クラス転移で神様に?

空見 大

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青年期:極東鬼神編(12月更新予定)

引き返すことのできぬ場所

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 ――帝国の歴史は覇道の歴史だ。

 まずもってこの世界に存在した数多くの帝国は既にそのほとんどが地図上に存在していない。

 その理由は二つ。一つ目は、この世界において帝国主義を実現するには皇帝自身の実力が最低限保証されている必要があり、人や亜人の反乱を自分の力だけで抑え込めるような人物が少なかったこと。
 二つ目に、武力は持っていても知性が足りず、結果的に自分の代で国内を無駄に荒らしてしまい、国の機能を保てないものが多かったからだ。

 中央集権的な国家はこの世界において珍しいものではないが、皇帝が全てを決める帝国主義は皇帝本人対しての負担が他の王の比ではなく、皇帝のセンスによってすべてが決まってしまう帝国は良くも悪くも皇帝次第でどうとでもなる。
 そうして安定しないが力ある物が居れば発足する帝国という制度を一人で完璧にこなした女、それこそが当代の皇帝であり、最高位冒険者としてもその名を世界に轟かせているモナルカは正しく覇道を行くものであった。

 滅びかけの国を再建し、一代で元々別にあった四大国の一角を滅ぼし帝国を四大国まで押し上げた彼女が心の底から求める物は帝国の安寧である。
 権力を誇示するために作成された巨大な城の上の方、そこには誰も使っていない部屋がありモナルカは皇帝として即位するまでの間よくその部屋で遊びをしていた。

 彼女がしていた遊びは人間観察。
 街を歩く人々を眺めてその人が何をしているのか、どんな人なのかを想像しながら元気に生きる彼らの姿を眺めるのが、モナルカにとっては喜びであったのだ。
 だが帝国は荒れ、帝都ですら火の手が上がることもあり地面を向きながら歩く人々を見るたびにモナルカはひどく憂鬱な気分になっていった。

 どうにかしてあの人たちを救う術はないのだろうか、どうにかしてこの世界から争いをなくすことはできないのだろうか。
 全ての人類が仲良くなれればそれは叶うだろう。
 夢物語にしか過ぎないことを理解していないモナルカではないし、ましてや戦火の絶えない帝国に居て本気でそんな事を思う人物の方が珍しい。

 何も全人類が争いを辞めろと、そうはモナルカも言わない。
 人間の本質の内に確かに秘められた闘争というものはこの世界を生きていくうえで人がなくしてはいけない牙であり、これをなくせば最後他種族に襲われて人はどうしようもない破滅を迎えることは想像に難くない。

 ならばモナルカが求めている物とはなにか。
 それは暴力が完璧に管理された社会である。

 道行く人間に突如として背中を刺され死ぬ人間をなくし、殺し合いをしたいと望む者達にはその場を提供して殺し合いをさせる。
 人間の行う本能的な行動を国がシステムによって効率的に管理するとそういう事であった。
 実際問題この取り組みは帝国に置いて既になされており、それが決闘場であり決闘士たちである。

 皇帝の名の元に全ての人間の本能をシステムの土台の上にのせる。
 そうして最大多数の幸福の管理のために尽力していたモナルカが、ではどうして破壊神の側に着いたのか。

 エルピスから破壊神の存在を聞いたのも一因としてある。
 世界会議の会議場で愚かにも破壊神を相手にして己の利益を維持し続けんとする愚かな人類に嫌気がさしたのも大きいだろう。

 だが一番の問題は――彼女に帝国を救うならば世界を売り渡す必要性があるとそうささやいたのは、他でもない彼女の産んだ異形の才を持つ娘であった。

「状況は理解できましたわ。ひとまずそちらの遍鬼超童子さんが持つ屋敷へと移動しましょう」

 ニルから事のあらましを簡潔に伝えられ、エモニはその綺麗な茶髪を手でいじりながら一つ決定する。
 後からいきなりやってきておいて自分に命令をする存在、エモニの持つ不気味な迫力に気おされながらも遍鬼超童子はエモニの決定事項に異議を唱えた。

