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第二章〜世界のほころび〜
第11話・複製と代償
しおりを挟むギシィィ……。
まだ夜も明けぬ暗い部屋で、誰かが春樹の布団に入ってくる。
(こんな夜更けに誰だ?)
春樹はぼんやりと目が覚めるが体は動かない。さすがに疲労が溜まっている様だ。
「ハルくん……」
千鶴の声が布団の中でする。
「千鶴か?」
「うん……一緒に寝ていい?」
「あぁ……構わないよ」
「……うん」
温かい。千鶴の体温が伝わってくる。そして、ふくよかな胸が柔らかい。
「すぅすぅ……」
すぐに千鶴の寝息が聞こえてくる。
(体は……動かないが手は動くっ!!ちょ、ちょっとだけなら……ごっくん)
春樹は千鶴の胸にゆっくりと手をかける。
むに。
(女の子の胸って柔らかい……もう一度言う。女の子の胸は柔らかい)
「えっち」
「え!あっ……その……」
「体がちゃんと治ってからね、おやすみ」
「え、あ、は、はい。おやすみなさい……」
千鶴は起きていた。
「すいません……」
◆◇◆◇◆
翌日。
春樹は何とか体が動かせる様になっていた。千鶴はもう布団にはおらず、朝食を作ってくれている。
「あ、ハルくんおはよう。昨夜はよく眠れた?」
忙しそうにする千鶴が声をかけてくる。
「あぁ、おはよう。夢を見てたみたいであんまり寝た気がしないかも?」
「ふぅん」
選択肢を間違えたみたいだ。
「千鶴、春樹君おはよう!ふぁぁ」
「あ、あぁ、凛おはよう」
「ん?どうしたの?目が泳いでる」
「い、いや何でもないよ!ほら、先に顔洗って!」
動揺を隠しつつ、朝食を取る。
「今は青、緑の宝玉が手に入り、金の宝玉の場所もわかっている。残り五個と……」
メモを取りながら、パンを食べる。
「千鶴、今日はもう一回学校に行ってみようと思う。付き合ってくれないか」
「えぇ!!私も行くっ!」
凛が急に大声をだす。
「凛はメリーと行動してほしいんだ。今、メリーを一人にしておくのは危ない。もし魔物に襲われても一人が助けを求めに行けるだろ?」
「でも……うぅ……」
しぶしぶ承諾してくれる凛。
「凛さんお願いね、ふふ」
メリーが不敵な笑みを浮かべる。パチンコに集中するつもりだ。
「セリ、あの御札のことだけどあれは何だったんだ?」
教室で見つけた御札。キリも御札を探している様だった。
「ん?セリ?あれいないのか。トイレかな」
「ご主人様、セリ様はトイレとか行きませんって!アハハハ……て、あれ?セリ様?」
メリーがキョロキョロする。いつも呼んだら、そこら辺から現れるのに今日は現れない。
「セェリィ!」
呼んでみるけど反応がない。
「おかしいな。まだ寝てるのか?」
ふと、リビングにある鏡が目に入る。春樹は鏡に近付き顔を良く見てみると……。
「……目の色が元に戻ってる」
セリが憑依してから緑色だった目が黒い。元の目の色に戻っていた。
「あっ!御札は!?」
春樹は慌てて部屋に置いてあった御札を確認する。
「御札が……破れている……」
一つの想像が春樹の頭をかける。
「ちょっとマザーに会ってくる」
「うん、わかった。気をつけてね」
◆◇◆◇◆
春樹はマザードラゴンに会い、今までの経緯を話した。
「これは管理者の護符じゃな」
「管理者の護符?」
マザードラゴンはこの護符を知っていた。
「前にセリ様に聞いたことがある」
マザーが言うには、この護符を持つ者が管理者となりこの世界を管理してるのだと言う。
春樹が持っている護符はキリの探してた物、つまりキリがこの世界を管理するための護符だ。
「その護符には持ち主の思念が入っている。もしかして……の話じゃが、そのキリという神が死ぬ間際に何らかの呪い、あるいは魔法を発動させてセリ様を……」
「……」
「セリ様の気配もなく、お主の目の色といい、この世界から別の世界へ転送された可能性もある。もしくはすでにもう……」
言葉に詰まるマザー。春樹も、もしかしたらもう消滅してしまったのかもしれないという想像もしていた。
「……宝玉を集めたとして管理者のセリがいなければこの世界から出れないのか?」
「いくつか方法はある。一つ目はセリ様が持っていた護符を探すという方法。二つ目は誰かの寿命を使い仲間だけ返すという方法じゃ」
「ふざけるなっ!誰かを犠牲になんてそんなこと!」
思わずマザードラゴンに大声をあげる春樹。しかし、反対にマザードラゴンは春樹を怒鳴りつける。
「愚か者っ!そもそもがお主の失態であろう!セリ様に傷付いた仲間を助けさせたのであろう!セリ様の魔力が万全であれば護符の力になぞ負けはせんっ!すべてはお主が原因じゃ!」
「そ……それは……」
春樹はセリに『皆を頼む』と言ったのを思い出した。セリは不本意だったのかもしれない。メリーに憑依し、春樹を自宅まで運んでくれた。傷付いた三人の傷を直してくれた。そして春樹も無事に目覚めた。
春樹はなぜか自然と涙が流れた。頭の中では色んな思いが巡る。
春樹が犠牲になり、皆を元の世界へ戻すことは出来る。ただ春樹は一生この世界で暮らすことになる。
そんな不安と、セリに何の考えもなく『皆を頼む』と軽々しく口にしたこと。セリは黙ってその言葉を聞き入れ、自らの危険もかえりみず全てをこなしてくれた。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
