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第二章〜世界のほころび〜
第12話・みかんの木
しおりを挟むカチャ……キィィィ……。
春樹と千鶴は新たに、橙色の扉を開ける。橙色と言っても何十種類もある。目についた橙色から始める事にした。
「千鶴……これは……!」
「えぇ……ハルくん……」
「みかんだな」
「えぇ……みかんね……」
目の前にはみかん畑が広がる。縦横に百本は植えてある。
「全部で一万本はあるな。この中から宝玉を探すのか……」
「ハルくん、やりましょう。時間がおしいわ」
「あ、あぁ……」
春樹と千鶴は三日かけて全部のみかんの木を見て周ることになる。みかんに紛れて宝玉があると思い込んでいた。
一方、メリーと凛が開けた黄色の扉の先は……。
「凛さん……これは……」
「えぇ、メリー。砂漠ね」
「砂漠……」
「えぇ、メリー。砂漠ね」
「……」
「……」
一面砂漠だった。浮遊魔法で少し浮き、こちらも三日を費やし黄色の扉内を探していく。
………
……
…
――三日後、自宅リビング。
「メリー、そっちはどうだ?」
「ご主人様、正直お手上げですわ。砂の表面は見えても中までは見えませんもの。埋まってたら見落としてます」
「そうだよなぁ……」
「それに目に砂が入ってきてなかなか進まないのよ。春樹君達はどうなの?」
「凛、こっちも同じだ。みかんの木を見て行ってるが正直お手上げだ。そもそも首が痛い」
テーブルに置いてあるみかんの山に手を伸ばし、話を続ける。
「もぐもぐ……ずっと上を見っぱなしで‥…途中からどの木を見たのかすらわからなくなる」
「そっちも大変ね……」
「お互いにね……」
『はぁ……』
春樹は気を取り直して、ほぼ同じ色の橙の扉をポイント交換する。
カチャ……キィィィ……。
「どう?ハルくん。次はいけそう?」
千鶴が後ろから声をかけてくる。
「どう……て……」
「ご主人様、どうしたのですか」
「春樹君、中が見えない」
「あ、あぁ……」
春樹が中に入り、三人も続く。そして絶句した。
「……みかん畑だ」
「うわ……こっちもみかん畑……」
「豊作ですわね」
先と同じ様に一万本は植えてありそうだ。
「待って!ハルくん!これは!?」
「どうした!千鶴!宝玉があったのか!」
三人が千鶴の方を向く。
「こ……これは!せとかよ!」
「え?どういう事?」
「みかんの品種よ!先のは温州みかんだった!今度はせとかなのよ!」
「いや……千鶴?品種よりこの本数を調べないと……」
「何を言ってるの!せとかはみかんの大トロ!食べて見なさい!」
そう言うと千鶴はみかんの皮を剥き、皆に配り始める。もぐもぐ……。
「こ、これは!?上手い!」
「美味しい!!甘いのに酸味もあって……!」
「まるでみかんの宝石――うっぷ!」
メリーが何かを言おうとして、途中で千鶴に口を押さえられた。
「ね?わかった?みかんはみかんでも種類によってはこんなに違うのよ。さっ皆で収穫するわよ!」
『オォォォ!!』
――収穫を始め一時間後。
「ちょっと待て。何か忘れてないか?」
「ハルくん?どうしたの。温州みかんが食べたいの?」
「千鶴、そうじゃない。みかんの収穫をしてる場合ではないのではないか」
「春樹君の言う通りだわ。私達はここで何をしてるの……」
「Oh……マイガ……」
気を取り直して、春樹達は宝玉を探し始める。四人で畑を周ると効率は良いが他には何も出来ない。
「そもそもね、ここに橙色の宝玉があるとは限らないのよね」
「あぁ。それもそうなんだが、ここまで調べて何の成果も無いのはなぁ。せめてヒントだけでもあればいいんだが……」
「そうね。みかん……みかん……ねぇ」
その日は四人がみかん畑で宝玉を探す。そして橙の扉三枚目を開けるかどうかを思案する。
二枚の扉を開けて成果がなく、リビングにはみかんの山が出来た。
――自宅リビング。
「メリー何か方法は無いのか?これでは埒が明かない……」
「そう言われましても……ねぇ、千鶴さん」
「ちょ、こっちに振らないでよ。凛はどうなの」
「えぇ!千鶴!私もわからないよ!もう全部燃やしちゃえばいいのに!」
「え……凛。今、何て?」
「春樹君?全部燃やしちゃえばいいのにって」
「それだ!!」
「凛さん!それですわ!全部燃やしちゃえばいいのです!」
「凛!すごい!燃やした後で宝玉を探せばいいのね!」
「え……あぁ……え?そうなの?燃やすの?」
「あぁ、凛。目が覚めたよ。農家さんの気持ちとか考えてそんな気は起きなかったけど、そもそもここに農家さんはいない。あのみかんの木も翌日には元に戻ってるはずだ!」
「ハルくん……農家さんの事まで考えてたのね……。でもお手柄よ、凛!」
翌日。早速、一番目に開けた橙の扉のみかん畑を全て燃やし尽くす。探しやすくはなったが結局見つからなかった。
そして二番目の扉も同じように、みかん畑を燃やし尽くす。二番目にも宝玉は無かった。
念のため、一番目の扉を再度開けてみるとみかん畑は元に戻っていた。皆、ほっと胸をなでおろす。
そして三枚目の扉をポイント交換し、橙色の扉を開ける。