「良いのか? 俺の屋敷は多分もう相手の手中に収まってるぞ、場所もばれてることだしな」

「良いんですよ。それで、もちろんエルピス様私に傷一つ付けないように注意してくださいましよ?」

「たとえ目の前で核爆発起きたってどうにもならなそうだと思うけど、そういうなら気を付けるよ」

 わざわざリスクを取る様な行動をなぜするのか。
 遍鬼超童子がその理由を問いただすよりも早くエルピスが魔法陣を展開し一同は瞬きの間に遍鬼超童子の屋敷へと転移してくる。
 同時にカチリと音が聞こえて急激に膨らむ魔力反応。

「危ないっ――?」

 咄嗟に穂積を庇うようにして前に出た遍鬼超童子は、そんな魔力反応が臨界点のほんの少し手前で微動だにしていないという状況を飲み込めず言葉を詰まらせる。

 火薬庫に火を投げ入れたのになんの反応もないような状況だ、遍鬼超童子の反応も無理はないと言えるだろう。

「魔法系の罠で助かったな。これ爆発してたらこの建物立て直しじゃ効かないよ」

「いまのはどうやって……?」

「魔神の権能ですよ。この国特有の魔術式の認識ができなくてちょっと手こずってましたけど、もう理解したのでこれから魔法は気にしなくても大丈夫です」

「改めてチートよねそれ。他者の魔法まで操れるなんて」

「神様だからね。それで? 罠があるとわかって、わざわざこの場所を選んだ理由を聞いてもいいのかなエモニ」

 リスクというリスクでもなかったが、それでも危険を冒してまでわざわざこんなところにやってきたのだ。
 彼女が考える何かしらのメリットがあってそうしているのだろうとエルピスは考える。
 だがそんなエルピスの考え方を凡人のそれと切って捨て、エモニはまるで当然のごとくとんでもないことを口にする。

「私地に足が付いてない高い所って苦手ですもの」

「そ、それだけ?」

「ついでに言えば開けたところも嫌いですわ。ここはその点丁度いいですわね」

 気分はまるでお姫様――いや実際にお姫様ではあるのだが、神を前にしてここまでの態度を見せられるのは世界広しといえどもそうはいないだろう。

 部屋の中にいる人間全員が何とも言えない顔をしている中でどこから引っ張り出してきたのか優雅に紅茶を嗜み始めるエモニは、部屋の隅に置かれていたこの島の地図を引っ張ってくると床にそれを置く。

「とはいえ私も自分の仕事はいたします。この島の攻略とお母さまの暴走を止める、このニつを叶えるだけでいいならそう難しい話ではありません事よ」

「随分と大口を叩くな嬢ちゃん。態度だけじゃないって事か」

「鬼神の後継者さん、貴方私がこんな盤面から失敗するとそう思って居らっしゃるの? ここまで丁寧に組み立てられた盤面を崩せたらそれこそ私口先だけの人になってしまうわ」

 丁寧に組み立てられたといっても遍鬼超童子からしてみればこの島の状況は複雑だ。
 まず自分と鬼神が戦っている事、このこと自体この島で考えれば数百年ぶりの戦争。

 後継者として先代を打ち倒そうとすること自体は珍しくないが、島をまるごと巻き込むような規模間で動いたのは歴史上初めての事である。
 続いて帝国の関係、こちらはエモニと皇帝の戦になるのだろうが、勝利条件が遍鬼超童子からしてみれば不透明でいる想定で話が進んでいる者のそもそも相手に居るのかすらも疑問視していた。

 最後に遍鬼超童子は直接知らないがエルピスと破壊神の信徒の対決。
 これに関してはもはや戦闘にどちらが勝利するか、その一点で全てが終わるので話が早いと言えばそれはそうだがタイミング、場所、他の状況、相手の数と想定に入れなければいけない要素というものは多数存在する。

