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森妖種領土編

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森の中を歩き始めて、一体どれくらいの時間が経過したのだろうか。
今までならば視界の端に時刻表が表記されていたので、現在がどれくらいの時間帯なのかは分かったのだが、この場所に来てからと言うもの時間を示す針が止まっており時間が確認できない。
前を歩く彼女達に確認すればなんらかの時間を確認する手段を持っているだろうが、とは言えこちらも行商人としてきている手前時間把握くらいできそうなもので、いまさら自分が急に作った設定に面倒くささを覚える。

「あれが私達が拠点としている街、ライフレイクです。基本的にはエルフが多く住んでいますが、人間も結構多いんですよ」
「なるほど、、森の中にある街ですか、道理で見つからないわけだ」
「ツリーハウスか、昔映画でこんなの見たなーなんだっけあれ」
「マジックのやつですね。2012年に公開されたアニメーションです!」

森の中にポッカリとできた平野、そこに一つの街を作り上げたらしい。
見える分には街というには少し小さい気がしない気もないが、とはいえ向こうの方を見てみれば木の上に立てられた家などが見受けられるのでかなり奥の方まで続くのだろうと判断する。
街の外周部には三メートルほどの柵が用意されているが、そこまで頑丈そうな柵には見えず、恐らくは弱い魔物が入ってくるのを防ぐ程度の役割を持っているのだろう。

「こんにちは門番さん。この人達は行商の方らしいのですが、通してもらっても構いませんか?」
「行商ですか……随分と持っているものは少ないですが」
「私は小さな物を売って生計を立てておりますので、わざわざ大きな馬車などを使って移動する必要はないのですよ。まぁたまに使ったりはしますが」
「なるほど、そういう事でしたか。では通行税と商権、合わせて銀貨十枚になります。こちらの腕輪の方装着していただき、一ヶ月以内に役所にてお支払い下さい」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。それでは」

代表者として腕輪を手につけ、菜月はそのまま街の中へと入っていく。
思っていたよりも早く街の中に入ることができたのは、一緒についてきてくれている冒険者達が身分を保証してくれているからだろう。
門をくぐってすぐのところに、腰を休めることの出来るスペースがあったのでそこに向かいながら、菜月はリーダーであるナーセナリーに言葉をかける。

「ありがとうございます。皆さんのおかげで面倒な手続きをしなくてすみました」
「いえいえ、元からここらはかなり入りやすい街ですから。お力になれたのなら光栄です」
「僕達はこれから商権の確保と街を見て回りますので、ここらでお別れになりますね。その指輪は今回の御礼として差し上げます、ありがとうございました」
「ーーえ? 良いんですかこんな高価なもの?」
「ええ。別にそれ位ならばいくらでも有りますので構いませんよ。それにそれ、使い勝手はいいですけど装備枠減らす程の能力でもないですしね」

この『商人の指輪』はそれなりに便利な効果を持つが、そもそも蔦やらそう言ったものは装備の効果で無効化できるし、特殊な地形でもない限り溶岩程度では痛みもない。
それならば運も上昇し交渉も上手くなり物流価値も把握できるヘルメスの指輪を付けた方が幾分か効率的だ。
それにこの指輪、大量生産品で有りショップで五百円くらいで売っている。
ギルド本部にも数百個くらい残っているので、こんなもの数個なくなったくらいで損失もないし、むしろこれで恩が売れるのなら儲け物だ。

「えっと、、こんな事言うのは失礼だと分かって言いますが、貴方本当はなんなんですか?」
「商人ですよ? 至って真面目に日々を暮らす」
「本当に商人なら人にこんなに簡単に物を与えたりしません。それにもし恩を売りたいのであれば、それはそれでもう少し違ったやり方をする筈です」
「なるほど、、確かにそうですね。じゃあ口止め料としてお渡しするというのではーー納得してくれそうには無いですね」