カチャ……キィィィ……。
「今度は何みかんだろう?」
「いよかんもいいなぁ」
「千鶴はみかん詳しいね」
「親戚がみかん作っててね、それで――」
扉の先にあったのは……。
「柿か……みかん、みかんだったのに柿か……」
「柿……オレンジだしね」
「カキって何ですか?」
「メリーは柿を知らないのか」
「私は柿大好き!」
「凛!柿を取るわよ!」
四人はワイワイ言いながら楽しそうに柿を取っていく。そして一時間ほど経った頃、春樹が気付く。
「おい。そうじゃない。宝玉を探さないと」
「え?」
「あっ……そう言えばそうだね」
「シブガキ~」
柿取りもほどほどに、一旦畑を燃やしつくす。そしてついに宝玉が姿を現した。
「ん?あの光ってるのは……あった!!宝玉!!」
「良かった!」
「これで四つ目!!」
「みかんのくだりいらなかっ――」
『おめでとうございます。橙の宝玉をコンプリートされました。10,000ポイント獲得です』
頭上で機械音が聞こえた。
「久々のポイントだな。助かった。これで扉をまた開けれるな」
「そうね。でも砂漠の扉はどうするの?」
「私はもうあそこは行きたくない……」
「私も凛さんと同意見です……」
「凛、メリー。わかった。砂漠は俺と千鶴で行くよ」
「ご主人様ぁ、やさすぃ」
「メリー、くっつくな!」
久々のポイントを使い、生活に必要な物を揃えた。残りのポイントは扉交換用に取っておく事になった。
凛とメリーに自宅の家事を任せ、春樹と千鶴は黄色の扉に足を踏み入れる。
カチャ……キィィィ……。
そこは凛とメリーの言う通り、砂漠だった。風が強く砂が目に飛んでくる。春樹は海水浴で使ったゴーグルを取り出し、早速使う事にする。
「千鶴……これは確かに探しようがないな」
「そうね。どこまでも砂漠。砂の下に埋もれてたら見つからないわ」
「とりあえず、まっすぐ歩いてみよう。一周したらこの場所に戻るはずだ」
「えぇ、そうね。歩きながら方法を考えましょう」
――数分後。
「くっ……足を砂に取られて歩けない……」
「だらしないわねぇ。鍛えたんじゃなかったの?」
「お前達は浮遊魔法使えるからいいけど、俺は覚えてないんだ。磁場とは違い、砂は……足が沈む……うっ」
「ほらほらハルくん、置いて行くわよ」
「ちょ、待てよ。千鶴――え?」
「何、そんな顔しても駄目よ。さ、歩いて歩いて!」
「違う!千鶴!待てっ!」
春樹は手を伸ばすがわずかに届かない。
「え?ハルく――!?」
「千鶴っ!!」
千鶴の足に糸の用な物が絡まり、蟻地獄に飲まれて行く。スリ鉢状の砂の穴をぐるぐる回りながら徐々に中心に向かい沈む。砂場で踏ん張りは効かない。しかし春樹は剣を抜き蟻地獄の巣穴に向かい飛び込んだ。
『漆黒の太刀・月陰――』
ザシュゥゥゥ!!
姿を現そうとした蟻地獄の体を真っ二つに切り落とす。と同時に千鶴の足に巻き付く糸も切れた。
「千鶴!!手を!」
「ハルくんっ!!」
魔物は倒せたものの二人はそのまま巣穴へと沈んで行く。千鶴を助けるので精一杯だった春樹は、転移魔法を使う間も無くそのまま飲み込まれていく。
(息ができな――)
蟻地獄の巣穴は二人を飲み込み、そして何事も無かった様に閉じていった。
…
……
………
春樹が気が付くと冷たい床に横たわっている。手は動く、足も動く。体のあちこちが痛いが何とか動けそうだった。
「いてて……千鶴は……」
「あっ!ハルくん気が付いた?良かった。一応回復魔法はかけたけど、体を動かしてみてね」
「あぁ……大丈夫そうだ、ありが……」
春樹が体を起こし見ると、下着姿の千鶴が二人の衣服を干していた。
「わっ!」
「ちょ!ハルくん!こっち見ないで!」
「あぁ、ごめん」
「私はちょうど落ちて来た所が水溜まりで服がびちゃびちゃになって……」
「ほんとだ。俺は砂の上に落ちて助かったのか?」
「うん、砂に埋もれてたハルくんをそこの床まで運んだの」
「ありがとう、助かったよ」
「どういたしまして、服が乾くま――ちょっと!また見てる!えっち!」
「あっ!ごめん。考え事してた。見てないよ」
「むぅ……くしゅん!」
むくれる千鶴を見ながら、春樹は思案する。この空間はいったい何だろうか。そもそも他の扉にも地下が存在するのか?様々な憶測が頭を巡る。
周囲を散策すると、木材もかなり多くあり集めて焚き火を始める。
「これは……もしかしてみかんの木か?」
「くしゅん……本当だね。もしかして繋がってる?」
「いつもの空間とは違う気がするな。後で奥まで行ってみよう」
「そだね。ちょっと休憩……って!ねぇ!あれ見て!」
慌てる千鶴が指差す方向に、焚き火の火に照らされ何かの山が見える。
「おい……あれって」
「うん、たぶんホタテの殻……」
「という事は凛が食べたホタテの?」
「うん、あのくらい食べてた……」
「……それは嫌いにもなるな。いや、そうじゃなくて」
「ハルくん。ここはまさか……」
「そのまさかみたいだな」
春樹と千鶴が落ちた先は……だった。
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