 この島を開放するには少なくとも3つの戦闘すべてに置いて勝利を収める必要があり、加えてこの島の人間に遍鬼超童子こそが本物の鬼神であると認めさせる必要性すらあった。

 複雑に絡み合う戦域に加えてここに人類生存圏内で皇帝が何かをしたときに対処しなければいけないことを考えると、盤面はまだまだ先を見据えるには遠いように思えて仕方がない。

「狼の人、都は私が手を加えていい場所なのよね?」

「追って情報は渡すけど、君が触れる余地は残してあるつもりだよ。皇帝の対処は僕じゃ難しいからね」

「お母さまに私を充てるその判断が間違っていなかったと思わせて見せますわ」

 自信を持ってそう口にしたエモニの姿は彼女の事を知らない鬼人の二人からすれば頼もしく、それ以外の彼女のことを知っている面々からすればどこか危うく見える。

 だがいまはニルが用意した布石である彼女の事を信頼するしかない。
 当初の予定からは随分と変わったものだが、こうしてエルピス達は反撃の準備を始めるのだった。

 △▽△▽△▽△▽△▽

 そうしてエルピス達が着々と戦闘準備をしているころ。
 鬼神たちはとある場所で一様に顔を並べていた。

 自分の手先すら見えないほどに暗いその空間には複数の人物がいるが、彼らは互いの顔すら知らずに己の目的のためにこの場に集っているだけだ。
 こうしてこの場に集まった理由はもちろん目的の達成の為に邪魔な最大の障害を排除するためである。


「それで? こちらはことごとく出鼻を挫かれたわけだが軍師様は次にどんな作戦を考えているんだ?」

「……まずそちらの準備はどれくらい終わってるんだ?」

「こっちはもうほとんど準備は終わってるぜ。他の奴らも同様だ」

「鬼神、お前は?」

「俺はこの島での準備はとっくの前に終わらせている」

 彼らの会話に仲間同士の優しさやぬるさというものはない。
 利害で共に居る以上、使い道にならないと判断されればすぐにでも処分されることだろう。
 その事を理解していながらも軍師と呼ばれた人物は焦る様子もなく、ただ目の前の人物達に吐き捨てるように言葉を落とす。

「ならば何も問題はない。各自私が最初に提示した手筈通りにしてくれればそれでいい」

 それだけ言うと軍師の姿は掻き消える。
 不満を口にしたかったらしい周りの人物はそんな軍師の態度に怒り心頭になっているが、当の本人である軍師がここに居ない以上何を言えることもなく。

 そうして立ち去っていった軍師は、それから少ししてとある部屋の前へとやってきていた。
 先程の会議の場所とはまた違った暗い場所、ここは先ほどに比べればまだ明るく部屋の中の全貌を見て取れる程度の明るさだ。

 そんな部屋の中に四肢を鎖に繋がれ地面に倒れこんだ少女が一人。
 鬼人特有の角をちらつかせながら、彼女の心の強さを主張するように強く見開かれた目は軍師の顔を射抜かんとしていた。

「怖い目つきだ、娘を思い出す」

 口にしながら軍師は腰を下ろして少女の前にしゃがみ込む。
 四肢を繋がれていようとも攻撃できないわけではないとばかりに少女が噛みつこうとするが、軍師がしゃがみこんだその場所は少女の鋭い牙がギリギリ届かない距離だった。

 がちりと音を立てながら自分の牙が空ぶったのを見て、少女は軍師が誰であったかを思い出す。

「……やっと誰か思い出したです、貴方は帝国の皇帝。なんでこんなとこいるです」

「帝国にとって必要だから……それ以外の理由が必要かなトコヤミちゃん」

 モナルカとトコヤミの邂逅はこれが初めての事ではない。
 自分の姉が皇帝からエルピスが鬼神に呼ばれているという話をしていた時、チラリとではあるが遠巻きにその姿を見ていたのだ。