言葉にならない潰されそうな感情が湧き上がる。
「ようやく理解したか。セリ様はお主の為に最善の方法を取ったのじゃ。泣く暇があるのなら護符とセリ様を探すがいい。この白世界のどこかにいるかもしれないしな」
「……うぅ……はい」
こうして春樹は、マザードラゴンの元を後に自宅へと向う。宝玉探しに加え、セリが持っていた管理者の護符とセリ自身を探すことになったのだった。
◆◇◆◇◆
翌日。
春樹と千鶴は学校に来ていた。ここで宝玉をまだ探していない。あるかどうかもわからないがもう一度見て周る。
「やっぱり。吹き飛んだはずの学校が元に戻ってる」
「ハルくん、教室に行ってみましょう」
春樹が吹き飛ばしたはずの二階部分が元に戻っている。東京で見たショーウインドウのガラスが元に戻っていたのを思い出した。
ギシィィギシィィギシィィ……。
二人が階段を上がる音が校内に響く。静かな学校はやはり不気味な雰囲気がする。そして二階部分はキリとの戦いで吹き飛んだはずなのに、何事もなかったかのように元に戻っている。
ガラガラガラ……。
春樹達は教室に入りそして全部の机の中を物色する。しかしそこには何もなかった。
「まるでゲームだな……え?」
自分で言ってハッとする。
「ゲームの中なのか、もしかして……!?」
「ハルくん何か言った?」
「あ、いや。独り言だ」
ロッカーの中を探す千鶴が返事をする。
「んんっ!あぁ!腰がいたぁい!」
伸びをしながら千鶴が立ち上がる。春樹と千鶴はその後、学校の中や、体育館などを探して周ったがそれらしい物は見つからなかった。
◆◇◆◇◆
その日の夜。
「皆、聞いてくれ。キリの件を一度整理しようと思う」
『整理?』
キョトンと首をかしげる三人。春樹は思い当たる出来事を説明する。
「これが管理者の護符だ。破れて使えないが、これがあれば現実の世界を行き来出来るみたいだ。実は学校で護符を見つけた時に匂いがあったんだ」
「匂い?ハルくんは犬のスキルを取ったの?」
「千鶴、そうじゃない。木の匂い、海の匂い、この白世界に無い要素なんだ。そしてキリが欲しがっていたのが俺の嗅覚……」
「ご主人様……まさか……」
「あぁ、メリーそのまさかだ。この世界は――」
「……まさか犬の嗅覚のスキルを」
「メリー、人の話を聞いてたか?」
キリは、味覚視覚聴覚そして嗅覚を集めようとしていた。それは人間の五感のうち四感を表している。残りは触覚。
「たぶん人形……あるいは人造人間と言ったところか。魔物より、俺たちに近い生き物を作ろうとしていた可能性がある」
「ハルくんはその人造人間を作りたいの?」
「俺はいらないよ。キリがそれを作る事で何かをしようとしてたんだと思う……何かはわからないけど」
春樹は振り返り考えてみたが、結局キリが何がしたかったのかはわからなかった。
「そこでわかったのがこの世界からの脱出には宝玉を集める以外にも、この管理者の護符があれば行き来出来ると言う事がわかった。宝玉を集めながら護符も探してみようと思う」
「ハルくん、その破れた護符は直せないの?」
「あぁ、マザーにも聞いたがそれは無理だそうだ。護符には神の魂が練り込まれているらしい」
「そっか……どっちにしても次の扉を開けて行くしかないのね」
「私はホタテを食べない作業なら出来るわ」
「凛、ホタテ嫌いになったのね……」
四人は再度確認する。春樹と千鶴のペア、メリーと凛のペアでそれぞれ行動する。
春樹と千鶴は新しい扉を、メリーと凛はパチンコ店の金の宝玉を取るという目標で進めていく事になった。
――それから一週間後。
春樹と千鶴は新しい扉を開け、ヒントを探し魔物を狩り順調に進んでいく。しかし肝心の宝玉は見つからない。一週間で十枚目以上の扉を開けたが手がかりはなかった。ポイントも残り少なくなっていく。
メリーは五日目にようやく金の宝玉を交換出来た。喜ぶメリーの横で、図書館で借りた本を読んでいた凛がある一文を見つけた。
「ご主人様!見てください!これが金玉です!」
「……あぁ、メリーわかった。ご苦労様。それで凛、その本がどうしたんだ?」
「うん、春樹君。ここを見て、虹色のから……」
「千鶴さん!見てください!これが金玉です!」
「もうメリーわかったから!金玉は一旦置いといて!」
「あぁ……美しい。金色の宝玉……うっとり」
メリーは誰にも相手にされないが、最初は春樹達もちゃんと喜んだのだ。ただこのやりとりをかれこれ二時間はしているので、すでに飽きていた。
「えぇと……虹色の橋が架かる時、扉は開かれる。赤、橙、黄、緑、青、紫……それに金と銀の色が混ざり合う」
「ねぇ、凛。それって宝玉の色なのかな」
「千鶴、そうよね?私もそう思った」
「そうなると、橙、黄、紫、銀の扉を調べたらいいのか」
「うん、そうだと思う。ただ黄色といってもカタログでは何十種類とあるからどれかはわからないけど」
「いや、凛。これで希望が持てる。かなり絞れる気がする」
春樹達は橙の扉を、メリーと凛は黄の扉をそれぞれ開けることにした。
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