『運命って信じますか?』

東雲皓月

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十五話

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ナオちゃんから面倒くさい事になってると聞いた私達が体育館へと入ると、何故か蒼さんと奴の一対一の試合が行われていた。

え、マジで?

何がどうなったらこんな事になったの!?


「…ハァ、ハァ……ッ」

「ッしまっ…!」


二人共、何故か真剣でバスケをしている。

息が絶え絶えの奴が蒼さんの右側へと向かうと思われたそれはフェイクでクルリと左側へ素早く方向転回し、ゴール下に着た奴は高くジャンプをしダンクをキメた。


「っシャー!俺の勝ちだ、蒼」

「…アハハ…ッやりますね、アキトさん」

「フンッ……俺に勝つなんざ…十年早いわ」


体力の限界に達したのか、奴はパタリとうつ伏せで倒れて蒼さんは座り込んだ。

イヤイヤイヤ、何事?


「……山口ー、ちょっと来な」

「え、あれアヤさん?いつ戻ってきた?」

「ついさっき。…で、何コレ?」


固まってる私に構わず、マイさんは山口を呼び出すと状況説明を詮索する。


「いや~・・・なんか、アキトが蒼に宣戦布告して……」

「はぁ?何故に」

「え、えっと~、俺はちゃんと止めたんだけど…アキトがハルちゃん達に向かって謝れって怖い顔して攻めてたのを、蒼が止めに入ったから?」

「なんで疑問系な訳。つーか、ちゃんと止めれてないからこんな事になったんでしょーがっ」

「ご、ごめん…;;」


マイさんの威圧感に圧されて山口が縮こまって謝ると、呆れたように溜め息を吐いたマイさんが頭を抱えた。


「……馬鹿みたい」

「ん?宮本??」


話を聞いた私は、奴に近づいて未だに倒れている近くで屈んだ。

見た目はチャラ男だし、軽そうだし、本気かなんて信じられないけど…でも。


「…あれ、リナ?」

「……馬鹿じゃないですか?ほっとけばいいのに」

「あー、もしかして山口から聞いた?たくっ、アイツはお喋りなんだから…」

「そんな事はどうでもいいんです。別に貴方と蒼さんが悪い訳じゃないのに……どうしてこう馬鹿なんです?」


苦笑していつもみたいに笑うアキトさんに私は無性に腹を立てた。


「うっわ~・・・二度も馬鹿って言われた」

「ほら、また笑う。貶してるのになんで笑えるんですか」

「……アハハ…だってリナ、俺の心配してるでしょ?分かるよ。リナはダチ思いで優しい子だから」


なんで、なんて言えなかった。

なんで分かるのって言いたかったのに、どうして私の気持ちが分かったのって言いたいのに。

無力な自分が悔しくて、涙が出そうになるのを我慢するので必死で言えない。


「……心配、なんか……してませんよ」

「はいはい。素直じゃないねー?でもそこもイイよね♪」

「してませんったら!馬鹿キモイストーカー金髪!!」


またふざけた事を口にするアキトさんに、私は思いつく限りの悪口を吐く。


「え、何それ!?金髪は関係なくない!!?」

「キモイとストーカーは否定しないんですね。どん引きですよっ……そんな事よりも」

「そんな事!?酷いよリナァ~、俺はリナの為に身体はったのにぃ~!」

「はいはい。ちょっと黙ってて下さいねー」

「雑な扱いされたっ……俺、もうダメ…」


勝手に落ち込む奴は放置で、私は近場に座り込んだ蒼さんに話し掛けたる。


「…蒼さん、すみません」

「なんでリナさんが謝るの?」

「だって、蒼さんは場を静めようとしてくれたんですよね?なのに、アレが変な事を言うから付き合ってあげたんですよね」


私が申し訳ないように謝罪すると、蒼さんがチラッと遠くにいるハル達に視線を向けてまた私の方を見て苦笑しながら口を開いた。


「……違うよ。確かに彼女達の事はちょっと思う所があったし、庇うつもりなかったんだけど…」

「?……なら、どうして庇ったんですか?」

「アキトさんが怖い顔して”俺のリナに謝れっ“て言ってて……見た感じ、二人は付き合ってなさそうだったから”リナさんはアキトさんのじゃないですよね?“ってつい言っちゃったんだ」


