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森妖種領土編

交渉

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場所は門から数分程歩いた、少し小洒落た木製のカフェ。
店内演奏で流れてくる曲はどこかゆったりとしており、街の中を行き交う人々を見ていると自分達だけがゆったりとした時間を過ごしているように感じる。

「こちらレイゾンフルーツの盛り合わせにドリンク各種でございます」

思い沈黙の間を割って、店員が見たことのない果物を盛り合わせた容器と頼んだ飲み物を持ってくる。
菜月が頼んだのはジンジャーエールもどきのようなもので、ネイレスも同じものを。
アルライドとライムは柑橘系の果物を絞った飲み物を飲んでいた。

「それでだが、単刀直入に聞くが君達は一体なんなんだ? 何のためにここに来たんだ?」

慎重な面持ちでそう言いだしたのは、向こう側に座るパーティーのリーダーであるラングロイド・ナーセナリーだ。
一応は話の内容も考慮してくれたのか個室なのでそれほど警戒する必要もないのかもしれないが、何があるかは分からないので外部に声が漏れないように一部のアイテムを使用しながら何から説明しようかと頭を動かす。
全て言って引き返せない沼にはめるつもりではあるのだが、その前に逃げられてしまっては話にならないので、何から言うのかは慎重に選ぶ必要がある。
とりあえずはと話す内容を決めてから、菜月は聞かれた事を答える。

「僕達は他の世界から来た人類です。人数は全員で五人、来た理由は自分達の世界の退屈さに嫌気がさした、、、と言うのが一番近いんですかね。何のために来たのかと聞かれればそうですね、未知を知るためでしょうか」
「異世界から来たもの、、、漂流者か。しかもかなり強い世界からの漂流者に会うとは、運がいいのか悪いのか」

『漂流者』という単語に菜月は眉を潜ませる。
この世界に異世界人という概念があるかどうか分からず、伝わればいいやと言った程度のニュアンスで伝えた言葉は、だが予想していたよりもしっかりと相手に伝わっていた。
どうやらこの世界には自分達以外にも異世界人が居ると知り、少し警戒心を強め更にいくつかのアイテムを使用して絶対に盗聴されない様にしながら菜月は目の前で頭を抱え続けるナーセナリーに対して言葉をかける。

「どうやら話が早く伝わっている様で嬉しい限りです。そこでこちら側からいくつか提案があるのですが、どうでしょうか?」

既に転生者について、ある程度把握してくれているのならば話は早い。
菜月が投げかけた言葉に対していの一番に反応したのは、彼女達の中でも一番小柄な活発そうな女の子だ。

「リーダー受けた方がいいよ! 昔から漂流者は出会ったものに力と金を与えるって逸話があるくらいだし!」
「しかしマーチ、それをしようと思えば私達の権利を国に対して告知し発表、その後他国へ赴き転移者の顔合わせをーーほら見ろもう嫌そうな顔をしているだろう」
「それが嫌で貴方達を巻き込んだので。そうなった場合は逃げますね」

雷蔵やバロン、その他ギルドメンバー達もプロプレイヤーである手前人前で活動することには慣れており、その程度のことならば容易にしてくれるだろうが、なるべく楽な形で話は進ませたい。
仮想世界という自由な世界の中で、自分達から踏み出したとはいえ常に人に見られる生活を送ってきたのだ。
この世界での自由を菜月の手で奪うことなど出来るはずもない。

「その逃げるに幾つの国が犠牲になるのか考えると、本当に頭が痛くなるよ。だが冷静にこうして話せる分にはまだまともな漂流者なのだろう、東の国に住む漂流者は、目につくもの全てを殺すらしいからな。それで要件とはなんだ、聞くだけ聞こう」
「三つほど、お願いがあるんです。一つ目は僕らの手足として世界各国を回ってもらうこと。これに関しては強制はしませんので、好きな時に行って貰えば結構です」

