千年勇者の冒険記

空見 大

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序章

目覚め

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かつてこの世では二度の大きな大戦があった。
空は曇天が覆い、海は血の色に染まり、空気は酷く汚れ、大地は死に絶え人々は飢餓と恐怖に苦しんだ。
数多の種族が互いの権利を主張し合い、血の海を作り大地を屍で築き上げ、時には神ですらもその権能を奪い取られた大戦は、今もなお歴史の教科書に忌まわしきものとして記載されている。
誰もがその過去を忘れぬように、そして二度とそんな事が起きないようにと。
そうーー誰もが願っていた。

第一話、目覚め

ーー人間が居を構える領域から遥か遠方の地にて、その日は突如訪れた。
大戦時代に封じられていた、今の人類種からすれば負の遺産ともいうべき存在が目覚めた。

「えっと…ここどこ?」

男は今先ほどまで夢でも見ていたかの様な頼りなさそうな声色で、自らの思ったことをそのまま口にする。
髪はボサボサ、髭は伸びてはいないが身体中どこかしらにアザを作っており、欠けた歯と不自然に曲がった指が男が常人ではないのを分からせる。
だが武人特有の威圧的な覇気は纏っておらず、むしろ文官の様な理性的な気配さえ男からは伺えた。
確かに見てくれは武人のそれだが、顔の面持ち自体は非常に優しそうな青年のそれで、農民の男だと言われても違和感を感じない程度には優しげだ。

「封印は……経年劣化で壊れたっぽいな…。本来なら外から壊してもらう前提のこれが壊れてないって…なんかあったのか?」

男が見下ろした先にあるのは、奇妙な文字によって作られたかなり大きな魔法陣。
男からすればそれはかつて遠い記憶の中で見た者であり、この魔法陣自体にこれといって驚きは無いが、今自分の置かれている状況も含めるとなると話は別だ。
この魔法陣は確かに強固な防壁こそあるものの、大戦時代の魔法ならば壊そうと思えば瞬時に破壊されてしまうほど脆いもの。
それが今この時まで壊されず残っていたことも男からすれば理解不能だったし、さらに言えば見た限りではこの魔法陣、壊れている。
一流の魔法使いが作った魔法陣が壊れるのには数百年以上の時間がかかる、それを考えると男にとって今の状況は焦りを生み出すには十分だった。

「とりあえずこういう時こそ落ち着くべきか。いざとなったら戦う準備も出来てるし、撤退戦くらいは出来るだろう」

そう言いながら男が目にするのは、近くの小さな皮袋に入れておいた自分の大切な愛刀だ。
この皮袋、大戦時代の高名な魔法士に頼み込んで作ってもらったものなのだが、小さい割になんでも入るし中身の劣化もしにくいとかなり使い勝手が良い。
体にくくりつければ持っていけないほどでもないしと肩に背負って慣れた手つきで武器を腰にかけると、男は外に出る為に部屋の出入り口に取り付けられた魔法陣を破壊し塞いでいた岩を拳で破壊する。

「よし、しっかりと鍛えた分の力は備わってるみたいだな。まぁそれほど強固な魔法がかかってたわけでも無いしまだ過信は出来ないけど」

独り言を口にしながら外に出ると、久々の日の光に目が霞む。
一体どれほどぶりなのか、生まれた時から黒い雲が覆っていた空は何もなく晴れ渡っており、口から吸い込む空気にはおよそ病気になりそうなものは含まれていない。
驚くほどの変貌ぶり、だがそれよりも男の心を引っ掻きまわしたのはもっと別の事柄だ。

「……花が咲いている?」

人生の中で一度も見たことのなかったそれを見て、男は膝を折り優しく手を添える。
敵が襲ってくるかもしれないなどという可能性を頭の中から弾き出し、男はただ自分が一生見ることのできないと思っていた物を見て感傷にふけっていた。
頬に当たる風は当たるだけで死ぬ当時のものとは違い、むしろ暖かさと安らぎをくれた。
遠くを見てみれば空を飛ぶ小さな鳥達も見え、男はどうにか状況を把握する。

「どうやら一人で閉じこもって訓練している間に戦争は終わったらしいな」

口では簡単に言えるが、男からすれば衝撃どころの話ではない。
かつての友や仲間達がこの場にいないのは仕方がない、その覚悟を持って男は鍛錬の道を選んだのだ、悔いることは一つもない。
だが出てきてみれば戦争も終わり、求めていたはずの豊かな大地はまるで当然のようにどこまでも広がっていた。
戦争が終わったことを喜ぶ気持ちはもちろんあるが、どこか拍子抜けしてしまうのは仕方のないことだろう。
地獄がいきなり天国に変わったのだ、敵の幻術にかかっているのではとすら思いたくなる。

「周りに人の気配は無し…か。動物の気配はするけど…どうやらとんでもない辺境に出たらしい」

かつても秘境の地とされていたこの場はどうやら今でもそうらしく、周りに人のいる気配はしなかった。
動物ならいくらでもいるので食うのに困ることは無いだろうが、とはいえ数百年の孤独を生きてきた男にとって現状一番必要なのは言葉を交わせる生命体だ。

召喚智恵の鳥サモン・ウィズダムファウル

小さく言葉を紡げばそれだけで魔法は完成し、小さな魔法陣から大きな梟が飛び出てくる。
森の哲学者などと呼ばれる梟だが、正直言って平地で役に立つかと言えばそうでもない。
だが翼があるというのはそれだけでかなりの利点だ、上から探せば人だろうと街だろうと発見しやすくなる。
程なくして梟から数十キロ先に行商人の姿が見えるとの報告が入った。

身体能力最強化・エンチャント・マキシマイズエンハンス・ボディ

使用するのは単純な身体能力強化系の最強魔法。
大戦の時代においても古代魔法に分類されていたこの魔法は、使い勝手がかなり良くその上燃費もいい。
龍種の翼よりも速い速度で草原を走り抜け、梟が目にした行商人の場所まで数分と待たずに駆け寄っていく。

「さてと、こんにちは、僕は怪しいものじゃありません!」
「ーーこの曲者が! それ以上近づくなら切るぞ!」

久しぶりの自分以外の生物に喜び勇んで近寄ってみれば、思っていた以上の拒絶。
だがそんなことは今の男にとってはどうでもよかった。
見惚れる様な白い肌、緑色の目、特徴的な弓の造形、そしてピンと伸びた長い耳。
かつての大戦時代、人間を下等種族とし、暴虐の限りを尽くした種族。
ーー森霊種エルフがそこにはいた。
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