 あの時は皇帝としての礼服に身を包み、周囲を屈強な兵士達に守らせていたがいまは黒い装束に身をまといまるでと盗人や犯罪者の様な風貌をしている。
 トコヤミが気付かなかったのも無理はないようなその変貌ぶりは、彼女に皇帝は敵になったのだと理解させるには十分すぎる証拠であった。

「エルピス様にばれたら、とんでもないことになるですよ?」

「あの青年は別に私の相手じゃないからいいんだよ。帝国を滅びの道に墜とすのもあれではないだろうしね。私がここに来た理由は単純明快だ、君に一つお願いがあるんだ。聞いてもらってもいいかい?」

 ここまで反抗的なそぶりを見せてきたトコヤミに対してお願い?
 それはいくら何でも無理だとそう言わざるおえない提案であることは皇帝だってもちろん理解している。
 お願いとそう口に出して言ってはいるが、実際のところこれは命令だ。

「君には時代の鬼神になってもらおうと思うんだ。あの鬼神は力だけなら悪くないが扱いづらい、その点キミならあの男の血を直接受け継いでいるうえに聞き分けもよくて鬼神として文句なしだ」

「何を――言ってるですか?」

「……何が理解できなかったのかな? 私が君を聞き分けのいい子だと評価したところかい? それとも――」

 トコヤミは自分の両親について詳しく知らない。
 自分の意識もはっきりしていないような幼いころにトコヤミはこの島を出た。
 良心については死んだと思って居たし、姉に両親について聞いたこともほとんどない。

 家族は姉だけだとそう思ってイロアス達に拾われるまでは生活してきていたのだ。
 だがこの島に来る前に母の存在を教えられ、そして一目見た瞬間に母だとそう認識できる女性に出会った。
 母の愛を知るために甘えもしたし、実際他の面々に比べれば母は大切だとそう思う。

 その強さや立場を尊敬しているエルピスやイロアスとつい先日あったばかりの母親を前にしてどちらを殺すかと聞かれたら迷ってしまうほどに。

「君のだということにかな」

 出来る事ならば耳を塞いでしまいたかった。
 そうして聞こえないふりをしてしまえれば、きっと自分は何事もなく戦えただろう。

 知らないままに戦って、そうして殺してしまったのなら、仕方のない事だったと諦めることもできただろう。
 だが一度知ってしまったら無理だった。
 自分には姉しかいないのだと思いながら人間の国という鬼にとっては厳しい場所で生きてきた彼女にとって、家族とは依存の対象であり何にも代えがたいものだった。

 トコヤミにはもう鬼神は殺せない、エルピスが鬼神を殺せばきっと捧げている忠誠も揺らぐ。

「君は何もしなくていい。儀式のときになったら鬼神を受け継ぎ、父親を解放してあげればいいんだ。そうすればエルピスはこの島を捨てるだろう。父親も母親も姉も、君の大切なものはキミの力によってすべて助けられるんだ」

「そうすれば、みんな傷つかなくて済むですか?」

「そうだ、そうすれば誰も傷つかなくて済む。みんな上手くいく」

 そんなはずがない。
 目の前の皇帝は敵だ、それも自分の種族を裏切り敵の配下に着くような唾棄すべき様な相手。
 信頼に足りるはずもなく相手の言葉は全て嘘なのだと普段のトコヤミならばそう思うだろう。

 だが姉が父についてだけは頑なに教えてくれなかった事、エルピスと母が話をするときに自分だけ追い払われたことなどが事の信ぴょう性を増していた。

 せめて鬼神と一目会えば、この胸のとっかかりは取れてくれるだろうとそうトコヤミは心から願う。
 差し出されたその手をトコヤミは振り払う事ができなかった。

「契約成立だ、よろしく頼むよトコヤミちゃん」

 そうしてトコヤミとモナルカの利害は一致する。
 様々な思惑が動き始めた鬼人の島、戦火は既にくすぶり始めていた。
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