でしゃばってごめんねと蒼さんは申し訳なさそうに言った。

私が思っていた庇った理由ではないけど、蒼さんは蒼さんで思う所があって言ったんだと分かり私は少し嬉しかった。

どうして嬉しく思ったのかは分からないけれど、ただハル達の味方をしたんじゃないんだという事は確かで…。


「…有り難う御座います」

「今度は御礼?アハハ、面白いねリナさんって」

「んー、蒼さんは負けちゃったけどなんだかスッキリしたんです。私の代わりに仇とってくれたみたいで」

「それは……あそこでイジケてるアキトさんに言った方がいいんじゃない?」

「…ですね。でも、蒼さんにも感謝してるんですよ?…これで二度助けられましたね」


今度何か御礼しますと笑って言うと蒼さんも笑って楽しみにしてると言ってくれた。

本当に不思議だなと思う。

蒼さんは負けちゃったし、アキトさんは勝ったけど……二人共に感謝してる自分が不思議で。

チラリとハル達の方を見ると、目があった二人はビクリと青ざめたような気まずそうなひ弱をみせてから目を逸らした。

本当に、意味の分からないお馬鹿さんだなぁと思った。

もう怒りはないからソッとしとこう。


「…ちょっと、いつまでイジケてるんですか?アキトさん」

「だって、リナが酷い事ばっか言うから……」


シクシクと分かりやすく嘘泣きしているアキトさんは体育座りで床に指でのの字を繰り返し書いていた。

そんな漫画でしか見たことないイジケ方をするのはアキトさんが初めてじゃないだろうか。

というより、普通はしないと思う。


「はぁー。何言ってるんですか?いつもの事じゃないですか」

「いや、それも酷くない!?……ってあれ、」

「はい?なんですか??」


急にガバッと顔を上げたアキトさんの表情は動揺したような感じで、かと思えば何かに気付いたようなキョトンとした表情になった。

あぁ、もしかしてやっと気づきましたか?


「え、いや…ん?!リナ、さっき俺の名前呼んだ!?」

「……ん?いつ言いましたっけ」

「イヤイヤイヤ!さっきアキトさんって言ったよね!?もう一回呼んでっ」

「なんだ、ちゃんと聞いてるんじゃないですか。…チッ」

「なんで今舌打ち!?」


どうやら名前を呼んだのに今更気付いたようで、私は冗談半分で舌打ちしてソッポを向く。

あ、勿論残りの半分は本気ですよ☆


「うわ~・・・貴重な瞬間を逃した気分……」

「何言ってるんです?ほら、もう片付けの時間なのでモップ持って来て下さいよアキトさん」

「っ!」


さり気なくまた名前を言うとアキトさんは驚いた顔で赤面する。

………なんで、名前呼ばれただけで赤面??

ていうか…あの…………お前どうした。

引くようにアキトさんの顔を見た私は一応聞いてみる。


「…あの、鼻血でてますよ…」

「っえ……」

「まさか、名前呼んだだけで頭に血が昇ったんですか!?どん引きのどん引きですよ!」

「い、いや!違うんだリナ!これは熱くてだな…」

「言い訳無用です!」


慌てたように鼻を押さえるアキトさんに、私は鳥肌が立ち引いた。

いや、ガチで。

比喩的な言葉じゃなくて!


「マイさーんっ」

「はーい。ナイト参上~っと♪」

「ちょ、リナ~・・・だから違うって!」

「イイから早くそれ治めろっ変態野郎め!」

「はぁ!?ただの鼻血にそんな言い方なくないか!?」


呼ぶとマイさんは脱兎の如くに瞬時に駆け付けてくれて、私はその後ろに隠れた。

やっと出番かとマイさんはウキウキしている。

多分、本当に暑さで出たんだろうけど面白いから知らないフリをする私。

なんせさっきまで真剣にバスケをしていたんだ。

暑くならない訳がない。

でも今はあえて…知らないフリ。

未だに鼻を押さえて弁解するアキトさんとそれを軽蔑するように言い合うマイさん。

そのやりとりが可笑しくって、私は笑っていた。

それを少し離れた場所から蒼さんと山口が見ているとは気付かずに。


「…楽しそうだなぁ~、リナさん」

「そうか?」

「そうだよ。山口君は思わないの?」


楽しそうにしていると蒼さんは言い、山口は本気で嫌がっていると思っているようで首を傾げる。


「…うーん。思わん」

「ふーん?…可愛いなぁ、リナさんって」

「ん?なんか言った??」


小さく呟いた蒼さんの言葉を聞き取れなかった山口が聞き返すけれど、視線の先に夢中なのか返事は返って来なかった。

蒼さんの見つめる先を辿ると、そこにはリナの姿で……山口はなんとなく察したようだ。


(…えっ…まじで…?)


驚く山口だが、リナを見る蒼さんの顔がそういう意味に思えてしまう。

が、そんな事は有り得ないと自分に言い聞かせて山口は黙っておく事にしたのだった。

こうして、やっと鼻血を治めたアキトさんとの茶番は幕を閉じて気まずさ半分早く終わらせて帰りたい半分で皆で片付けを終わらせた。


~バスケ編終了~
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