いきなり何を言うかと思えば正体はなんだと聞き出したナーセナリーに対して、菜月はどう返そうかと頭を悩ませる。
異世界から来た人間だと説明して分かるものなのだろうか、分かったとしてそれを吹聴されれば、なんらかの面倒ごとに巻き込まれるのは想像に難く無い。
巻き込むだけ巻き込んで逃げれないほどにどっぷりと浸すか、ここで縁を切り二度と会わないようにするか。
菜月に残された手段は二つだけだ。

「教えるのならば引き返す事は出来ません。その代わり貴方達の利益は保証しますし、生命も保証いたします」
「つまりはここで引き返したら生命の保証はできないと?」
「誰彼構わず私達の事を言われると困るのはこちらなのでね。そうなれば口を噤んで貰わざる終えません」
「ギルマス、さすがにちょっと言い過ぎじゃない、、、? もっと楽に行こうよ、喧嘩なんて良くないし」
「アルライドさん、言いたい事は分かりますし僕もそうしたいですが、いまここで身の振り方を間違えれば僕達は人類の敵にすらなりえます。選択を失敗する訳には行かないんですよ、ギルマスとしても貴方達の仲間としても」

アルライドの意見には、可能な限り従いたいのが菜月の本心ではある。
だがいまここで選択肢を失敗すれば、アルライドに対して言った通り人類の敵になり得る可能性がある。  
もちろん人類種以外もあり得るが。
この世界において基本的な強さの目安を目の前の彼女達とすると、菜月達の戦力はインフレどころの騒ぎではない。
アリと像どころの戦力比ならばまだいいが、雷蔵やバロン達と目の前の彼女達が戦えば昨日のゴーレムとの戦闘の方がまだマシに見えるだろう。
何故そんな事を言い切れるのか、それはもちろん菜月が調査報告書を読みこの世界のある程度のレベルを把握しているのもあるが、一番はやはり彼女達の装備だ。
軽い鑑定能力は菜月も持っているのだが、どの装備を見ても一般兵装止まりで例えこの剣で菜月を切りつけても擦り傷すら付かないだろう。
兵装の時点でこの差だ、あとは考えるまでもない。

「とは言えこちら側としても救ってくれた恩義のある人を攻撃したくはありません。今日の事を忘れてくれると言うのなら、こちら側からは干渉しませんし、その指輪も差し上げましょう」
「どうするナーセナリー、私はナーセナリーの指示に従うよ」
「ありがとうカード。その答えは、どうしてもいまここでしなければいけないものかしら」
「出来れば早くしていただけると助かりますね。これから先やる事は山積みなので、問題は早めに解決したいですから」
「本当に命の保証はしていただけるのだな」
「ええもちろん。僕は宗教的な価値観を持ち合わせていないので、神に誓うなど出来ませんがそうですね、、、仲間に誓いましょう。絶対に貴方達の命を危険に晒しはいたしません」

無自覚だが、それでいて確実な、菜月にとって他の何とも変えがたい仲間達をひきあいに出したのは、誠実な心の現れだ。
それをナーセナリーも感じ取ったのか、溜息を一つ吐き頭を抑えながら菜月に対して言葉を返す。

「全く今日は朝から悪い日だと思っていたんだ。利益目的で近づいた相手がこんなタイプだなんて、夢にも思わないだろう普通。向こうの喫茶店で話をしよう、人に聞かれたらまずい話なら別の場所がいいか?」
「どこでも構いませんよ、どうせ聞こえないようにしますし、それならば人の多い場所の方が目立たなくて良いでしょう」
「多種多様なアイテムを持っているのだな。全く、本当に何者なんだ、詳しく聞かせてもらうぞ」
「まぁ商人ですからね。それでは向かいましょうか」

勘弁してくれと言いたげな彼女に対してそう言うと、菜月は足早にカフェに向かって歩いていく。
アルライドは新しく仲間候補ができて楽しそうな菜月の姿を見て、バレないように少し笑みを浮かべるのだった。
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