手足として動かしたいというのに、強制はしないという矛盾。
だがそれにはしっかりとした理由がある。
一つ目は単純にこの条件を飲んでもらいやすくする為だ。
ただ彼女達に地方を回って貰うというのは、彼女達に対して得がない。
それならば強制せず、アイテムを手渡して言うことを聞いてもらう方が動かしやすい。
二つ目はそもそもそんなに事を急いでいないからだ。
この世界に来てまだ二日目、早急に他の国の情報を集めたくはあるがそんなもの図書館や街の人間に聞けばある程度は分かる。
菜月達が求めているのはそう言った程度の低い情報ではなく、数年数十年と過ごしてようやく手に入る様な、国家機密とも言われる類の情報だ、

「言いたい事がよく分からない。手足にしたいって事は傘下になれって事、なのに強制はしない」
「理由としては金銭をまだ僕達は持っていないので。いずれは皆さんの持ち寄ってくる情報に対して、随時金銭を支払うという形態にしたいと思ってます」
「つまりは雇い主という事だな。ギルドを通さず、私達の直属の上司になりたいという事か」
「ええ。貴方は随分と頭の回る人だ、そしてその仲間である貴方達も僕の目からは頼れる人間に見える。これくらいの好条件、貴方達と関係を持てるのならば安いものです」
「菜月の人を見る目は確かだからね、僕も貴方達のことを信用するよ」
「二人は随分と信頼し合っているのだな。分かった、その条件は飲もう。それで次はなんだ?」
「一番大切なのはこれなんですが、僕達の生活が安定するまで一緒に行動していただけませんでしょうか」

次に頼むお願いも、もちろん大切な事ではあるのだが、いまの菜月の状況からすれば付いてきてくれる現地の人というのは、それだけで大きな心の余裕になる。
現地の人との会話も全てとは言わないが彼女達に任せる事ができる様になるし、現地の人も見ず知らずの菜月達より幾分かちゃんと対応してくれるだろう。

「もちろん報酬もありますよ。貴方達の装備品、消耗品は私共で補充させていただきますし、ギルドへの討伐報告なんかがあるのなら、私共でそう言ったのも狩って来ましょう」
「ええっと、君アレだろ。利害関係がお互いに成立しあい、更にその上でお互いに弱みを握った状態じゃないと相手のこと信頼できないタイプだろ。こっちが敬語を使わないのにいつまでも敬語なのが良い証拠だ」
「言わないであげて。ギルマスついこの間まで僕等にも敬語使ってたくらい人との距離の測り方が下手な人だから」

そう言いながらアルライドに見つめられ、菜月は何を言うでもなく無言で視線を外す。
頭の中でこの先の展開まで見据え、何度もそれで良いかどうかを考えていたと言うのに今の一言で全てパァだ。
そんな菜月を見かねてか、レイネスが助け舟を出してくれる。

「ーーではここから先は私の方からお話しさせていただきましょう。主人に話をさせると他人に変な気遣いばかりして話が長引いたり、本来思ってた事と違ったりで、面倒な事になりがちなので」

……助け舟ではなかった。
どころかトドメを刺しに来た勢いだ。
だがそう言われれば確かに事実その通りで、無駄に話を長引かせているのも確かだ。

「とりあえず三つ、一つ目はもう良いですね。二つ目に関してはすぐに決められるかどうかこちらでは判断しかねるのですが……」
「私は大丈夫!」
「私も賛成」
「どっちでもいいぜ」
「と言う事なので大丈夫だ」
「ではまた後でそこら辺の話は詳しくしますが、一旦お許しを得たと言う事で。次に三つ目は譲渡したアイテムを宣伝して欲しいのです」
「なるほどな、この世界で商人としてやっていきたいなら宣伝は大切だ」

驚く程に簡単に、思っていたよりも相当に早く、商談はこうして終わった。
いや。これを商談というのは少し語弊があるか。
レイネスが菜月のお願いを簡単に説明し、そして相手がそれを受け入れただけのことだ。
信頼関係を結ぶ事は得意なつもりだったのだが、どうやら異世界に来て緊張していたらしい。
自身のコピーであるレイネスに、暗にその事を伝えられ羞恥の感情に悶えてしまいそうになる。

「で、ではとりあえずこの話を持ち帰って仲間にしたいので、一旦僕はここでお暇させていただきます」

都合が悪くなればその場から脱出する。
その技術を雷蔵から褒められるだけあって、飲んだジュースの代わりとばかりに指輪を一つ机の上に投げ捨てる様に置くと、菜月はドアの向こうへと走って向かうのだった。
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