る様になった。
 狩りにも随分慣れてきてようやく邪魔にならない程度にはなってきた。

「マザー、この世界で一番強い魔物はどの程度の戦力が必要なんだ?」
「うむ。わしより強い魔物はそうそうおらぬが、自称魔王を名乗る者の存在は確認しておる」
「自称魔王?」
「あぁ、どこの扉におるかは知らぬがな。ハルオはそやつには勝てぬと転移したと聞いたことがある」
「父さんが勝てないと言ったのか……」
「まぁ、この世界にまだその者がおるかはわからぬがな」
「もしそれが本当ならそいつと遭遇した時点で全滅か。どのくらい……いや、最低一年位はここで訓練しないと駄目かもしれないな」

 春樹には気になる事があった。現実世界での肉体の事だ。尊厳死――仮に途中で延命治療を中止されたら戻る肉体が失くなる。

「はっ!そうか!母さんならこの異世界の話を信じてくれるのか!」

 春樹は急ぎ手紙をポイント交換し、四人が異世界空間に閉じ込められしばらく帰れないことを書く。
 普通ならにわかに信じられないかもしれないが、ここにいた母の松になら伝わると考えた。手紙と一緒に父の残した手紙を入れ宙に投げる。手紙はすぅと空間に消えた。

 ――その夜三人に相談する。手紙は先に送ったことと、ここでいつまで訓練を続けるか。

「そうねぇ……ひとつ提案なんだけど」

千鶴が切り出す。

「私達はここから脱出するめたに訓練をしてるわけだから、どんどん扉を開けて宝玉を探した方がいいと思うの。ここで一年訓練してもポイントは貯まらないし、訓練が目的ではないわよね」

一理ある。

「私も千鶴に賛成。早く帰りたい気持ちは変わらない」

凛も千鶴と同意見だ。

「私は……ご主人様の意見に従います」

メリーはどちらでもといった感じだ。

「わかった。二手に別れよう。俺はこのまま地場の中央に向かい訓練を続ける。三人は扉を開放していき、魔物が出たらここに戻って俺を呼んで欲しい。どうかな?」
「それなら効率良さそうねっ!」

千鶴がニコッと笑う。凛もコクンとうなずく。

「早速明日自宅に戻り準備をしよう。三人にも転移のスキルを習得してもらわないとな」

 春樹達は一旦自宅に戻り準備をし、別行動をすることにした。

◆◇◆◇◆

翌日。
マザードラゴンに事情を説明し、自宅へ一旦帰る。

「ねぇ……うそみたい。体が軽い……痩せた?のかしら」

 ぴょんと跳ねて見せる千鶴。と、春樹の視界から見えなくなった。

「え?千鶴?」

ストン。

「ビックリした!!!あんなに高く飛べるなんて!!」
「飛んでたのか。こっちがビックリした」

春樹も軽く走ってみる。

「え?」

ドスンっ!!!
早すぎて避けきれず、顔面から木にぶつかる。

「カハッ!い、痛い……」
「ちょっと!ハルくん大丈夫!!」

 鼻血は出たが思った以上に訓練の効果がありそうだ。
 次は扉の確認をする。父、春夫の手紙には扉内のどこかにヒントがあると書いてあった。
 千鶴の来た部屋は赤の扉。四人で手分けしてそれらしい物を探す。

「あったわっ!きっとあれよ!!」

 それは天井の角に書いてあった。普通では見えないが隅々まで浮遊して見ることが出来た。

『愛を成就させること』

「……あんだって?」

春樹は再度ジャンプしてヒントを確認する。

『愛を成就させること』

「どういう意味だ……?」

 一つ目のヒントから、曖昧な開放条件を突きつけられる春樹達だった。
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